好きなこと、話そ!

志村 昌美

うつ病、引きこもり、家庭崩壊…中年男たちが遂げたどん底からの復活劇

2019.7.11
歳を重ねていくことによって、考えすぎて身動きが取れなくなったり、失敗を恐れて新たな一歩を踏み出す勇気がなくなったりしていませんか? そんなときこそ、心を裸にして素直な自分を見つめ直したいところですが、そこでオススメしたいのは、裸一貫で人生をやり直す男たちを描いた注目作です。それは……。

『シンク・オア・スイム ーイチかバチか俺たちの夢ー』

【映画、ときどき私】 vol. 245

2年前からうつ病を患って引きこもり生活を送っていた中年のベルトラン。子どもたちや義姉夫婦から嫌味を言われてばかりいた。そんな日々を変えたいと思っていたある日、地元のプールで「男子シンクロナイズド・スイミング」のメンバー募集を目にし、チーム入りを決意する。

ところが、そこで待ち受けていたのは、家庭にも仕事にも将来にも問題を抱えたクセのあるメンバーばかり。“ミッドライフ・クライシス”真っただ中のサエない悩めるおじさん集団だったのだ。しかも、無謀にも世界選手権出場を目指すという。はたして、彼らの運命とは……?

まさに『ウォーターボーイズ』のおじさん版ともいうべき本作は、本国フランスを皮切りに全世界15の地域で、累計興収40億円を超える大ヒットを記録した話題作。今回は、こちらの方にその舞台裏を教えていただきました。

監督・脚本を務めたジル・ルルーシュ監督!

『セラヴィ!』などに出演し、俳優としても活躍しているルルーシュ監督。今回は初の単独監督作でありながら、フランスのアカデミー賞といわれるセザール賞では、最多となる10部門にノミネートをはたしています。そこで、裏に隠されたハプニングや伝えたい思いについて語っていただきました。

―本作で描かれている「中年の危機」は、国籍などに関係なく起きている問題であり、だからこそ多くの人々から共感されたところもあると思いますが、ご自身もそういう危機を感じたことがあったのでしょうか?

監督 もちろんだよ。僕のなかにも中年の危機があったから描けた部分もあると思うし、誰もが通る道でもあるんじゃないかな。ただ、40代や50代といったある程度の年齢になってくると、「全部やったからもういいよ」という考えの人と、いくつになっても好奇心のある人、他人に対しても興味を持ち続けられる人というようにわかれるものだよね。

―確かに、人によって考え方が大きく変わる年代でもあるのかもしれないですね。ちなみに、今回スポーツを取り入れたきっかけは何ですか?

監督 それは、集団行動をすることによって見出される希望を団体競技のスポーツを通して、見せたかったからなんだ。シンクロに限らず、たとえばサッカーをしている人たちは、寒くても遠くてもどんな状況でもサッカーをしに行ったりするけど、それはサッカーをすることだけが動機なのではなく、そこに“何か”があるからだよね。

つまり、スポーツにはあらゆる職業や宗教、社会的な立場などといったものに関係なく、共通の目標を持つことができる部分があるということ。そこでお互いに何かを分かち合いながら、希望を見つけることができるんじゃないかなと感じたんだ。

それから、中年の危機において、一番の問題点と言われているのが引きこもり。でも、スポーツをするためにはまず家から出ないといけないので、そういう意味でも第一歩を踏み出せるいいきっかけだと思うよ。

美しさよりも現実的な姿を見せたかった

―そんなふうにシンクロに打ち込む彼らの姿は魅力的でしたが、お世辞にもカッコイイとは言いにくい中年の肉体も印象的でした。撮影に入るにあたって、俳優たちに指示をされたことはありますか?

監督 特に、「痩せないように」ということと、「胸毛を剃らないように」、「食事療法もしないように」ということは伝えたよ(笑)。というのも、45歳から50歳くらいの典型的な男性の体つきに見せたかったから。

そこには、美しいとか美しくないとかは関係なく、とにかく現実的な姿を描きたかったんだ。だから、「どうかそのままでいてください」とお願いしたよ。

―その努力(?)の甲斐あって、非常にリアルに描かれていたと思います。だからこそ、美しさを競うシンクロとのギャップがおもしろかったですが、実際に俳優たちのトレーニングも最初はひどかったそうですね。

監督 そうなんだ! だから、トレーニングのときのエピソードはたくさんあるよ。今回は、オリンピックの代表選手を担当していた女性コーチにお願いしたんだけど、トレーニングの初日にそれぞれのレベルを確認するために、とりあえずプールに入ってもらって、エクササイズをしてもらったんだ。

でも、彼らの姿を初めて見たとき、「ダメだこりゃ!」と僕もかなり落胆したものだよ(笑)。特に、みんな泳げると思っていたのに、なんと泳げないことが発覚したキャストまでいたからね……。

だから、その人にはとりあえずおなかに浮き輪をつけて撮影をしてもらったよ。あとで編集で消せばいいかなと最初は思っていたから。でも、結果的には浮き輪をしたままのほうがおもしろいかなと思ってそのままにしたので、劇中でも浮き輪のついたキャラクターが見られるよ(笑)。

トレーニング中に起きたハプニングとは?

