志村 昌美

『ジョーカー』の名優に衝撃を与えた天才子役「未来はいい方向に進んでいると感じる」

2022.4.20
2019年に世界中で社会現象を巻き起こした映画『ジョーカー』で、驚異的な怪演ぶりを見せた名優ホアキン・フェニックス。次回作への期待が高まるなか、最新主演作『カモン カモン』では狂気とはかけ離れた人物に扮し、話題を呼んでいます。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

ウディ・ノーマンくん

【映画、ときどき私】 vol. 474

本作では、ホアキン演じるラジオジャーナリストのジョニーが、ある日突然9歳の甥・ジェシーの面倒を見ることになるところから物語が始まりますが、ジェシーを演じているのがウディくん。

英国アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたのをはじめ、さまざまな賞を受賞し、ホアキンにも衝撃を与えた新星の天才子役として注目を集めています。今回は、現場での様子やホアキンとの共演エピソード、そして13歳となったいま抱いている将来の夢などについて、語ってもらいました。

―事前に行われたオーディションでは、マイク・ミルズ監督とホアキン・フェニックスさんは、ウディくんのアドリブに衝撃的な感動を覚えたそうですが、どんな演技を見せたのでしょうか。

ウディくん 僕はあまりはっきりとは覚えていないんですけど、即興というよりは、セリフのやりとりをするなかでちょっとセリフを足したぐらいだったかなと。ホアキンとは演技をするというよりも、セリフを言い合いながらなんとなく演じていくような感じて進めていきました。

―撮影中もアドリブは多く取り入れていましたか?

ウディくん いくつかの場面ではアドリブでセリフを足していますが、基本的には脚本に忠実です。でも、そのときどきで変化や追加が必要だと感じたときには、判断してアドリブを入れています。

ホアキンは優しい人で、すぐに打ち解けられた

―ウディくんはイギリス出身ですが、劇中では完璧なアメリカ英語で話されていたので、ホアキンさんもイギリス人であることに気がつかないほどだったとか。どうやって身につけたのですか?

ウディくん 実は、数年前に別の役のオーディションを受けるためにアメリカ英語のアクセントを練習したことがあったんです。そのときは役をもらえませんでしたが、当時の経験があったおかげで今回すんなりと入っていくことができたのだと思います。もちろんいくつかの“壁”はありましたが、繰り返し練習したので、いまでは第二外国語みたいに話せるようになりました。

―すごいですね。では、思い出のシーンと言えば?

ウディくん それは、ニューヨークで撮影したレスリングのシーンです。というのも、僕が数年前にレスリングにハマっていた話をしていたら、じゃあ取り入れてみようとなったシーンなので。もともと脚本には書かれていませんでしたが、そういう経緯で追加されたので、僕にとっては特別で思い出深いシーンとなりました。

―そのあたりは、ぜひ観客の方々にも注目してもらいたいですね。伯父役のホアキンさんはハリウッドでもトップクラスの俳優ですが、初共演で緊張しませんでしたか? 

ウディくん 初めて彼と会ったのはオーディションのときでしたが、なんとパジャマ姿で現れたんです(笑)。そういったこともあって、すぐに打ち解けられたのではないかなと。すごく優しい人でもあるので、一緒に演じていてもまったく緊張することなく接することができました。

共通点を見つけながら、役に入り込んでいった

―ちなみに、彼の過去作は観たことがありましたか?

ウディくん 5歳くらいのときに、『ブラザー・ベア』というアニメーションを観ましたが、そのときはホアキンが声優をしていることは知らずに観ていました。そのほかの作品については、お母さんから「撮影が終わるまでは観てはいけない」と。なぜなら、ホアキンがスターであることを僕が意識してしまったら、圧倒されてしまうと考えたからです。

―確かに、それはあるかもしれないですね。現場では彼からたくさんのことを教わったそうですが、具体的にはどんなことですか?

ウディくん まず彼から学んだのは、共演者と打ち解けることの大切さです。どれだけ仲良くできるかによって、演じる際にいかにいろんなことがスムーズに運んでいくかを知りました。演技に関して具体的に何かを教わったりはしていませんが、彼を観察するなかで、カメラ前での振る舞いなどは参考にしています。

―劇中のジェシーは、ちょっと変わった子どもとして描かれていますよね。普段のウディくんと似ているところもありますか?

ウディくん 答えは、イエスでありノーですね。共通点は音楽がすごく好きなところですが、内向的なジェシーと違って、僕はすぐに相手と仲良くなって自分を出すことができるので、そこは似ていないかなと。とはいえ、演じるうえでは、共通点を見つけていきながらジェシーという役に入り込んでいきました。

今後20年で、いろいろなことが改善されていくはず

―劇中ではラジオジャーナリストのジョニーが、取材として子どもたちにいろいろな質問をしていたので、いまから映画のなかで出てきたものと同じ質問をいくつかさせてください。まずは、ウディくんが怖いものは何ですか? 

