志村 昌美

小篠恵奈「ちゃんと生きていかなきゃいけない」心がえぐられた瞬間を語る

2020.10.9
誰にでも経験のある忘れられない恋や人生における孤独。そんな思わず目を背けたくなる心の痛みに迫った注目作『あざみさんのこと 誰でもない恋人たちの風景 vol.2』がまもなく公開を迎えます。そこで、こちらの方にお話を伺ってきました。

主演を務めた女優の小篠恵奈さん!

【映画、ときどき私】 vol. 329

映画やドラマでキャリアを積み重ね、さまざまな役を演じてきた小篠さんが本作で演じたのは、主人公のあざみさん。昔の恋人を忘れられず、その孤独を埋めるために性に奔放な一面を持ち合わせた女性を熱演しています。今回は、難しい役どころで感じた思いや体当たりで挑んだ現場の様子などについて、語ってもらいました。

―最初に脚本を読んだときは、どのように感じましたか?

小篠さん 正直に言うと、最初はあざみさんのことが全然わかりませんでした。というのも、私とは真逆のタイプなので。そういったこともあり、今回は役作りをするというよりも、現場で越川(道夫)監督と「あざみさんとはどんな子なのか」ということについてたくさん話すことを意識していたと思います。

―あざみさんと自分とは、どのあたりが真逆ですか?

小篠さん あざみさんは、男性に助けを求めるのがうまいところがありますが、私は嫌なことがあっても誰かを頼る感覚があまりないんです。落ち込むときは、何もせずにひとりで落ちるとこまで落ちるみたいな感じで、けっこう自分で解決できてしまうタイプなんです。

そういう意味では、不器用ながらも誰かを頼って一生懸命生きようとするあざみさんに対して、どこかうらやましさはあったと思います。ただ、現実にいたら友達にはなれないかもしれないですけど(笑)。

あざみさんを演じるなかで苦しさを感じることもあった

―同じ女性から見ると、意見がわかれそうなタイプかもしれないです。

小篠さん もちろんわからなくもない部分もあるんですけど、男の人で心の隙間を埋めるのではなく、もっとほかのことにも目を向けたらいいのにとアドバイスしたくなりますよね。

でも、それだと彼女にはしっくりこないのかなと思うと、少し切なくなるのですが……。「飲みに行って、一回ゆっくり話そうか?」と言いたくなる感じですね(笑)。

―確かに、あざみさんが抱えている孤独や苦しみを見ていると、手を差し伸べたくなりました。

小篠さん あざみさんって、何もよけずに全部にぶつかってダメージを受けているところがありますよね。監督からも「あざみさんは、泣くのを必死に我慢しながら生きている子」と言われましたが、私自身がそこまで一生懸命に生きてきたことがなかっただけに、こんなにも気持ちがしんどくなるんだなと知りました。

あざみさんを演じながら心がえぐられるような感覚があったので、うらやましく感じる部分があるいっぽうで、本当に苦しかったです。

―では、この役と向き合うことで自分自身の生き方を考えさせられる部分もあったのでは?

小篠さん それはあったと思います。いままでは、「生きる」とか「死ぬ」ということをあまり考えたことがなかったのかもしれませんが、ラストシーンで「生きていかなくちゃね」というセリフを言ったときに、「私もちゃんと生きていかなくちゃいけないんだな」と強く感じました。

体当たりなシーンも余裕を持って臨むことができた

―あのセリフは、特にいま観客にも非常に響くところだと思います。そのほかに、印象に残っているシーンはありますか?

小篠さん 今回は、ひと混みの渋谷でゲリラ撮影をしたこともありましたが、そのときにスタッフさんがついてきていると思って歩いていたのに、気がついたら誰もいなくなっていたことがありました。携帯も何も持ってないまま渋谷で迷子になったときは、かなりテンパりましたよ!

―渋谷での映像もかなりの臨場感があるシーンでしたが、裏ではそんな事件もあったのですね。

小篠さん あと、知らない男の人がずっとついてきたこともありましたね(笑)。でも、カメラマンさんがその人を映らないようにうまく撮られていて、そういった技術的な面の高さにも感動しました。

―今回は、かなり体当たりなベッドシーンにも果敢に挑戦されていますが、そこに対する不安はありませんでしたか?

小篠さん もちろん、撮影の前はすごく不安でした。ただ、初日に海で引きずられるシーンを撮ったとき、それがあまりにも大変だったので、ベッドシーンのときにはある意味で吹っ切れていたかもしれないです。

実際、撮影の前には私がいち早く前貼りの準備を終わらせて、相手役の方を待っていたほどだったので、心に余裕を持って臨むことができたと思います。

―実際、完成した作品をご覧になったときはいかがでしたか?

