自分のこと嫌いでしょ? 恋愛ベタ女子に捧ぐ「ご縁を引き寄せる秘策」#9

取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani — 2019.11.15
エゴがむき出しになる恋愛関係は、素晴らしい自分だけではなく、嫌いだったりダメだと思っている自分の一面もこれでもかと映し出す鏡のようなものです。そこではビリーフという幼い頃の自分が生んだ思い込み、誤解が大きく影響しています。ときにビリーフはスムーズな意思の疎通を邪魔したり、人間関係において望まない結果を招いてしまうもの。では望むご縁はどうしたら繋げるの? ユング心理学から見た、そのヒントをお伝えします。

【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 9

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寒くなってきましたね。クリスマスやお正月などイベントも目前。ひとり人恋しくなってきたかたもいらっしゃるかもしれません。またはパートナーとわかり合えず、どことなく寂しかったり、満たされない思いを抱いていたり。片思い、恋人、夫婦、元パートナーなど……恋愛における関係性はさまざまです。でもひとつ共通項があって、それは相手が自分のことを良くも悪くもむき出しにしてくれるということ。そして思いが強いほど、その度合いも強烈になります。

ところで村上春樹さんと臨床心理学者の河合隼雄さんが結婚生活について対談されたとき、村上さんが「長い間結婚生活とは欠けているものを埋め合う関係性だと考えていた。けれどもむしろ、お互いの欠落を暴き立てるものではないか。結局のところ、自分の欠けているところを埋められるのは自分しかいないのだから」そんなふうにおっしゃっていました。

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投影とは、自分の影を相手に写すこと。

これは村上さんの実体験がベースとなった、心理学における投影(プロジェクション)についてのお話です。投影とは自分の認めたくない一面、影(シャドウ)を否認して、自分を守るためにほかの人にそれを押し付けてしまう心の動きのこと。シャドウとは、自覚なく抑圧している自分の中の恐れ、無知、恥、愛されないなど、拒否した自己イメージ、心の深い部分で受け入れられない人格のことです。つまりそれは無意識レベルの自分の現れ。このように私たちは自分でも把握しきれていないフィルターを通して、ものを見ているのです。

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エゴがむき出しになる恋愛関係は、特に相手をプロジェクターのようにして自分のシャドウを映し出してくれる最高の学び場です。シャドウを見て見ぬふりをすると逆に心が振り回され、目の前の現実とうまくコミュニケーションが計れず、自分で自分を苦しめてしまいます。

例えば「もっと良い人が現れるかも」と深層心理で恋人を代用がきく存在と見ていたとします。すると、彼に飲み会に行くと言われて「浮気されるかもしれない」という不安や怒りが芽生えます。「私には浮気心なんて絶対に無い」「私は正しい、良い人間」としながら、心の奥には抑圧している「あわよくば」という気持ちがあって、相手の行動によってそれが刺激されるからです。

一方「彼以外なんてとんでもない」と深層心理でも100%曇りなく一途だったとしても、自分自身に著しく自信が無かったり自分のことが嫌いだったりすると「きっと私に不満があって他の人を探そうとしているのだ」と罪悪感や嫌悪感といったフィルターを通して相手の行動を判断してしまいます。

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飲み会に行くような相手ではないとしても、例えば彼が待ち合わせにいつも遅刻するとしましょう。それに対してあなたは、大切な約束には必ず時間通りに到着する人だとします。すると相手が常に遅れることを「本当は来たくないんだ」と判断し、さらに深層心理で自己肯定感が低かったりすると「私のことなんてどうでもいい存在だと思っているからだ」「重要じゃないんだ」と捉えて、相手の好意を感じられなくなります。

このような投影を外すことで、単に相手が時間にルーズな遅刻魔で、遅れることとあなたのことを大事に想っていないということは別問題だという新しい視点を持つことができます。着たものを脱ぎっぱなしにする、食事が割り勘、メールの返事が遅いなど……全てのシチュエーションにおいて、投影がその登場を今か今かと待ち構えているのです。

投影のカギ、ビリーフって?

投影にはビリーフという、知らず知らずに入っている思考パターンが影響します。例えば過去の恋愛で傷つき、心の深い部分で責任を持ってパートナーと関わることを避けていたり「ステディな関係には悲しみと束縛がつきものだ」というビリーフがあったとしたら、いざというときにスルッと逃げる、都合のよいときだけ連絡をよこしてくるような相手との不毛な関係が続くかもしれません。

私の場合も離婚後の恋愛ではこれが続きました。悲しみぬいた末に、そういう関係性が当時の自分にとっても都合がよかったのだ、ということに気づかされて衝撃を受けました。

ブスだからうまくいかないって、本当?

