志村 昌美

“わかりあえない男と女の心理” を明らかにする注目作『さざなみ』!

2016.4.8
年頃になると増えるものといえば、結婚式の招待状。私自身も3月、4月と友人の結婚式に参加することがきっかけとなり、自分の結婚観についてふと思いを巡らせているところです。同じように結婚について考えている人も多いかと思いますが、女性なら誰もが憧れてしまう理想の夫婦像といえば、歳を重ねても仲睦まじい2人の姿。そこで、長年連れ添った一組の夫婦を描いた、ある作品をご紹介します。

恋愛観も結婚観も揺さぶられる傑作!各国で話題騒然の『さざなみ』!

【映画、ときどき私】 vol.31

イギリスの小さな町に暮らすジェフとケイトは、結婚45周年を迎え、週末には記念パーティを控えていた。仕事も引退し、子どものいない2人が寄り添いながら送るのは、ささやかな日常。いまでは、新たな変化や出来事も起きなかったが、お互いのことは知り尽くし、穏やかな日々がこれからも続いていくと思っていた。

しかし、一通の手紙が2人の運命を大きく変えてしまう……。

ある日、スイスからジェフ宛に届いた手紙には、50年以上前に起きた山岳事故で亡くなった女性の遺体が発見されたことが記されていた。その女性とは、ジェフのかつての恋人カチャのことであった。

その出来事を境に、過去へ想いをはせる夫に対し、妻は存在しない女へと嫉妬を募らせていく。さまざまな感情が押し寄せるなか、夫婦として積み重ねてきた45年とはいったい何だったのか? そして、2人が見つめる先にあるものとは……。

男女の微妙な心のすれ違いがとにかくリアル!

恋愛においては、「女性は上書き保存、男性は別名保存」とよくいわれていますが、2人の姿はまさにその縮図のよう。それは、夫へ沸き起こる感情が次々と上塗りされることで45年かけて作り上げてきたものが一瞬にして変わってしまう妻と50年以上も元恋人への想いを妻とは別に持ち続けてきた夫。

いくつになっても、どんなに長い時間を共にして築き上げた関係だとしても、たった1つの出来事でいとも簡単に変わってしまうのが、恋愛の怖いところでもあるのです。

なぜ、女心と男心はわかりあえないのか?

パートナーの過去の恋愛に向き合うとき、「知りたくないけど知りたい」という気持ちと「いまの彼にとって自分が一番なんだと確認して安心したい」というのが女心。

しかし、そんな気持ちも知らずに、「尋ねられたことに素直に答えるのが “誠意”」とでも思っているのか、それとも「“開いたファイル” を誰かと共有したい」のか、バカがつくほど正直に話してしまうのが女性には理解できない男心ではないかと思うのです。

ジェフもかつての恋人のことをいまなお「ぼくのカチャ」と呼び、「もし彼女が死んでいなければ結婚した?」という問いに「そのつもりだった」と答える無神経さがまさにその代表。女性にとっては、無意識に放たれる言葉の1つ1つが、針のように心に突き刺さり、決して抜けない棘としていつまでも残るもの。同じような経験を味わったことのある人なら、ケイトの気持ちが痛いほどわかるはずです。

男性は一度開いたファイルを同じ状態で閉じることができても、女性は相手への気持ちを一度上書きしてしまうとなかなか元には戻れないものだと改めて感じてしまうかも。

女性にしかわからない葛藤に共感!

女性の心がざわめき始めているとき、たいてい男性は気がついていませんが、わかったときには、すでにざわめきでは収まらないところまできているもの。そんな風に、表面上は抑えながらも、内心では気持ちが徐々に波立っていく女性の様子を絶妙な表情と視線でみせる大女優シャーロット・ランプリングには共感と絶賛の嵐。その細かな変化は一瞬たりともお見逃しなく!

男女にとっては永遠のテーマであり、尽きることのない悩みの種!

“男と女の溝” は、たとえ生涯を共にしても、埋められないものなのではないかと、突きつけられる本作。この違いは、きっとどこまで行っても交わることはなく、永遠に平行線をたどっているのだと感じてしまうはず。

「どんなに長く一緒にいても、男女がわかりあえることはない」という絶望感と同時に、「わかりあうことは不可能だから仕方ない」という安堵感すらどこかで感じてしまう2人の姿。もはや、「男女の溝は埋められるのか?」という疑問さえも、愚問なのかもしれません。

“穏やかな関係” を続けるために必要なこととは……。

ジェフとケイトを見ていると、「長い年月をいつまでも幸せでいるための秘訣は、相手のことをすべて知り尽くすことではなく、ときには知らないままでいることが幸せを持続するための秘訣である」という結論を思わず出したくなるほど。

恋愛だけでなく、夫婦のあり方、そして男女の愛に対する違いなどを目の当たりにし、あなたの感情のひだにいくつもの “さざなみ” が起こるはず。その波をどう受け止めるかは、あなたの “心の防波堤” 次第です。

作品情報

『さざなみ』
公開表記:4月9日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
配給:彩プロ
© The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014

http://sazanami.ayapro.ne.jp/