志村 昌美

北野武ら天才の「クリエイティブの秘訣」を集めた107の人生のヒント

2019.10.11
いつの時代も人の心を豊かにしてくれるものとして欠かせないのは、創造力。本来は周囲に制限されることなく自由なクリエイティビティを誰もが持っているはずですが、社会に出ると、創造力を発揮させるのが難しいと感じている人も多いのでは? そこで、今回は世界中の著名人たちに「あなたはなぜクリエイティブなのですか?(Why are you creative?)」というシンプルな質問を30年以上も投げかけ続けているこちらの方に、“クリエイティブになるための秘訣”を教えていただきました。

ドイツのハーマン・ヴァスケ監督!

【映画、ときどき私】 vol. 268

映画監督としてのみならず、ドキュメンタリー作家、プロデューサー、一流企業のCM製作など、幅広い分野で活躍しているヴァスケ監督。大学時代からクリエイティビティの意味について研究し始め、デヴィッド・ボウイやホーキング博士、ダライ・ラマ、ネルソン・マンデラといった超大物たちに、ときには突撃取材を敢行してきた強者です。

日本からも北野武、オノ・ヨーコ、山本耀司、荒木経惟といった方々も登場しており、興味深い内容のドキュメンタリー『天才たちの頭の中 ~世界を面白くする107のヒント~』ですが、今回はそんな監督に逆取材をしてきました!

Why are you creative?

―やはりまずはお決まりの質問から始めたいと思いますが、今回は監督と同じスタイルで行きたいので、答えを書くための紙とペンも持ってまいりました。では、Why are you creative?

監督 (紙の左端に大きな楕円をひとつ書き)はい、まずはこれで。

―これは!? ちょっと深すぎて私には理解が及ばないのですが、一体どういう意味でしょうか?

監督 アルファベットのO(オー)ですよ。これから質問ごとに一文字ずつアルファベットを追加して、ある英単語にしたいと思います。なので、次の質問をどうぞ!

―なんと、いきなりクリエイティブな展開ですね(笑)。私にとって初めての取材形式となりますが、制限時間内に単語を完成させられるようにがんばります!

監督 (笑)。

ジェフ・クーンズとハーマン・ヴァスケ監督

―私も監督同様にインタビューを中心に活動しているので、この3~4年で300人以上の映画監督や俳優のみなさんに取材をしてきました。クリエイティブな方々のお話を聞くことが何よりも刺激的で楽しいのですが、その反面「私自身はクリエイティブではない」という強いコンプレックスが自分のなかにあることにこの作品を見て気がつきました。人は誰でも、いくつになってもクリエイティブになることは可能なのでしょうか?

監督 (アルファベットのBを書きながら)もちろんです。クリエイティブになるための秘訣は、自分のなかにある“子どもらしさ”とつねに繋がっていること。それは純粋無垢な気持ちや好奇心とも言えますが、それを意識していれば、18歳だろうと、100歳だろうと、つねに創造性豊かでいることができます。

では、「創造性とは何か?」。辞書で引いてみると、「何もなかったところに新しく作ること」と定義されていますが、僕は実際にそれを体現した建築家のオスカー・ニーマイヤーに会ったことがあります。彼はブラジルのジャングルのなかに新しい都市を作った人で、会ったときはすでに102歳でしたが、本当に生き生きとしていて、おもしろいし、遊び心もあるし、年齢や時代を感じさせないクリエイティブさを持っていると感じました。

そのほかにもご高齢で現役の方々にたくさん会いましたが、どなたも自分のなかにある子ども心と繋がっている方ばかり。つまり、それを失ってしまうことが、創造性を失うことでもあるのです。

実際に行動に起こすことが何よりも大事

北野武

―ということは、誰のなかにもクリエイティビティは存在しており、それを生かすも殺すも自分次第。生まれながらにしてクリエイティブな人間とクリエイティブではない人間にわかれているわけではないということですね?  

監督 質問を受け付けたので、次はSを書きますね。そうですよ! ただ、クリエイティブな人とそうではない人の違いはあります。クリエイティブではない人というのは、アイディアが浮かんだとき、それについて考えるし、他人に話もするけれど、実際の行動に起こさない人のことです。

ダミアン・ハーストというアーティストが、「君のこの作品は僕にでも作れそうだ」とあるジャーナリストに言われたことがありますが、そのときに「でも、あなたは作ってはいませんよね?」と切り返したことがありました。そこにこそ、違いがあると考えています。

つまり、クリエイティブではない人は、“自分にもできると思うけどそこで終わってしまう症候群”ということですね(笑)。だからこそ、周りにあらがってでも行動に移すことが大事なのです。

