志村 昌美

鳥肌級の恐怖!「話題の“Kゾンビ”誕生秘話」生みの親ヨン・サンホが明かす本音とは

2023.2.9
近年、K-POPや韓流ドラマをはじめとする韓国のエンタメが世界中を席巻していますが、そのほかにも関心が高まっているものと言えば、韓国映画が生んだ「Kゾンビ」。スピーディかつアクロバティックな動きで、徐々にファンを増やしています。そんななか、今回ご紹介するのは、“Kゾンビの最先端”が堪能できる注目作です。

『呪呪呪/死者をあやつるもの』

【映画、ときどき私】 vol. 553

ある日、閑静な住宅街で凄惨な殺人事件が発生。被害者のそばには容疑者らしき死体も横たわっていたが、その死体は死後3か月が経過していた。チョン刑事率いる捜査隊が怪事件を追うこととなるが、事態はますます混迷を極めていく。

事件の真相を暴くために動き始めたのは、ジャーナリストのイム・ジニ。調べを進めていくなかで、背後にとある企業の陰謀が関係していることを突き止める。ところが、強大な呪いによって蘇った“ジェチャウィ(在此矣)”という名のゾンビ集団が「3つの殺人」を果たすために、襲いかかってくるのだった。そこで、ジニは旧知の呪術師ソジンとともに、呪術でゾンビと彼らをあやつる黒幕に立ち向かうことに……。

呪術とKゾンビをかけあわせ、“ハイブリッドホラー”と称されて話題を呼んでいる本作。今回は、その生みの親であるこちらの方にお話をうかがってきました。

ヨン・サンホさん

本作の原作と脚本を務めたのは、アニメ監督としても映画監督としても高く評価されているヨン・サンホさん。自身の代表作でもある『新感染』シリーズで、Kゾンビの人気を世界的なものにしたことでも知られています。そこで、物語が誕生した裏側やKゾンビの今後、そして日本から影響を受けていることなどについて語っていただきました。

―本作はドラマ『謗法 ~運命を変える方法~』のスピンオフとなりますが、ドラマと同様に原作と脚本のみを担当されています。ご自身で監督をしようとは思わなかったですか?

ヨン・サンホさん もともとこのシリーズに関わったのは、スタジオドラゴンから「ドラマを作る気はありませんか?」という提案を受けたのがきっかけでした。ただ、当時はちょうど自分が監督を務める『新感染 ファイナル・エクスプレス』の準備を進めていたとき。そういった理由から、ドラマまで演出をするのは難しいと伝えたところ、脚本だけでもいいと言っていただいたので受けることにしました。

そして今回、ドラマから派生した映画が作られることになったときに、監督として適任だと思ったのはキム・ヨンワン監督。ドラマシリーズも手掛けてきた彼のほうが、俳優についても本作の世界観についても一番わかっているので、お任せすることにしました。

ジェチャウィもキョンシーのようになってほしい

―劇中に登場する“ジェチャウィ(在此矣)”は、これまでのゾンビとは動きやビジュアルなど一線を画する部分が多いように感じました。キャラクターを作り上げるうえで意識したことは? 

ヨン・サンホさん ドラマを作る際にも、韓国のいろんな地域に昔からある伝説や妖怪に関する話について書かれている本を調べました。日本にはそういった本がたくさんありますが、韓国にはさほどありません。そのため、まずは本や資料を集めるのに苦労しました。そんななかで見つけたのが、本作に登場するジェチャウィ。死人をよみがえらせるという部分がすごく興味深いと思いました。

―ジェチャウィを具現化するうえでは、中国の死体妖怪であるキョンシーを思い浮かべていたとか。

ヨン・サンホさん 僕は子どものころから香港映画のキョンシーが好きで、いつも楽しく観ていました。特に、カンフーとキョンシーを結合させて、非常に高いエンターテインメント性を生んでいるところがすごいですよね。

あと、死体が呪術によって操られているのも面白いところですが、そこもジェチャウィと似ていると感じました。そんなふうに、ジェチャウィとキョンシーは共通点もたくさんあるので、できればジェチャウィもキョンシーのように一つのジャンルになってくれたらいいなと願っています。そういう意味でも、本作では犯罪モノというよりも、超常現象的なものが加わったある種のオカルトスリラーのような作品を目指しました。

ゾンビのなかに、人間の姿をいかに入れるかがカギ

―監督された『新感染』シリーズが世界的にヒットしたこともあり、Kゾンビの人気もますます高まっています。ご自身がゾンビを描くうえで、こだわっていることがあれば、教えてください。 

