志村 昌美

岡本玲「高齢者の方々の性や孤独に関する事実を知り、打ちのめされました」

2023.2.3
日々さまざまなニュースが飛び交っていますが、まもなく公開される話題作『茶飲友達』で取り上げられているのは、高齢者の売春クラブを巡る事件。今回は、センセーショナルな題材としても注目を集めている本作で、主演を務めたこちらの方にお話を伺ってきました。

岡本玲さん

【映画、ときどき私】 vol. 552

高齢者専用の売春クラブで、リーダーを務めるマナを演じている岡本さん。今年でデビューから20年を迎えるなか、映画のみならずテレビや舞台でも幅広い活躍をみせています。そこで、現場の様子や自身を支えてくれる存在、そして30代に入って感じる心境の変化などについて語っていただきました。

―今回はワークショップオーディションから始まったということですが、参加しようと思ったのはなぜですか?

岡本さん 監督である外山(文治)さんの前作『ソワレ』がとても好きだったので、「外山さんが開かれるのであればぜひ」というのがきっかけです。もし、作品とご縁がなかったとしても、ワークショップでいい時間を過ごせたらいいなという思いで受けました。

―実際に体験されてみていかがでしたか?

岡本さん シニアも若者もごちゃまぜのグループで行われましたが、演技経験者も未経験者も関係なく、ぶつかり合うときは全員本気でした。ただ、2日目に行くのが嫌になるくらい、初日で自分自身とは何かを問われるようなワークショップだったと思います。

―行きたくなくなった理由は、自分自身と向き合うのがつらくなったからでしょうか。

岡本さん そうですね。私だけではなく、みなさんも実はうまく隠して生きている部分ってあると思うんです。でも、「作られたものではなくて、あなた自身を見たい」と言って諦めずに向き合おうとするのが外山さんですから。しかも、つねにニコニコしていて、相手をえぐってくる瞬間も楽しそう(笑)。ただ、そんな外山さんだからこそ「どんな自分を出しても面白がってくれるんじゃないか」と思えた部分はありました。

その後、この役を演じると決まってから、家族に対する私自身の価値観やいままでどう生きてきたかといったことを外山さんに話し、それを台本にも反映していただいています。なので、ワークショップから撮影までの1年間で、いまの自分を受け入れられるようにもなりました。

うがった見方をせずに、誠実に向き合おうと思った

―なるほど。本作で描かれている高齢者向け売春クラブは、実際にあった事件がもとになっていますが、この題材に関してはどのように感じましたか?

岡本さん 私はまったく知らなかったので、びっくりしました。特に、私はおじいちゃんとおばあちゃんと暮らして育ったので、その年代の方々に対しては「清廉潔白」というイメージを勝手に作り上げてしまっていたところがありましたから。それだけに、高齢者の方々の性や孤独に関する事実を知って、打ちのめされました。

―しかも、日本の映画では“高齢者の性はタブー”のようなところがあるので、そういう意味でも本作への出演は挑戦だったところもあったのではないかなと。

岡本さん 怖さとかよりも、この出来事とちゃんと向き合おうと思いました。うがった見方をしたり、ショッキングなものだからと面白がったりするのではなく、誠実に台本に取り組みたいという気持ちが強かったです。

―過去のインタビューでは、「どんな役でも自分とかけ離れてると思うことはなく、共感しないと演じられない」とお話されていますが、マナにも共感されましたか?

岡本さん 今回は、逆に近すぎてどう演じたらいいんだろうと感じたほどです。マナは多面性のある女性ですが、わざと作っているわけではなく、彼女なりの愛情や相手にハッピーになってほしいという思いで過ごしているうちにそうなってしまっただけ。隠してはいましたが、私にもそういう部分があるので、そこは似ているのかもしれません。だからこそ、マナを演じることで救われたというか、そういう自分も怖くなくなりました。

―つまり、そのままの自分でいいんだと。

岡本さん はい、自分で自分を認めるという感覚ですね。人に心を開くことも面白いと思えるようになったので、この役に出会えてよかったです。

孤独も悪くないと感じているところもある

―この役に限らず、岡本さんは「寂しい」という感情がつねに役作りの根本にあるとか。子どもの頃から抱いているという寂しさの原因はこの作品で追求できましたか?

岡本さん そうですね。やっぱり誰もが愛されたいですし、離れていても誰かの記憶の一部になっていたいという気持ちがあると思いますが、そういうものが子ども時代からずっと残っていたんだなと感じました。いまは、そういう自分を受け入れたうえで、どうやって周りの人たちを愛する方向に気持ちを変えていけるか。それによって、自分が成長できるんじゃないかなと考えています。

―そして、本作では若者にも高齢者にも共通するテーマとして描かれているのが孤独について。岡本さんも孤独を感じて悩んだり、落ち込んだりした経験はありますか?

