「’80年代が舞台なのですが、この時代のレトロな雰囲気がすごく好きなんです。スマホもないので待ち合わせするのも大変で、思い通りにならなかったりして。いろんな制限があるなかで、ゆっくり距離を縮めていく関係を描きたいなと思いました」
『スケバンと転校生』は、ふじちかさんの商業デビュー作。一匹狼で“億人殺しのアツコ”の異名を持つ、スケバンの南雲あつ子と、天真爛漫すぎて周りから少々浮いている転校生・神崎凛々(りり)。あるとき神崎はあつ子の鍵を拾った代わりに、“くだらない遊び”に付き合ってほしいとお願いする。その内容は、神崎が考えたかわいい言葉を、1日5つまで言ってもらうというもの。「ふわふわ」「もぐもぐ」「あんよ」など紙に書かれた言葉を照れながら口にするあつ子を見て、神崎はたまらない気持ちになり、あつ子のほうも物怖じせず近づいてくる神崎の無邪気さに、今まで経験したことのない感情を抱く。
「なんでこの遊びを思いついたのか、自分でも謎なんですけど(笑)。高校時代って当事者だけが面白いような遊びに真剣になったりしますよね。あの感じを出したかったんです」
念願の「友達」になったふたり。2巻では、その定義に戸惑いつつ、お互いを慕う思いが暴走して空回り。ドタバタ感もクセになる。
「性格は違うんですけど、ふたりとも根本的には不器用だと思っていて。しかも友達らしい友達が今までいなかったので、いろんなことが初めてなんです。今みたいにLINEで探りを入れるようなこともできないので、勝手に妄想して一喜一憂して、体当たりするしかないんですよね」
怖い噂のある教室を掃除する羽目になったり、宿題のプリントを自宅に届けたり、夏祭りに出かけたり。学園モノの王道的シチュエーション、そして絵のタッチも往年の少女マンガを読んできた人の心をくすぐる。
「私自身は平成生まれですが、最初にハマった少女マンガが、いがらしゆみこ先生の作品だったんです。絵柄に関して、そういった時代のマンガに寄せている意識はそれほどないのですが、やっぱり自分の好きなものが染み付いているんでしょうね」
相手を思う感情が友情なのか恋なのか、もはやどうでもよくなるほどの純粋さ、それゆえの必死さが笑えたり、いじらしくて泣けてきたり。
「ふたりの距離が変わっても、不器用であることは変わらないので、この先も、もだもだしている心の機微を丁寧に描いていきたいですね」
『スケバンと転校生』2 “閻魔も逃げ出す歩く地獄”と恐れられている最強のスケバンと、明るくて天然な転校生。まったく違うタイプのふたりが心を通わせる、’80sガールズラブコメディ。双葉社 770円 ©ふじちか/双葉社
ふじちか マンガ家。東京都出身、愛知県在住。pixivなどで作品の発表を始め、本作で商業デビュー。「webアクション」で連載中。X(旧Twitter)は@icco_8
※『anan』2023年11月15日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)