田代 わこ

わいせつ画と批判され…才能に恵まれすぎた画家、シーレの刺激的な展覧会

2023.2.23
上野の東京都美術館で、『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』が開かれています。19世紀末のウィーンを代表する画家、エゴン・シーレ(1890-1918)。28歳で亡くなった画家の貴重な作品が、ウィーンの美術館から多数来日しています。本展の見どころや画家の生涯について、ご紹介します!

ウィーンから名画が来日!

エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》1912年 レオポルド美術館蔵

【女子的アートナビ】vol. 279

本展では、ウィーンのレオポルト美術館が所蔵する作品を中心に、シーレの油彩画やドローイングなどを多数展示。さらに、クリムトやココシュカなど同時代の画家たちの作品もあわせ、約120点の作品が紹介されています。

ウィーンの中心地にあるレオポルト美術館は、ウィーン世紀末コレクションを中心に、オーストリアの美術作品約6000点を所蔵。なかでも、シーレ作品は約220点も収集し、「エゴン・シーレの殿堂」として知られています。

そんな美術館から来日したシーレ作品を、本展では間近でたっぷり楽しむことができます。

才能に恵まれすぎた天才画家!

『エゴン・シーレ展』会場風景

シーレが生まれたのは、オーストリアの古い町トゥルン。6歳ごろから絵の才能を発揮し、16歳のとき、学年最年少で名門のウィーン美術アカデミーに合格します。

しかし才能に恵まれすぎたシーレは、伝統的なカリキュラムや厳格な教師の指導に満足できず、最終的にはアカデミーを退学。当時、ウィーン画壇の中心的な存在だったクリムトに才能を認められていたため、仲間と「新芸術集団」をつくり、独自の表現を追求していきます。

会場では、シーレがアカデミー時代に描いた作品や、新しい表現を模索していく過程の作品も見ることができます。

自画像の意味は…

『エゴン・シーレ展』会場風景

本展では、シーレの自画像が大きな見どころのひとつになっています。メインビジュアルとして使われている《ほおずきの実のある自画像》も、シーレの代表作となっている作品です。

短い生涯で、約200点もの自画像を制作したシーレは、作品を描くことで自分のアイデンティティを探究し、自身の苦悩や葛藤も表現。特に裸体自画像では自分のカラダを徹底的にさらけ出し、挑発的で攻撃的にも思える視線をこちらに向けています。

エゴン・シーレ《吹き荒れる風の中の秋の木(冬の木)》1912年 レオポルド美術館蔵

また、シーレは風景画も多く描いていますが、こちらも単なる写生ではありません。

本展を担当された東京都美術館学芸員の小林明子さんによると、風景画にもシーレの内面や感情、そのときの心象が映し出され、象徴的な風景になっているそうです。

わいせつ画と批判され…

エゴン・シーレ《悲しみの女》1912年 レオポルド美術館蔵

若く才能あふれる画家は、性をテーマにした表現にも挑み、また制作スタイルも過激でした。先鋭的すぎて、批判されることもしばしば。戸外でヌードモデルを描き大問題となって街を追い出されたり、わいせつ画を制作して公にしたことで刑務所に留置されたりしたこともあります。

また私生活では、当時16歳だった女性ワリーと同棲。4年も一緒に暮らし、彼女の姿を描いていました。ワリーは、刑務所にいたシーレのことも献身的に支えていました。

本展で見られる《悲しみの女》もワリーがモデルです。

献身的な彼女を捨て…

エゴン・シーレ《縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ》1915年 レオポルド美術館蔵

刑務所から出た後、暮らしも困窮していたシーレですが、その後パトロンとなる支援者たちが表れて生活も一変。アトリエも構えて、創作活動も活発になります。

ところが、社会的に認められはじめたシーレは、自分の妻としてワリーはふさわしくないと判断。アトリエの向かいに住むブルジョア階級の娘と結婚してしまいます。

ただ、ワリーに対しても未練があったため「毎年休暇は一緒に過ごそう」と提案しますが、彼女から拒絶されました。その後、ワリーは従軍看護婦に志願し、1917年に病没します。

会場では、妻のエーディトを描いた作品も見ることができます。

28歳で生涯を閉じる

エゴン・シーレ《横たわる女》1917年 レオポルド美術館蔵

25歳で結婚したシーレは、第一次世界大戦に召集されますが、戦時下でも作品が発表され、国際的な評価も高まっていきます。

ウィーンに帰還した後も、素描集が出版されたり、展覧会で作品が多数売れたりと絶好調。また、私生活でも妻が妊娠し、幸せの頂点に立っていました。

ところが、1918年、流行していたスペイン風邪により妊娠6か月の妻が死去。その3日後に同じ病でシーレも亡くなりました。28年の生涯でした。

刺激的で心に刺さるアート

不安や恐れ、絶望などを描く表現主義的な手法で、多くの刺激的な絵画を残したシーレ。今の時代に見ても結構きわどい絵もありますが、画家の内面にあるものを赤裸々に出したアートは心に深く突き刺さります。

シーレの作品が日本に集まるのは約30年ぶり。しかも巡回展はありません。ぜひこの貴重な機会に、シーレ作品を間近でご覧になってみてください。

Information

会期    :~4月9日(日) ※日時指定予約が必要です
休室日   :月曜日
会場    :東京都美術館
開室時間  :9:30~17:30 ※金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料   :一般¥2,200、大学・専門学校生¥1,300、65歳以上 ¥1,500

展覧会公式HP: https://www.egonschiele2023.jp/