日本での体験全てが僕の糧に…「バレエ界きっての異端児」が日本を称賛!
セルゲイ・ポルーニンさん
【映画、ときどき私】 vol. 391
パリの大学で教鞭をとるエレーヌが年下で既婚者のロシア人男性アレクサンドルと運命の恋に落ちていく様が描かれている本作で、アレクサンドルを演じているのが“孤高の天才ダンサー”として知られるセルゲイさん。いまやバレエ界のみならず、映画界でも幅広い活躍をみせています。そこで、自身の恋愛観やラブシーンの裏側、さらには日本での忘れられない思い出について語っていただきました。
―最初にオファーがあったとき、ダンサーではない役を演じることに興奮したそうですが、物語としてはどのようなところに魅力を感じましたか?
セルゲイさん まずは、主人公たちのロマンチックな関係が描かれているところがいいなと。なかでも、2人の人間が純粋に、そして自分たちの愛の情熱のままに求め合う姿には心を惹きつけられました。あとは、エレーヌ役のレティシア・ドッシュという素晴らしい女優と一緒に演じられることも魅力的に感じた理由です。
―アレクサンドルを演じるうえで、何か意識したことはありましたか?
セルゲイさん 「ロシア人男性ならどうするか」ということを考えていたので、念頭に置いていたのは、ロシア人男性が持つ一面や重みを出すことでした。ただ、キャラクターの印象としては、映画『ナインハーフ』のミッキー・ロークのような弱さをも持った男性であり、フランスを舞台にした映画『ラスト・タンゴ・イン・パリ』のマーロン・ブランドを彷彿とさせるようなところのある男性だなと。そういったものも参考にしながら演じていきました。
愛する人とだけ一緒にいたい一途なタイプ
―恋愛にすべての情熱を捧げてしまうエレーヌの姿に、多くの女性たちが共感すると思いますが、セルゲイさんの恋愛観について教えてください。
セルゲイさん 僕もどちらかというと一途なほうで、「誰かを愛したらその人だけ」となるタイプ。そういったこともあり、今回の作品では自分とアレクサンドルを重ねることはありませんでした。なぜなら、僕はアレクサンドルのように浮気をするような人は許せませんからね(笑)。
とはいえ、もちろん人生というのはそんなに簡単なものではなく、とても複雑で人によっていろんな生き方があるので、そういうことに対してオープンではあります。ただ、僕は愛する人と一緒にいたいタイプというだけです。最近、僕には息子が生まれたのですが、それによって愛する人との間にさらに大きな深い愛を感じています。
―素敵ですね。では、セルゲイさんにとって情熱の源とは?
セルゲイさん いまは、やっぱり息子の存在です。泣かれてしまったら、大変ですから(笑)。育児もしっかりとしていますよ。
―いいお父さんですね。では、今回ここまで身も心もさらけ出す役に挑戦してみていかがでしたか?
セルゲイさん 監督のダニエル・アービッドが本当に素晴らしく、現実的なところと芸術的なところとのバランスはもちろん、物事に対する見方がとても明確だと思いました。なので、彼女の指示のもとで演技をしていると、どんなにハードなシーンでもそんなことを感じることなく、気がついたらできていたみたいなことがあったほど。本当に心地よい現場でした。
濃厚なラブシーンはお酒に助けてもらった
―とはいえ、レティシアさんとのラブシーンは、かなり濃厚なものだったので大変だったのではないでしょうか?
セルゲイさん 確かに、容易ではないシーンはいくつもありました。というのも、撮影の最初からハードなラブシーンがあり、まだお互いをあまり知らない状態のなかで大勢のクルーに囲まれてやらなければいけませんでしたからね。何もかもが新しくて、ときにはストレスを感じることもありました。
―どのようにしてその状況を乗り越えたのですか?
セルゲイさん 僕の場合、助けになったのは高級なコニャックです(笑)。劇中のアレクサンドルは、ずっとお酒を飲んでいる設定だったので、おかげでお酒を飲むことができ、僕はリラックスできました。
―ということは、劇中で飲まれているのは本物のコニャックだったんですね。
セルゲイさん 撮影で必要かなと思って、実は自分でコニャックを3本用意していたんです(笑)。アレクサンドルはつねにお酒を飲んでいますが、おそらくそれは彼のなかにある弱さを表現しているものだと考えました。僕はそこを利用させてもらったと言えるかもしれませんね。
―そのあたりも注目ですね。ちなみに、バレエだと事前に相手と何度も練習して息を合わせてから本番ですが、今回のようにいきなり本番で相手とぶつかり合うような経験をして、何かご自身のなかに発見はありましたか?
