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志村 昌美

自閉症の施設が閉鎖の危機に…政府を動かしたのは2人の男と映画の力

2020.9.10
夏休みシーズンが終わりを迎え、日常生活へと戻るなか、何となくやる気が出ないという人も多いのでは? そこで、どんな危機的な状況に追い込まれても、信念を貫くために戦い続けた男たちの実話を基にした感動作をご紹介します。それは……。

『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』

【映画、ときどき私】 vol. 320

パリで自閉症の子どもたちをケアする団体を運営しているブリュノは、ドロップアウトした若者たちを支える団体を取り仕切るマリクとともに、社会からはじかれた子どもたちを救おうと日々奮闘していた。

どんなに問題のある子でも断らないため、施設はいつも満員だったが、無認可で赤字経営のため政府の監査が入り、閉鎖の危機へと追い込まれてしまう。そんななか、新たな事件が彼らを襲うことに……。

主人公を演じるヴァンサン・カッセルとレダ・カテブという2人の名優による熱演もさることながら、力強いメッセージを放つ本作は、本国フランスで200万人の動員数を突破したのを皮切りに、ヨーロッパ各国で大きな反響を巻き起こしたほど。そこで、作品に込めた思いについて、こちらの方にお話をうかがってきました。

エリック・トレダノ監督

人気作『最強のふたり』を手掛けたことで知られ、世界中にファンが多いトレダノ監督。普段、映画作りはオリヴィエ・ナカシュ監督と2人でコンビを組んでいますが、今回の取材ではトレダノ監督おひとりに、本作を制作する過程の苦労や子どもたちとの交流から学んだことなどを語っていただきました。

―本作は、ブリュノとマリクのモデルとなったステファン・ベナムさんとダーウド・タトゥさんの実話が基に描かれていますが、この映画の大ヒットを受けて、彼らが運営する団体にも影響を与えたことはありましたか?

監督 そうですね、すでに変化はいくつか感じていますよ。たとえば、フランスでは国会の上院と下院の両方で上映会を開催し、マクロン大統領と夫人にも観てもらうことができたので、政治関係にもアプローチができました。これは大きな一歩だったと思っています。

実際、本作のモデルになった団体も映画の公開と同時に当局との話し合いがスムーズになり、認可を受けることができたそうなので、彼らの環境もガラリと変わりました。

―1本の映画によって国をも動かしてしまうとは、改めて映画の力を感じる出来事ですね。

監督 ほかにも同じような団体がいくつかありますが、この映画がきっかけとなって彼らに対する認識も同様の変化があったと聞いています。あとはフランスだけでなく、オランダやドイツなど、ほかの国においてもこの作品の上映があったのちに、こういった仕事の大変さや存在意義、さらには自閉症というのがどういった病気なのか、ということが見直されたそうです。

コミュニケーションの方法は言葉だけではないと知った

―素晴らしいですね。では、ステファンさんとダーウドさんと交流を続けるなかで、監督自身が影響を受けたことはありますか?

監督 彼らと出会ったことによって学んだのは、「“言語”というのはひとつではない」ということ。つまり、あくまでも言葉は相手とコミュニケーションをとる方法のひとつであって、ほかにもいろいろなやり方があるということです。そのなかで、僕と共同監督のナカシュにとってのは“言語”は映画であり、映画を通してやるべきことを伝えていくのが自分たちの任務であるということに改めて気づかされました。

そんなふうに、コミュニケーションの方法はひとつではないということを知れたのは、彼らとの出会いから一番影響を受けたところじゃないかなと思います。

―彼らと出会ったのは26年も前で、そのときからナカシュ監督と一緒にいつか映画にしたいと思われていたそうですが、いまこの作品を作ろうと思ったのはなぜですか?

監督 出会ったときは、彼らの団体もまだスタートして間もなかったですし、僕たちもまだ“言語”としての映画がどういうものかというのがわからず、試行錯誤しながらという状態でした。それに、当時はショットの使い方をどうするか、今回のように素人を使っても映画ができるものなんだろうかといったことがわからなかったですし、先にやらなければいけない映画がほかにもたくさんありましたから。

そうやっていろいろな作品に取り組んでいくなかで、だんだん“言語”としての映画がわかってきたので、いまがいいタイミングだなと。つまり、「いまこそ社会の深い部分を語るべきときがきた」と感じたということです。

突発的な問題が起きることもあって大変な現場だった

―今回は撮影中にトラブルが起きたこともあったそうですが、一番大変だったのはどんなことでしょうか?

