
あなたは見つけられる? 『ひつじのショーン』に隠された名作の数々
『映画 ひつじのショーン UFO フィーバー!』

【映画、ときどき私】 vol. 281
ショーンとその仲間たちが暮らす平和で静かな田舎町に、ある日突然UFOが不時着し、町は大騒ぎとなる。そんななか、ひょんなことから牧場に迷い込んだのは、かわいい宇宙人のルーラ。ショーンたちと出会い、すぐに仲良くなるのだった。
みんなで楽しい時間を過ごしていたが、家族を恋しく思っているルーラを見たショーンは、両親のいる星に帰れるように計画を立てることに。しかし、思わぬハプニングが次々と巻き起こってしまう。果たして、ショーンはルーラを無事に故郷へと送り届けることができるのか……。

170の国と地域で展開されているクレイ・アニメーション『ひつじのショーン』。本国イギリスでは、子ども向けテレビ番組の「もっとも愛されるキャラクター」の1位に選ばれたこともあるほど、高い人気を誇っています。いまや子どもだけでなく、大人もショーンのかわいさに虜となっているところですが、今回は本作の舞台裏について、お話をうかがってきました。
長編監督デビューを果たしたウィル・ベチャー監督!

本作は、ベチャー監督とリチャード・フェラン監督の2人によって手掛けられた作品ですが、シリーズ初の長編映画『映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』以来、4年ぶりの新作となります。そこで、劇中の必見ポイントや制作秘話などについて、教えていただきました。
―今回は、まさかのSF作品となりましたが、その理由から教えてください。
監督 テレビシリーズが終わった段階で、次のアイディアについて話し合っていたとき、誰かが「エイリアンはどう?」と言い出したんです。スタッフにはSF好きが多かったこともあり、「それはいいね!」とすぐになりました。あとは、ショーンたちがいる農場が人里離れたところに位置しているので、ミステリーサークルを入れたりするのにもピッタリだと感じたところもありましたね。

―なるほど。そのなかでも、いままでとは違うところは?
監督 前作ではショーンたちが街に出ていく物語でしたが、今回はもっと壮大なものにしたかったので、まずは画面のサイズを大きくしています。それから撮影監督には光を研究してもらって霧のエフェクトを生み出してもらいましたし、美術チームにもこれまで以上にレベルアップして作り込んでもらいました。そのほかにはルーラの能力を示すシーンや宇宙船をキラキラさせているところでは、VFXの力を借りて表現しています。
―劇中では、『2001年宇宙の旅』や『ゼロ・グラビティ』など、数々のSF作品にオマージュを捧げていますが、監督が影響を受けている作品はありますか?
監督 わりと最近の作品になりますが、僕は2016年の『メッセージ』が好きなんです。本作では、視覚的なギャグとして入れている部分がありますよ。
劇中に込められた秘密のオマージュとは?

―劇中ではとても1回観ただけでは探しきれないほど、随所に小ネタを見ることができますが、マニアでも見つけられないような秘密があれば、特別に教えてください!
監督 この作品では、50年代初期から最近のSF作品まで、本当にたくさんオマージュを捧げています。それはなぜかというと、共同監督でもあるリチャードと僕は映画が大好きな子ども時代を過ごしていたから。
なかでも80年代に影響を受けているので、そのころの作品が多いですが、おそらく誰も気がつかないと思うのは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場する車のデロリアンを意識したところですね。
それは、宇宙船のなかの一部になりますが、デロリアンのエンジンを駆動させている装置のデザインに近いものが船内の壁にあります。なかなか見つけにくいとは思いますが、壁に注目してもらえば、見つけられるかもしれません!

―そんな細かいところにまでSF愛が込められているとは驚きです。ぜひ、みなさんにも、そのあたりは注目していただきたいですね。また、今回は新キャラクターのルーラも話題ですが、作り上げる過程で苦労したポイントは?
監督 はじめは小さい丸い形のものがモンスターに変化するというのを考えていたので、それと比べると、ずいぶん進化したなとは思います。開発する段階で僕たちが求めていたのは、「イノセントであること」そして「とても若いけど、幼すぎないこと」というのがありました。
フォルムについては、ロケットのイメージもはじめはありましたが、見た目で重要だったのはカラフルであることですね。顔だけ見ると、犬のようにも見えますが、それは初期の段階で考えていたシーンに、牧羊犬のビッツァーが犬と見間違えるところがあったので、その名残でもあるんですよ。
―そういった背景もあったんですね。
監督 あと、実はルーラはほかのキャラクターと素材が違うので、技術的な意味でも造形がかなり難しいところがありました。それから、当然のことながらショーンの世界観にうまくハマらないといけないので、それも難しいところでしたが、人形の彫刻を担当するスタッフたちともいろいろ話し合い、1年かけて好奇心旺盛な元気いっぱいのルーラが完成したのです。
キャラクターの“ハート”を大事にしている

