志村 昌美

注目の若手俳優・杉田雷麟「オーディション合格後に主演と知りました (笑) 」

2022.4.21
映画には、知られざる真実や忘れられた過去にも光を当てる力がありますが、注目作『山歌(サンカ)』では、かつて日本の山々に実在していた「サンカ」と呼ばれる流浪の民の姿を描いています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

杉田雷麟さん

【映画、ときどき私】 vol. 475

本作で、主演に抜擢されたのは、『半世界』や『罪の声』『孤狼の血 LEVEL2』といった話題作への出演が続いている若手実力派俳優の杉田雷麟(らいる)さん。劇中では、生きづらさを抱えていた中学生の則夫が山でサンカの家族と出会い、さまざまな経験を通して変化していくさまを見事に演じています。今回は、初主演作への思いや今後挑戦してみたいことなどについて、語っていただきました。

―まずは、初主演が決まったときのお気持ちからお聞かせください。

杉田さん オーディション用の脚本では、ラストの父親と対峙する場面しか描かれていなかったので、そのときはまだ自分の役や内容についてあまりわかっていませんでした。実は、主演であることも受かってから知り、「え⁉ 主演?」となったほどなので(笑)。

―かなり驚いたと思いますが、同時にプレッシャーも感じたのではないかなと。

杉田さん 確かに、初めは主演ということに気負ってしまったところもありました。でも、本読みを進めていくうちにだんだん緊張がほぐれていき、則夫が自分の体のなかに染み込んでいった感じです。サンカについても、監督が僕の疑問点についてきちんと説明してくださったおかげで現場にはすごくいい状態で入れました。

―笹谷遼平監督は杉田さんの影の部分に惹かれたとおっしゃっていますが、何か意識されていますか?

杉田さん オーディションに行くときは、毎回「絶対にこの役を獲るぞ」という感じで気合いを入れて行きますが、重めの役が続いていたときに受けたオーディションだったので、そういうふうに見えてしまったのかなと。監督からは「影が2メートルくらいに見えた」と言われました(笑)。

一番に考えていたのは、自分らしくいること

―ちなみに、普段の杉田さんはどんな感じですか?

杉田さん 友人といるときは、ツッコんだり、ボケたりする感じで、けっこう明るいほうだと思います。とはいえ、スベることは多いですが……。

―(笑)。今回、現場では主演として心がけていたこともありましたか?

杉田さん 自分らしくいたいというのを一番に考えていたので、主演というのはあまり意識していなかったです。それよりも周りの方に助けていただいたほうが多かったので、またこういう機会があれば、次はがんばりたいと思います。

―撮影から3年近く経っていますが、初主演を経験したことで変化を感じる部分もあるのではないでしょうか。

杉田さん 演技については、3年前より成長していてほしい気持ちはありますが、役者に対する思いやこの道で生きていく覚悟に関しては、役者を始めたときからずっと変わっていません。いい意味であの頃とは変わっていない気がしています。

―素敵ですね。本作で描かれている「サンカ」については、どのような印象を受けましたか?

杉田さん 最初に聞いたときは、何にも縛られることなく、自由に生きていてうらやましいというか、少し憧れるようなところはあったかもしれません。でも、劇中でも描かれているように、サンカの人たちが生きにくい時代になっていると知り、自分たちが何気なく便利に暮らしている陰で、やはり何かが犠牲になっていると改めて感じました。

命や自然の偉大さについて改めて実感した

―自然に対する見方や生き方など、何か影響を受けたところもあったのでは?

杉田さん 撮影では、実際に魚やヘビをさばくシーンがありましたが、直前まで生きていたものを焼いて食べたので、僕たちは命をいただいているんだなと実感しました。普段の生活ではあまり考えていないことだったので、ヘビの頭を切り落とすシーンでは僕の素のリアクションが映っています。

―ご出身は栃木県ということですが、子ども時代はどんなふうにして過ごされていましたか?

杉田さん 僕は自然のなかで遊ぶことがわりと多かったので、トカゲやヘビを追いかけていたりしていましたね。ただ、最近はあまりそういうことに触れる機会が少なかったので、今回の現場を通じて、改めて命や自然の偉大さについて考えました。

―杉田さんはサッカーやボクシングなどをされてきたということで、体力には自信があるほうだと思いますが、それでも山での撮影は大変だったのではないかなと。

杉田さん 雨が多くて寒さなどのきつさはあったものの、山に溶け込んでいるような感覚でいられたので、体力的な問題はありませんでした。ただ、撮影の最後のほうで大量発生していたヒルに刺されてしまい、かかとが血だらけになったことはありましたが(笑)。

今回は、自分と則夫を切り替えることもなく、初めから終わりまで猛ダッシュで駆け抜けているようなイメージだったので、どちらかというとドキュメンタリーに近い撮影環境だったかもしれないですね。

20代はいろいろな役をやって、幅を広げたい

―今年でいよいよ20歳となりますが、法改正によってすでに4月から新成人となりました。心境の変化などはありましたか?

