切れたらどうする?若さの賞味期限。

2015.12.26 — Page 2/2

10年ぶりの夜デビューで、やらかす。

それは10年ぶりに、知人に誘われキャバ嬢として少し働いたときであった。

大学時代から水商売をしていた私は、自分で言うのもなんだが、当時は若手三枚目としてそこそこ可愛がられたもんだ。悲しくも美人枠ではなかったが、よく言われていた言葉は「娘として欲しい!」である。下心全開で見られない立場は重宝したもんだが、そんな経験からはや10年。知人いわく「場所柄働く子はそこまで若くないから」という言葉を信じて足を踏み入れたが、早々に後悔した。

「若けぇじゃねえか!!!!」

まあキャバクラなんだから当たり前である。20〜25歳くらいの女子がゴロゴロいるのだ。しかも最近のキャバ嬢の格好は、一時の「小悪魔ageha」のような盛り系ではない。ミニスカの普通っぽいワンピースに、大人しめなヘアセットがトレンドなのだとか。

「事前に教えてくれヨ!」

と嘆きながら、ひとり背中全開のロングドレスをズルズル引きずる私。当然のように初日早々溢れる貫禄から、中堅キャバ嬢の席をゲットしてしまった。座れば「(水商売歴)長いの?」と聞かれ、エロトークをさばけば「こなれてるね〜」と笑われる。

42歳の若い子ぶりっこは辛い。

「私、一応今日からなんです…」

そう呟きながらいろんな人から笑われていると、私を笑う中に一人だけ不自然な女性がいた。彼女に目をやると、ピンク色のミニスカワンピに明るい髪をクルリと内巻きにしたザ・可愛い系。しかし体形はむっちりぽってり…っていうかオバさん体形なのだ。そして顔もよくよく見ると、しみシワが隠れきらないオトナ顔。「女の目はごまかせねえぜ!」と、こっそりリサーチすると42歳だそうだ。

ちゃっかり若手っぽい振る舞いで人を笑っていたくせに、「思いっきり中堅、っていうかベテランじゃねえか!」そう心の中でツッコミを入れながら彼女の話を聞くと、18歳から現役とのこと。しかし現在は全盛期のような指名も取っておらず、昼仕事の片手間にというノリだそうだ。うう…40代になったら、さすがに夜は寝たいよ。寝ないならせめて、もっと安定的な人気を持った、頼られる姉さんお水でありたいものだ。勝手に10年後の自分を想像し泣きそうになる。

「ああ、立場の変化は、自分で気付いて自分でけじめをつけないと、怖いことになる」
 
はしゃぐたび、ぷるぷると揺れる彼女の二の腕を眺めながら、私はとりあえず自分の二の腕をぎゅっとつまんだ。

立ち位置は自己責任の時代へ。

今の時代「○才で結婚」「○才で出世」という年齢でザックリ決まっていたライフイベントはなくなりつつある。それは自由になった証拠であり喜ばしいかもしれないが、「そのかわり立場の変化は自己責任」という個々人任せの流れがある。だから私たちの気持ちが追いつかなくなっている。

結婚しなくとも出世しなくとも、ましてや仕事内容が変わらなくとも、後ろは迫ってくるし、自分の年齢は上がっていく。日頃から意識して立ち位置を確認し、そして変化を自覚していかなくては、ある日突然、若手追放宣言を突きつけられ、腰を抜かすかもしれない。

ああ恐ろしや! そんな結論に達していたら、最近知人に「男前」という新たな立ち位置を頂戴した。一瞬ムッとしながら、「それ、褒めてるの?」と聞いてみると、「もちろんです!」と嬉しそうな答えが返ってくる。

ありがたい。が、しかし、そろそろ“キレイなお姉さん”と呼ばれたい。


おおしま りえ/雑食系恋愛ジャーナリスト・イラストレーター
10代より水商売やプロ雀士などに身を投じ、のべ1万人の男性を接客。20代で結婚と離婚を経験後、アップダウンの激しい人生経験を生かし、現在恋愛コラムを年間100本以上執筆中。そろそろ幸せな結婚がしたいと願うアラサーのリターン独女。
HP:http://oshimarie.com