セルゲイさん まず痛感したのは、もっともっと演技の勉強をしなければいけないということ。ダンスと同じように、基礎の部分をしっかりと持ちたいという気持ちが湧き上がりました。演技というのは、ダンスに比べると、その場の雰囲気や新しい環境に、本能あるいは感性を持って挑むもの。だからこそ、そのためには揺るぎない土台が必要なんだと思いました。
そんななかで思い出したのは、俳優のマシュー・マコノヒーが以前メディアに話していたこと。彼は1作目で即興と自分の感性だけで演じて非常に高い評価を受けたので、その成功を受けて2作目も同じようにしようと思ったら、全然ダメだったそうです。おそらく僕も今回は自分の感じるままに演じたことがよかったかもしれませんが、おそらく今後はきちんとした演技が必要になるだろうということに気づかされました。
日本での経験はアーティストとしての糧となった
―次回作も楽しみにしております。セルゲイさんはこれまで何度か日本にいらっしゃったことがあると思いますが、日本で思い出はありますか?
セルゲイさん 実は僕にとってはウクライナを離れて、初めて訪問した外国が日本でした。そのときは京都に行きましたが、まだ幼かったこともあり、すべてが強烈な印象として残っています。ホテルに泊まったのも初めてでしたし、街の美しさや異なる建築物、お寺などにも魅了されました。あと、もちろん和食も大好きです。料理の盛り付け方や配膳の仕方など、すべてが洗練されていて、考え抜かれているのが素晴らしいですよね。
大人になってからも日本を訪れることがありましたが、そのときもユニークな人々、伝統、芸術、映画などと出会い、それらはすべてアーティストとしての僕にとって糧となりました。皇室の方の前で踊る機会にも恵まれましたが、そのときには伝統的な礼儀についても触れることができ、とても印象に残っています。世界が画一的になる傾向にあるなかで、日本には今後もそういった部分を持ち続けてほしいです。
―ありがとうございます。それでは、日本の観客に向けてメッセージをお願いします。
セルゲイさん まず、僕のファンの方には「どうかショックを受けないでくださいね」と最初に伝えておきますね(笑)。でも、とてもクオリティが高い映画で、俳優も素晴らしく、映像も美しい作品になっています。監督の特出した感性、そして全編通して描かれている愛をみなさんにも楽しんでいただきたいです。
インタビューを終えてみて……。
“バレエ界きっての異端児”と言われてきましたが、とても柔らかいオーラを放っていたセルゲイさん。特に、愛する人への思いや息子さんのお話をされているときの優しい笑顔が印象的でした。劇中では、ミステリアスで色気が漂うセルゲイさんに誰もが釘付けになること間違いなしです。
落ちたら抜け出せない“恋の沼”にはまる!
このうえない喜びを味わわせてくれると同時に、心の奥をかきむしるような痛みを与えるのが愛のなせるわざ。アレクサンドルに見つめられるだけで、あなたもエレーヌとともに欲望の渦に巻き込まれてしまうかも。あらがえない情熱が湧き上がる瞬間を体感してみては?
取材、文・志村昌美
ストーリー
「去年の9月から何もせず、ある男性を待ち続けた」と追想しているのは、パリの大学で文学を教えるエレーヌ。彼と出会って以来、仕事をしていても、友だちといても、彼と抱き合うこと以外に何の意味も持てずにいた。その彼とは、あるパーティで出会った年下で既婚者のロシア人アレクサンドル。
友人からのめり込まないように忠告されていたエレーヌだったが、彼女にとってはいまの恋を生きることがすべてだった。そして、「3週間フランスを離れる」とアレクサンドルから告げられたエレーヌは、徐々に彼の不在に耐えられなくなってしまうことに……。
鼓動が高まる予告編はこちら!
作品情報
『シンプルな情熱』
7月2日(金)Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
配給:セテラ・インターナショナル
http://www.cetera.co.jp/passion/
©2019L.FP.LesFilmsPelléas–Auvergne-Rhône-AlpesCinéma-Versusproduction
©Julien Roche
©Magali Bragard