監督 この作品では、実際に自閉症の子どもたちに出演してもらったので、撮影現場では本当にいろいろなことがありました。というのも、彼らはカメラの前で演じた経験もなければ、演じている認識もありませんからね。問題が突発的に起きてしまったこともありましたが、作品に信憑性を持たせるためには重要だったので、医師や心理学者の方々ときちんと話し合いを重ねて出演してもらいました。

現場には、本物の支援員たちにも来てもらったので、彼らが何とかうまく収めてくれた感じでしたが、ヴァンサン・カッセルなどの俳優がいると、子どもたちは「俳優ってどんな感じなの?」とかセリフと違うことを言ってしまうことも……。いっぽうのカッセルも支援員にいきなり質問を始めてしまって、中断したことがありましたが、そんなふうにいろいろなことが起きましたね(笑)。

―そのなかで、忘れられないシーンなどもありましたか?

監督 おもしろかったエピソードとしては、ジョゼフという役を演じた自閉症の子が役になりきってしまい、台本に書かれていないことを言い出しちゃったときのこと。問題を起こすたびに、「次はできるよ」みたいな意味を持つフレーズをたびたび言うようになったんです。それを聞いたとき、この言葉に信憑性があると思ったので、実際に劇中でも何度も使うことに決めましたが、そんなふうに即興で対応することもありました。

感性豊かな子どもたちから学ぶことは多かった

―実際に自閉症の若者たちと時間をともにするなかで、彼らに感銘を受けた瞬間があれば、教えてください。

監督 彼らは本当に感性が豊かなので、学ぶことはたくさんありましたね。イライラして飛び跳ねたり、叫んだり、壁を叩いたりというのがよくある自閉症の症状だと思われがちですが、それはあくまでも氷山の一角。彼らとじっくり時間をかけて付き合っていくと、彼らは私たちとは違う現実や社会のなかで生きていることがわかるんですよ。

―具体的に、どのような部分にそれを感じましたか?

監督 まず彼らを見ていて、何よりも好ましいと思ったのは、まったくエゴがない人たちであるということ。たとえば、いまはSNSで自分がいかにほかの人より素敵かとか、頭がいいかとか、こんなバカンスを楽しんでいますよ、みたいなことを見せびらかそうとする人が多いですよね? 

そんなふうに、他人よりも上になろうとするような考え方があふれているなかで、彼らは相手へのフィルターなしで接してくれるんですよ。他人と比較するような部分をすべて脱ぎ捨てて付き合えることは新鮮でしたし、そういうところに、すごく安らぎを感じました。

現場で彼らと触れ合ったあとに、また普段の生活に戻ると、自分のいる社会のほうが騒々しくて、人との関係がギクシャクしているのを感じたほど。本当に彼らから教えられることは多かったので、また彼らと一緒に仕事がしたいなと思っています。

―厳しい時代を生きる日本の観客にとっても、非常に響く作品だと思うので、最後に監督からメッセージをお願いします。

監督 僕はこれまで2回日本に行ったことがありますが、そのたびに日本人はいかに礼儀正しくて、きちんとしている方々かというのを感じているので、またぜひ行きたいですね。

前作『セラヴィ!』では、仕事に対する向き合い方などが日本のみなさんにも共通する部分があって楽しんでいただけたと聞いていますが、今回のようなハンディキャップをテーマにした作品に対してみなさんがどう感じるのかを知りたいので、ぜひ感想をお待ちしています。

スペシャルな1本が背中を押してくれる!

自閉症の子どもたちの現実を映しつつ、他人への献身や思いやりといった普遍的な部分を描いた本作。揺るぎない信念を持つ人たちの強さは、きっと観る者にも大きな“気づき”を与えてくれるはず。つい忘れがちな心の声に従って生きることの大切さについて、改めて考えてみては?

胸に刺さる予告編はこちら!

作品情報

『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』 
9月11日(⾦)TOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー
配給:ギャガ
© 2019 ADNP - TEN CINÉMA - GAUMONT - TF1 FILMS PRODUCTION - BELGA PRODUCTIONS - QUAD+TEN
© Philip Conrad
https://gaga.ne.jp/specials/