志村 昌美

新感覚ホラーで主演の萩原みのり「一番怖かったのは、筒井真理子さんでした」

2022.4.27
日本が世界に誇る文化のひとつといえば、圧倒的な恐怖感と独特の世界観を持つジャパニーズホラー。そんななかで、新たな衝撃作として話題となっているのが、実在の幽霊団地事件をもとに描いた考察型体験ホラー『N号棟』です。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

萩原みのりさん

【映画、ときどき私】 vol. 477

近年は、『成れの果て』で主演を務めたのをはじめ、『佐々木、イン、マイマイン』や『花束みたいな恋をした』といった話題作にも出演するなど、注目を集めている萩原さん。劇中では、廃団地で起こる怪現象の謎を突き止めようと奮闘する死恐怖症を抱える女子大学生の史織を熱演し、観客を恐怖体験へと誘っていきます。今回は、撮影現場の裏側や自身の心境の変化、女性としての理想像などについて語っていただきました。

―『N号棟』というタイトルを聞くだけで、笑えてきてしまうほど大変な現場だったそうですが、実際どのくらい大変だったのでしょうか。

萩原さん とにかくめちゃめちゃ大変で、どれくらいかは映画を観て「察してください」と言う感じです(笑)。

―確かに、観ているだけでもかなりの疲労感でした。

萩原さん まず撮影場所が廃墟だったので、電気も水道も通っていないし、トイレも仮設トイレがあるという状況。そういう環境のなかで、朝からひたすら撮り続ける日々でした。内容も内容でしたし、撮影期間も短いうえに、ひとつひとつの撮影にすごく時間がかかっていたので、そういう大変さもあったかなと。

特に、クライマックスのシーンは6~7時間くらいかけて撮っていますが、その間は最高潮につらい状態をずっと維持しなければならないのでしんどかったですね。しかも、怖がって怯えている感じを出すためにつねに過呼吸気味だったので、体力がゼロになるまでやっていたような現場でした。

疲れている様子は、まさにリアルだった

―撮影中はどうやって体力回復されていたのか、「これがあったから乗り切れた」みたいなものはありました?

萩原さん そもそも、回復しない状態のまま進んでいく役柄だったので、そのあたりは徐々に気力を失っていく史織と重なっていたと思います。疲れている様子は、まさにリアルですね。

―そういう状態でも、クランクアップするとすぐに戻れるものなのでしょうか。

萩原さん そのときは、別の作品も撮っていて、撮休の日はほかの現場に行かなければならなかったので、ひきずる余裕がありませんでした。でも、それが気分転換になったというか、救いになっていたのかもしれません。

ただ、その現場は『N号棟』とはまったく関係ない作品なのに、セットのなかに『N号棟』に出てくる教授の部屋に飾ってある死に関する哲学書がなぜか置いてあったことも……。そんなふうに、すべてが地続きになっているような錯覚に陥る瞬間はありました。

―それはゾッとする偶然だったと思いますが、実際に現場でも怖い思いをしたことはありませんでしたか?

萩原さん 大変すぎて、もはや怖いと感じる余裕もありませんでしたね。というのも、エレベーターが動かないので、毎回5階くらいまで階段で上がらなければいけないのが体力的にきつくて。廃墟には鳥の死骸などもあったので、最初は怖くてギャーギャー言っていました。

でも、だんだん慣れてきて何も思わなくなっちゃったのと、「ギャー」って叫ぶだけで疲れることがわかったので、すごい場所にいるはずなのに、みんなすごく普通にしてましたね(笑)。とにかく、階段を上って現場にいくことがそのときは一番のミッションであり、ほかのことを見ている余裕すらなかった感じです。

みなさんがどこで怖がってくれるのかが楽しみ

―ちなみに、この現場以外で不思議な経験をしたことはないですか?

萩原さん 全然ないですね。ただ、人生で1回だけ占いに行ったことがあって、そのときに「あなたは霊感が強すぎて閉じている」と会った瞬間に占い師さんから言われたということはありました。でも、一度も霊を見たことがないので、「ああ、そうですか……」という感じでしたが(笑)。

とはいえ、実はものすごくビビりなので、お風呂では目をつぶれません。目を閉じたら誰かがいる気がしてしまい、髪や顔を洗っているときはいかにすぐ目を開けられるかとの闘いです(笑)。

―お気持ちよくわかります。普段、ホラーはご覧になりますか?

萩原さん 『ソウ』とか海外のホラーはけっこう好きでよく観ています。というのも、日本の作品は現実味があって怖いですが、海外は描写がぶっ飛んでいたりするので、日常的でも非現実みたいな。私がそういう作品を観るのは、ジェットコースターに乗って疲れを吹き飛ばしたいみたいな感覚で観ることが多いです。

―では、この作品では、どのあたりが見どころだと感じていますか?

萩原さん 個人的には、この作品はホラーというよりも、生きるとか死について繊細に考えさせられる人間ドラマだと思っています。なので、逆にみなさんがどこで怖がってくださるのかがすごく楽しみです。

ちなみに、私が一番怖かったのは、筒井真理子さん。振り返ったときの表情は、正直言って本当に怖かったです(笑)。でも、その圧倒的な存在感と筒井さんの言葉のおかげで、追い込まれる状況に連れて行ってもらえる感覚はありました。ラストにかけてどんどん存在が大きくなっていくので、筒井さんを楽しみにしていただくのもいいかなと思います。

役と自分の境目がわからなくなる瞬間も経験した

―こういった役を演じることで、死や生きることに対して考えが変わったところもあったのでは?

