志村 昌美

長澤まさみ「笑顔でいるのも大変だと感じている」裏に隠された意外な思い

2023.3.21
大人計画主宰とシアターコクーン芸術監督を務める松尾スズキさんと、豪華女優陣が本気でコントに挑む姿が人気を博している「松尾スズキと30分の女優」シリーズ。2021年からスタートしたオムニバスコントドラマも、いよいよ第3弾を迎えます。そこで、シリーズ初参戦となるこちらの方にお話をうかがってきました。

長澤まさみさん

【映画、ときどき私】 vol. 561

さまざまな作品でコメディからシリアスまで、幅広い役どころを見事に演じわけている長澤さん。30分強という番組尺のなかで、カード支払いセンターの通信先で働く夫婦を描いた「センタア飯店」、野良のキャッツを捕まえた女が登場する「野良キャッツ、捕獲女」、恋人と結婚するためにペットを手放そうとする女性が主人公の「老紳士を捨てる」、恐竜喫茶を舞台にした「恐竜最後の日」、居心地のいい会社の様子を映し出した「居心地最高」という5つのコントに挑戦しています。今回は、撮影現場の様子やコントへかける思い、そして笑顔の裏に隠された意外な素顔について語っていただきました。

―これまでもコメディ作品には出演されていますが、演じるうえでコントとの違いはありますか?

長澤さん 私にとってはコントでもドラマでも映画でも舞台でも、芝居をするときは基本的に同じです。ただ、過去にコントで演じたときに感じたのは、作家さんによって笑いの感覚が違うということ。そういう意味で、台本の解釈が難しいなと思うことはありました。

しかも、その場で感じて出たものが大切なので、コントって深いですよね。あと、練習しすぎても新鮮味がなくなってしまうので、お笑いの現場では最初の感覚を大切にされる方が多いかなと。今回もリハは軽く合わせる程度で、だいたい1発目で「はい、オッケーです」みたいな感じでした。

演じてみたらどれも本当におもしろかった

―どのエピソードも独特な世界観でしたが、印象に残っているのはどの役ですか?

長澤さん 台本を読んでいるときは、「センタア飯店」が一番キャッチーで楽しそうだなと思いましたが、演じてみたらどれも本当におもしろくて。そのなかでも、「老紳士を捨てる」はお気に入りでゲラゲラ笑ってしまいました。

あと、印象的という意味では、「恐竜最後の日」ですね。劇中で恐竜の真似をしていますが、撮影前に恐竜の動きを真面目に研究している方の動画が送られてきました。こんな人たちがいるんだという驚きもありましたが、それがおもしろかったです。とにかくアングラ感がすごくて(笑)。真似させていただきましたが、まったくもってふざけているわけではありません。

―練習されただけあって、恐竜の動きは素晴らしかったです。また、コンテンポラリーダンスを披露されるシーンでは、ご自身で振付をされたとか。

長澤さん 「どうすればいいですか?」と聞くと、「それを考えるのが俳優の仕事でしょ」と言われてしまうので、自分で考えていきました。ただ、撮影のあとにSNSでいろんなコンテンポラリーダンスの動画が流れてきて「ああ、これもできたな」と思うものがあったので、もっと早く教えてほしかったですね(笑)。

―また、「センタア飯店」では謎の言葉を叫んでいるのが強烈でした。これも事前に家で練習されていったそうですが、鏡の前で試したり、ひたすら声に出したりしたのでしょうか。

長澤さん いやいや、そんな1人でラップバトルみたいなことはしていません(笑)。そもそも架空の言語なので、自分なりに解釈をしてこういうふうに読んだらおもしろいかなと思う音を探していった感じです。セリフに小さい「つ」が2つ並んで書かれていたりしたので、「どう読めばいいんだろう?」というところから始まりました。でも、自分としてはすごく好きな分野だと思います。

安心して思いっきりできるのが松尾さんの現場

―眉毛をつなげたりするコントのメイクに抵抗はなかったですか?

