今や白トリュフは金塊と同じ…欲望が渦巻く「トリュフハンターの実態」【ドキュメンタリー】
『白いトリュフの宿る森』
【映画、ときどき私】 vol. 456
北イタリアのピエモンテ州でささやかれていたのは、夜になると白トリュフを探しに出かける妖精のような老人がいるという“言い伝え”。人の手によって栽培が行われたことがないアルバ産の白トリュフは、なぜそこに育つのか解明されていなかった。
危険が多い森の奥深くで、訓練された犬たちとともに伝統的な方法で白トリュフを探す老人たち。まるで宝探しをするように楽しんでいたが、近年は気候変動や森林伐採によって収穫量が減少していた。トリュフが実る場所を決して誰にも明かさない彼らの“秘密”とは……。
サンダンス映画祭を皮切りに、世界有数の映画祭で“異彩を放つドキュメンタリー”として大きな話題となった本作。今回は、舞台裏を知り尽くすこちらの方々にお話をうかがってきました。
マイケル・ドウェック監督 & グレゴリー・カーショウ監督
2018年の『THE LAST RACE(原題)』以来、2度目の共同監督を務めたドウェック監督(写真手前・右)とカーショウ監督(同・左)。謎に包まれていたトリュフハンターたちの日常に迫るため、3年もの歳月をかけたおふたりに、撮影秘話や現在取り組んでいる新たなプロジェクトについて語っていただきました。
―家族にさえトリュフの場所を教えないほどの秘密主義であるトリュフハンターたち。そのコミュニティに部外者が入り込むのはかなり大変だったと思いますが、どのようにして彼らの信頼を勝ち取ることに成功したのですか?
ドウェック監督 まず言えるのは、ワインとエスプレッソはかなり飲んだということですね(笑)。というのも、ここではすべてのことが秘密なので、街に2軒ほどしかないレストランに通うところから始めたからです。メニューに載っているトリュフをどのハンターから仕入れているのかを尋ねても、最初は「父親の代から40年以上の付き合いだが、トリュフハンターには会ったことがない」と言われてしまうほどでした。
―なかなか厳しい対応ですね。実際、彼らはどうやって取引しているのでしょうか。
ドウェック監督 夜中にお金を入れた木箱を外に出しておくと、朝には魔法のようにトリュフが入っているそうです。その後、店主が司祭をしているいとこなら何か知っているかもしれないからと紹介してくれました。そこで、「カルロという人が教会に来るときはいつもトリュフの匂いがするから彼がハンターじゃないかな」という情報を得て、今度はカルロを紹介してもらったのですが、彼からは「僕は違うけど、あの人が怪しいかも」と言われてしまったんです。
そんな状況が3~4か月ほど続きましたが、それでも諦めずにいろいろな方に話を聞き続けました。その間はカメラを出さずに、ただ彼らから家族にまつわる思い出話を聞いたり、農場を見せてもらったりするだけ。かなり時間はかかりましたが、そんなふうに接していくなかで家族のような関係性を築くことができました。
減少する白トリュフを保護する一助になりたい
―その結果、実はトリュフハンターだったカルロさんはじめ、みなさんが出演してくださったのですね。
ドウェック監督 あとは、僕たちが滞在していたアパートの近くにお肉屋さんとチーズ屋さんがあったので、朝イチで大量のお肉とチーズを仕入れることも大事な日課。それを持って、行く先々の人たちとおみやげ交換をしていましたから。そうやって心地よい関係になってからカメラを入れたので、撮影を始めたときには彼らもカメラを意識することなく自然と進めることができたのだと思います。
―ただ、そのいっぽうでトリュフハンターたちの背後に渦巻く深刻な問題の数々が映し出されており、衝撃を受ける場面もありました。
カーショウ監督 毎年トリュフの獲れる数が減っているにもかかわらず、世界的な需要がどんどん上がっているので、いまや白トリュフは金塊と同じくらいの値段で取引されることもるほどですからね。そういったことが大きなプレッシャーとなり、それまで起きなかった争いやライバルの犬を毒殺してしまうといったダークな部分を生み出しているのだと感じました。
―それらの現実を目の当たりにして、監督たちの考え方に影響を及ぼすこともあったのでは?