小篠さん 正直、1回目のときは指の隙間から覗くような感じで、心臓がバクバクしてちゃんと見られませんでした。自分のお芝居を冷静にはなかなか見れないですよね。でも2回目に見たときは、あざみさんが昔の恋人であるキタジマさんとの関係に下した結論に対してずっと抱いていた疑問が解けたので、心を無にして純粋にストーリーを追うことができたんだなと感じました。

これからはどんな役でも誰にでもなってみたい

―では、共演者の方々についても、教えてください。

小篠さん ノダくん役の奥野瑛太さんついては、ただただ「すごい」とか「素晴らしい」という言葉しかないですね。本当にいろいろなことを考えて現場に入っていらっしゃって、そこで放たれる爆発力がすごかったので、その勢いには押されそうになったことも。なかなかできることではないので、刺激をいただきました。

キタジマさん役の斉藤陽一郎さんは、つねにキタジマさんでいてくださったので、「この人に寄りかかっていればあざみさんでいられる」と思えましたし、本当に助けていただいたと思います。実際の斉藤さんは、フランクでひょうきんな方なんですよ。

あと、シン役の嶺豪一さんは、以前もご一緒したことがありましたが、あの目がすごく好きなんですよね。今回演じていて、「シンにはいい女の子を見つけて幸せになってほしい」と願わずにはいられませんでした。

―この作品を経て、女優としてもさらに幅が広がったと思いますが、今後演じてみたい役はありますか?

小篠さん 月並みな答えになってしまうのですが、やれるならどんな役でも挑戦したいです。私は自分を使って自分じゃない誰かになりたいという気持ちがあるので、誰にでもなってみたいですね。

私はお芝居をすることが本当に好きなので、この作品がまた次の作品につながっていけばいいなと。そういう意味でも、今回は私にとってもいいチャレンジだったと思っています。ただ、もう27歳になるので、女子高生の制服を着るのはちょっと厳しいかなというのだけはありますね(笑)。

休みの日の息抜きでハマっていることは?

―それでは、いまプライベートでハマっていることがあれば、教えていただけますか?

小篠さん 去年、撮影が終わったあとすぐに1週間ほど免許合宿に行って、運転免許を取りました。それ以降、休みの日はずっとドライブしていますね。この前も、レンタカーで仙台までひとり旅行をしてきました。山とか川を見るのが好きなので、山奥を走ったりして楽しんでいます。

―自然のなかをドライブとは、気分転換には最高ですね! あと、マンガもお好きなんですよね?

小篠さん そうですね。マンガを読んだり、お気に入りのキャラクターを描いたりするのが好きなんです。

―ちなみに、ananweb読者にオススメしたいマンガはありますか?

小篠さん 少女漫画だったら、『コレットは死ぬことにした』というのにいまハマっていますが、これに胸キュンしない人はいないんじゃないかなと。私は異世界とつながっているような設定が大好きなんですが、独り言で「めっちゃイケメンやん」とかツッコミながら、キュンキュンしています。

―マンガを読む時間が、仕事の息抜きになっている感じですか?

小篠さん そうかもしれないですね。大変な撮影のあとは、狂ったようにマンガを読んでいたこともありますから(笑)。普段は、休みの日とかに「今日はあのマンガのあのシーンを読みたいな」と考えてから、読んでいます。

自分もがんばろうと感じてもらえたらうれしい

―本棚にはどのくらいのマンガを置かれていますか?

小篠さん 正確に数えたことはないですが、だいたい2000冊くらいですかね。家にはほとんど物がなくて、あるのはマンガくらいです。

―2000冊もですか!? それがすべて頭に入っているということですよね。

小篠さん 頭のなかに絵が浮かぶと、作者の方の名前が出てくるので、そこから本を探して読みたいページを見つける感じです。なので、本棚は作者の名前順に並べています。

―まだまだマンガのお話もうかがいたいところですが、最後にこれから作品を観る方に向けて、メッセージをお願いします。

小篠さん 人生で何かに対してがんばっている方は、一生懸命に生きようとするあざみさんに共感できるところもあるんじゃないかなと思っています。映画を観ていただいたあとに、「自分は仕事をがんばろう」とか「恋愛にまっすぐぶつかってみよう」とか、そういう気持ちになっていただけたらうれしいです。

インタビューを終えてみて……。

とても柔らかくて、優しい笑顔が印象的な小篠さん。ひとつひとつの質問に対して、真摯に答えようとする姿勢がひしひしと伝わってきました。「誰にでもなりたい」という小篠さんが、次は誰になって私たちを楽しませてくれるのか待ち遠しいところ。まずは、全身全霊で挑んでいるあざみさんは必見です!

人生における愛と再生の意味を知る!

すべてに全力でぶつかり、ときにボロボロになるまで傷つきながらも、生きるとは何かを教えてくれる不器用なあざみさん。愛すること、そして生きることに正面から向き合う姿に、心が震えるのを感じるはずです。

ストーリー

17歳で複雑な家庭から逃げ出したあざみ。年の離れた編集者キタジマさんの恋人になり、釣り合う女になりたいと背伸びをするも、仕事優先で向き合ってもらえなくなる。その後、あざみは優しくしてくれるシンや誰と付き合っても、キタジマさんのことが頭から離れることはなかった。

そんななか、あざみの前に現れたのは、子どものようにまっすぐに愛をぶつけるノダくん。愛憎入り混じる母との再会と別れを経験したあざみは、生きることを見つめ直すことに……。

心に突き刺さる予告編はこちら!

作品情報

『あざみさんのこと 誰でもない恋人たちの風景 vol.2』
10月10日(土)より、新宿K's cinemaほか全国順次公開
配給:コピアポア・フィルム
©2020キングレコード
http://azamisan-no-koto.com/

スタイリスト:池ノ上菜々
ヘアメイク:稲月聖菜〔MARVEE〕
ボトムスottod'Ame ¥20,000 ピアスMcKenna ¥3,600 ネックレスROOM ¥2,436(すべて税抜)