好きなこと、話そ!

志村 昌美

若者の集団ドラッグ中毒…トランス状態で狂喜乱舞した先に迎えた結末

2019.10.30
日に日に寒さが増してくると、頭と体が熱くなるような刺激を求めてしまいたくなるもの。そんな気分のときこそ、一瞬で別世界へと引き込んでくれるような映画がオススメですが、今回は世界を動揺させた衝撃作をご紹介します。それは……。

五感が震える『CLIMAX クライマックス』!

【映画、ときどき私】 vol. 272

有名な振付家に選ばれた22人のダンサーたちは、雪が降る人里離れた廃墟で、公演のためのリハーサルを行っていた。最後の仕上げを終えた彼らが始めたのは、打ち上げパーティ。爆音の音楽に体を揺らしながら、サングリアを浴びるように飲んでいた。

ところが、そのサングリアにはドラッグが混入しており、彼らは徐々に我を失っていくことに。エクスタシーを感じる者もいれば、発狂する者もおり、ダンスフロアはいつしか地獄のようになっていた。理性をなくした人間たちが迎える結末とは……。

ダンスと音楽で構成され、観たこともないような映画体験へと導いてくれる本作ですが、映画で世界を挑発し続けているこちらの方にお話をうかがってきました。

鬼才で知られるギャスパー・ノエ監督!

これまでにも、『カノン』や『LOVE 3D』など、強烈な作品で観客を魅了してきたノエ監督。実際に起きた事件から着想を得たという本作もカンヌ国際映画祭で上映された際には、賛否両論を巻き起こし、大きな話題となったほどです。そこで、撮影の舞台裏や監督がインスピレーションを受けているものなどについて語っていただきました。

―まずはなぜダンスをモチーフにした作品を手掛けようと思ったのか、その理由からお聞かせください。

監督 それは、僕がもともとダンスを見るのがすごく好きだったから。才能のあるダンサーたちの踊りというのは引き込まれますし、本当に素晴らしいですよね。そういった思いからもダンスの映画を撮りたいというのは、つねに自分のなかに強くありました。

それだけでなく、ダンスを映し出した映画からはたくさんのエネルギーが放出されていると考えていた部分もあったと思います。

映画というのは、あくまでも作りものであり、観客たちもそれが“嘘”だとわかったうえで観に行っていますが、それをわかっている前提だとしても、そこから発せられるエネルギーというものは感じられるものですからね。

―今回は演技未経験のダンサー21人とプロの女優1人を起用されていますが、どのようにして選ばれましたか?

監督 ダンスを軸にした映画ということもあり、今回は演技ができる人を探すのではなく、踊れる人を探すことに集中しました。まずはできるだけパリ近郊に住んでいる人のなかからネットで検索し、ある程度人数を絞ってから実際に会って話をするという方法をとりました。最終的に選んだのは18歳から23歳までの若いダンサーたち。

彼らはプロではなく、時折イベントに出演したりして趣味でダンスをしているような子たちですが、重視したのは、カリスマ性を持っていることと、感じのいい人、そして撮影現場で僕と馬が合うかどうかということでした。

彼らに演技力は求めていないとは言ったものの、物語のなりゆき上、心理的に難しいキャラクターが必要なところもあったので、そこに関してはプロの俳優に入ってもらっています。

―撮影で大変なこともあったのでしょうか?

監督 企画が立ち上がって準備までに1か月かかり、そのあとは順撮りをしながらだいたい15日ほどで撮影を終えました。今回は即興でストーリーを進めていく形をとりましたが、ダンサーたちは精神的にトランス状態になることも含めて非日常をすごく楽しんでもらえたようです。僕にとっては、どのシーンも忘れられないものになりました。

演技未経験のダンサーの演出方法とは?

―今回は台本が数ページしかなかったそうですが、演技をしたことがない彼らにアドリブで演じさせるのは難しさもあったと思います。どのような演出をされたのでしょうか?

監督 冒頭にダンサーたちのインタビューがありますが、実は最初の段階ではあのシーンは予定していませんでした。撮影を進めていくなかで、最終日の3日ほど前にスタッフと話をしていて、ダンサーたちそれぞれが語るシーンが足りないということになり、急遽入れたんです。

そのときはすでにほかのシーンを終えたあとだったこともあり、彼らも自分の役どころを十分に理解していたので、それに加えて自分のダンスに対する情熱や思いを語ってくださいとお願いして撮りました。

ストーリーの結末に関わりのある子だけには、こちら側が決めたセリフを話してもらうようにしていますが、それ以外の人には、5~10分くらい自由に話してもらい、こちらが面白いと思うところだけを選んで編集しています。パーティ中の会話に関しても、同じような方法で撮影しました。

―そんなふうにアドリブが中心の物語のなかで、結末はどのようにして目指していったのでしょうか?

監督 もちろんエピローグはなければいけないと思っていたので、考えてはいましたが、最初の段階で具体的には決めていませんでした。なぜなら、撮影を順番に進めていくなかで少しずつ自分のなかに形ができていったからです。あとはダンサーたちにもどういう終わりにしたいかを聞き、できるだけ彼らの希望に沿っていくように意識していました。

―セリフだけでなく、ダンスシーンも即興で行ったそうですね。

監督 ダンスバトルのシーンでは、カメラは1時間半回しっぱなしにしていて、そのなかからいいところを抽出して、6~7分くらいにまとめています。

事前に3曲を用意していることだけは伝えましたが、どういう体の動かし方をするのかも、どのタイミングで誰が前に出るかもすべて彼らに任せました。最初のダンスシーンについても、彼らと振付師によって作り上げてもらったシーンなので、僕はほとんど関わっていません。

というのも、そもそも僕は人にいろいろと指示するのは好きではないし、人を動かすのも得意ではないですからね(笑)。なので、彼らがそれぞれのアイディアを持って作品に関与してくれたことはありがたかったです。

自分も周りにあるものすべてから影響を受けている

―監督自身の存在や作品は、ほかのアーティストたちに多くの刺激を与えていると思いますが、監督が影響を受けているものは何ですか?

