志村 昌美

『東京リベンジャーズ』の堀家一希、母親役のガウに「仲良くなれないと思った」と言われた理由

2023.1.12
2022年に大阪アジアン映画祭で「来るべき才能賞」を受賞したのをはじめ、韓国やアメリカなど海外の映画祭でも注目を集めている話題作『世界は僕らに気づかない』。いよいよ日本での劇場公開を迎えます。そこで、こちらの方々にお話をうかがってきました。

堀家一希さん & ガウさん

【映画、ときどき私】 vol. 549

異なる文化を持つフィリピン人の母親と高校生の息子を描いた本作で、主人公の純悟を演じたのは、『東京リベンジャーズ』のパーちん役などで知られる堀家さん。そして、タレントとしても活躍しているガウさんは、フィリピンパブに勤める母親のレイナを演じています。今回は、現場の裏話や作品を通して気づいた愛の在り方などについて、おふたりに語っていただきました。

―堀家さんは映画初主演となりましたが、フィリピンと日本のハーフというだけでなく、母子家庭でゲイでもあるという複雑なバックグラウンドを持つ役で、難しさを感じた部分もあったのではないでしょうか。

堀家さん それは、かなりありました。最後までずっとプレッシャーを感じていたので、「明日のシーンはどうしようか、こうしようか」みたいなことを毎日繰り返しながら、ようやく終わったという感じです。そんななかでも監督や当事者の方と話したり、本を読んで勉強したりというのを積み重ねながら何とか作品として成立するところまでいくことができました。

―役作りのために、撮影で使っていた家に1か月間寝泊まりしていたそうですね。

堀家さん ドアの位置に慣れていないとか、そういう細かいところが役に影響してしまうと思ったので、部屋の感じをつかむためにも撮影期間中は住むことにしました。それも役を演じるうえでは、助けになったと思います。

役作りのために、あえて距離を取っていたこともあった

―ガウさんは本格的な演技に初挑戦ということですが、初めてにしては非常に難しい役どころだったのではないかなと。オファーがあったときは、いかがでしたか?

ガウさん 実は、最初にお話をいただいたときは、「私ではなくてフィリピンの方を紹介しますよ」とお答えしました。というのも、私はスコットランドとフィリピンのハーフなので、役に説得力がなくなって作品全体が嘘っぽく見えてしまったら嫌だと思ったからです。

でも、脚本はすごく面白かったですし、私のお母さん世代が日本に来たときに味わってきたようなことも描かれていると思ったら、自分で演じてみたいなと。監督からも「ガウさんでお願いしたい」と言っていただいていたので、自分の愛する母国であるフィリピンの人たちの声を伝えられるように、レイナに魂を込めて演じることを決めました。

―現場では堀家さんがあえてガウさんと距離を取って役作りをしていたそうですが、ご自身も何か意識されていたことはありましたか?

ガウさん 純悟が堀家くんじゃなかったらあんなふうにレイナを演じられなかったと思うほど、今回は堀家くんに引き出してもらった感じでした。私は実生活でお母さんになったことはありませんが、堀家くんが息子としての思いをぶつけてくれたので、息子への接し方や子どもを愛おしく思う母性を理解することができました。

でも、最初は「堀家くん、すっごい冷たいじゃないの!」って思っていたんですよ(笑)。私はいつも番組とかで共演すると、みなさんとプライベートトークをしますが、それが全然できなかったので……。正直に言うと、「これから1か月以上、この人とどうしよう」と悩んでいました。

堀家さん 確かに、嫌でしたよね(笑)。

ガウさん 特に、堀家くんは周りが心配するくらい役に入り込んじゃうタイプですから。でも、いま振り返ると、最初からそうしてくれたからこそ、途中で変な照れが出ることもなかったですし、思いっきり向き合えたんじゃないかなと。なので、最後にわかりあえた瞬間は、心の底からよかったなと思えました。

最後には、本当のお母さんのような素直な気持ちになれた

―ガウさんと距離を取ったのは、監督からのアドバイスだったのでしょうか。

堀家さん 実は、監督は仲良くしてほしかったみたいです……。でも、僕自身にとっては純悟として1か月間生きていくなかで、僕たちのコミュニケーションは邪魔になってしまうんじゃないかなと思ったので、排除しようと決めました。「邪魔」とか言ってすみません! そういう意味じゃないですよ(笑)。

ガウさん すごくわかるから大丈夫だよ。でもね、最初は絶対に仲良くなれないと感じていましたし、「もうカットかかっているんだから、元に戻ってよ!」って思っていました(笑)。

堀家さん あの、これって褒めてくれているんですよね?

