志村 昌美

ハリウッド人気大作に大抜擢! 安部春香「見苦しくても諦めない」成功の秘訣

2021.10.20
世界的な人気を誇るシリーズが送る最新作『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』が、いよいよ日本に上陸。しかも今回は、主人公を務める漆黒の忍者ヒーロー“スネークアイズ”が、日本を舞台に“未曽有の忍者テロ”を防ぐために戦います。それだけに、これまで以上の期待に胸を膨らませている人も多いのでは? そこで、本作で重要な役どころを担っているこちらの方にお話しをうかがってきました。

安部春香さん

【映画、ときどき私】 vol. 421

イギリスで女優デビューを果たしたのち、現在はハリウッドでも注目を集めている安部さん。劇中では、秘密忍者組織“嵐影一門”に仕える暁子という名のくのいちを演じています。今回は、キャスティングの裏側や日本での忘れられない撮影の思い出、さらに海外で働くおもしろさなどについて、語っていただきました。

―まずは、本作の出演が決まった経緯から教えてください。

安部さん 最初のオーディションは、2019年の7月。自分で撮った動画による審査が行われた後、監督やプロデューサーとオンラインでお話をさせていただきました。ただ、それ以降まったく音沙汰がなくなってしまったので、「ダメだったんだな」と諦めかけていたところ、9月中旬にエージェントから「オファーされるかも!」という電話が入ったんです。

と言っているうちに正式なオファーをいたただき、数日後には契約書にサインをすることに。そのときは、まだ具体的なスケジュールを知らされてはいませんでしたが、翌日に再度電話があり、「アクションのトレーニングとリハーサルがあるので、明日の飛行機でカナダに行ってください」と。なので、何の実感もないまま気がついたらカナダ行きの飛行機に乗っていたという感じです(笑)。

―そんな急展開だったとは……。ただ、激しいアクションが求められる作品で、事前に体の準備をしないままで取り組むのは大変だったのではないでしょうか。

安部さん 今回は、撮影前の準備期間として、カナダで2か月ほどトレーニングする時間をいただけたので、それはあまり問題ではありませんでした。あとは、もともとボクシングやダンスをしていたから大丈夫だった、というのもあるかもしれませんね。あのときは、普段から体を動かしていて本当によかったなと思いました。

―いつでも行ける準備ができていたというは、さすがですね。もともとオーディションを受けようと思ったきっかけは何ですか?

安部さん 私は『NARUTO -ナルト-』を読んで育っていたこともあり、忍者やくのいちには小さい頃から憧れていたので、いつかこういう役をやってみたいとずっと考えていました。今回はたまたまエージェントからすすめられて受けたのがきっかけでしたが、出演できることになってすごくうれしかったです。

プロフェッショナルの集まりで刺激を受けた

―出演が決まったとき、最初に喜びを伝えたのは誰ですか?

安部さん 一番初めではないですが、空港に向かう途中でメールしたのは、本作でストームシャドーを演じたアンドリュー(・小路)。彼とはロンドンで何度も一緒に仕事をしたことがあったので、実は10年来の友達なんです。私より先にキャスティングが決まっていて、すでにカナダでトレーニング中だったので、「いまからカナダに行くよ!」と伝えたらすごく驚いていましたね。

―ただ、これだけ世界的に知られている作品へ参加することへのプレッシャーもかなりあったと思います。

安部さん そうですね。しかも私は人見知りが激しいので、すごく緊張していました。ただ、アンドリューや以前共演したことのある平(岳大)さんがいてくださったので、安心感は大きかったです。あと、スネークアイズ役のヘンリー(・ゴールディング)もすごくフレンドリー。優しく受け入れてくれたので、現場に入った瞬間からリラックスして挑めました。

―今回の現場で、刺激を受けたことはありましたか?

