志村 昌美

岡田健史「綾野剛さんとの出会いは初日から衝撃の連続」転機の瞬間を語る

2020.11.12
この秋も話題作が目白押しですが、そのなかのひとつと言えば、注目のクライム・サスペンス『ドクター・デスの遺産-BLACK FAILE-』。安楽死を手口とする連続殺人犯“ドクター・デス”と警視庁捜査一課No.1コンビが繰り広げる攻防戦が、スリリングに描かれています。そこで、本作に出演しているこちらの方にお話をうかがってきました。

俳優の岡田健史さん

【映画、ときどき私】 vol. 342

今年3月に公開された『弥生、三月-君を愛した30年-』でスクリーンデビューを果たしたばかりにもかかわらず、2020年の公開作品は本作を含めて5本(公開延期中の作品を含む)という岡田さん。ドラマでも主演を次々と務めており、“若手俳優の筆頭”として着実に存在感を強めています。

今回は、劇中で新米刑事の沢田圭役を演じた岡田さんに、役者として刺激を受けた出来事やプライベートで癒される瞬間などについて語っていただきました。

―原作にはないオリジナルキャラクターの刑事役でしたが、演じるうえで意識したことはありましたか?

岡田さん 世に出たのは、ドラマ『MIU404』のほうが先でしたが、僕としては刑事役を演じたのはこの作品が初めて。そういったこともあって、事前に刑事とはどういうもので、警察の組織はどういうふうに成り立っているのか、といったいろいろな知識を自分のなかに入れて準備をしました。

ただ、撮影中はそういうことは一切考えず、大事にしたのは、綾野剛さんが演じる犬養刑事と北川景子さんが演じる高千穂刑事とどう絡むか。周りとの関係性を出すことに集中しました。あとは、説明台詞に耐えられるような対策と準備をして挑みました。

―具体的に、どのようなことをされたのでしょうか?

岡田さん 説明台詞には、情報を伝える役割があるので、極力自分の感情を込めずに言う意識を持ちました。今回でいうと、被害者がどんな病気を患っていて、医者が何をしたのかということを伝えなければなりませんでした。

ただ、できあがった作品を観て、自分のレベルの低さに落胆したというか、まだまだ下手くそだなと感じたのが正直な感想です。もちろん、そのときのベストは尽くしましたが……。とはいえ、自分がしなければいけないことも知ることができたので、それはしっかりと受け止めていきたいと思っています。

自分を客観的に見ることを当たり前にしていきたい

―この作品で学んだことが、次に刑事役を演じた『MIU404』で活かされたこともあったということでしょうか?

岡田さん そうですね。先ほど話していた説明台詞の部分では成長できているというか、反映できていると思います。といっても、それはあくまでも僕のものさしでしか測れないので、「変わったの?」と思われることも多いかもしれません。ただ、それくらい繊細なことなので、いつか僕の努力が実を結べばいいなと。

いまは僕の“粒子”が粗すぎるのでどうしても目についてしまうんですが、自分のダメなところを自分自身で見つけられたことと、現時点での自分の成長に気がつけていることは、うれしいことではあります。

―ご自身のことを冷静に分析されているんですね。

岡田さん 自分を客観視できているかどうかは僕にはよくわからないですけど、「その歳で自分のことを俯瞰で見れていてすごいね」といったことはよく言われますね。自分としては無意識にしていることではありますが、これからもそれを当たり前にしていきたいと考えています。

―そういった意識があるからこそ、作品ごとに進化されているように感じます。

岡田さん 実際、この作品に携わったことはほかの作品の“未来”にもつながっているので、本当にひとつひとつの仕事を一生懸命にこなすしかないんだなというのを痛感しています。そのいっぽうで、自分の芝居が下手だと思うことも僕は大切にしていきたいなと。そう思えなくなった時点で、僕はダメになってしまうというか、生き生きできなくなりそうなので、その感覚は持ち続けていきたいですね。

反省点を見つけたら、あとは反復するのみ。作品に入る前は、家でとことん練習してからすべてのシーンに挑んでいますが、そうやって乗り越えていくしかないと思っています。

いつか綾野剛さんのことを上回れるようになりたい

―それでは、現場の様子についてもおうかがいしますが、主演の綾野剛さんから刺激を受けたことなどがあれば、教えてください。

岡田さん 本当に、初日から衝撃の連続でしたが、特に綾野さんの作品に対する愛がすごいと感じました。現場という第一線の場所でその姿を見ることができ、綾野さんのように愛する力が強い方と出会うことができてよかったと思っています。

撮影は去年の夏でしたが、それ以降、僕の作品に対する考え方や取り組み方が変わったと思います。その経験が僕にとって、この作品を通して良い収穫だったと思います。

―岡田さんから見た綾野さんの印象はいかがですか?

岡田さん 普段、僕はあまり他人に対して会う前から相手がどういう人なのかというのは想像しないほうですが、綾野さんに対しては、寡黙でクールなイメージを持っている人が多いんじゃないかなというのはありました。でも、全然そんなことはなくて、僕が言うのもおこがましいんですけど、綾野さんは子ども心のあるキュートな方なんですよ。

何に対しても好奇心を持ち、つねに自分を探求されている方なので、そういう姿を見て、自分もこうありたいと思うのと同時に、それをいつか上回れるようになりたいと思いました。

自分を鼓舞するためにプラスの言葉を口にしている

―では、北川さんと共演されてみていかがでしたか?