岡本さん それもありますね。というか、孤独を感じたことない人なんていないんじゃないですか? 仕事でもプライベートでも、切っても切れないものだと思っています。でも、だからこそいま言えるのは、逃げずに向き合ってきてよかったなということです。

孤独って得体の知れないもので、そのときによって色も温度も違いますが、それを自分がどうやって手のひらで転がしていけるかというのが大きいのかなと。そういう楽しみ方ができるようになれば、人としても役者としても豊かになれるんじゃないかなと最近思えるようになりました。孤独も悪くないかもしれないと感じているところもあります。

―そう思えるようになったのは、どうしてですか?

岡本さん 年齢を重ねてきたこともありますが、もしかしたらこの職業特有なものかもしれません。というのも、孤独ではない役というのがあまりないので、お芝居を通していろんな孤独を味わっているんですよね。だから、「このタイプの孤独は経験したことがある」と感じて戸惑わなくなったのかなと。

しかも、私の場合は自分の孤独もお芝居として消化できるので、それが孤独を楽しめるようになった要因だと思います。今回演じたマナも、自分のコンプレックスや孤独と向き合うきっかけをくれたので、そういう意味でも出会えてよかったです。

昔は疑ったり、不安になったりすることも多かった

―本作の現場ではシニアの方々がたくさん参加されていますが、人生の先輩から学んだこともありましたか?

岡本さん みなさんリハーサルでも本番でも同じお芝居をされないんですけど、それをすごく楽しんでいらっしゃるところがいいなと。すごくキラキラしていましたし、「楽しいというエネルギーに勝るものはない」と感じました。

というか、みなさん信じられないくらい本当に元気なんです! でも、たくさんつらい経験をされている方もいらっしゃって、それもエネルギーに変えて乗り越えてきた方たちなのでかっこいいと思いました。佇まいにも表れるものなので、そういうところが素敵ですよね。

―確かにそうですね。本作に登場する人たちを見ていて、「正しいことだけが幸せではないのではないか」とも考えさせられましたが、いまの岡本さんにとって幸せな瞬間といえば?

岡本さん えー、何だろう。おいしいものを食べている瞬間とか、飼っている2匹の猫たちとベッドで寝ているときですかね(笑)。

あとは、『茶飲友達』で出会った役者さんやスタッフさんたちと会っているときです。実は、いまでもすごく仲がよくて、しょっちゅうみんなで集まるんですけど、シーンとする瞬間があっても苦痛じゃない関係になれたのがいいなと思います。

―まさに劇中でも描かれている“ファミリー”のような絆が生まれているんですね。

岡本さん そう思えるような人たちと出会えたので、若いときの自分に「大丈夫だよ。そのままのあなたでいていいんだよ」と言いたいくらい幸せを感じています。

―昔はそう思えない時期もあったということですか?

岡本さん 若い頃って疑い深かったり、他人と意見が違うだけで怖くなったり、自分から孤独になりがちだったり、みたいなことがあってよく不安に陥っていました。

―そういう経験を乗り越えてきたからこそ、いまの喜びをより強く感じられているのですね。

岡本さん そうですね。コロナ禍を経たこともありますけど、友達と笑い合ったり、お酒を飲みに行ったりできることとかも、当たり前じゃないんだなと思うようになりました。

20年続けてこれた秘訣は、自分のしぶとさ

―では、そんな岡本さんのモチベーションを支えているものは何ですか?

岡本さん それは、やっぱり猫ですね。猫バカなので(笑)。小学6年生からお仕事を始めて、高校で上京してきたのですが、真面目すぎたので、東京はずっと戦いの場だと考えて自分を追い詰めていました。でも、一人暮らしを10年したあとに猫を飼い始めてから、オンオフの切り替えができるようになりましたし、もっと気楽でいいんだと思えるようになったんです。

おかげで最近は「表情が柔らかくなったね」と言われますし、仕事でもいい意味で肩の力を抜けているような気がしています。「大好きだよ」とか「かわいいね」と口に出して言うことが恥ずかしくなくなったのもあって、素直な感情を出せるようにもなったのかなと。昔はもっとつっぱっていたんだと思いますが、無償の愛を注ぐことができる存在がいるってすごいですね。

―いろんな思いを抱えながらやって来たとは思いますが、ついに今年で仕事を始めて20年です。ここまで続けてこれた秘訣について、ご自身ではどう思われていますか?

