志村 昌美

伊藤英明、アンセル・エルゴートを「こんなに日本文化を学んだハリウッド俳優はいない」

2022.4.25
ハリウッドの第一線で活躍するスタッフと日米が誇るスター・キャスト陣が集結した超大作ドラマ・シリーズ『TOKYO VICE』。すでに、日米同時配信がスタートし、大きな注目を集めています。WOWOWでの放送開始とともにさらなる高まりを見せるなか、こちらの方々にお話をうかがってきました。

伊藤英明さん & アンセル・エルゴートさん

【映画、ときどき私】 vol. 476

『ベイビー・ドライバー』や『ウエスト・サイド・ストーリー』で脚光を浴び、日本でも人気の高い実力派俳優アンセル・エルゴートさん。劇中では、特ダネを追い求めるあまり闇社会へと踏み込んでしまう新人記者のアメリカ人青年ジェイクを演じています。

そして、ジェイクと行動をともにする裏社会とつながりのある刑事の宮本に扮しているのが伊藤英明さん。近年は、ハリウッドデビューを果たすなど、幅広い活躍でも話題となっています。今回は、本作での共演を通じて友情を育んだおふたりに、撮影中の思い出や相手への熱い思いなどについて語っていただきました。

―お互いのSNSに登場するなど、おふたりは非常に仲がよいことでも知られていますが、アンセルさんにとって伊藤さんはどんな存在ですか?

アンセルさん 英明さんとは、とっても馬が合いました。毎日一緒にサウナと温泉に入っていたので、文字通り裸の付き合いもしたくらいです(笑)。あとは、いろんなところへ食事に連れて行ってもらったり、新年には英明さんの実家に行ってお母さんの手料理をごちそうになったり、みんなで初詣に行ったりしました。

本当にたくさんのいい思い出ができましたし、いろんなことを教えてくれたので、英明さんにはすごく感謝しています。とてもいい日本の先輩です。僕は本当にラッキーだと思います。

―実際に、アンセルさんとご一緒されてみていかがでしたか?

伊藤さん アンセルは環境も食事も違う場所で、いろいろと初めてのことをしなければいけない状況だったので、ストレスもあったと思います。でも、主演としてみんなを引っ張っていこうと押しつけがましくするわけでもなく、文化や歴史を積極的に学ぶことで、日本人に寄り添って役になりきるんだという覚悟をすごく感じたんです。

実際、日本のなかに入って得たものを役に反映させたいという強い気持ちも伝わってきました。だからこそ、僕は彼にどんな些細なことでも経験してもらいたいなと。そういったこともあって、できるだけ日本の“普通の生活”を知ってもらえるように意識しました。

日本語と歴史を毎日4時間以上は勉強した

―劇中での日本語によるセリフにも驚きましたが、記者会見でもこの取材でも大半を流暢な日本語でお話されているのを見て、感動しています。どのようにして習得したのでしょうか。

アンセルさん 毎日4時間以上は勉強しましたが、最高の先生がついてくださっていたので、漢字や書き方、発音、それから日本の歴史と文化にいたるまですべてを教えてくれました。明治神宮の近くにあるベンチに座って、漢字を練習していたこともありましたね。いまでは、僕にとって日本は第二の故郷です。

―そういう一生懸命な姿も、伊藤さんがアンセルさんをサポートしたいと思われた理由のひとつではないかなと。

伊藤さん そうですね。撮影中はアンセルもパンデミックのなかにいる家族のことを心配したり、ホームシックになったり、いろんな心労があったと思います。それでも、そういう素振りを見せることなく、努力して役をやりきる姿に僕も感動しました。こんなにも日本の文化と語学を習得したハリウッドの俳優は、ほかにはいないんじゃないかな。

―確かに、ここまでのレベルはいない気がします。劇中では、新聞記者やヤクザといった日本のなかでも厳しい社会を経験されたと思いますが、大変だったり、驚いたりしたことはありませんでしたか?

アンセルさん 合気道の稽古をしていたとき、まだ全然日本語を話せなかったのに、稽古で使う言葉を日本語で言わなければならず、それが難しくて大変でしたね。しかも、僕はたくさん汗をかいて震えているのに、先生も先輩もとても簡単そうにしていて、全然汗をかいていないんですよ(笑)。

そんな僕を見た先生から言われたのは、「リラックスしなさい」ということ。そのときに、どれだけ一生懸命取り組んでいても、リラックスすることは大事なんだと学びました。これは合気道だけではなくて、何事においても言えることですよね。

役で自由に生きることの楽しさを知った現場だった

―日本の心も学ばれたんですね。日常生活を送るなかで、カルチャーショックなどはありませんでしたか?