杉田さん 社会的にはすでにいろいろなことが適応されてはいますが、正直あまり実感がないというか……。やっぱり僕のなかでは、12月の誕生日に20歳を迎えたときが節目になる感じはしています。

―どんな20代にしたいですか?

杉田さん 20歳になったら、今後演技をしていくうえで必要な感情が生まれ、幅も広がると思うので、とにかくいろいろな役をやりたいです。そのためにも、いまやれることを全力でできたらと。20代は、物事をもっと客観的に見れるようにもなりたいです。

―ちなみに、これまでターニングポイントとなった作品や監督との出会いといえば?

杉田さん 本作の笹谷監督は伊参スタジオ映画祭で大賞を受賞したことでこの映画を作ることができたと聞きましたが、そのときに自分のなかでも監督をやってみたいという気持ちが生まれました。そういう意味では、この作品もひとつのターニングポイントになっている気がします。

いつか自分の作品を海外に出してみたいと考えている

―すでに脚本を書き始めているそうですが、どのようなものを書かれているのか教えていただけますか?

杉田さん 自分で読み返してみても、浅くてダメだなと思うものばかりなのでまだちょっと……。というのも、自分でも明確にコレだと言えるものが見つけられていなくて、どこに行こうかなとさまよっている状態なので。これまでわりと暗めの役が多かったので、そういうタイプの作品にひっぱられがちなんですが、それが本当に自分の撮りたいものかどうか僕自身でもわかっていないんだと思います。

まずはいろいろと書いてみて、俳優と監督の両方ができるようになりたいです。映像化まではまだ遠い話ではありますが、いつか自分の作品を海外に出して、多くの方に観てもらえるようになれたらいいなと考えています。

―非常に楽しみです。ちなみに、ご自身は普段どんなタイプの作品が好きですか?

杉田さん 洋画を観ることが多いですが、日本だと刑事ドラマをよく観ています。

―最近観てよかったものがあれば、教えてください。

杉田さん 僕が大好きなトム・ハンクスさん主演の『ターミナル』とホラー映画の『ソウ』。どちらもほぼ同じ場所で展開されていますが、それであそこまでおもしろくできるということは、やっぱり脚本がおもしろければいい映画が作れるんだと、この2作品だけでも、思い知りました。

最近は、時間があるとだいたい動画配信サービスで映画やアニメを観ていますが、俳優の仕事を始めてからは純粋な観客としての目線ではなくなりましたね。どうやって撮っているのか、つねにいろいろなことを考えながら観ています。

これからもいい意味で変わらずに、がんばっていきたい

―これから俳優として目指している理想像はありますか?

杉田さん 主役でも脇役でも両方務まるようになりたいですし、少し出ているだけでも印象に残るような俳優になりたいと思っています。いつか刑事役もやってみたいですし、コメディなども含めてどんどん幅は広げていきたいです。僕は演じているときが一番楽しいですし、現場では学ぶことも多いので、とにかく一生懸命やることをいつも意識しています。

―それでは最後に、ananweb読者へメッセージをお願いします。

杉田さん この作品では、僕らが演じている以外にも、山の情景や命の描写などたくさん映し出されているので、観ていただいたときに、何でもいいので何かを感じ取ってもらえたらうれしいです。僕自身は、これからもいい意味で変わることなく、成長していきたいと思っています。応援よろしくお願いします。

インタビューを終えてみて……。

「現場と違って、取材での撮影は恥ずかしくて苦手」とはにかみつつも、さまざまな表情を見せてくれた杉田さん。雷麟というお名前は本名で、雷のように厳しく、頭がよくなるようにという願いが込められているそうですが、それを体現するような唯一無二の存在として、今後ますますの活躍に期待です。

山が訴える声に耳を傾ける

圧倒的な山の景色のなかで、人間も自然の一部であることを感じるとともに、真の意味で「生きる」とは何かを改めて考えさせられる本作。則夫のように、多くの人が生きづらさを抱えている現代にこそ観たい1本です。


写真・北尾渉(杉田雷麟) 取材、文・志村昌美 

ストーリー

高度成長にわく1965年の夏。中学生の則夫は受験勉強のため、東京から祖母の家がある山奥の田舎を訪れていた。父と祖母に勉強を強いられ、一方的な価値観を押し付けられていた則夫は、ふとしたきっかけで、山から山へ漂泊の旅を続けるサンカの長である省三と娘のハナ、母のタエばあと出会う。

既成概念に縛られることなく自然と共生している彼らと交流を深めていく則夫。生きづらさを抱えていた則夫にとって、いつしかサンカの家族は特別な存在となっていた。そんななか、彼らが山での生活を続けられないほど追い込まれていることを知った則夫は、ある事件を引き起こすことに……。

引き込まれる予告編はこちら!

作品情報

『山歌(サンカ)』
4月22日(金)よりテアトル新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:マジックアワー
https://www.sanka-film.com/
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