長澤さん 私、大好きなんです(笑)。かつらもいっぱい被りたいし、おもしろいメイクもたくさんしたいですね。

―ぜひ見てみたいです。松尾さんとは舞台でもお仕事されていますが、演出家として、俳優としての魅力をそれぞれ教えてください。

長澤さん まず演出家としては、当たり前ですけど、真面目で厳しい方です。本番までにちゃんと用意していかないとすぐに指摘されてしまいます。でも、これまでの関係性もあったので安心して現場に行けましたし、思いっきりできました。俳優としては、個性的でおもしろい方ですが、独特なキャラクターも松尾さんが演じるとその世界観になるので不思議ですよね。

―松尾さん以外にも、非常に個性豊かなキャストが揃っていましたよね。

長澤さん 本当に好きな俳優さんばかりだったので、一緒にお芝居ができて楽しかったです。そのなかでも、村杉蝉之介さんは一番共演させていただいている方なので、いてくれるだけで安心感もありました。でも、今回は邪魔してくる箇所もたくさんあったので、本当に迷惑でしたね……。というのは冗談です(笑)。

―アドリブみたいなことはありませんでしたか?

長澤さん それはほとんどなかった気がします。ただ、「老紳士を捨てる」で近藤公園さんが私のことを目隠しするシーンで、近藤さんも松尾さんに目隠しをされていたのですが、本番が始まったら後ろから「痛い、痛い、痛い」と本気で痛がっている声がしたんです。何が起きているかわからなかったのですが、出来上がった作品を観たら近藤さんが松尾さんに目つぶしされていて(笑)。それが本当におもしろかったです。

お笑いは本当に難しい分野だと感じている

―長澤さんから見た松尾スズキ作品の魅力についても、お聞かせください。

長澤さん すごく独特で感覚的なところも多いので説明するのが難しいのですが、どれもベースにあるのは普遍的な物語だと思っています。影を背負っている人物もポップに描いていますが、噛めば噛むほど味が出るというか、ジーンとくるキャラクター設定が多いですよね。そういうところが魅力的だなと感じています。

―本作への出演が決まった際、お笑いの動画を参考に見たことは?

長澤さん それはなかったですね。というのも、コントやお笑いは誰かのをなぞるとおもしろくなくなると思ったからです。特に、日本のお笑い芸人さんがされているようなことは、その方のキャラがあっておもしろいパターンが多いので。

―長澤さんのなかにあるコメディセンスに影響を与えている人はいますか?

長澤さん 私が大好きなのは、大人計画のみなさんです。俳優でありながら、それぞれの世界観がきちんと確立されている方々なので、そういうところが魅力的だなと。あの感じがうらやましくて、いつも憧れています。

―今回の出演を通して、改めて「笑い」とは何か考えたこともあったのではないかなと。

長澤さん やっぱり難しいなと感じました。たとえば、ここで笑ってもらえたらうれしいなと考えるところがあっても、ほかの人は意外と違うところでおもしろいと思ってくれることも多いので。上手くハマるときもありますが、その感覚がつかめないときもあるので、本当に難しい分野だなと感じています。

ほめられるようになって、笑顔でいられるようになった

―ちなみに、最近一番笑った出来事は何ですか?

長澤さん もうすぐ『ロストケア』という映画が公開になりますが、共演している松山ケンイチさんが突然私に向かって「やっぱりまーちゃんと呼ぼう」と言い出したことです(笑)。そこからお互いにあだ名で呼び合うことになって、私は「けんちゃん」と呼ぶことになったのですが、唐突に何かが変わったりするとおかしかったりしますよね。

―確かにそうですね。そして、何といっても長澤さんの笑顔に癒されている人が多いと思うのですが、笑顔でいられる秘訣を教えてください。

長澤さん 本当ですか!? 癒しになっていますでしょうか(笑)。実は、私はつねにみんなに笑顔をふりまこうとがんばれるタイプではなく、どちらかというと、恥ずかしさをごまかすために笑っちゃっている感じです。というのも、根が照れ屋で、前に出たがるのに注目されると恥ずかしいみたいなあまのじゃくな性格なので……。

私としては、気持ちいい状態で笑顔になっているというよりも、笑いながらハラハラしたり、大汗かいたりしていることのほうが多いので、笑顔でいるのも大変だなと思っています(笑)。でも、恥ずかしくて笑っているだけでも、周りからは「笑顔がいいね」と言ってもらえるようになったので、ほめられるようになってから笑顔でいられるようになったところはあるかもしれません。

―それは意外に思う方が多いのではないでしょうか。

長澤さん いつも恥ずかしい思いでいますし、「今日もうまくいかなかったな」とか「人に対してちゃんと誠実にできていたかな」みたいな感じで、家に帰るとだいたい反省から入ってしまうほどです。

悩みながらも、立ち止まらずにがんばってほしい

―そんななかで、素の自分に戻れるのはいつですか?

