死期を悟った女優が過ごす“最後の夏休み”で家族に伝えたかった思い
女優のイザベル・ユペールさん!
【映画、ときどき私】 vol. 317
フランスの至宝と呼ばれ、67歳のいまなお、変わらぬ美しさと唯一無二の存在感で世界中の観客を魅了するユペールさん。本作では、大切な人たちと“最後のバケーション”を過ごそうとする自らの死期を悟った女優のフランキーを演じています。そこで、作品の見どころやお気に入りのスポットなどについて語っていただきました。
―本作は、アイラ・サックス監督の前作を気に入ったユペールさんからラブコールを送ったことがきっかけということですが、監督との最初の出会いについて教えていただけますか?
ユペールさん 私から監督にメールをしたとみんなから言われているんだけど、実は私、あまり覚えていなくて……(笑)。でも、ニューヨークで初めて会ったあとに、スペインのサン・セバスティアン国際映画祭で再会したときのことはちゃんと覚えていて、そこで「いつか一緒に仕事したいわね」という話をしたんです。そのあと少し時間が経ってから、「あなたを当て書きしたシナリオを書きます」と言ってもらって、今回の脚本ができあがりました。
―ユペールさんのために書かれたこともあり、主人公はヨーロッパを代表する大女優。実際のご自身と重なる設定となっていますが、演じるうえで自分なりのアイディアを入れた部分はありましたか?
ユペールさん そういうことはまったくなかったですね。私を当て書きするということ以外知らされてなくて、事前に何の情報もなかったので、この設定は私にとっては完全なサプライズだったんですよ。ヨーロッパの女優ということになってはいるけれど、あくまでも彼女はフランキーという人物であって、私ではないので特に私自身を重ねることはありませんでした。
監督は自然体でいられる状況を作ってくれた
―とはいえ、冒頭で「私はフォトジェニックなの」と言い放つシーンでは、ユペールさんだからこその説得力がありました。
ユペールさん あれも決して私が言いたかったわけではなくて、監督がフランキーには厚かましいところがあるからこういうことを言うだろうと想像して入れたセリフですから。私には責任はありません、と言っておきますね。だから、もし「私もいまは年を取ってしまってダサくなったわ」というセリフがあったら、文句なく言いますよ(笑)。
―(笑)。では、実際にアイラ監督とご一緒されてみて、感じたことはありましたか?
ユペールさん やっぱり彼は才能のある監督だなと思いました。それは、役柄と演じる役者の人となりから人物を作り上げてシナリオにし、それを映像におさめることができる才能。特に彼の場合、物語にしても、撮影の方法にしても、演出の仕方にしても、私たちがとても自然体でいられるような状況にしてくれていました。
なかでも、彼が私たちによく言っていたのは、「絶対に演技をしないでほしい」ということ。つまりそれは、演じるのではなく、シンプルにこの状況を体現してほしいという意味でした。もしストーリー的にクスクスと笑えるところがあったとしても、それがおかしいと気がつくのは観客自身。
だからこそ、おもしろい部分やドラマティックな部分があったとしても、強調したり、プラスアルファしたりしないでと。なぜなら、人生というのは自然に起こるものであって、それを映し出すのに役者としてのプラスは必要ないから、と言われました。
―そういった演出に、戸惑うこともあったのでしょうか?
ユペールさん いえいえ、私は多くの監督がそうあるべきだと思っているくらいですよ。ひとりひとりの俳優がシンプルにシーンを演じられるようにするためにはね。本当は「演じる」という言葉も使ってはいけないのかもしれないんだけど……。
ただ、俳優というのは、そこに何かつけ加えたくなるものであって、シンプルにするにはちょっとしたコントロールも必要になるので、「俳優にとって何が快適か?」と聞かれたら、難しいところではあるんですけどね。だからこそ、セリフ通りに演じることで、そこに生まれる真実を感じることが大事なんですよ。
衣装は最重要項目といえるほど大事なもの
―ちなみに、今回はセリフだけでなく、衣装からも女優ならではの佇まいが漂っていました。とても素敵な衣装でしたが、身に着けてみていかがでしたか?
ユペールさん 私にとって、衣装は最重要事項と言ってもいいくらい重きを置いているものです。衣装さえ決まってしまえば、あとは技術的なことをするだけですから。もちろん自然体で言葉を発するためには、撮影の前にセリフを完璧に覚えなければいけないし、それも重要なことではあるけれど、衣装というのは観客にとってその人物を理解する最初の目印になるものなので、私はとても大切にしています。
時々いくつかの作品で、キャラクターの職業や性格を考慮していないような衣装を身につけているのを目にすることがあって、怠惰だなと感じることもありますが、私にとって衣装は本当に大事なものなんですよ。
―フランキーは死が近づいてきたことを知り、愛する人たちのためにさまざまな行動を取りますが、観客としては「もし自分がフランキーと同じ立場だったらどうするか」ということを想像せずにはいられませんでした。ご自身もフランキーを演じるうえでそういったことを考えましたか?
