志村 昌美

村上淳が菜葉菜に語る「僕が女性にエロスを感じる瞬間は…」

2022.2.2
2月も国内外からさまざまな話題作が続々と公開を迎えますが、そのなかから大人の女性たちにオススメしたい1本は『夕方のおともだち』。SMの女王様とドM男による不思議な愛のカタチを描いたヒューマンラブストーリーです。そこで、こちらの方々にお話をうかがってきました。

村上淳さん & 菜葉菜さん

【映画、ときどき私】 vol. 452

本作で筋金入りのドM男・ヨシダヨシオを演じた村上さんと、女王様・ミホを演じた菜葉菜さん。「恋愛映画の名手」「エロティシズムのマエストロ」などと称される廣木隆一監督のもとでW主演を務めたおふたりに、ハードな撮影の裏側やエロスとは何かについて語っていただきました。

―廣木組の常連である村上さんにとって、本作が廣木監督作品では初主演となります。10年前にはお話があったそうですが、最初の印象はいかがでしたか?

村上さん SMに関してはまったく抵抗はなかったですし、廣木さんらしい物語だなと。言葉にするのが難しい男女の揺れ動くさまを描いた繊細な題材だと思いました。ただ、企画が立ち上がってから数年経ったとき、僕よりもほかの人のほうが映画的にうまくいくような気がして、「オファーをいただいてありがたいんですが、あの人はどうでしょう?」と廣木さんに推薦したこともありましたね(笑)。

というのも、あまり年を取ってから演じると、年齢に見合わない社会的立場にいるヨシオが無能に見えてしまったりとか、無意識のうちにいろいろな意味合いが入ってしまうと思ったので。だからこそ、“宙ぶらりんの状態”のうちに演じたいというのがあったんですが、結果的には2年前の46歳のときに撮れてよかったなと感じています。

―つまり、年齢も経験も重ねたいまだからこそできた表現できた部分もあると。

村上さん そうですね。まずは、考えることをやめました。といっても、放り投げるということではなく、現場の状況に対する自分の反射神経や順応力を信じようと。いずれにしても、どんなに組み立てて行ったところで、廣木さんの脳みそには到底かなわないですからね。ただ、廣木さんは何も考えていない俳優は好きじゃないんだと思います。そういう難しさもありますが……。実際、何も考えていない場合、廣木作品はそのまま映ってしまう。ある意味、残酷な人ですよ(笑)。

押しつけがましくない人間の感情が描かれている

―菜葉菜さんは企画が立ち上がった当初から、「この映画にだけは出たい」とずっと思っていたそうですが、そういう気持ちにさせたものとは?

菜葉菜さん この世界に入ったとき、事務所の社長からたくさん映画を観るように言われて、そのなかで出会ったのが廣木さんの作品でした。いろいろと観ているうちに、映画として素晴らしいのはもちろん、廣木組の女優さんはみんな魅力的に映っているなと。それからは、自分もいつか廣木組で主演をしたいと思っていました。

いまでは考えられないですが、初めてオーディションで廣木さんに会ったときには、「あの役は私がやったほうがよかったと思います!」と言ってしまったこともあったくらい。すごい食いつき方をしてしまったこともあります(笑)。

村上さん あはは。でも、いまでもやりそうじゃない?

菜葉菜さん さすがに、もう大人になりましたよ。そんなふうに、廣木組での主演をひとつの目標としているなかで声をかけていただいたのが『夕方のおともだち』。原作を読んだときに、最初と最後の印象がこんなにも違うことに驚きましたし、押しつけがましくない人間の感情やその裏に隠された人間関係がすごく素敵だと感じたので、絶対にやりたいと思いました。

いつまで役者を続けられるかわかりませんが、この役をやるまではやめられないなと。それくらいの気持ちにさせられる作品でしたし、廣木さんも「絶対にやろうね」とずっと言ってくださっていたので、モチベーションが落ちることはありませんでした。待ち続けてよかったです。

女王様から教えてもらったのは、信頼関係の大事さ

―役作りのために、おふたりで本物の女王様からレッスンは受けたとか。その過程で衝撃を受けたことといえば?

村上さん 実は、SMに対して僕は免疫があるんですよ。といっても、知り合いに女王様がいるとかではなくて、廣木さんの『不貞の季節』という作品でもSMが題材だったので。でも、そのころから美しくもありある角度から見るとおもしろいというイメージのほうが強いですね。

菜葉菜さん 今回は、おふたりのM男さんに来ていただきましたが、そのうちのひとりは、少しぽっちゃりとしたM男役として映画にも実際に出ていただいています。

村上さん その方がレッスンのときにものすごく爽やかに登場した時点でおもしろかったですが、女王様にムチで叩かれたときに「痛い!」ってずっと言ってたんですよ。「気持ちいい」かと思っていたのに、やっぱり普通に痛いんだと。そう考えたら、おかしくて笑いをこらえるのが必死でした。

菜葉菜さん あれは本当におもしろかったですよね。

―そのなかで、参考にされたこともありましたか?