安部さん 日本のキャストのみなさんも含め、どなたも集中力の高さと切り替えの早さがすごいので、本当にプロフェッショナルの集まりだと思いました。なかでもヘンリーとアンドリューは、直前まで冗談を言い合って笑っていても、カメラが回った瞬間、パッと役に入り込みますから。ヘンリーはもともと旅番組のMCなどをしていた方で俳優としてのキャリアはそこまで長くないんですが、これは生まれ持った才能なんだろうなと感じました。

―では、演じるうえで一番苦労したところといえば?

安部さん 今回はアクションに加えて、特殊な武器も扱っていたのでそれが難しかったですね。みなさんに助けていただきながら、必死にトレーニングに取り組みました。

日本での撮影は、歴史を肌で感じることができた

―実際にできあがった作品を観たときの感想についても、お聞かせください。

安部さん 私は自分の演技を見るのが苦手なので、実は自分のシーンはあまり覚えていないんです(笑)。なので、印象に残っているのは、最後のほうにアンドリューが脚本にはないことをしたシーン。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、指輪に関係する場面です。その場で見ていたときも涙が出そうになりましたが、彼の取ったある行動によって役が抱えている葛藤や感情がより伝わってくるので、パワフルなシーンになっていると感じました。

―ぜひ、「指輪」をキーワードに注目ですね。日本の撮影で、忘れられない経験もありましたか?

安部さん 圓教寺で撮影したときはすごく感動しましたし、本当に光栄なことだと感じました。そのほかに印象にも残っているのは、姫路城や岸和田城。どの場所も、そこ立っているだけで歴史を肌で感じられたので、その雰囲気が役に影響を与える部分もありました。

―撮影以外にも、思い出に残っているエピソードがあれば、教えてください。

安部さん 日本に詳しいグルメなヘンリーは、おいしいお店をたくさん知っていたので、キャストのみんなをいろんなところに連れて行ってくれました。なかでも、彼がお気に入りの麻布十番にあるピザ屋さんは、みんなもすっかりファンになってしまったほど。本当に、楽しかったです。

―そうやってチームとしての一体感ができていったんですね。安部さんは現在海外に在住されているということですが、外から見て日本の良さを感じることはありますか? 

安部さん 日本を離れていることもあり、私はどんどん日本が好きになっていくのを感じています。日本のキャストやクルーのみなさんは、プロ意識が高く、本当に勤勉でフレンドリー。そういったひたむきさには、感銘を受けました。日本で撮影したいとずっと思っていたので、今回それが叶ってうれしい気持ちでいっぱいです。

お芝居が好きという芯がブレることはない

―日本が恋しくなる瞬間といえば、どんなときでしょうか。

安部さん 日本食はつねに恋しいですね(笑)。コロナ禍で自炊をする機会が増えたこともあって、いまは毎日白米を食べています。

―安部さんはニューヨークとロンドンで幼少期を過ごし、中学と高校は日本、そのあと18歳で女優になるためにロンドンへと向かわれたそうですね。日本ではなく、最初から海外で女優になろうと思った理由は?

安部さん 私は7、8歳くらいで女優になることを心に決め、10代の頃は劇団ひまわりに通っていたこともありました。その後、本格的にお芝居を勉強したいと思ったときに、「極めるのなら演劇の本場であるロンドンで」と思ったのが、留学を決めたきっかけです。

―実際に学校に入ってから、苦労したことはありますか?

安部さん 幼い頃に海外経験があっても、しばらく話していないと英語も忘れてしまうので、1年目は言葉の壁がかなりきつかったですね。そんななかで、私がラッキーだったなと思うのは、最初のオーディションで受かった役が、アジア人向けの役ではなく、人種や国籍に関係のない役であったこと。なぜなら、海外にいる日本人俳優が一番苦労するのは、アジア人枠の役が少ないことだからです。

実は、これは私が女優を目指したきっかけにもつながっていることなのですが、ロンドンの小学校に通っていたとき、学校の発表会で先生が私を主役に抜擢してくれたことがありました。本来ならその役はイギリス人男性の白人でなければならなかったのですが、先生は英語もうまく話せない日本人の女の子である私を選んでくれたのです。

そのときに、こんなにオープンな人がいるのかと感激し、それが女優を目指す大きな一歩となりました。なので、学校を卒業して最初の役も人種に囚われない役であったことは、自分のなかでも糧になったと思います。

―女優を続けるなかで、大変なことといえば?