長澤さん 最近も共演した方から「いつリラックスしているんですか?」と聞かれたんですが、ということはリラックスしているように見えていないんだなと思って考え込んでしまいました。でも、ゆっくりと家の片づけをしているときや家族や友達のように自分が好きな人たちと一緒にいるときは、一番楽でいられる時間です。私は友達に話を聞いてもらってなるべく発散していますが、そんなふうに人と関わることっていいなと感じています。

―今年で30代も折り返しに入りますが、今後のためにいまから準備していることはありますか?

長澤さん あまり先のことを考えてはいないですが、カラダは大事にしたいので、最近はもっぱら健康管理にハマっています。というのも、20代のときはいらない気を張りすぎてすごく疲れていましたが、30代になって力を抜けるようになったおかげで昔よりもうまくカラダを使えるようになりました。30代のほうが体力もあるように感じるので、それを続けられるようにがんばって健康を維持したいです。

―では、これから挑戦したいことといえば?

長澤さん プライベートでは習い事をいっぱいしたいなと思っています。なかでも、趣味として楽器を習いたいと考えているのですが、候補がいくつかあるのでいま精査しているところです。仕事では、今回久しぶりに松尾さんと仕事ができたので、また一緒に舞台をしたいですね。

―ananweb読者の女性たちは、長澤さんのような女性になりたいと憧れている方も多いので、ぜひアドバイスがあればお願いします。

長澤さん 私でいいのでしょうか(笑)。でも、言えることがあるとすれば、悩むのもすごく大事だということですね。ただ、悩んでいる間に立ち止まってしまうと後から何もなくなってしまうこともあるので、悩みながらも何かに一生懸命がんばっておくのは大切かもしれません。それが仕事であったり、家族との関係であったり、人によっていろいろだと思いますが、打ち込めるものを持っていたほうがいいというのは伝えたいです。

インタビューを終えてみて…。

とにかく自然体で、いるだけでその場を明るくしてしまう長澤さん。素敵な笑顔には釘付けになりましたが、その裏にはいろんな思いがあったことを知って驚かされました。とはいえ、そういった部分も隠さないところが人として魅力的な部分。そして、共感を呼ぶところでもあると感じました。ぜひ、本作では長澤さんのコメディセンスと身体能力の高さを堪能してください。

予測不能な笑いの波が押し寄せる!

松尾スズキさんにしか描けない独特すぎる世界観と、ほかの作品では決して見ることができない女優たちの姿が病みつきになるコントシリーズ。一度踏み込んだら最後、余計なことを考える間もない至極の30分強に誰もが虜になってしまうはずです。


写真・幸喜ひかり(長澤まさみ) 取材、文・志村昌美
スタイリスト・影山蓉子(eight peace) ヘアメイク・スズキミナコ
ニットトップ ¥232,100、スカート ¥214,500、(以上メゾン マルジェラ/マルジェラ ジャパン クライアントサービス 0120-934-779)

ストーリー

「バラエティ番組のコントじゃない、作品としてのコントが作りたい」との想いから、脚本・演出・出演を務める松尾スズキが女優と組んで繰り広げるオムニバスコントドラマ。第1弾には吉田羊、多部未華子、麻生久美子、黒木華、第2弾には生田絵梨花、松本穂香、松雪泰子、天海祐希が出演した。そして、第3弾となる最新シリーズは、30分から30分強に延長し、松たか子と長澤まさみの2人が登場する。

思わず笑ってしまう予告編はこちら!

作品情報

『松尾スズキと30分強の女優』
3月25日(土)より放送スタート
午後9:30~ 「松たか子の乱」
午後10:15~「長澤まさみの乱」
[WOWOWプライム] [WOWOWオンデマンド]
※WOWOWオンデマンドでは無料トライアル実施中
https://www.wowow.co.jp/drama/original/matsuo3/