志村 昌美

青木崇高「転んでもただでは起き上がりたくはない」自身のルールを語る

2022.2.11
『石の繭』、『水晶の鼓動』、『蝶の力学』と3度にわたって映像化され、人気を博している大ヒットクライムサスペンス『殺人分析班』シリーズ。多くのファンが続編を待ち望むなか、新シリーズとなる『公安分析班』がついに始動します。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

青木崇高さん

【映画、ときどき私】 vol. 454

まもなく放送が開始となる『連続ドラマW 邪神の天秤 公安分析班』で、主演を務めている青木さん。本シリーズでは、日本警察の中でもエリートとされている公安部に異動した元捜査一課のエース・鷹野秀昭が、新たな猟奇殺人事件と陰謀に立ち向かう姿が描かれています。演じるうえでの苦労や共演者とのエピソード、そして今後について語っていただきました。

―4作目にしてシリーズ初主演となりますが、決まったときのお気持ちはいかがでしたか?

青木さん 主演というのはありがたいと思いましたが、やるべきことは変わらないので、まずは自分自身が脚本を楽しむところから始めました。セリフの分量が多くて大変だったものの、脚本はすごくおもしろかったので、集中していいものが撮れたと思っています。

―鷹野を演じるのは約2年ぶりですが、役の感覚はすぐに取り戻せましたか?

青木さん 今回は、少し時間がかかりました。というのも、続編のときはだいたい衣装に袖を通すと感覚を思い出せるんですが、これまでとスーツの感じがかなり違ったので。「これは本当に鷹野の衣装ですか?」と聞いてしまったほどでしたが、そういう変化も楽しむことができました。

―衣装にはどういった違いがあったのでしょうか。

青木さん これまでの鷹野は黒いスーツとグレーのシャツでピシッと決めていましたが、公安に求められているのは、より人のなかに紛れられるような格好。そのためには、いわゆる一般的な服装にしなければいけなかったので、少しゆるめな灰色のスーツと白のシャツにしています。

ただ、公安のことはあまり公には明かされていないですからね。正解がないなかで作っていく難しさはありましたが、クリエイティブな面においては、それがおもしろいのりしろのような部分になっていたのかなと。YouTubeで家宅捜索の映像を見たり、資料を見たり、いろいろな話を聞いたりしましたが、公安の方々というのは、本当に“普通の人”に見えるらしいです。

公安ならではの大義名分があることを知った

―では、役作りで苦労されたこともあったのではないでしょうか。

青木さん 今回はとにかくセリフ回しが大変でした。特に、公安の分室でのシーンはまとめて撮っているんですが、それが何日も続いたときは、キャスト全員が疲労困憊の状態になってしまったほど。刑事モノではよくあることですが、そのなかでも公安というのは特殊だと思いました。ただ、単眼鏡や懐中電灯など、道具の扱い方はほかと違っていておもしろかったです。

―なかなか実態を知ることができない公安という職業に触れてみて、何か発見などもあったのでは?

青木さん これまで公安といえば、“謎の組織”のように描かれがちでしたが、彼らはテロや国家転覆に関わる事件を未然に防ぐための動きをしているので、彼らには彼らの大義名分があると思うんです。とはいえ、そのために無断で人の家に侵入したりしているので、キャスト内でも「公安に目をつけられたら終わりだな」という話はしていましたが(笑)。

あと気になったのは、彼らは何をモチベーションにしているのかということ。表に出ることがないので、犯人を捕まえて感謝されたり、表彰されたりみたいなことはないですし、場合によっては家族に危害がおよぶ可能性もありますから。そういった危険を冒してまで働く彼らは、どういう思いなのかというのは、みんなでも話し合ったところです。

―そういった難しさがあるなか、鷹野として演じるうえで意識していたことがあれば、お聞かせください。

青木さん 表面上はだいぶ抑えていますが、冷静にアンテナを張り巡らせながらつねに感情がうごめいているので、気をつけたのは目の動かし方。聴覚に集中しているときは目線を外したり、何かを想像しているときは目が動いたり、といった感じで考えながら演じています。あとは、ひとつひとつの動作や呼吸で、いかに視聴者のみなさんに緊張と緩和を共有できるかを意識しました。

共演者のみなさんが素晴らしくて、感謝しかない

―新シリーズの鷹野に関しては、どのように捉えていますか?

青木さん 鷹野は変わり者でマイペースのように見られていますが、どこに行っても変わらないというか、彼の軸はブレていないんですよ。ただ、かたくなに自分のスタイルを崩さないわけではなく、いろいろな感情や意見を柔軟に取り入れ、それを分析して捜査につなげていっていると思います。チームとも信頼を築いていき、どんどん頭角を現していきますが、人と群れない感じとかもカッコイイですよね。

捜査の手法がまったく違う公安で戸惑ったり、組織のあり方に疑問を感じたりもしていますが、おそらく視聴者のみなさんも社会で環境が変わったときに、同じような経験をされているのではないかなと。鷹野の場合、公安のいいところは認めつつ、いままで培ってきたものも取り入れながらハイブリッドなやり方を提案していくので、彼自身とともにチームの変化というのも見どころになっています。

―今回も幅広いキャストの方が顔を揃えていますが、現場の様子はいかがでしたか?