ヨン・サンホさん ゾンビにはいろんな形態がありますが、いま例に挙げてくださった『新感染』シリーズを作っていたときは、ジョージ・A・ロメロ監督のようなかつての古典的なゾンビを思い描いていました。ただ、そのときに意識していたのは、ゾンビ映画というよりも、誰もが想像しなかった災難が突如起きたらどうなるかという点。そういった感覚で作っていたので、僕としては困難のなかで人々が必死に生き残ろうとする姿を映し出した作品として捉えています。

というのも、ゾンビ映画というのはどうしてもマイナーなものになりがちですからね。そのなかで一般の方々にも共感していただき、より多くの人たちに興味を持って楽しんでもらえるには人々の生き延びたいという思いを描くのがいいではないかと考えています。その結果、僕のゾンビ映画では人間による生存記のなかに、アクションも加えるようになりました。

―なるほど。いまやKゾンビを牽引する存在としても注目を集めていますが、今後のKゾンビをどのようにしていきたいとお考えですか?

ヨン・サンホさん 僕は、ゾンビ映画の持つ魅力というのは非常に幅広いと思っています。なぜなら、本作のように呪いや啓示のような要素を描いていたとしても、そこに観る人たちの共感を得られる要素を同時に入れることも可能だからです。これから先も多くの人たちに愛される映画を作るためには、ゾンビのなかに現実を生きている人間の姿をいかに盛り込むことができるかがカギになると考えています。

日本からは多くの影響を受けている

―本作に日本に関する描写も盛り込まれていますが、日本に対してはどのような印象をお持ちでしょうか。

ヨン・サンホさん 僕自身は、子どものころから日本のアニメや漫画、映画とともに育ってきた世代なので、日本からは多くの影響を受けています。そんななか、以前から日本と韓国には似ている文化があると感じていました。もちろんその反面、全然違うところもたくさんありますが、そういったところも含めて興味深いと思っています。

ドラマシリーズには、日本の呪術師も登場しますが、同じ呪術でもお祓いの仕方など、異なるところも多いので、そのあたりも面白いところですよね。中島哲也監督の『来る』という作品を観たことがありますが、日本の霊媒師たちに混ざって韓国の呪術師もお祓いの儀式に参加しているシーンは特に興味深いなと。こういう形で文化交流をすることもできるんだなと改めて感じました。

―そのほかにも、いま注目している日本のクリエイターや俳優はいますか?

ヨン・サンホさん 僕が最近ファンになったのは、片山慎三監督。彼の手掛けたドラマ『さまよう刃』や映画『さがす』はとてもよかったです。そして、新たにドラマ『ガンニバル』もあると聞いているのですごく期待しています。主演が柳楽優弥さんというあたりも楽しみですね。

あと、日本の俳優さんでいいなと思っているのは、小栗旬さんや菅田将暉さん。それから松たか子さんと蒼井優さんも以前から好きです。

活躍する女性たちの姿と友情を感じてほしい

―また、現在は日本の漫画である『寄生獣』を原作とした作品の映像化も控えているということで、日本の観客も楽しみにしているところかと思います。

ヨン・サンホさん 僕は日本の漫画をたくさん読んできたので、端的に言えば大ファン。なので、自分が大好きな日本の漫画をもとにした映画を自分の方式で作れることに関しては、とてもうれしくて、気分が高まっています。楽しみながら仕事ができているので、これから先も自分が好きな漫画を何らかの形で映像化できる機会がたくさんあるといいなと願っているところです。

―それでは最後に、ananwebの女性読者たちに本作を楽しむポイントを教えてください。

ヨン・サンホさん かつての韓国映画では、アクションの要素があるような作品では男性が主人公となるケースが多かったかもしれませんが、本作に関して言えば、メインとなるキャラクターは女性。ジニとソジンという2人の女性が犯罪を解決していく様子も見られますし、彼女たちの友情も感じていただける作品となっています。そのあたりも含めて、ぜひ楽しんでいただきたいです。

衝撃もゾンビも駆け抜ける!

さらなる進化を遂げたKゾンビと唯一無二のストーリーで、観る者を釘付けにする本作。見たこともないゾンビによる圧巻のアクションはもちろん、90%以上を実際に撮影しているという迫力のカーチェイスシーンもスクリーンで体感したい1本です。


取材、文・志村昌美

引き込まれる予告編はこちら!

作品情報

『呪呪呪/死者をあやつるもの』
2月10日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
https://happinet-phantom.com/jujuju/
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