岡本さん 私の場合は、「しぶとさ」ですかね。子どものときから、わからないものに対しての探求心がすごく強くて、できないならなぜできないのかというのを突き詰めるのが大好きでした。構造を理解すると飽きちゃうこともあったんですが、お芝居は深すぎてまだまだ理解不能。それがいまでも続けている理由の一つだと思います。

あとは、こんな無茶苦茶な私でも、ずっと応援してくださる方がいること。そういう方々がいてくれるというのは、本当にありがたいことだなと改めて感じています。

私もみなさんと同じように結婚や仕事に悩んでいる

―岡本さんは10代のときから早く30歳になりたかったそうですが、実際になってみて?

岡本さん 超楽しいです! 理想通りではないですし、波もありますけど、「本当に楽しい」と即答できるくらい自分らしくいられています。そう思えるのは多様性の時代になってきたのもあるかもしれませんが、10代や20代の頃は自分をカテゴライズして安心させようとしていたのがいまはカテゴライズしなくていいやと考えるようになったからですね。たとえ認められなくても、「私は私でいいんだな」と。おかげですごく自由だと感じています。

―ちなみに、30代にしたいことやいますでにハマっていることはありますか?

岡本さん ハンドメイドやDIYが好きなので、携帯から離れて趣味の時間をちゃんと楽しみたいなと考えるようになりました。昔だったら、趣味さえも仕事につながるかどうか、ということに重きを置きがちでしたが、いまは自分が楽しんでさえいれば、それが違う形で実を結ぶような気がしています。

最近はYouTubeを見ながらテーブルの板を作りましたが、今後は1年くらいかけて本格的な引き出し付きのデスクとかを作れたらいいなと。いまは余計なことは考えずに、自分の時間を純粋に楽しみたいです。

―大事なことですね。それでは最後に、岡本さんと同世代のananweb読者にメッセージをお願いします。

岡本さん 結婚の適齢期だとか、仕事がどうだとか、周りから何だかんだ言われるので、私もみなさんと同じことに悩んでいるところです。実際、30代の女性が読むような記事を読んでは泣いたり、元気や勇気をもらったりして過ごしていますから。なので、「みなさんも1人じゃないよ」というのは伝えたいですね。もし街で私を見かけたら、ぜひ声かけてください。相談にも乗りますので(笑)。みんなで一緒に悩んで、乗り越えていきましょう。

インタビューを終えてみて……。

子どもの頃から見ていたこともあり、もう30歳というのに驚かされましたが、かわいらしい笑顔は昔のままに、内面は芯のある素敵な大人の女性になっている岡本さん。劇中では、さまざまな表情を繊細に表現し、観る者を釘付けにするような素晴らしい演技を見せているので、ぜひ注目してください。

厳しい現実でどう生きるかを考える

現代社会が抱える闇をあぶり出すだけでなく、閉塞感が蔓延する時代に誰もが感じている孤独に切り込んでいる本作。幸せとは何か、正義とは何なのか、正解のない問いと向き合うなかで、自分の生き方や未来について考えずにはいられない必見作です。


写真・山本嵩(岡本玲) 取材、文・志村昌美
スタイリスト・森宗大輔 ヘアメイク・SHIZUE
トップス¥38,000、ロングジレ¥77,000、スカート¥38,500/EZUMi(Ri Design.Ltd 03-6447-1264)、ネックレス(上)¥63,000、ネックレス(中)¥45,000、ネックレス(下)¥27,000、リング(右手)¥21,000、リング(左手)¥23,000、イヤカフ(右耳)¥13,000/ReFaire、イヤカフ(左耳)¥9,000/warmth (全てwarmthルミネ新宿店 03-6304-5994)

ストーリー

ある日、妻に先立たれて孤独に暮らす男がふと目にしたのは、新聞の三行広告に小さく書かれた「茶飲友達、募集」の文字。その正体は、佐々木マナをリーダーとする若者たちが運営している高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」だった。

彼らのもとに在籍しているのは、「ティー・ガールズ」と名付けられた65歳以上の女性たち。海千山千のティー・ガールたちをさまざまな事情を抱えた男性たちが買い、マナたちはホテルへの送迎と集金を繰り返していた。孤独を抱える若者と高齢者たちはお互いを“ファミリー”と呼び、大事な存在となっていく。そんななか、高齢者施設に住む老人から救いを求める電話が入るのだった……。

胸がざわつく予告編はこちら!

作品情報

『茶飲友達』
2月4日(金)より、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
配給:EACHTIME
http://teafriend.jp/
©2022茶飲友達フィルムパートナーズ