志村 昌美

フランスを代表する女性監督が説く「人の弱さは“武器”に変えることもできる」

2022.4.20
この春も話題作がひしめき合っていますが、今回は映画好きにオススメしたい1本をご紹介します。それは、スティーヴン・スピルバーグやマーティン・スコセッシといった名監督たちに多大な影響を与えたとされる“20世紀最大の巨匠”イングマール・ベルイマン監督にまつわる注目作です。

『ベルイマン島にて』

【映画、ときどき私】 vol. 473

アメリカからスウェーデンのフォーレ島へとやって来たのは、映画監督カップルのクリスとトニー。創作活動にも互いの関係にも停滞感を抱いていた2人は、敬愛するベルイマン監督が数々の傑作を撮ったこの島でひと夏を過ごすことで、新作へのインスピレーションを得ようと考えたのだ。

やがて島の魔力がクリスに作用し、彼女は自身の“1度目の出会いは早すぎて2度目は遅すぎた”ために実らなかった初恋を投影した脚本を書き始める。その後、どうしても結末が思いつかず、悩んでいたクリスだったが、思いがけない出会いが彼女の心を変えていくことに……。

第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、高い評価を得た本作。そこで、こちらの方に作品の背景などについて、お話をうかがってきました。

ミア・ハンセン=ラブ監督

@Judicaël Perrin
@Judicaël Perrin

2007年に26歳という若さで長編映画監督デビューを果たすと、類まれなセンスと才能でフランスを代表する女性監督のひとりとなったミア・ハンセン=ラブ監督。今回は、自身も敬愛するベルイマン監督の魅力や日本での思い出、そして女性に伝えたいメッセージについて語っていただきました。

―10年ほど前から、ベルイマン監督の作品や人生に傾倒するようになったということですが、どういったところに惹かれているのでしょうか。

監督 これは非常に難しい質問ですね。お答えするのに、数時間はかかってしまうかもしれません(笑)。なぜなら、ベルイマンの魅力を短い時間で語り尽くすことは私にとっては不可能なことですから。具体的に彼のどの部分がいいとか、どの作品が好きということではなく、彼の人生も作品も生き方も、さらには息遣いまで、すべてが魅力的だと思っています。

有名な作品のなかには、人工的なところがある作品もあるかもしれません。でも、『不良少女モニカ』(53)や『ある結婚の風景』(73)、『ファニーとアレクサンデル』(82)のような作品では、彼のキャパシティの広さや創作力の大きさ、そしてエロティシズムまでもがあると感じています。

ベルイマンに惹かれるのは、自分に忠実だから

―そういったことすべてから監督も影響を受けていらっしゃるのですね。

監督 そのほかに私が一番惹かれているのは、彼が自分に対してとても忠実であるところです。つまりそれは、自分を裏切ることなく、一切の妥協も許さないという意味でもありますが、そういった部分があるからこそ、ベルイマンがベルイマン以外の何者でもない理由かなと。

だから、私は彼の作品を観ていると、彼とコミュニケーションを取れているような気がするのです。ほかにも同じようなコミュニケーションを感じられる監督は何名かいますが、ベルイマンほどそれを直接的に感じられる人はいないと思っています。そういうところが、私から見たベルイマンの魅力です。

―なるほど。監督は「この映画の大きなテーマは“解放”である」とお話されていますが、それはいまでも多くの女性が男性から解放されていないと感じていらっしゃるところがあったからでしょうか。

監督 夫婦生活や社会において叫ばれているような、いわゆる女性解放というのとは少し意味が違いますが、私はクリスを通して自分自身を解き放って自由にする姿を表現したいと考えました。とはいえ、私が映画を作る際、最初に何かをテーマとして掲げているわけではないので、出来上がった作品に対して観る方が興味を持ってくださればいいと思っています。つまり、私が先に何かを意図しているわけではありません。

劇中では、クリスがトニーと会話をしていくなかで徐々に変化し、芸術的な面において自分を解き放っていくようなところがありますが、初めは弱さのある女性だった彼女がだんだん強さを身に着けていく過程を感じていただいたらと。この作品を映画化するまではかなり時間がかかりましたが、こういう形で作り上げることができてよかったです。

日本を理解するために、次回は長く滞在してみたい

―話は変わりますが、日本についても少しお聞かせください。監督はこれまでに何度か来日されたことがあると思いますが、日本での印象深いエピソードなどはありますか?

監督 日本は大好きなんですが、いつも仕事で行くので、滞在日数が毎回3~4日ほど。あまりにも短すぎるので、私にとってはそれがすごくフラストレーションです。実際、初めて日本に行ったときには、ちょうど子どもが生後数か月のときだったので、1日中インタビューを受けながら授乳もしていて、ゾンビみたいになってしまった強烈な思い出もありますよ(笑)。

2度目はもう少し余裕がありましたが、地方まで行けなかったのは残念でした。特に、香川の直島は島全体が美術館のような場所だと聞いていたので、そこで安藤忠雄さんの作品を見たり、芸術に触れたりしたかったですね。私にとって異文化を理解するのはとても重要なことですが、本当の意味で経験するには、やはり1か月程度は必要だと思います。次回こそは訪れてみたいです。

過去にこだわらず、未来の力に変えてほしい

―ぜひ、お待ちしております。それでは最後に、ananweb読者へのメッセージをいただきたいですが、なかには劇中のクリスのように自分を弱くて依存的だと考えているような女性たちもいると思いますので、この作品から感じてほしいことなどを教えてください。

監督 実は、私も長い間、クリスのように女性特有の弱さを抱え、家族の問題などに悩んでいた時期がありました。そのときは過去ばかりを振り返り、過去の傷に痛みを感じたりしていましたが、少しずつ弱さを強さに変えていくことができたのです。私の場合は、弱さを創作のツールとして利用しましたが、そんなふうに弱さを“武器”にすることもできるのだということは伝えられたらと。

過去のことばかりにこだわるのではなく、それを未来に向けたひとつの力に変換することも可能なんだということをクリスの姿を通して知っていただきたいですし、みなさんにもそうなっていただけることを願っています。

柔らかな日差しに包まれながら、自分の心に問いかける

インスピレーションを刺激する美しい景色が広がる “映画ファンの聖地”スウェーデンのフォーレ島を舞台に、女性の繊細な心の機微を見事に映し出した本作。静かな波のように観る者の感情に入り込み、ときには激しい雨のように心を揺さぶる必見作です。


取材、文・志村昌美

目を奪われる予告編はこちら!

作品情報

『ベルイマン島にて』
4月22日(金)、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
配給:キノフィルムズ
https://bergman-island.jp/
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