カーショウ監督 僕たちも、白トリュフがこれほど稀有な食材となっていることを今回の撮影を通して知ったので、それがきっかけとなって始めたのが保護プログラム。集めた資金をトリュフハンターたちに渡し、彼らがトリュフハンティングしている土地を買えるようなシステムを作りました。そうすることで、危険にさらされているこの場所を永久的に保護できると考えているので、それが減少しているトリュフの問題を解決する一助になることを願っています。
トリュフハンターたちから大きな影響を受けている
―この伝統を守るために、消費者である私たちでもできることがあれば教えてください。
ドウェック監督 先ほどお話した保護プログラムとともに行っていることのひとつが、この地域で作られたトリュフハンターワインを生産すること。そこで得たすべての収益が彼らに還元されるようなシステムになっており、それによって現在までに52エーカーもの森林を守ることができました。なかなか難しいところですが、まずは森を守ることが一番だと考えています。
―支援の第一歩として、トリュフハンターワインを買うことから始めるというのであればできそうですね。
ドウェック監督 今後は、これをお手本にしてほかの街や国がそれぞれの文化を保護する動きが活発になることを願っているところです。というのも、これらのプログラムは森林だけでなく、コミュニティなどの“文化的生態”を守るためのものでもありますからね。あとは、この映画にインスピレーションを受けて、新しい世代のトリュフハンターが生まれてくれることも願っています。
―いろいろな形で広がっていくといいですね。また、個性豊かなトリュフハンターたちの“名言”も見どころですが、彼らと接するなかで感銘を受けたことといえば?
ドウェック監督 彼らが自然や犬と密接な関係を保ちながら過ごしているのを見て、「自分はこれからどういうふうに生きていけばいいのか」と考えるきっかけになったので、僕たち自身も大きな影響を受けました。すでにこの映画を観た方々からも、「生き方を変えようと思った」とか「自給自足の生活をしてみたい」といった意見がたくさん届いたほどです。
カーショウ監督 トリュフハンターのなかには、すでに90歳を過ぎている人もいますが、みんなエネルギーや喜びを持って生活している人ばかり。一緒にいると、若者と接している感じがしてとても驚きました。
なかでも、カルロの奥さんが「年も取ったんだし、仕事はもう終わりにしてほしい」と言ったときに、カルロが「もしこれが人生の始まりだったらどうする?」と返した場面はすごかったですね。いくつになっても、人生のどのタイミングでも、「ここが始まりかもしれない」というのはとても美しい考え方だと思います。
この作品が生活を見直すきっかけになってほしい
―確かに、非常にステキな言葉だと思いました。では、まもなく公開を迎える日本に対しては、どのような印象をお持ちかを教えてください。
ドウェック監督 僕が初めて東京で写真展を開催したのは20年前ですが、それからだいたい年に1回は日本を訪れているくらい本当に日本が大好きです。特に、ものづくりや伝統では高いレベルを極めようとする姿勢がすばらしいなと。それは食文化においても言えることですが、食材や生産地にこだわり、自然をリスペクトしているところには感銘を受けています。
今回は、映画の写真も含めた写真展を2月16日~4月24日まで東京のブリッツ・ギャラリーで行うので、そちらにもぜひお越しいただけたらと。コロナ禍が終わったら、なるべく早く戻りたいと思っているほど、僕にとって日本は大切な場所です。実は、いま検討している企画のひとつに日本が候補地に挙がっているものがあるので、ぜひ日本で撮影できたらいいなと考えています。
―楽しみにしております。それでは最後に、本作を通して伝えたい思いをお聞かせください。
ドウェック監督 2年以上コロナ禍でみなさんも感じているかもしれませんが、デジタルメディアよりも、もっと自然と触れ合う時間を取るべきだと考えています。この作品が、デジタルメディアに支配されている自分の生活を見直すきっかけとなり、自然との関係性についても改めて考えてもらえたらうれしいです。
カーショウ監督 確かに、彼らはデジタルが介入する前の世界にそのまま残っている生活を送っていたので、僕たちも1960年代にいるような感覚を味わうことができました。映画を観ていただく方々にも、僕たちと同じようなタイムトラベルのマジックを体感してほしいですし、いまの時代ではなかなか見つけることができないような幸せや喜び、そして美しさを彼らから感じてもらえたらと思っています。
“白トリュフの秘密”がいま明かされる!
美しい森が生み出す神秘と、その裏に渦巻く欲望の世界を垣間見ることができる本作。人々を虜にする芳醇でミステリアスな白トリュフの香りに包まれながら、無垢なトリュフハンターたちの生き様に心が刺激される1本です。
取材、文・志村昌美
美しさに魅了される予告編はこちら!
作品情報
『白いトリュフの宿る森』
2月18日(金)より、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
https://www.truffle-movie.jp/
©2020 GO GIGI GO PRODUCTIONS, LLC