岡田さん いままでいろいろな現場を経験されて、そこで鍛錬を積み重ねてきた方だと思うので、そういった“歴史”を感じる瞬間はありました。現場では誰にも揺さぶられることなくつねに高千穂であり続けていましたし、誰よりも太く長い根っこを張った存在としていてくださったと思います。

なので、いま振り返っても北川さんの印象というより、高千穂としての印象のほうが強く残っているかもしれないですね。毎日、お互いに役としてどうあるべきかということの繰り返しだったような気がしています。

―今年は映画やドラマに立て続けに出演されていますが、20代に入ってから仕事への向き合い方に変化を感じることもありますか?

岡田さん デビュー当時に比べると、より責任を感じるようにはなりました。ときにはそれがプレッシャーになってしまうこともあるんですが、そうするとネガティブになりがちなので、自分を鼓舞するために、少しでもプラスの言葉に置き換えて口に出すようにしています。ただ、21歳になってから、責任感が自分のなかに芽生えているのは確かに感じていることです。

今年は触れ合うことの大切さを改めて感じた

―岡田さんは、高校野球の監督からもらった「気づきの多さが勝敗を分ける」という言葉を大事にされているそうですが、ここ最近で得た新たな“気づき”といえば? 

岡田さん 今年で言うと、やっぱり「触れ合うことの大切さ」ですね。これはみなさんも、感じているんじゃないでしょうか。特に、僕は意外とボディタッチをするタイプなので、握手やハグができなくなったことが実はすごくストレスです。

そんなふうに人と触れることで、「この人は気を許してくれているな」とか「緊張しているんだな」とか、わりと人の心がわかるものですから。人にとって、触れることは五感のひとつでもあるので、それができないのは痛いことですよね。この状況になって、改めて人と触れ合うことがいかにパワーのあることだったかに気づかされました。

―そうですね。ちなみに、忙しい毎日のなかで、癒しを感じる瞬間はいつですか?

岡田さん これも人と関わり合っているときですね。僕の考えを聞いてもらったり、相手の話を聞いたりすることで刺激をもらえるので。僕は人と交わることが根っから好きなので、それがいまは癒しになってますね。家にいるときは、つねに何かに追われているような気がしてあまり休まらないので、僕は周りの人たちに救われているんだと思います。

目指しているのは、人の体にある鈴を鳴らせる役者

―以前、「人の“鈴”を鳴らせる役者になりたい」とおっしゃっていたことがありますが、いま岡田さんの鈴を鳴らしているものがあれば教えてください。

岡田さん まさにいまの季節ですね。というのも、僕は秋が大好きなんですよ。そういう意味では、毎年この時期は鈴が鳴ってますね(笑)。

―秋が好きな理由は何ですか?

岡田さん 夏が嫌いなわけではないんですけど、気温が高いのは苦手で……。しかも、仕事の関係上、汗をかいてはいけないときがあったり、日焼けをしてはいけないときがあったりするので、そういう意味でも秋がいいなと。

ただ、夏が終わるとさみしい気分にはなるので、この時期は寂しくなるような夢ばっかり見てしまうんですよね(笑)。

―それでは最後に、今後ご自身が目指している理想像があれば、教えてください。

岡田さん 前と変わらずではありますが、「人の体にある鈴を鳴らせる役者になりたい」といまも思っています。人に「心はどこですか?」と聞くと多くの人が胸に手を当てるとは思うんですが、心も鈴も人によって場所は違うはずなので、体のどこにあるかも、大きさも数もわからない人の鈴を鳴らしていけたらいいなと。

僕にとって「鈴を鳴らす」というのは「刺激する」という意味ですが、そんなふうにいつまでもみなさんの気持ちを揺さぶることができる役者になりたいです。

インタビューを終えてみて……。

まっすぐな眼差しで、真剣にひとつひとつの質問に答えてくださった岡田さん。その姿から、役者であることに対する思いをひしひしと感じました。これからも観客の“鈴”を鳴らし続けてくれる素敵な役者さんとして、どんな演技を見せてくれるのかを楽しみにしたいと思います!

危険な錯覚に誰もが落ちる!

“ドクター・デス”の名で呼ばれ、130人もの患者を安楽死させた実在のアメリカ人医師をモデルに描いた本作。思わず息を飲む展開に引き込まれるとともに、生きることや死ぬことについて、自分自身のモラルも問われるはず。あなたにとって、ドクター・デスは救世主? それとも猟奇犯ですか?


写真・北尾渉(岡田健史) 取材、文・志村昌美

ストーリー

ある闇サイトに、「苦しむことなく殺してさしあげます」という告知を掲載し、依頼人を次々と安楽死させていた連続殺人犯ドクター・デス。その存在は、ある少年の通報がきっかけで明らかとなる。そこで、警視庁捜査一課の犬養と高千穂は、新米刑事の沢田たちととも、捜査を開始することに。

ところが、被害者遺族たちの証言はいずれも犯人を擁護するものばかりだった。ドクター・デスとは一体何者なのか。そんななか、驚愕の事実にたどり着いた犬養と高千穂に、さらなる悲劇が降りかかろうとしていた……。

目が離せない予告編はこちら!

作品情報

『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』
11月13日(金)より全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2020「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」製作委員会
doctordeathmovie.jp