村上さん もうひとり初老の男性がいたんですが、女王様から唾液をいただくというプレイを見せていただいたときのこと。女王様の唾液をありがたそうにむにゃむにゃしながら味わっていたので、それは劇中でも真似させてもらいました。

―“女王様の極意”として学んだことがあれば、教えてください。

菜葉菜さん 今回は、技術的な面での苦労が多く、特に難しかったのはムチの振り方。ムチを家に持ち帰って、壁をペチペチと叩いて練習したほどです(笑)。女王様にはいろいろなお話を聞かせていただきましたが、そこで教えていただいたのは、信頼関係がいかに大事であるかということ。女王様と相手が一緒に世界を作り上げていくからこそ感じるのであって、私が同じことをしても、きっと気持ちよくはないでしょうね。

村上さん 確かに、一歩間違えれば……というような世界ですから。もしかしたら、普通の恋人同士よりも精神的なつながりは強いんじゃないかな。今回の映画では、そういった部分もきちんと映すことができたのでよかったです。

エロティシズムを表現できる女優に憧れていた

―菜葉菜さんは、以前から「エロスを追求している」とお話されていますが、本作を通じてエロスに対する理解に変化はありましたか? 

菜葉菜さん そういう発言をしていた自分が恥ずかしいんですが、いま思うと若いころは追求の仕方を間違っていたんじゃないかなと。昔の女優さんたちがエロティシズムを表現している姿に憧れていたので、「脱ぎたくないとかありえない」とか言って尖っていただけだと思います。でも、そのときはエロスを身につけないといい女優になれないと思っていたんですよね。

―劇中の菜葉菜さんには、同性から見ても感じる色気やエロスがありました。

菜葉菜さん 本当ですか!? これまで、友達からはエロスのかけらもないと言われてきたので、もし少しでも私からエロスを感じていただけたのならすごくうれしいです。

―特に、女王様の衣装を着ていたときのお尻が美しかったです。

菜葉菜さん ありがとうございます。確かに、お尻だけは唯一褒められるので、ぜひそこは注目していただけたらと(笑)。

村上さん 発言し続けていたことが、実ってよかったね。

菜 葉 菜さん そうですね。でも、ムラジュンさんは「菜葉菜のどこにエロスを感じたの?」と思ってますよね。

村上さん そんなことないよ! 現場で、“歩くエロス”だなと思って見てましたよ。「エロスが来た」とか「エロスがお弁当食べてるな」とか「咀嚼音すらエロスティック」だった(笑)。

菜葉菜さん ちょっと、鼻がヒクヒクしてますけど!

村上さん あはは。

女性に対しては、“在り方”を見るようになった

―ちなみに、村上さんが女性にエロスを感じる瞬間があれば、教えてください。

村上さん ここ1年くらいですが、女性を一般論としてのエロの対象として見なくなったような気がしています。もちろん人並みに性欲はありますよ。それよりもいまは、魂のレベルというか、その人の“在り方”を見るようになりました。

―なるほど。もはやエロスを超越してしまっている感じなんですね。

村上さん ただ、脇パイは好きですね。

菜葉菜さん え? トップではなくて脇のほう? 初めて聞いたんですけど(笑)。これはおもしろいので、ぜひ書いてもらいましょう!

―書いていいのでしょうか!?

村上さん 大丈夫ですよ、僕NGありませんから。

―では、脇パイに(笑)はつけておきます。

村上さん いやいや、笑ってないです。真顔です。

―(笑)。では、「(真顔で)脇パイが好き」ということで。ありがとうございます。劇中では、容赦なくムチで叩かれたり、縛られて海に入れられたりしていたので、苦労したシーンもあったと思いますが。

村上さん 僕は縛られるが意外と屈辱的でしたね。自分では身動きが取れないので、縛られた状態のまま助監督たちに運ばれるんですが、それが屈辱的でとにかく早くほどいてほしかったです。

ちなみに、今回使用しているムチは素材がウレタンだったので、本物に比べると実はあまり痛みはありません。ただ、そのおかげで感情が乗せやすくなり、芝居のボリュームをコントロールできるようになっています。

