遊びすぎてクタクタです…電池切れした犬さまのかわいいサインとは

取材、文・Manabu Matsunaga — 2023.1.28
フランス在住のカメラマン、松永学さんによる、フランスの猫さま紹介! 第101回目は番外編の番外犬、犬さまの登場。フレンチブルドッグのローラ(Lola)さまです。

何度も大病を乗り越えた犬さまの物語

【フレンチ猫(犬)さま】vol.101
猫(犬)さまの話をもっと聞かせて! 
ローラは11歳の女性犬さまです。


犬 フレンチブルドッグ フランス


ローラが語ります。
私はパリの左岸、夜は賑やかな街中にある、築300年以上のアパルトマンのこじんまりとした一室に住んでいます。
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飼い主(彼女は美味しいお菓子職人です)が仕事の日は、出勤が5時と早朝です。私の気が向くときは、朝4時台に用だけを足しに近所を散歩、天気が悪かったり、寒いと、ベッドに埋まったまま目線で「いってらっしゃい」とお見送りをします。飼い主は留守番カメラで私を見ているらしいですが、日中はほぼ寝ているので安心でしょう(笑)。
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午前中、お散歩お姉さんが来てくれる日は、1~2時間の散歩に連れて行ってもらいます。コースは日替わりで、気の向くままにセーヌ川沿いを歩いたり、チュイルリー公園の芝生へ行ったり、友だち犬がいるお店までお姉さんを誘導したりします。食いしん坊なので、ベンチやカフェを見つけるとおやつをおねだりします。そして、お姉さんが帰った後はまた昼寝。夕方、飼い主が戻ってくると、待ち構えたように飛びついて、まず甘えます。ひとしきり甘え終わると、夜の散歩です。食事が一日に夜に一度のため、夕方になるとお腹が本当に空くので、さらにおやつをねだりながら1時間ほど散歩をします。時々、近所に住む仲良しのフレンチブルの友だちOSIRISもお散歩に合流します。その時は、一人の時よりも俄然散歩欲が増してテンションも高くなりよく歩きます。
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家に戻ると待ちに待ったご飯の前に、きゅうきゅう鳴るおもちゃでひと遊びをして、さらにお腹を空かせ、飼い主が食事の支度をするのをじーっと見つめて待っています。そして、お腹が満たされると「すぐ寝ると牛になるよ」といわれるくらい、途端にスイッチが切れて眠ってしまうのです。
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飼い主が寝るまで彼女の近くのソファーや自分のカナッペ(長椅子)にいて、彼女が寝支度するのを感じると目線を投げて、ベットに上げてくださいと催促します。夏は床でも寝ますが、それ以外は大抵布団へ入っていきます。
人のことを本当によく観察できるのが特技で、飼い主が眠りから覚めたら瞬時に私も起き上がるのです。
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飼い主が休みで、晴れている日は自転車にくくりつけた私の鞄(お輿)、またはメトロに乗って森へ。パリ近郊のいろんな森へ行きますが、一番よく行くのはBois de Vincennesです。街のすぐ近くに自然があるのはパリの良いところです。
森へ着くと目の色が変わり、野生に戻ります。池で泳ぐことと、大きな枝が大好きで、人間の背丈ほどある巨木を咥えて走ってきては、川に投げて、千本ノックのように何度も繰り返えします。
疲れると舌が半分出て、目が小さくなってくるので、遊びはおしまいです! 家に戻ってバスタブに自分から入って丸洗いをされると、堪らなくなり満足げに眠ります。
飼い主から見たLolaさまは?

実家で暮らしていた時、生まれた頃から犬と一緒でした。鯉や金魚、チャボや金鶏鳥もいて、犬が18歳で亡くなったあとは猫もいたりと、動物は常に身近な存在でした。
ある夏の暑い日のカフェで、友人が突然迎え入れた生後3か月ほどのローラを連れてきました。それがローラとの初めての出会いです。元々、犬も猫も動物が好きなこともあり、毎日のように友人宅へ遊びに行きました。彼女は夜に仕事をすることが多く、私は朝の仕事が多かったので、泊まりで預かることも頻繁でした。
ある日、その友人がしばらく外国で暮らすこととなり「連れて行くことができない。誰か預かってくれる人を探す」と言うので、「いつ帰ってくるかもわからないのに無責任なことを言わないで! この子が可哀想」と言うと「それならあなたが引き取ってくれないか?」という話に。