ガウさん めちゃめちゃ褒めてるよ! 堀家くんに甘えがないからこそ現場の空気もガラッと変わりましたし、そういうところもスクリーンを通してみなさんに伝わると思います。堀家くんは、古き良きタイプというか、ストイックで“昭和の俳優”という感じがしました。

―堀家さんは子どもの頃はお笑い芸人になりたかったそうなので、人を笑わせたい気持ちをこの現場では封印していたのでは?

堀家さん そうですね。人と話すのは大好きですし、普段は「これを言ったら面白いかな」みたいなことをいつも頭のなかで考えているほうです。でも、今回はそれも全部消していました。

ガウさん 本当に、かなり近寄りがたかったんですよ。

堀家さん いまになって、すごい言うじゃないですか(笑)。

ガウさん だって、みんなでワイワイしていたときも、別の部屋で1人だけ暗い感じだったでしょ? こんなにコミカルな部分があることは、最近になって知りました。でも、ラストシーンでカットがかかった瞬間、「イエーイ!」と言ってハグしてくれたのは印象的でしたね。いきなりだったので、私のほうが逆にオドオドしちゃいましたが(笑)。

堀家さん あはははは! そうなりますよね。

ガウさん ただ、私のことを認めてくれたんだなと思ったら、「心を開いてくれてありがとう!」って本当にお母さんのような気持ちで素直に受け入れることができました。

愛にはいろんなカタチがあると改めて気づいた

―この作品ではさまざまな愛のカタチも描かれていますが、この作品と出会ったことで、愛に対する見方に変化はありましたか? 

堀家さん 自分のなかにある愛というよりは、周りからの愛に気がつくことができました。「自分の両親がしていたあの行動は、僕を愛してくれていたからなんだな」とか、いままで関わってきた人たちとの間にある根本的な部分について理解することができるようになったと思います。

―結婚を決意するレイナと同じく、ガウさんも1年半ほど前にご結婚されたばかりなので、共感するところもあったのでは?

ガウさん それはありましたね。撮影していたときはちょうど結婚式の前でしたし、現場のことをいろいろと聞いてくれたのも彼だったので。そんなふうに、静かに見守ってくれる愛に助けられた部分は大きかったです。今回の作品で、愛にはいろんなカタチがあると改めて感じました。

純悟みたいにまだ愛が何かわからない年齢の子にとって、愛は重たくてうっとうしいものかもしれません。でも、どう表現していいかわからないだけで彼にも彼なりの愛はあるんですよね。だから、相手が自分を突っぱねてしまったとしても、それだけで「アイツはかわいくない」と思うのは違うなと。誰もが日々いろんな戦いをしているので、愛に対して決めつけるのはよくないと知りました。

人間の根本に愛があることは変わらないと感じた

―なるほど。また、本作ではいくつかのマイノリティについても描かれていますが、演じてみて気づいたことがあればお聞かせください。

堀家さん この問題も、非常に難しいことだと改めて痛感しました。特に、僕は当事者ではないので、いくら掘り下げてもその方々が経験している感情には絶対たどり着くことはできませんから。でも、結局は同じ人間で、根本に愛があることは変わらないというふうに思っています。

ガウさん 友達にマイノリティの問題を抱えている人がいると、私たちはつい「わかっているよ」と言いがちですが、わかっているつもりでいちゃいけないんだなと強く感じました。なぜなら、みんなが本音を言っているわけではなく、心の奥では違う思いを抱えていることもあるからです。『世界は僕らに気づかない』というタイトルの通り、みんなが気づくのは難しいかもしれませんが、大事なのは知っている振りをしないこと。それがこの映画においても大切なメッセージだと思いました。

―確かにそうですね。2022年はおふたりとも新しいことに挑戦した1年だったと思いますが、今年はどんなことをしたいですか?

堀家さん 海外旅行をたくさんしたいですね。あとは、車の免許を取りたいです! 原付で日本横断みたいなのもいいかなと。一緒に行きます?

ガウさん 楽しそうだけど、いまは親子みたいな関係だから「モタモタするなよ、置いていくぞ!」とか怒られそうじゃない?