青木さん 共演者のみなさんが素晴らしくて、本当に感謝しかないですが、まずは「松雪泰子さん、ありがとうございました!」という感じです。普段から素敵な方ですが、役者として長年積み重ねてきた経験がある方なので、精神的にかなり頼らせていただきました。

公安には、松雪さん以外にも、筒井道隆さんはじめ、徳重聡さんや小市慢太郎さんといった年上の方が多かったので、落ち着いた雰囲気ではありましたが、みなさん曲者ぞろいと言いますか(笑)。それぞれキャラクターが立っている方ばかりで、本当におもしろかったです。年下の福山翔大くんは、ムードメーカーになってくれていたと思います。「いつかみんなでキャンプしたいね」とか、大谷翔平くんのホームラン話で盛り上がったりとか、いろいろな話ができる楽しい現場でした。

人間はそんなに単純じゃないと感じる

―鷹野といえばいくつか癖があり、写真を撮りまくる記録魔的なところもそのひとつ。青木さんも現場で必ずしてしまうことはありますか?

青木さん 僕はロケでさまざまな場所に行った際、現地の食べ物屋さんのチェックは欠かしません(笑)。それが楽しみのひとつですから。でも、最近はコロナ禍で行けないことが多いので、ぜひ落ち着いたら、いろいろなお店に行きたいです。

―ほかにも、鷹野は好物のトマトジュースでエネルギーチャージをしていますが、青木さんにもそういったものがあれば、教えてください。

青木さん やっぱりお酒じゃないですかね(笑)。でも、お酒自体というよりも、みんなでワイワイ飲むことからエネルギーをもらっている部分もありますが。今回の現場では、そういうことができずに残念でした。あとは、マッサージとか整体とか、お風呂とかでも疲れは取れているのかなと。ただ、今回の現場では、お風呂のなかでもずっとセリフの練習をしていました。

―ということは、オンオフの切り替えはどうされているのでしょうか。

青木さん それが、僕はできないんですよ。走ったり、犬の散歩をしたりとかで汗をかくと多少できますが、仕事が終わって家に帰っても残ってしまうことが多いので、人間はそんなに単純じゃないんだなと。スイッチのように切り替えられたらいいなとは思いますが、そのいっぽうであんまり器用になりたくないなというのもあります。

後悔しないためにも、向き合うならいましかない

―今年で俳優デビューから20周年を迎えますが、いまの活躍を支えている青木さんの“ルール”があれば教えてください。

青木さん 今年で20年ってほんとですか? 自分では全然意識していなかったので(笑)。ルールというと難しいですけど、「おもしろい人生を生きたい」というそれだけです。そのためにも、ひとつひとつの作品にしっかりと時間をかけて向き合い、観てくださった方々の声がちゃんと聞けるところまで立ち会いたいと思っています。観客に作品が届いて、おもしろかったと言っていただけたら、また次もがんばろうとなれますから。

すぐ次の作品に入るというサイクルが僕に合っていないのもありますが、仕事がひとつ終わったら、余韻というか、自分にとってその作品がどうだったのかと考える時間を持つようにしています。

―それでは最後に、今後やりたいことやいまご自身が目指していることについてお聞かせください。

青木さん すでに自分で映像を作ったり、絵を描いたりしていますが、個人でもチームでも0から1にしたものをこれからも発信して続けていきたいと考えています。やっぱり人生の時間には限りがありますから、「本当はやりたかったんだけど……」みたいな後悔はしたくないなと。「向き合うならいましかない」くらいの気持ちにはなっています。

世界的なレベルで足止めを食らってしまいましたが、これを絶対に無駄にはしたくない。立ち止まって考えることができる時間にもなったので、転んでもただでは起き上がらない、何かしら拾って立ち上がりたいと思っています。

インタビューを終えてみて……。

言葉の端々から、作品や仕事に対する熱い思いがヒシヒシと伝わってくる青木さん。細部にまでこだわって役作りをした青木さんだからこその新たな鷹野と、普段見ることのできない公安の裏側をぜひお見逃しなく。

予想できないラストが待ち受ける!

『殺人分析班』同様に、二転三転するストーリーと息もつかせぬ緊迫感で観る者を引き込む最新シリーズ。秘密に包まれた公安を舞台に繰り広げられるスリリングな攻防戦と、これまでの刑事モノとは一線を画す展開は必見です。


取材、文・志村昌美 
スタイリスト・小泉美智子 ヘアメイク・NANA

ストーリー

公安部に異動したばかりの鷹野が担当するのは、爆破事件の現場近くで起きた与党大物議員の殺害事件。遺体からは臓器が抜かれ、その付近には心臓と羽根を載せた天秤が残されていた。猟奇事件現場に臨場した鷹野は、古代エジプト神話を模した殺害方法に違和感を持ち、筋読みを始める。

しかし、同僚の氷室から公安には公安のやり方があると一蹴されてしまう。情報収集活動は警察にとって捜査の基本ともいえるが、公安警察ではより緻密で複雑なものを要求されることとなる。鷹野も公安独自の捜査手法で事件を追っていくのだが……。

衝撃が走る予告編はこちら!

作品情報

『連続ドラマW 邪神の天秤 公安分析班』
2 月 13 日(日)スタート
毎週日曜午後 10 時放送・配信(全 10 話)
[第 1 話無料放送]【WOWOWプライム】
[無料トライアル実施中]【WOWOWオンデマンド】
https://www.wowow.co.jp/detail/171401