アンセルさん 僕はニューヨーク人なので、ニューヨークの道で踊っても大丈夫ですが、東京の街中でちょっと大きな声を出してしまったときに、みんなに見られたのは恥ずかしかったです(笑)。そのときは、ちょっとだけホームシックになりました。

―そんなことがあったとは(笑)。伊藤さんにとっては、ハリウッドの一流スタッフに囲まれる現場で、ご自身の俳優人生においても大きな意味を持つ作品になったと思いますが、振り返ってみていかがですか?

伊藤さん 僕個人のことで言わせてもらえば、ものすごいチャンスでした。でも、「チャンスをものにするんだ!」じゃなくて、みんなが同じ気持ちで作品に向かう心地よさを味わえる幸せな現場だったなと。役で自由に生きるとはこういうことか、役になりきるとはこういうことなのか、というのを改めて知ることができたので、僕自身も楽しかったです。

アンセルや渡辺謙さんと現場をともにしたことも僕にとっては宝物になりましたが、これが一生の宝にならないように、これからも努力して、観ている人に感動を与えられる作品にもっと出たいと思っています。

この経験を大事に、これからの俳優人生を歩んでいきたい

―本作では、巨匠マイケル・マン監督が手掛けていることでも話題です。監督の現場で印象に残っていることはありますか?

伊藤さん 時間的な問題もあり、日本ではワンテイクで撮ることが多いですが、マイケル・マン監督の現場では同じシーンを何度も撮ることがありました。でも、「何回もテイクを重ねるのはNGではなくて、違うエモーションを見せてほしいだけなんだよ」と。「もし役としていいものが出せないのであれば、それは監督である僕の責任でもある」と言って向き合ってくれるので、俳優としてはとてもいい経験になりました。

僕はもともと彼の大ファンで、『コラテラル』にいたっては、メイキング映像を何十回も見ていたほど。自分もそういう作品に出たいという気持ちで見ていましたが、オーディションの話をいただいたときは、「あのマイケル・マン監督に会えるんだ!」と思って受けました。でも、自分の夢にちゃんと向き合えば、こんなご褒美がもらえるんだと知ったので、今回の経験やいただいた言葉を大事にこれからの俳優人生を歩んでいきたいです。

―また、ジェイクと組む敏腕刑事・片桐を演じた渡辺謙さんの存在も大きかったのではないかなと。

伊藤さん 現場に謙さんがいてくださるだけで絶大な安心感がありましたし、俳優として大事なことも教えてもらいました。あとは、どうしたら緊張せずに自分の思いを端的に伝えられるようになるのか、といったことを相談させていただいたことも。何事にも通じることではありますが、まず優先順位は何か、そして何を言いたくて、どこにフックがあって、結論に何を持ってくるのか、ということを考える頭の使い方を教えていただきました。それだけで話し方や伝わり方が変わってきたと感じています。

日本の映画やドラマにもぜひ出てみたい

―なるほど。俳優の先輩として、具体的なアドバイスを受けたこともありましたか?

アンセルさん 僕は謙さんから日本語のセリフを教わりましたが、そのときに言われたのは「日本語のセリフでも、まずは英語で覚えなさい」ということでした。英語で覚えて、意味がはっきりわかったうえで、日本語のセリフで言いなさいと。そんなふうに、自分が話している言葉のフィーリングをしっかりとつかんでからセリフを言う方法というのは、謙さんに教わって実践したことです。

―記者会見では、渡辺さんから「次は全編日本語で行けるんじゃない?」とお墨付きをもらっていましたよね。

伊藤さん 絶対できると思うよ。

アンセルさん やってみたい気持ちもありますが、謙さんは英語の演技も素晴らしく、僕はそれを見たいので、まだ英語と日本語の両方を使うほうでいいかなと思っています。

―これだけ日本語が話せるのであれば、日本の映画やドラマでも問題ないと思いますが、ご興味はありますか?

アンセルさん もちろんありますよ! もし英明さんとやれるならぜひ!