堀家さん それは純悟の話ですよね。僕の印象ってどうなっちゃってるんですか(笑)。

ガウさん あはははは! でも、『東京リベンジャーズ』のイメージもあるからバイクを乗り回しているのかと思ったら、まさかの自転車派だったとは。

堀家さん 高校生のときなんて、学校まで毎日往復17キロを自転車で通ってましたよ。しかも、放課後はサッカーもしていました。

ガウさん すごいね! 現場では、こういう話が全然できなかったので貴重です。

堀家さん (笑)。

日本とフィリピンの架け橋になっていきたい

―ちなみに、いまだから聞いてみたいことはありますか?

ガウさん 役作りの話に戻りますが、入り込んでいるときって、自分に戻る瞬間ってあるの?

堀家さん みんなから入り込んでいるって言われて恥ずかしかったんですけど、そもそも僕は入り込んでいないんですよ! 

ガウさん そうだったの!?

堀家さん ただ、台本はずっと離さないまま「純悟だったらどう感じるかな」とか「純悟だったどう行動するかな」ということはつねに考えていました。入り込むというよりも、洗脳させている感じだったと思います。

ガウさん なるほど。それが全部終わった次の日、最初に何をしたの?

堀家さん ラーメンを食べに行きました(笑)。撮影中も行ってましたが、やっとラーメンのことだけを考えて食べることができたという感じでしたね。

―では、ガウさんはいましたいことはありますか?

ガウさん 私はこの映画をきっかけに、日本とフィリピンの架け橋になりたいなと思っています。お互いの国のいいところをもっと知ってもらい、つなげていけたらいいなと。プライベートでは、キックボクシングでフィジカルの面をもっと整えていきたいです。たまに、「試合にも出てみたら?」と言われることもあるんですけど、痛いと泣いちゃうし、そこまでの根性はないですね(笑)。

自分自身と照らし合わせながら観てほしい

―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。

堀家さん 僕自身の内面を使って演じたような役どころだったので、そういう意味では僕自身を一番知っていただけるような作品だと思っています。といっても、純粋な思いをシンプルに出しているということであって、普段からあんなに怒っているわけではありません(笑)。

この映画には、誰にでも当てはまる愛のカタチがどこかにありますし、「どうしてお母さんにあんなこと言っちゃったんだろう」とか、自分の過去を解決してくれる点も散らばめられているはずです。そういうところも含めて、ご自身と照らし合わせながら観ていただけたらいいなと思っています。

ガウさん いまはSNSがすごく盛んになっているので、世界の誰かに気づかれたいという願望のなかで毎日を過ごしている方は多いと感じています。実際、私自身もフォロワーが増えたり減ったりすることに影響されてしまいがちですから。でも、いまはなるべくそういうことに気持ちが左右されないように心がけています。

それに「誰かのようになりたい」とか、「人にウケるからやってみよう」ということばかりに気を取られていると、あとになって「あれは自分じゃなかったな」と思うときが来ることもあるかもしれません。そうならないためにも、まずは自分を忘れずに、自分ありきで行動をしたうえで、世界に気がついてもらえたらいいんじゃないかなと思っています。

インタビューを終えてみて……。

現場で話していなかったのが嘘のように、絶妙なやりとりを繰り広げていた堀家さんとガウさん。本物の親子さながらの激しいぶつかり合いは、カメラの裏でそれぞれの苦労があったからこそ生まれたものだったのだと納得しました。ぜひ、そんなおふたりの熱演ぶりにも注目してください。

自分にとっての愛とは何かに気づかされる

多様性が叫ばれているいまなお、無くならない差別のなかで生きづらさを抱えながらも必死で生きようとする母と息子の姿を描いた本作。胸を締め付けるような葛藤とともに、愛の持つ圧倒的な力強さに心が震えるのを感じるはずです。


写真・安田光優(堀家一希、ガウ) 取材、文・志村昌美

ストーリー

フィリピンパブに勤めるフィリピン人の母親レイナと2人で暮らしている高校生の純悟。父親のことは何も聞かされておらず、毎月振り込まれる養育費だけが父親との唯一のつながりだった。純悟には同級生の恋人・優助がいたが、パートナーシップを結ぶことを望まれても、自分の生い立ちが引け目となり、決断できないまま苛立ちを抱えてしまう。

そんなある日、レイナが再婚したいと言って恋人を家に突然連れて来る。見知らぬ男と一緒に暮らすことを嫌がった純悟は、実の父親を探そうとするのだが……。

引き込まれる予告編はこちら!

作品情報

『世界は僕らに気づかない』
1 月 13 日(金) 新宿シネマカリテ、Bunkamura ル・シネマほか全国公開
配給:Atemo
https://sekaboku.lespros.co.jp/
©「世界は僕らに気づかない」製作委員会