現場があれば、ほかには何もいらない

―なるほど。そういった理由があるんですね。

村上さん ただ、ヨシオの同僚役を演じた鮎川(桃果)さんに皮のベルトで叩いてほしいとお願いするシーンだけは、めちゃくちゃ痛かったですね。あのシーンは、セットを壊す関係上、1発OKしか許されなかったので、本番の前に「いいのが(痛いのが)入るまで次のセリフを出さないから本気で来て」と言っていたんです。

そのときの鮎川さんは戸惑っているような感じでしたが、女優って怖いですよね。始まったら、いきなりバチコーンって(笑)。本当に痛かったです。完成した作品をよく見たら、鮎川さんはベルトを2回手に巻いていたんですよ。彼女みたいなタイプは、本来だったらそういうことをできないはずなんですが、それを自然にしてしまうのが“廣木マジック”だなと改めて思いました。

―そのシーンは、ぜひ注目ですね。ヨシオはSMによって、生きる喜びを感じていましたが、おふたりがそういう感覚を得る瞬間といえば?

村上さん 僕は、やっぱり現場に立っているときですね。今回で言うと、コロナ禍前でみんな楽屋も一緒だったので、そこで雑談している瞬間が一番楽しかったなと。あれがあれば、僕はほかに何もいらないですね。

菜葉菜さん 確かに、私も現場が本当に好きですね。

村上さん 女性らしく、ヨガとかピラティスしているときじゃなくていいの?

菜葉菜さん (笑)。どっちもやっていません! 実は最近もマイナス10度の場所で、毎朝4時起きが続いたことがあって、「私は何やってるんだろう」と思っていたんですけど、いざ撮影が終わって「やっと解放されたー!」となったら、一気に抜け殻みたいになってしまって。あんなに毎日つらかったはずなのに、あの瞬間に生きている実感を味わっていたんですよね。だから、現場にいるときが、一番充実しているんだと思います。

村上さん この仕事向いているんだろうね。ナチュラルボーン女優だと思うよ。

菜葉菜さん じゃあ、もう少しがんばって続けていきます!

怖がらずに、この世界に飛び込んでほしい

―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。

菜葉菜さん 女性のなかには、もしかしたらSMという部分に抵抗がある方もいるかもしれませんが、観る前と後で本当に大きく印象が変わります。せつなくて、せつなくて、堪らないのに、こんなに爽やかな気分になれる映画はないです。何気ない男と女の日常を切り取っているので、彼らの感情には共感できる部分もあるのではないかなと。ぜひ、怖がらずにこの世界に飛び込んでいただきたいです。

村上さん キラキラ系ではないものの、ラブが詰まっている優しい作品になっているので、身構えることなく気軽に観ていただきたいですね。SMを全面に押し出しているわけでもないので、友達との会話のなかで出てくる「私ってMかも?」みたいな話題の延長だと考えてもらうくらいでいいのかなと。数ある作品のなかで、選んでいただけるのであれば、期待を裏切ることはないと思います。

インタビューを終えてみて……。

終始、息の合った絶妙なやりとりを見せてくださった村上さんと菜葉菜さん。思いがけない回答には、笑いが止まらなくなるほど楽しませていただきました。おふたりから教えていただいたそれぞれの見どころポイントなどにも注目しながら、ぜひこの世界観を堪能してください。

愛の儚さと美しさが心の奥に優しく染みる

性別や立場を超えた絆で結ばれたヨシオとミホが繰り広げる異色の愛を描いた唯一無二のラブストーリー。閉塞感が漂う日々を生きる私たちに、人とつながることの大切さ、そして癒しと生きる実感を与えてくれるはず。爽快感に包まれる予想外のラストもお見逃しなく!


写真・山本嵩(村上淳、菜葉菜) 取材、文・志村昌美

ストーリー

寝たきりの母親と暮らし、市の水道局に勤める一見真面目なヨシダヨシオ。しかし、いっぽうで筋金入りのドMな一面を持ち、夜な夜な街で唯一のSMクラブへ通いつめ、女王様のミホからお仕置きを受けていた。

ところが、ヨシオをこの世界に目覚めさせ、突然目の前から姿を消してしまった“伝説の女王様”ユキのことが忘れられず、このところプレイに身が入らない。そんなある日、思いもしないところで彼女を見かけたヨシオは、ミホを置き去りにしてユキを必死に追いかける。その先でヨシオとミホを待ち受ける結末とは……。

続きを覗きたくなる予告編はこちら!

作品情報

『夕方のおともだち』
2月4日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズ 大阪ステーションシティシネマ 全国順次ロードショー
配給:彩プロ
https://yugatanootomodachi.ayapro.ne.jp/
©2021「夕方のおともだち」製作委員会