ユペールさん 実は、私はどの役に対してもそういうアプローチはまったくしないタイプの女優なんですよ。人物の奥深くに入って役作りをしていくタイプの人もいますが、私はそうではなくて、「この人だったらどういう表情するかな?」とか、「どういう仕草や佇まいをするかな?」という“形”から入るタイプ。
そんなふうに、アプローチの方法を中身と外見にわけるとすると、私は後者なので「自分が彼女の立場だったらどうするだろう……」みたいな心理的な照らし合わせにはまったく興味がないし、する必要がないと感じているんです。ただ、言えるとするならば、私がフランキーの立場だったとしたら、彼女のような言動は多分しないだろうなということだけですね。
シントラでお気に入りの場所とは?
―なるほど。あくまでも役として、すべてを感じていらっしゃるんですね。
ユペールさん そうですね。ちなみに、私がこの作品で見るべきところとして挙げるとすれば、死を控えたフランキーが自分の身近な人たちを集めたことによって、彼らのなかに隠されていたものが浮かび上がっていくところ。そういう意味では、フランキーは“触媒”のような存在と言えるかもしれないですね。
―非常に興味深いところですね。また、今回もうひとつの主人公といえば、舞台となっているポルトガルのシントラ。どの景色も素晴らしかったですが、撮影中にインスピレーションを受けた部分もありましたか?
ユペールさん 確かに、シントラという場所は、この作品にとってとても大事な部分でした。監督もシントラが持っているミステリアスでドラマティックなパワーをよく理解していたんでしょうね。だからこそ、こういった物語を語るには最適な場所として選んだんだと思います。
―ちなみに、そのなかでもお気に入りの場所といえばどこですか?
ユペールさん 実は、2002年に制作されたヴェルナー・シュレーター監督の『Deux』という作品でもシントラで撮影したことがあり、そのときは3か月ほど滞在していたんです。なので、私にとってシントラでの撮影は2回目なんですよ。シントラには宮殿がたくさんありますが、なかでも私が好きなのは、ルートヴィヒ2世のいとこが作ったバロックの宮殿。少し奇妙なんですが、私はその奇妙さがとても気に入っているんです。
あとは、「イニシエーションの井戸」と呼ばれる井戸も好きですね。シントラはポルトガルの観光地のなかでも特に美しいところですが、森にも魔力があるような感じがするので、散歩をしているだけでも童話に迷い込んだ気分になるんですよ。見えない何かを喚起させてくれるような、神秘的な場所だと思います。
演じることは呼吸するのと同じこと
―そういった場所もユペールさんの美しさをさらに引き立てていたと思いますが、日本の女性たちのなかにもユペールさんに憧れている人はたくさんいます。輝き続けるために意識されていることはありますか?
ユペールさん 秘訣というのはないけれど、私にとっては体が資本だから健康には注意はしています。といっても、特別なことは何もしていないんですけど……。実は、私はあまり睡眠もとらないほうなので。でも、寝るのはすごく好きですよ。だって、夢を見られるから。
―夢を見るための睡眠とは、ステキですね。では、長年にわたって第一線を走り続けているモチベーションとなっているものを最後に教えてください。
ユペールさん 私にとって、演じることはまったく疲れることじゃないので、続けるための努力もいらないんです。撮影中も演じているときはまるで呼吸をしているみたいで、毎回とてもいい気持ちですから。だから、「やめる理由がない」それだけかもしれないですね。
インタビューを終えてみて……。
長年憧れていた女優でもあるユペールさんということで、かなり緊張しましたが、飾らない人柄にますます魅了されてしまいました。取材中のウィットに富んだお答えはもちろんのこと、劇中の圧倒的な存在感もさすがの一言。そんなユペールさんのあふれんばかりの魅力をぜひ本作でも存分に味わってください。
儚く美しい感動を味わう人生賛歌!
神秘的な町を舞台に繰り広げられるのは、死期が迫った女優フランキーが仕組んだ家族劇。さまざまな問題を抱えた人たちが、それぞれのターニングポイントを迎えたときに映し出される秀逸なラストシーンには、誰もが心を揺さぶられるはずです。吸い込まれるような魅力を放つシントラの景色とともに、その感動に浸ってみては?
ストーリー
ヨーロッパを代表する女優フランキーは、夏の終わりのバケーションと称して、ポルトガルにある世界遺産の町シントラに家族と親友を呼び寄せていた。なぜなら、自らの死期を悟った彼女は、自分がこの世を去ったあとも愛する者たちが問題なく暮らしていけるように、すべての段取りを整えようとしていたからだった。
しかし、それぞれに問題を抱えた家族たちの選択は、次第にフランキーの思い描いていた筋書きから大きく外れていくことに……。
神秘的な予告編はこちら!
作品情報
『ポルトガル、夏の終わり』
8月14日(金) よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館 他全国順次公開
配給:ギャガ
© 2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA © 2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions
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