会社を辞めて、こうなった。【第39話】 日本人であるメリット。 はみ出し者である利点とは。

2016.8.22 — Page 2/2

知ったような顔をせずに、体験し続けて腹に落としたい。

夕日を見て感動する二人。違う人間だから100%同じ体験は出来ないけれど、二人の背中を見ていると何かを一緒に共有していることもわかります。
夕日を見て感動する二人。違う人間だから100%同じ体験は出来ないけれど、二人の背中を見ていると何かを一緒に共有していることもわかります。

英語の世界だけではなく、日本語の世界に関しても、同じテーマが来ています。つまり、ここで書いてしまったものをどう解釈されるか…ということを手放すこと、です。先日この連載をずっと読んでくださっているというご夫婦とお会いする機会があって、「土居さんはなんでそんなに自信が無いんですか?」と言われてしまいました。究極的な理由を言えば、「自信が無いという状態が嫌になるまで味わいたいから」ということなのですが、そう答えるとおそらく会話が成立しないと思ったので「そうですねぇ……」とお茶を濁してしまいました。するといろいろと励まして頂き、褒めてくださったうえで(ありがとうございます)、35歳からでも幸せな結婚が出来る、といった内容のご本をメールでご紹介頂き、正直ガーーン(笑)! 他にもここで ”恋人が居ない“ ”もはや若くない“ と書き続けているために、中高生時代に電車で告白してくれたという人達などからもFacebookに謎なメールが次々と来たり(「なんならお前付き合ってやるぞ」的な上から目線なものも……トホ)。あまりにもこういうことが続くので、この原稿を流し込んでくださっている担当の方に「この原稿から私って恋愛に飢えたハイエナみたいに見えます?」とたずねると、「えっ!土居さん。この書き方でそんなふうに思われていないと思っていらっしゃるほうが意外ですよ!」と言われて、机に頭を強打しました。

でも、いろんな反応をくださることを本当に有難いなと思っています。この駄文を読んでくださったうえで皆さんがそれぞれにいろんなリアクションを下さる。それが私の心を強烈に刺激する。その体験がまた私の心理実験の材料となり、ここに書くための栄養となっていくのです。これはサンフランシスコ禅センターを設立した鈴木俊隆老師の『Zen Mind, Beginner’s Mind』からの一節です。東へ1マイル行くということは普通、西へ1マイル行くということの反対ですね。でももし東へ1マイル行くということが、西へ1マイル行くことをも意味出来たら。これが自由です。この自由無しには、あなたは自分がやっていることに集中することはできません(Usually if you go one mile to the east it is the opposite of going one mile to the west. But if it is possible to go one mile to the east that means it is possible to go one mile to the west. This is freedom. Without this freedom, you can’t be concentrated on what you do)。日本ではさほど興味がなかった禅をフランスとアメリカで真剣に学んでいるなんて、人生面白いですね。私は今完全な自由とはなにか、それをアメリカに居る日本人として勉強させてもらっているのかもしれません。

そう、私は面倒くさい女…。

毎日見る景色も、その人のものの考え方に影響を与えると痛感します。こちらベイエリアでは、日本よりもずっとたくさんの青や紫色の花を見ます。太陽の光もちょっと黄みがかっているので、Instagramで加工しなくてもそれらしい写真が撮れたりします。
毎日見る景色も、その人のものの考え方に影響を与えると痛感します。こちらベイエリアでは、日本よりもずっとたくさんの青や紫色の花を見ます。太陽の光もちょっと黄みがかっているので、Instagramで加工しなくてもそれらしい写真が撮れたりします。

けれども、恋愛に関してこれだけはお伝えしておきたい! カリフォルニアの中心から「すみません、みなさん!(間に合ってないけど)本当、間に合ってますから!」と。真面目な話、一度離婚もしていますし、そのときに周りの人たちをたくさん傷つけてしまいました。離婚後の恋愛でも、自分の非力さを痛感して完全に打ちのめされました。だから、恋愛に関しては正直かなり慎重なんです。パートナーシップが人生においてとても重要なことは重々承知です。けれども、コレという人に出会わない限りはもうお付き合いとかは無くてもいいかなと覚悟もしています。もちろん本気の相手と出会うことができたら、頑張りますが……。

フランス・ボルドーにあるプラム・ヴィレッジでのマインドフルネス合宿の最終日にもこんなことがあったんです。編集者時代にとてもお世話になった大先輩に誘われ、パリの素敵なレストランで食事をしました。友達の家に居候していたので、その友達も誘って待ち合わせの店へ。先輩だけだと思っていたのですが、テーブルには錚々たる雑誌の編集長・副編集長クラスの面々がズラッ! 皆さんパリ・コレ取材のためにいらっしゃったそうです。泥だらけのコンバースにマルベリーの染みがいっぱいついたリュックを背負ってきた私は、大後悔。「明日エルメスのショー行く?」「サンジェルマンのホテルってどんな感じ?」。会話にも全くついていけない!

友達がトイレに行くと席を立ったときに、ある編集長に「彼女、何やっている人? パリで何か意味があることをやっているの、彼女?」と質問されたんです。プラム・ヴィレッジで、相手の(自分も)肩書きなどの外的要因から自由になって、その人の本質を洞察しようという実践をし続けてきたので、正直ものすごい嫌悪感を持ってしまいました。そこで「それって本当に必要な情報ですか? もしそうなら、直接彼女に聞いたらどうですか?」と答えたんです。すると「面倒くさい!!」と一蹴されてしまいました。

確かに面倒くさいですよね(笑)。会社を辞めた私を心配した先輩は、プロモーションの場としてこの席を設けてくれたのでしょう。全くもって台無しにしてしまいました。でもこれは私がもっといろんな経験をしてさらに人生を深く学ぶ必要があるということ。今はまだそのレベルではないけれど、精進した先に自分の信念を通しても良い仕事ができるようになるのだということを教えてくれた出来事だと思っています。

See You!

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PROFILE
土居彩
編集者、ライター。14年間勤務したマガジンハウスを退職し、’14年12月よりサンフランシスコに移住。趣味は、ヨガとジョギング。ラム酒をこよなく愛する。目標は幸福心理学を学んで、英語と日本語の両方で原稿が書けるようになること。