監督 僕は自分の周辺にあるものすべてから、インスピレーションを受けていると思います。それは小さいときから現在にいたるまで、出会った人や住んでいた環境、本、映画、新聞といったすべてのことです。

ちなみに、冒頭のインタビューシーンのときに背景にDVDや本がたくさん並んでいますが、あれは実際に僕の所有物。この作品に直接影響を与えたわけではないですが、自分自身に対して影響を与えた作品の数々です。

そのほかにも、たとえばナイトクラブに行ったときに、最初はみんなハッピーなんだけど、アルコールが進むといい人が全然違う人に豹変してしまうといった出来事からもインスパイアされることもありますよ(笑)。おとなしくて優しそうな人ほどサイコティックになるのはすごく恐ろしいことだけど、僕はそういうものを含めたすべてに興味があると言えるのかもしれないですね。

―なるほど。過去には『エンター・ザ・ボイド』で撮影されたこともあり、東京には特別な思いも持っていただいているとのことですが、監督が思う日本の魅力を教えてください。

監督 僕は映画を持っていろいろな国に行く機会はたくさんあるものの、そこまで惹かれる場所はあまりありませんが、そのなかでも東京はとても魅力的に映りました。社会的なメカニズムが自分の知るヨーロッパとは全然違うことにも驚きましたし、アーティスティックなものに関して、日本にはカルト的なものを感じるんですよ。

出身地であるアルゼンチンと10代から暮らしているフランスのような縁のある国以外で長期間滞在したのは、日本が初めてでした。といっても、東京しか知らないので、東京という街が自分にとっては特別なんだと思います。

あと、僕にとっては日本映画も魅力のひとつ。なぜなら、欧米で制作された傑作と日本で制作された名画を比べたときに、日本映画の持つ力は抜群に大きいと感じるからです。

日本人には独特な完璧主義がある

―日本とフランスでは、現場の雰囲気もかなり異なりますか?

監督 日本人たちの完璧主義というのは独特だと思いますが、日本で撮影したあとにフランスで気がついたのは、スタッフたちの仕事に対する向き合い方の違い。

今回の作品でもグラフィックデザインを手掛けてくれたのは、フランスで生まれ育った日本人ですが、ご両親が日本人ということもあるのか、フランス人以上の完璧を求めていると感じました。それはおそらく日本人の家庭環境がそうさせているのかなと思っています。

それに比べると、はっきり言ってフランス人は怠け者ですから……。なぜなら、週末は必ず休みたがるし、フランス人が他人に一番聞く質問は「今年のバカンスはどこに行くの?」なんじゃないかなと感じているほど(笑)。それだけ日常生活において、仕事よりも休暇が重要ということなんですよ。

―(笑)。確かに、日本人は休みよりも仕事を優先しがちなところがありますからね。

監督 フランス人にとっては、バカンスを過ごす1か月が1年でもっとも関心のある期間なんだと思いますよ。そんなふうに、国民全体がバカンスにとらわれてしまっているというところが、日本とは違いますよね。

まあ、僕からするとみんなが旅行に出る7月から8月にかけては、街から人が減って静かな環境になるので、仕事に集中できる最高の時期。街の喧騒から離れたくて休暇に行く人が多いのに、行った先の海辺に人がいっぱいいるんだから、彼らは何をバカンスに求めているのか、僕にはよくわからないね(笑)。

―確かにそうですね……。それでは最後に、今後についても教えていただきたいですが、監督の作品は、発表されるごとに毎回観客の想像をはるかに超えてきている印象なので、ご自分でもまだまだ表現しきれていないものがあると感じているのでしょうか?

監督 自分の作品がこれからどうなるのかは、僕自身にもわかりません。

ちなみに、『CLIMAX クライマックス』のあとに撮った『Lux Æterna(原題)』は50分ほどの中編で、シャルロット・ゲンズブールとベアトリス・ダルが出演している映画ですが、舞台は撮影現場。最初は楽しいんだけど、だんだん現場がどうしようもない状態に陥っていくというストーリーです。

セックスの描写や暴力のシーンも何もないですが、そんなものはなくても十分に狂気的な部分は出ていると思っています。

あとは、2002年に制作した『アレックス』をもう一度編集し直した新しいバージョンというのも、すでに発表していて、オリジナルよりももっと怖く仕上がっていますよ。おそらく日本でも公開されると思うので、楽しみにしていてください。

見たことのない狂気に溺れる!

映画が始まったら最後、誰もがトランス状態へと陥ること間違いなしの問題作。観終わったあとにもう一度観たくなるような中毒性と五感をフル回転させる心地よい疲労感を存分に味わってみては? 

過激な予告編はこちら!

作品情報

『CLIMAX クライマックス』
11月1日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
配給:キノフィルムズ/木下グループ
©2018 RECTANGLE PRODUCTIONS-WILD BUNCH-LES CINEMAS DE LA ZONE-ESKWAD-KNM-ARTE FRANCE CINEMA-ARTEMIS PRODUCTIONS
http://climax-movie.jp/


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