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またビリーフとは、子どもの頃に幼い解釈で思い込んでしまった自分への誤解がベースとなった、他人と世界の誤解でもあります。例えば私は、小学生ぐらいまでぽっちゃりしていて、顔もお餅のようでした。両親はそれをとてもかわいいと思って、「こぶすい(ちょっとブス)」と新しい形容詞まで作って私を愛したのですが、幼い私はそれを誤解して自分のことを「醜い」「価値が低い」と見られているのだと感じました。

当時英語教室に通っていた、幼い私と比べてスラッとしていた兄も「彩はビッグフェイスだね」と習いたての単語で悪意なく言って、その意味が「大きな顔」だと知った私はショック。でも「悲しい」と認めるのは辛くて、「あはは」と笑って気持ちを感じ切らずに誤魔化しました。そうすれば一時的に悲しさを感じなくてすむからです。このようにして感情を回避することは心の防衛反応なのですが、その代償は大きく、のちのち長い苦しみを抱え込むことになります。

さて中学生になって身長が1年で20cm伸びたことで、今度は逆に兄のような痩せっぽちになりました。すると、初めて付き合った彼氏の友達から(彼より身長が高かったので)「デカッ」と言われ、バツの悪そう(に感じた)な彼を見て再び外見にコンプレックスを持つようになりました。つまり太っていようが痩せていようがビリーフが置き換わらない限り、「私は醜い」とものを見るのです。

見捨てられ不安で本当に捨てられてしまう。

今はもう自分がどう見られるかをさほど気にしませんが、「相手の望むようにキレイにしていないと捨てられる」という恐怖はずいぶんと長い間ありました。洋服を大量に買ったり、徹夜続きで顔が浮腫んでいたら「こんな醜い状態だと捨てられる」と思い込んで会えなかったり。となると不思議なもので、見た目で好意を持たれてガンガン来られたのはいいものの、「距離感がつかめない」「思っていたようなタイプじゃなかった」と振られるというご縁を招くのです。

シャドウを認めず自己一致していない状態では、相手とも向き合えないし、向き合おうとする相手も現れません。いざというときに逃げる人が続いたのは、相手のせいではないんです。

パートナーシップはビリーフを外す問題集。

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このように目の前の関係性はある意味幻想。自分のビリーフを解くドリルのようなものです。思い込みにハッと我に返って「現実はこっちだな」と気づけるようになることがその学びであり、究極的にはパートナーシップの目的かもしれません。そこでドリルが終了すれば自然とそのつながりが切れていくか、新しい関係性へと発展していきます。これは恋愛に限らず、ビジネス、友人関係にも共通しています。もしも終わった恋なのに元カレが忘れられないとしたら、ひょっとするとそれは彼のことを愛しているのではなく、あなたを愛するためのカギがそこにあるのかもしれません。変えるのは、見方だけでいいのです。

では具体的にどうやったら要らないビリーフを外せ、ありのままの自分を愛せるようになれるというのでしょう。そこでは、ビリーフが幼い頃の誤解がベースとなっているという点がヒントになります。笑いたいときに笑って、泣きたいときに泣くことができたあの頃。感情のまにまに行動ができ、自分のことを醜いとか、頭が悪いと思うコンプレックスからも自由で、目の前のことすべてが新鮮で美しく、ありのままであれた幼い時代のことです。

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幸せを阻むビリーフ解除のやりかた。

1. イラっとしたり悲しくなったら、「ようこそ!」と迎え入れて感じ切る。
2. 深呼吸して肩の力を抜き、「外の世界は単なる鏡」と自分に言い聞かせて一歩引く。
3. 嫌な気持ちは実は相手ではなく、「自分に文句をつけているのでは?」と反転させてみる。
4.「私はブス」「無能だ」という思いに気づいたら、「ハ?誰が決めたの?」と言って自分の価値は自分で決めると決意する。
5. 1日必ずひとつ、嬉しいこと、ホッとできることを自分にしてあげること。

相手を鏡にして、そこにはどんな受け入れたくない自分がいるんだろう? 一番嫌いで、見るのも怖くて。でも抱きしめてほしいってずっとあなたを待っている自分。深層心理について研究するユング心理学では、それを否定するのではなく自分の一面として気づいて受け入れることで、豊かな魅力や個性を表現できるようになると考えられています。つまり嫌いな自分を祝うことで、もっと好きなあなたになって、そんなあなたそのものと繋がりたいというご縁に恵まれますよ。

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土居彩

編集者、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。https://greenz.jp/author/doiaya/

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