―なるほど。非常にわかりやすい違いですね。

監督 僕は誰もがクリエイティブでいてほしいと思っているんですが、多くの人が自分の心のなかに気が小さい自分がいて、それが「いやいや! もし、こんなのを作っちゃったら周りからなんて言われてしまうだろう」とか「問題になって炎上してしまうかも!」と考えて、行動することをやめてしまうんですよ。

もうひとつエピソードがありますが、広告界で有名なディレクターのジョージ・ロイスが「ジョージ、気をつけて(George, be careful)」という本を出版したときのこと。それは、彼の両親がいつもジョージに言っていた言葉だったといいます。

そんなジョージが僕にサインした本をくれたのですが、そこには「ハーマン、無鉄砲であれ(Hermann, be reckless)」と書いてありました。彼は僕に「慎重になるのではなく、やってしまえ! 行動に移すことが大事なんだ!」と伝えてくれたのです。

映画のなかでもいろんな人の話がありましたが、みんなに共通して言えるのは、「自分は自分である。そして、人と違っても全然かまわない」ということ。クリエイティブにおいては、とにかくやってみるという行動力が必要だと思います。

創造性を広げるヒントを感じて欲しい

ウィレム・デフォー

―確かに、この作品を観ると、背中を押されるような感覚がありました。

監督 僕はこの映画を通して、そういった思いを多くの人と共有したいですし、それがみなさんにとって刺激になってくれたらうれしいです。実際、さまざまな場所で試写会を行いましたが、上映後にはいろいろな人が僕のところにやってきて、「いままで悩んでいたけれど、創造性が広がるヒントになった」といった声をたくさん耳にしました。

そんなふうに、問題解決の糸口になったり、創作活動に対する姿勢を変える力がこの作品にあるのなら、作り手としては幸せなことです。

―本作を観る前までは、クリエイティブであることを求められるのはアーティストや芸術などに関係する人たちだけだと思っていましたが、実はクリエイティビティには非常に多面的な意味があることがわかりました。それだけに、誰もがクリエイティブであるべきだと思いますが、世界中の人々がみなクリエイティブになったら、どんな世界に変わると思いますか?

監督 OBSときて、次の文字は〇(ここからは、みなさんもどんな単語が完成するか一緒にお考え下さい)。それはもちろん、よりよい世界になるだろうね! きっと、いまよりも彩り豊かになるんじゃないかな。いまあなたが着ている服みたいにね(笑)!

―(驚)。実は、今日の個人的な裏テーマとして、自分が持っているなかで一番クリエイティブだと思う服(胸元にいろんな色が混ざった刺繍と特殊なデザインが施された黒地のトップス)を着てきました。まさか気がついていただけるとは思わなかったので光栄ですし、さすが監督です!

監督 (笑)。いや、いい服を選んできたよね。完璧なチョイスだよ!

監督が思うもっともクリエイティブな人物とは?

―ありがとうございます。では、次の質問です。これまでに1000人以上の著名人の方々にお会いになったということですが、そのなかで監督がもっともクリエイティブだと思ったのはどなたですか?

監督 (新たな一文字を書きながら)それは、やっぱりデヴィッド・ボウイですね。彼は非常に独創性にあふれた人だったので、亡くなってしまったことが残念でなりません。つねに新鮮なアイディアをどんどん生み出していましたし、人としても素晴らしい人でしたよ。僕は彼が70年代後半にイギー・ポップとベルリンに住んでいたときからの付き合いだったので、何度か取材をさせてもらうことができました。

そのなかで、僕は窓のほうを向いて話していて、彼はソファでカメラに向かって答えているというシュールな構図にしましたが、あれはあるアーティストがBBCの取材を受けるときに、「人間が逆さまになって足が話しているような設定にしたらどうか?」という発想があったというエピソードを聞いて決めたもの。でも、そんなふうに、毎回違う何かをしようとする姿勢が本当に素晴らしいと思います。

デヴィッド・ボウイとハーマン・ヴァスケ監督

―あのシーンは非常に印象的でした。どの方も本当に大物の方々でしたが、突撃取材などもあったようなので、ハプニングに見舞われたことはありませんでしたか?

監督 OBS〇〇ときて、今度もさっきと同じ〇かな。もちろんありましたよ。そのなかでひとつ話すとしたら、のちに一緒に映画を作ることになった俳優のハーヴェイ・カイテルに会いたいと思っていたときのこと。雪が降っていて、すごく寒い1月のニューヨークでした。

まず彼のアシスタントの電話番号を手に入れたので、そこに連絡してみると、「自分じゃわからないからマネージャーに連絡して」ということで、マネージャーに連絡すると、今度は「パブリシストに連絡して」と言われ、次は「私じゃなくてエージェントに」と言われ、25分以上かけてようやくたどり着いたのに、「いや、無理です」と断られてしまったんです。

ジュリアン・シュナーベルとハーマン・ヴァスケ監督

―見事なまでのたらい回しですね(笑)。その後、どうされたのでしょうか?