―それだけ考え込まれたキャラクターだけに、本作では全編セリフがないにも関わらず、感情が見事に伝わってきます。ここまでの高い表現力はどのように生み出されているのですか?
監督 アードマン・ アニメーションズでは、どのキャラクターも観客のみなさんときちんと通じ合うために、それぞれが持つ“ハート”がどんなものなのかというのをすごく大切にしています。
なかでも表情で重要なのは、目とまゆげ。僕は、それだけでも感情を伝えられると考えています。そのほかに苦労したのは、「足がないルーラをどういうふうに動かすか」ということでした。ただ、エネルギーと好奇心でいっぱいな感じで世界を見ている様子を表したかったので、横から見るとつねに前のめりの姿勢になっているんですよ。
それは、私の娘たちが幼いときに、何に対しても目を見張って近づいていこうとしていた様子からインスパイアされました。それによって、おもしろいと思ったことにはまっしぐらなスピード感を表現できたと思います。

―では、本作を制作するうえで一番の難しかったのはどんなことですか?
監督 これまでとは違うロケーションに連れて行くだけでなく、新しいキャラクターも登場するので、技術面でも内容面でもより複雑で野心的な企画でした。それだけに、僕にとっては大きな挑戦だったと思います。
実際、制作中は深夜まで働いた日もたくさんありましたし、実現できなくてカットせざるを得ないシーンもありましたが、大切なのは、力強い映画を作ること。そして、ショーンの世界観が生み出すコメディとハートをきちんと観客に伝えなければいけないという思いがありました。
そのなかでも一番大変だったのは、宇宙船の制作。各部門のスタッフが一丸となって6か月を費やして作り上げましたが、正直言ってかなりてこずった部分もありました。でも、アードマン・ アニメーションズの素晴らしいところは、どんな課題を投げられても、経験値の高いスタッフたちが対応してくれるところだと、改めて感じることができたと思います。
毎日忙しくて4年はあっという間だった

―準備はもちろん、1日に撮影できるのは約15秒分という本当に時間のかかる作業の連続だったと思いますが、完成までの4年間を振り返ってみていまの心境は?
監督 前作にも携わってはいましたが、僕とリチャードにとっては、今回が初の監督作品となるので、本当に光栄なことだと感じていました。最初の2年は絵コンテなどの開発、次の年はパペットやセット作り、そして最後の1年は撮影をしながら編集作業に明け暮れているような忙しい毎日だったので、いま思うとこの4年はあっという間でしたね。
最初は少人数でしたが、最終的には30人くらいのアニメーターたちが携わってくれたので、そのやりとりはとにかく大変だったなと思います。それぞれの打ち合わせのためだけに、1日10キロくらいはスタジオ内を走り回っていたんじゃないですかね。そして、夜になると毎晩ひつじの夢を見ていましたよ(笑)。

―夢までひつじですか……(笑)。ちなみに、宇宙の次は、ぜひ日本にもショーンたちに遊びに来てほしいと思いますが、今回来日してみて、連れてきたいと思う場所はありましたか?
監督 たとえば、チームラボが生み出す光のなかにショーンたちがいたらおもしろそうだなとか、いろいろ想像はしていますよ! あとは、富士山を登ってみたり、渋谷のスクランブル交差点なんかもいいかもしれないですね。
―日本のファンも楽しみにしているので、ぜひお願いします!
子ども心はもちろん、大人心もくすぐられる!

ショーンたちとルーラが繰り広げる大冒険にハラハラドキドキしながら、笑顔でいっぱいにしてくれる本作。日々の疲れも吹き飛ばしてくれる“UFOフィーバー”を味わえば、今年のラストスパートも一気に駆け抜けられるかも⁉
ワクワクが止まらない予告編はこちら!
作品情報
『映画 ひつじのショーン UFO フィーバー!』
12 月 13 日(金)、全国ロードショー
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
© 2019 Aardman Animations Ltd and Studiocanal SAS. All RightsReserved.
https://www.aardman-jp.com/shaun-movie/