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私は長時間の仕事に就いていて一人暮らしということもあり、周囲の友人に反対をされました。ローラに寂しい思いをさせてしまうのではないか? と考えたこともありました。でも、この子でなければ! と惹かれる気持ちが強く、ローラの一生を受け入れようと決めるまでに、そう時間はかかりませんでした。
それからはというと、朝晩の散歩はもちろん、仕事の日は毎日お散歩お姉さんに日中の散歩をしてもらい、1日家にずっと一人でいることがないようにしています。休みの日には、週に1度は森へ行くようになり、私の生活はローラと一緒に変化していきました。嬉しい変化です。年齢を重ねてもその習慣は続いています。
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とにかく、食べることが大好きな子です。
年齢と共に食事は変わってきました。フレンチブルドッグは獣医のお得意さまとよく言われますが、肥満細胞腫、乳癌と、早期発見ではあったものの二度癌を患ってからは特に日々の食事で病気になりにくいように心がけています。缶詰などの市販のものではなく、赤身のお肉、鳥のささみ、ときに職場でいただくマグロの血合などを焼いたもの、生食の鴨肉に軟骨など入ったBARF、それにクロケット2種類を与えています。クロケットのうちひとつは、日本から何とか手に入れているシニア向け薬膳クロケットです。他、サーモンオイルやコラーゲンパウダー、植物療法士の知人に相談して教えてもらったハーブの粉末を混ぜています。早食いは消化に悪いので、お肉とカリカリをひと口づつ手からあげるようにしています。
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私がパティシエということもあり、年に一度の誕生日にはローラのバースデーケーキを作ります。毎年趣向を凝らしていて、水切りをしたヨーグルトでチーズケーキを焼いたり、野菜とチーズの入ったケーキを焼いたり、トッピングにおからクッキーなどつけたり…。毎回ものすごい勢いで食べてくれます。ただ、蝋燭の火がどうしても怖いようで、消えるまで涎をたらしながらケーキを見つめているのが可愛いです。

性格は、見習いたいほど常に本気で素直なマイペースです。食いしん坊で、人に撫でられるのが大好きな甘えん坊でもあります。食べることに関しての貪欲さ、頑固なマイペースさは私に似ているかと…。


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一瞬でオンとオフが切り替わり、わかりやすいほどはっきりしていて、行きたくない方向へ進もうとするときは全身で踏ん張り抵抗します。すれ違いざまに、他の犬に吠えられることがあっても自分から吠えることのない温厚な子です。5歳くらいから、喧嘩を始めたり吠え合う犬を見かけると、犬の大きさに関わらず仲裁をしに間に突進していく正義漢の一面もあり、よくポリスと言われてます。
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フレンチブルドッグは、通常泳げないと言われる犬種ですが、陸よりも水の中のほうが自由に見えるほどの泳ぐのが上手です。泳ぎを教えたことは記憶に一度もないのにです…。11歳になった今でも、まだ川で泳ぐことが好きで、森では大きな枝を咥えたまま方向転換も自由自在。海に連れて行った時も、波に向かって沖まで進んでいき、もうすぐライフセーバーの資格がもらえるとまで言われたこともあります(笑)。
犬 フレンチブルドッグ フランス

可愛いと思うところは数え切れません。しいてあげるならば、犬はしっぽを振って感情を表現しますが、しっぽが豆のように短いフレンチブルはその代わりに、嬉しさも甘える時にも主張をする時も、こちらの心の内まで見透かすように訴えてくる表情豊かな眼力がたまりません。
犬 フレンチブルドッグ フランス

ローラは左右眼の色が違うので、特にいろんな顔を見せてくれます。一番楽しかったエピソードは、数年前、泳ぐのが大好きなローラを連れて犬も入れる海岸を探し、ブルターニュの海へ連れて行った時のことです。日暮れ間際まで泳いで砂まみれになって全力で遊び、完全に電池切れで舌を出して私に身をを委ねたローラは、もう歩けないと、自分から鞄に入り込んできました。ただ、その日にとれた宿が、海岸から山道を40分ほど登ったところにあり、タクシーもない田舎で、体重14kgのローラを鞄に入れて担いで山道を登り続けました。その時は何かの苦行かと思いましたが、途中カバンの中から聞こえてくる満足気ないびきと、登りきった先に眼下に見えた茜色の美しい海が、今思えば忘れられない思い出です。
――ローラさまは子宮蓄膿症、肥満細胞種、乳癌といろいろな病気と戦うたびに尊いほどの生命力で回復してくれたそうです。これからも治る病気への治療はいくらでも惜まないと飼い主は言います。ただ、無理な延命はさせないと心に決めているそうです。自分以上に大切な存在がこの世に存在する尊さを教えてくれ、その気持ちが日々の活力に繋がることは確かとも。ローラさまと一緒にいると無条件の愛を感じる瞬間が多いと話してくれました。

初めはローラさまのために通い出した森散歩ですが、今では息を抜くことの大切さを感じて欠かせない習慣になったそうです。ローラさまが来てからは、飼い主自身もゆっくりとした時間の過ごしかたができるようになったと語ります。

今日も寒い中、森に行って全力を出し切るローラさまの姿が想像できますね。飼い主との心を許す相棒関係がこれからもずっと続くことを願います。

取材、文・松永学