安部さん オーディションを受けるために役作りをしていると、役や作品に恋してしまうので、役をいただけると天にも昇るくらいうれしいですが、逆にほかの人に行ってしまうと、まるで失恋したような気分に……。それが毎週のように繰り返されるのは、けっこうつらいですね。ただ、自分のなかでお芝居が好きであるという芯はブレることなくずっとあるので、とにかくがむしゃらに進んでいくしかないと思っています。

言語や国境に囚われずに活動していきたい

―安部さんのように海外で働くことに興味がある人も増えています。海外に出てよかったと思う瞬間は?

安部さん いろんな人と出会えること、そしてさまざまなインスピレーションを受けながら切磋琢磨して仕事や生活できることは本当に楽しいです。違う言葉や文化が融合することで化学反応が起き、新しいものが生まれるというのは、素晴らしいことだと思います。まさに、この映画もそうですよね。さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが、日本という国と文化にインスパイアされて生まれた作品ですから。そういう部分には、すごくワクワクします。

―女優を続けるなかで、ご自身なりの信念があれば教えてください。

安部さん 私は頑固なので、どんなに見苦しくても自分の夢を追いかけることを諦めたくないと思っています。そういう思いの強さに関しては、自負しているところです。

―今後、チャレンジしたいことはありますか?

安部さん 作品や役の大小に関係なく、役者魂を打ち込めるようなものに携わっていきたいと考えています。是枝裕和監督など大好きな日本の作品は多いので、ぜひ日本でもお仕事できたらと。言語や国境に囚われることなく、幅広く取り組んで行きたいので、まだまだやりたいことはたくさんあります。

―それでは最後に、公開を楽しみにしている方へ向けてメッセージをお願いします。

安部さん 本作は、日本に影響を受けたさまざまな国のキャストとスタッフが集結して一生懸命作り上げました。純粋な日本としてではなく、パラレルワールドにある『G.I.ジョー』の世界のジャパンとして楽しんでいただけると思っています。私自身は凛とした日本人女性の誇り高さや芯の強さというものを意識しているので、そのあたりもぜひ注目していただけたらうれしいです。

インタビューを終えてみて……。

劇中の凛々しい雰囲気も素敵でしたが、素顔はとても穏やかで柔らかいオーラが魅力的な安部さん。とはいえ、海外で人一倍の努力をされてきた芯の強さも伝わってきて、たくさんの刺激をいただきました。今後も、国境を飛び越えた幅広い活躍を楽しみにしたいと思います。

体全体で味わう究極の疾走感!

『G.I.ジョー』シリーズの代名詞でもある驚異のアクションと、見たことのない日本が堪能できる本作。圧倒的なスケールと迫力の映像は、大きなスクリーンの没入感とともに味わいたい1本です。


取材、文・志村昌美 

ストーリー

日本の闇組織から、ある男の命を救ったスネークアイズ。その出来事をきっかけに、秘密忍者組織“嵐影”への入門を許可される。嵐影は600年の間、日本の平和を守り続けてきたが、悪の抜け忍集団と国際テロ組織“コブラ”連合軍による攻撃にさらされ、危機に瀕していた。

そんななか、スネークアイズの前に立ちはだかるのは、嵐影の“3つの試練”。はたしてスネークアイズは、それらを乗り越え、真の忍者として迫りくる“忍者大戦”から、世界を守ることができるのか。これまで謎に包まれてきたスネークアイズ誕生の秘密が、いま明かされる!

テンションが上がる予告編はこちら!

作品情報

『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』
10月22日(金)より、全国公開 
配給:東和ピクチャーズ
https://www.gi-j.jp/ 
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