ウディくん たくさんありますけど、一番怖いのは海。あとは、蝶々も怖いですね(笑)。

―では、何に怒りを感じますか?

ウディくん 話を聞いている振りをして、内容を聞いていない人に対してです。特に、あとになってから、「そんなこと聞いてないよ」と言われると、イラっとしてしまうこともあるので。

―わかります(笑)。ウディくんを幸せにしてくれるものといえば?

ウディくん 具体的には挙げられませんが、いま僕の周りにあるものはみんな僕のことを幸せにしてくれています。

―素敵ですね。もし、スーパーパワーが1つ持てるなら何がいい?

ウディくん テレポーテーションですね。いろんなところに、素早く移動できるようになりたいので。

―自分の何かを1つ変えられるなら、変えたいものは何ですか?

ウディくん 僕は年齢のわりに背が低いほうなので、できればあと数センチは高くなりたいです!

―これからの未来はどうなると思っているか、考えたことはある?

ウディくん 僕は地球が滅びることはないと思っていますし、未来はいい方向に進んでいるんじゃないかなと。たとえば、いま海にゴミを捨てている人たちも、それが間違いだと気がついているはずなので。今後20年でそういったことも改善されていくと感じています。

俳優だけでなく、監督や脚本にも挑戦したい

―ありがとうございます。今後も役者は続けていきたいということですが、もしほかにもやってみたい職業があれば、教えてください。

ウディくん 映画業界に関わるすべてのお仕事が楽しそうに見えるので、監督もやってみたいし、脚本も書いてみたいと思っています。実際、すでに脚本は書いているのですが、まだ自分が楽しむ程度のものなので、いつか本格的に取り組んでみたいです。

―もう脚本を書かれているのですか!? ちなみに、どんなタイプの作品か教えてもらえますか?

ウディくん すでに4~5本は書いているんだけど、最後に書いたのは1か月くらい前で、自分でも内容を忘れてしまいました(笑)。

―いつか作品になるのを楽しみにしています。ほかには、どんなことに興味があるのでしょうか。

ウディくん 僕が一番ハマっているのは、音楽です。いまエレクトリックベースを弾いているのですが、いろいろなジャンルの根源をたどっていくと同じところにつながっていたりして、そういうところもすごくおもしろいですよね。ミュージシャンというのは、音楽によってその場の空間を満たすクリエイティビティを作り出しているので、すごく尊敬しています。

日本にはいつか絶対に行きたいと思っている

―ちなみに、いままで日本に来たことはありますか?

ウディくん まだ行ったことはありませんが、 旅行するのが大好きですし、日本はいつか絶対に訪れてみたいと考えています。ロンドンと東京は似ているところがあるんじゃないかなと想像していますが、世界の反対側にあるくらい離れている都市なので、その違いを知るためにも行ってみたいです。映画のなかで見る日本や日本に行ったことのある友達から聞く話から、とても楽しそうな場所だなという印象です。

―それでは最後に、日本の観客へ向けてメッセージをお願いします。

ウディくん この作品はロックダウンになる前に作ったものですが、それがこうして世界中の人に観てもらえるのは、とても光栄ですし、多くの方に届けられるのをうれしく思っているところです。ぜひ、日本のみなさんの感想も楽しみにしています。ありがとうございました!

インタビューを終えてみて……。

お茶目な笑顔を見せつつ、終始大人顔負けのしっかりとした受け答えをしてくれたウディくん。俳優としての実力はすでに名優からのお墨付きですが、計り知れない才能で将来は監督や脚本家、さらにはミュージシャンとしても私たちを楽しませてくれそうです。

驚きと優しさに満ちたかけがえのない時間となる

デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズといった異なる景色を見せる都市を舞台に繰り広げられる心温まるロードムービー。年の離れた天才俳優による“奇跡のケミストリー”に魅了されるだけでなく、悩みも怒りもすべてを優しさで包み込んでくれる珠玉の感動作です。


取材、文・志村昌美 

ストーリー

NYに1人で暮らすラジオジャーナリストのジョニーは、妹から頼まれ、9歳の甥・ジェシーの面倒を数日間みることになる。LAにある妹の家で突然始まった共同生活は、戸惑いの連続。好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーのぎこちない兄妹関係やいまだ独身でいる理由、自分の父親の病気に関する疑問をストレートに投げかけ、ジョニーを困らせる。

そのいっぽうで、ジョニーの仕事や録音機材にも興味を示し、2人は次第に距離を縮めていく。そして、仕事のためにNYへと戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるのだが……。

愛おしさが詰まった予告編はこちら!

作品情報

『カモン カモン』
4月22日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
https://happinet-phantom.com/cmoncmon/
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