伊藤さん 月9にアンセル・エルゴート出たらおもしろくない? すごいよね。

アンセルさん 日本に来る飛行機のなかで『きのう何食べた?』を観ましたが、すごく大好きでした。英明さん、それを一緒にやりましょう!

伊藤さん あははは(笑)。

作品に捧げたみんなのエネルギーも感じてほしい

―それはかなり観たいです!

伊藤さん ちなみに、アンセルは日本の映画が大好きで、積極的に昔の時代劇とかも観ているので、日本の監督については僕よりも詳しいんじゃない?

アンセルさん いやいや、そんなことないですよ。でも、日本の伝統的なものは大好きです。

伊藤さん 地方にロケで行ったときには、わざわざ自分で古民家のような旅館を取って泊まったこともあったほどですから。でも、すきま風が寒くて寝られなかったんだよね?

アンセルさん あはは(笑)。あと、赤羽にあるアパートにも泊まっていたことがありますが、あのときもおもしろかったですね。シャワーもない部屋だったので、銭湯に通っていましたが、そこで日本の方々と話をすることができました。そういう意味でも、ジェイクと同じ感覚を共有できたと思っています。

伊藤さん アンセルはどんなに大変なときでも、「すべてがいい経験で、自分はいい人生を送っているんだ」という考え方の持ち主。いつもポジティブなところは、本当に素晴らしいなと感心しています。

―見習いたいですね。それでは最後に、本作の見どころを教えてください。

伊藤さん いままでの海外作品に登場する日本というのは、“ワンダージャパン”みたいな感じで、現実とは違って描かれていることも多かったですが、今回は監督のマイケルをはじめ、みんながリアルであることにこだわっていました。日本がここまでスタイリッシュでエネルギッシュに描かれている作品というのは、『ラスト サムライ』以来なんじゃないかなと思うほど。正しい人が生きにくいところもあるいまの時代に、正義感を持った新聞記者の姿がアンセルを通して世界中の人に観てもらえるのはうれしいです。

そして、この作品はアンセルや謙さんをはじめ、すべてのキャストとスタッフが力を出し切った作品でもあります。だからこそ、全員の努力を決して無駄にしたくはないなと。作品にすべてを捧げたみんなのエネルギーはそのまま作品にも反映されているので、セカンドシーズン、サードシーズンと続いていってほしいと思っています。

インタビューを終えてみて……。

自分の気持ちを日本語で伝えようと一生懸命のアンセルさんと、その様子を温かく見守る伊藤さん。仲の良さはもちろんですが、お互いを想い合う気持ちまで伝わってきて、おふたりの関係性に感動を覚えた取材となりました。まずは『TOKYO VICE』での熱演に注目ですが、ぜひ『きのう何食べた?』での共演も実現してほしいです。

未体験のトウキョウ・ワールドに誘われる!

1990年代の東京を舞台に、凶暴なアンダーグラウンドの姿をリアルに映し出したドラマ・シリーズ。ハリウッドが手掛けるスタイリッシュな映像と息を飲む展開、そして豪華俳優陣による熱を帯びた演技合戦からも目が離せない。


取材、文・志村昌美 

ストーリー

難関な試験を突破し、日本の大手新聞社に就職したアメリカ人青年のジェイク。警察担当記者となったジェイクは、特ダネを追いかけるうちに、ヤクザ絡みの事件を解決する敏腕刑事の片桐と出会う。危険な闇社会へと足を踏み入れていくジェイクに、片桐は「この世界は、一度開いた扉は閉じるのが難しい」と忠告するのだった。

そして、風俗街で暗躍する刑事の宮本や若きヤクザのリーダー・佐藤と知り合ったジェイクは、新興ヤクザ勢力の危険すぎるネタをつかもうとしていた。夢や希望を飲み込む東京のアンダーグラウンドで、生き残れるのは一体誰か……。

胸がざわつく予告編はこちら!

作品情報

ハリウッド共同制作オリジナルドラマ『TOKYO VICE』
WOWOWにて毎週日曜午後10時より独占放送中
WOWOWオンデマンドにて配信中
出演:アンセル・エルゴート、渡辺謙、菊地凛子、伊藤英明、笠松将、山下智久
監督:マイケル・マン(第1話)ほか
https://www.wowow.co.jp/drama/original/tokyovice/
©HBO Max _ James Lisle©HBO Max _ Eros Hoagland