茂木欣一、稲垣吾郎に「率直にどう思った? と聞いてみたいです」

写真・山本嵩 文・田嶋真理 ヘアメイク・津田千昌 — 2021.7.8
今回ご紹介するのは、『映画:フィッシュマンズ』。今年、デビュー30周年を迎えた孤高のバンド、フィッシュマンズ(FISHMANS)のドキュメンタリー映画です。フィッシュマンズのリーダーで、東京スカパラダイスオーケストラのドラマーとしても活躍している茂木欣一さんにお話をうかがいました。

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「僕自身が、フィッシュマンズの大ファンなんです」


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1987年に結成されたフィッシュマンズは、1991年4月21日にシングル『ひこうき』でヴァージン・ジャパンよりメジャーデビュー。

楽曲のほぼすべての作詞・作曲を担当していたボーカル・佐藤伸治さんは、1999年に急逝しましたが、現在も活動を続け、国内外の音楽シーンで高い評価を受けています。

本作は、2019年2月に催された、フィッシュマンズが主催した音楽イベント『闘魂2019』のリハーサルから撮影を開始。明治学院大学ソング・ライツ部室、渋谷La.mama、渋谷クラブクアトロ、三軒茶屋クロスロードスタジオ、VIVID SOUND STUDIO、日比谷野外音楽堂など、メンバーのゆかりの地を訪れながら、インタビューを敢行。

これまで多くを語ることがなかった現・旧メンバーの貴重な話が、本邦初公開を含むライブシーンとともに織り交ぜられています。フィッシュマンズの軌跡をたどるうちに思い起こすのは、観る者が体験した甘酸っぱい青春の日々。 青春映画としても楽しめる内容となっています。


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ーー茂木さんにインタビューさせていただく前に本作を企画し、プロデューサーも兼ねた坂井利帆さんとお話することができまして。本作を『青春映画』と表現されていたことが印象的でした。観終わった後に感じる甘酸っぱさは、まさに青春映画のそれだなと思いました。本編172分があっという間でした。

茂木さん あっという間という感想を聞くと、本当にほっとします。フィッシュマンズは、1曲35分の『LONG SEASON』(1996年)をリリースしていますが、たまたまその長さになっただけで。なんとなく目標としていたのが、小難しくないものを作ることだったんです。曲も映画も鑑賞するにおいて、あっという間に時間が流れていくことは大切だと思っています。

ーー改めて、フィッシュマンズの音楽についてどう思いましたか?

茂木さん 佐藤くん、そしてフィッシュマンズとの出会いは、本当に特別なものだったんだなと思いました。僕自身が、フィッシュマンズの大ファンのひとりなんです。僕がフィッシュマンズのメンバーでなかったとしても、フィッシュマンズを「こんな音楽があるんだけど」と言いながら、同僚や周りの人々にすすめていたと思います。

ーーフィッシュマンズは、SMAPの10枚目のオリジナルアルバム『SMAP 011 ス』(1997年)に『それはただの気分さ』を提供し、演奏もしていますね。ソロで歌唱した稲垣吾郎さんのアンニュイな雰囲気にぴったりの名曲だと思います。

茂木さん 佐藤くんは『それはただの気分さ』を気に入っていて、フィッシュマンズのアルバム『宇宙 日本 世田谷』(1997年)に収録したがっていたのですが、SMAPに曲を提供できることをすごく喜んでいました。吾郎ちゃんは『BABY BLUE』のようなミドルテンポのダンスナンバーを想像していたと思うんですが、『それはただの気分さ』はとてもスローな曲でしょう?(笑)。吾郎ちゃんとじっくりお話をする機会があったら、「あの曲を初めて聴いたとき、率直にどう思った?」と本音を聞いてみたいですね。


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ーー佐藤さんが亡くなるまで一番近くにいらしたのが、茂木さんでした。彼に忍び寄る死の影のようなものを感じたことはございますか?

茂木さん 当時は、特に異変を感じませんでした。いまになって振り返ると、亡くなる前の年の1998年は、フィッシュマンズのベーシスト、柏原譲が脱退すると決まっていた1年間ということもあり、口数が少なかったかもしれないと思います。とはいえ、彼はどっぷりと音楽に集中するタイプでしたから、間近のライブでフィッシュマンズの集大成を見せてやるという気持ちなのかなと解釈していました。

ーー劇中、ゆかりの地を訪れる茂木さんの姿がとても悲しく見えました。しかも日比谷野外音楽堂では、雨まで降っていて……。

茂木さん これまで、「もしも」を何度も考えた20年でした。あのシーンは、「もしも、サトちゃんが元気で生きていたら」と、僕が心の中で佐藤くんへ語り掛けた気持ちを監督が映像化してくれたように感じて、観てぐっと来るものがありました。


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ーー旧メンバーの方々が、当時の貴重な裏話を語っているシーンについてどう感じましたか?

茂木さん クランクイン前に、旧メンバーたちと会う機会があったんです。そのとき、僕は「一度だけでいいから、カメラの前で本音を話してほしい」とお願いしたんですが、その結果を僕は知らなくて。完成した本編を観て初めて、「ここまで赤裸々に語ってくれたんだ」と驚きつつ、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

ーー観る者誰もが心を揺さぶられる作品だと思います。

茂木さん 僕は、もしも、明治学院大学のソング・ライツ部に入っていなかったら、佐藤くんに出会っていなかったら……運命のパズルがどれひとつ欠けても、僕はこの場にいなかったかもしれない、そんなことを考えながら観ました。この映画を観た方は、フィッシュマンズの青春を体験するうちに、自身がこれまで歩んできた人生を振り返っていると思います。そういう意味で、フィッシュマンズの映画ですが、みんなの映画でもあると思っています。


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インタビューのこぼれ話

テレビ朝日系『仮面ライダーセイバー』のエンディングテーマ『仮面ライダーセイバー』では、パワフルな歌声を響かせている茂木さん。インタビュー中、そのことに触れると、なんと取材現場でワンフレーズを生歌唱! そのサービス精神とともに、優しさがにじみ出る気さくな笑顔が印象的でした。

Information


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『映画:フィッシュマンズ』
7月9日より、新宿バルト9、渋谷シネクイント、アップリンク吉祥寺、池袋シネマ・ロサほかにて全国公開
出演:佐藤伸治、茂木欣一、小嶋謙介、柏原譲、HAKASE-SUN、HONZI、関口“dARTs”道生、木暮晋也、小宮山聖、ZAK、原田郁子(クラムボン)、UA、ハナレグミ、YO-KING(真心ブラザーズ)、こだま和文
公式サイト:https://fishmans-movie.com/
配給:ACTV JAPAN、イハフィルムズ
©THE FISHMANS MOVIE 2021

写真・山本嵩 文・田嶋真理  ヘアメイク・津田千昌