監督 その日に取材をしたジュリアン・シュナーベル監督に「今日はこんなことがあったんだ」とたまたま話をしました。そしたら、取材のあとにホテルに戻ると、部屋の留守番電話に「ジュリアン・シュナーベル監督の推薦があったので、木曜か金曜にハーヴェイ・カイテルを取材できますよ」とメッセージが入っていたんです。

そのおかげで、一緒に映画を撮ることにもなるのですが、僕はクリエイティブなコミュニティに助けてもらうことが本当にたくさんありました。そこで、クリエイティブであることと同時に、寛容であることも大事なことだと改めて痛感したのです。「もう負けた」と思ったときに限って、「9回裏で大逆転して勝利!」みたいなエピソードが僕には数多くあるんですよ。

ダライ・ラマ

―それはやはり、これだけの方々から話を引き出せる監督の魅力もあると思います。少し話は変わりますが、劇中で1つ気になったことがあるのでお聞きしてもいいですか? エピソードの合間にたびたびお寺の鐘が鳴るような演出がされていましたが、日本では煩悩を取り払うために除夜の鐘を鳴らしたりします。もしかして、同じような意味が込められていたりしますか?

監督 (ひとつ文字を追加して)いや、そういう意図ではなかったけど、それは興味深いおもしろい話だね! つまり、僕は知らないうちに正しいことをしていたということが言えるんだね。

クリエイティビティには世界と人を変える力がある

ジム・ジャームッシュ

―そういうことになりますね。まだまだお聞きしたいことはたくさんありますが、そろそろ時間なので最後の質問です。日本人は他人と違うことを怖がり、周りと一緒であろうとするので、個人の創造性が失われやすいと感じています。本作では107通りのアドバイスが得られますが、監督から108個目をお願いします!

監督 まずは、ほかの人と違うということを恐れず、自分らしく生きることが大事なこと。そして、何でも周りの許可を得ようと思わずに、とにかくやってみることです。そうしないと、「あのときああすればよかった」と一生後悔し続けることになると思うので。映画のなかで、ネルソン・マンデラも言っていますが、クリエイティビティとは世の中だけでなく、自分自身を変える力も持っているのです。

そして、女優のジャンヌ・モローも「創造性とは希望」と語っていましたが、クリエイティビティは変化を起こす唯一の方法でもあります。マイケル・ジャクソンも「クリエイティビティは世の中をよくするためのカギだ」と言っていたくらいですからね。

―ということで、最後の質問でひとつ追加していただいてOBS〇〇〇〇〇となったので、あと一文字を入れていただくと完成だと思いますが(みなさん、おわかりになりましたか?)、オマケで一文字入れて答えを見せてください。

監督 まとめると、僕のクリエイティビティの源は「OBSESSION(執着)」です! 

―その心は?

監督 僕はこのテーマをライフワークとし、執着し続けてここまで来たから。なぜそこまでこだわるかというと、これだけ偉大な人たちの言葉を埋もれさせたくなかったし、もし本人が他界してしまったとしても、彼らの遺したものを次に伝えていくことが大事だと思ったからです。

来年にはインスタグラムなどのSNSでも大きなキャンペーンを予定していますし、続編も製作するつもりなので、これからも楽しみにしていてください。ちなみに、僕のサインは逆さまに入れておくよ!

―最後の最後までさすがです(笑)。今回はクリエイティブに富んだ時間をありがとうございました!

インタビューを終えてみて……。

終始まったく先が読めないヴァスケ監督の言動に、追いつけないながらも頭をフル回転させながら挑んだ今回の取材。「思うだけでなくやってみる」という監督のアドバイスに従って、この記事も通常のインタビュー記事とはかなり異なる進行と写真の構成にしてみました。私が刺激を受けた監督のクリエイティビティとユーモアが少しでも伝わればと思います!

眠っているクリエイティビティを覚醒させよ!

デヴィッド・ボウイ

「人はなぜクリエイティブであるべきなのか」という問いに、さまざまな方向からヒントをくれる傑作ドキュメンタリー。自分のなかにいる“小さな自分”に打ち勝ち、クリエイティブに生きることに目を向ければ、この先の人生もよりカラフルなものに変えられるはず。まずは、いま頭に浮かんだことから挑戦してみては?

クリエイティブな予告編はこちら!

作品情報

『天才たちの頭の中 ~世界を面白くする107のヒント~』
10月12日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:アルバトロス・フィルム
©2018 Emotional Network
http://tensai-atama.com/