萩原さん 現場に入るまでに自分ができることは、死恐怖症について理解することだと思ったので、当事者の方のブログを読んだり、死についての哲学書を読んだり、動画を見たりということを徹底的にしました。ただ、生きるとか死ぬとかは、ある意味身近なことでもあるので、それが私の実人生にまで踏み込んで来るような感覚があり、役と自分の境目がなくなってしまったことも。

自分自身に投影しすぎてしまったときには、何が現実かわからなくなり、「どうして私はここを歩いているんだろう」とか「何で私は女優をしているんだろう」みたいなにすべてのことが一気にわからなくなってしまうような瞬間もありました。

―それほどまで役に入り込んでしまうことは、いままでもありましたか?

萩原さん いや、ないですね。これまではどんな役でも自分の人生とは離れている感覚だったので、そういうふうになったのは今回が初めてでした。

―そこまでいくと、撮影が終わっても影響が残った部分があったのではないと思いますが。

萩原さん 実は、それまでも小さい頃から、「死んだらどうなるんだろう」とか「死について考える感覚すらなくなるってどういうことなんだろう」と考えて朝になってしまったことは何度もありました。答えが出ないからこそずっと考えてしまうんだと思いますが、この作品で死について考えることに疲れ果てたのか、いまでは考えなくなったので、逆に前を向けるようになった気がしています。

10年後の自分はどうなっているのか未知

―なるほど。今年はデビューから10周年となりますが、そういう意味での変化を感じることもあったのではないでしょうか。

萩原さん 私も感じるのかなと思っていたんですが、そういうこともあまりなく、もう10年も経っちゃったんだなという感じというか。学校に通っていた期間よりも長く何かしてきたことがないので、不思議な気持ちです。

―では、次の10年はどう過ごしていきたいですか?

萩原さん 10年後に自分が役者の仕事をしているかどうか、どうなっているかもわからないくらい未知ですね。10年前は自分が役者の仕事を始めるとは考えてもいませんでしたし、1~2年くらいでやめると思っていたので(笑)。

最初にスカウトされたときは、「何もせずにあとで後悔するくらいなら、『テレビに出たことあるよ』といつか自慢できるかもしれないからやってみたら?」と母に言われて、それぐらいの感じで始めたので。私の周りの人もまさか私がこの仕事を10年も続けるなんて、思ってもいなかったでしょうね。だからこそ、10年後もいまはまだ考えられないです。

大人に見えない人間味のある女性になりたい

―もし、「こんな女性になりたいな」と意識していることがあれば、教えてください。

萩原さん 私は、昔から“大人に見えないのにちゃんと大人”みたいな人にすごく憧れていているので、「大人になりたくない」とずっと言っている大人になりたいと思っています。いつまでも無邪気で、10代の頃と変わらないところでテンションが上がったり下がったりするような人間味のある女性でいられたらいいなと。そのままの感覚を持ち続けていたいと思っています。

最近では、舞台でご一緒させていただいた女優の呉城久美さんがまさにそんな感じの方で、ずっと同じ年くらいだと思っていたら、実は10歳くらい上だったと知ってびっくりしました。そう感じさせないフラットなところが素敵ですし、悩みがあるときは同じように悩んでくれ、一緒に解決方法を見つけてくれるところもすごく魅力的なんですよね。私も10歳、20歳年下の後輩から親しみを持って接してもらえるような先輩になりたいです。

インタビューを終えてみて……。

過酷な現場の裏側も笑顔でお話されている姿を見て、内に秘めた強さを感じさせる萩原さん。役とリンクし、真に迫ったリアルな表情には、ぜひ注目です。ご自身でも想像がつかないというこれからの10年でどのような道をたどって行かれるのか、今後も楽しみにしたいと思います。

一度足を踏み入れたら、もう戻れない!

肉体的緊張感のみならず、精神に支配されていく“神秘的恐怖”も体感できる新時代のホラー映画。生と死の狭間に位置する異空間でしか味わえない衝撃体験をしてみては?


写真・山本嵩(萩原みのり) 取材、文・志村昌美 

ストーリー

とある地方都市にあったのは、霊が出ることで有名な団地。女子大生の史織は、元カレの啓太が卒業制作を撮影するホラー映画のロケハンに、興味本位で同行する。啓太の現在の恋人・真帆と3人で向かったのは、廃墟同然の団地だったが、そこにはいまでも住人たちがいた。

不思議に思いながらもロケハンを進めようとすると、突如激しいラップ現象に襲われる。その後も、頻発する怪奇現象に見舞われるが、言葉巧みな住人たちの“神秘的体験”に魅せられた啓太と真帆は洗脳されてしまう。そして、追い詰められた史織は、思いもよらぬものを目にしてしまうことに……。

ゾクゾクする予告編はこちら!

作品情報

『N号棟』
4月29日(金・祝)新宿ピカデリーほか全国公開
配給:SDP
https://n-goto.com/
©「N号棟」製作委員会