―撮影中も映画さながらの大変さがあったんですね。では、その過程で大きなハプニングなどもあったのではないでしょうか?

監督 水のなかで呼吸を止めているシーンを撮るとき、一番長く入っていないといけないキャストが怖がってしまって、頭を水中に沈めた途端パニックになって大変だったことはあったかな。

でも、それ以外は更衣室で一緒に過ごしたり、練習のあとにみんなでビールを飲みに行ったりして、映画のなかの彼らと同じような感じだったよ。4か月間ほど毎週トレーニングをしていくなかでそれぞれが役に近づいていったところもあったけど、そうやって団結力ができあがっていく様子は素晴らしかったね。

当初は彼らにシンクロなんて絶対に無理だと思ったこともあったけど、なんとか完成することができて、そういう意味でも希望を見出せたんじゃないかな。

―それは、映画同様に感動的な瞬間ですね。そんななかで、スパルタな女性コーチが印象的でしたが、実際のコーチがモデルだったりするのでしょうか?

監督 いやいや、それはないよ(笑)。今回は、タイプの異なる女性のコーチを2人登場させたけど、その理由としては、まず1人目は優しくてスポーツの哲学を示すタイプの人で、もう1人は「スポーツには肉体的な訓練をする過程でこういう厳しさも必要なんだ」と見せられる人にしたかったからなんだ。

それによっておもしろかったのは、マチュー・アマルリックをはじめフランスで知名度の高い俳優たちに対して、まるで12歳の子どもを叱りつけるようにしている姿が見られること。実際、プールのなかの俳優たちも怒られている子どもみたいで、笑ってしまったよ。

成功するかどうかよりも自分に誠実でいたかった

―私もかなり笑わせいただきました。とはいえ、彼らの真剣さには心を打たれましたが、タイトルにもあるように、監督にも「イチかバチか」をかけた経験があれば教えてください。

監督 フランスでは、俳優として成功するといろいろと周りからのジェラシーが大変なんだ。というのも、自分が出演した映画が当たると、もてはやされるからね。つまり、作品の質がいいとか悪いとかは関係なく、映画が成功するかしないかだけで俳優としてのポジションが決まってしまうという状況があるんだ。

そんななかで、僕は俳優業を続けるか、それともやめるかという選択を迫られたことがあるんだけど、そのときに思ったのは、まずは自分が何を信じられるかということ。だから、今回も監督するなら、自分に近い題材で撮りたいと思ったんだ。

もし、自分とかけ離れた世界を表現していたら、それは自分を偽っているようにも感じられたかもしれないよね。だから、僕はこの映画が成功するかどうかは別にして、誠実に自分のなかにあるものを描きたいと思ったんだ。つまり、シンク(沈む)するか、スイム(泳ぐ)するかという選択を迫られたとき、僕は泳ぐほうを選んだというわけだよ。

―世界中で大ヒットしたのは、監督のそういう真摯な思いが伝わった結果のように感じます。女性たちも年齢とともに悩みが増えていきますが、おじさんたちのがんばる姿に勇気をもらえると思うので、ananwebの女性読者たちへメッセージをお願いします!

監督 メディアでは筋骨隆々とした肉体が美しいとか、痩せていることがいいというイメージを作り上げてしまっているところがあって、フランスでも問題になっているけれど、徐々にそれとは反対の動きが出始めているよね。つまり、世間が作り上げたイメージだけが美しいわけではないということだよ。

だから、彼らのような肉体でも決して醜いわけではないし、年齢や現実を受け入れることも大切だということは伝えたいね。40代、50代になった女性でも、美容整形をしてみんなと同じような顔になってしまうよりは、自分らしさを保つことが人の心に触れることにつながっていくんじゃないかなと僕は思うよ。

無理に青春を追いかけようと思っても絶対に追いつかないわけだし、それよりもあるがままの自分でいることのほうが大事なんだということ。この作品でみなさんに勇気を与えられたらうれしいよ。

何が起きるかわからないから人生は愛おしい!

誰の人生においても、一度は訪れるイチかバチかをかけた瞬間。何もせずに沈んでしまうのを待つのか、カッコ悪くても前に向かって泳ぎ続けるのかは、すべて自分次第だと感じるはず。どんな悩みも心配事も、笑いと涙で水に流してくれるおじさん集団の雄姿は必見です!

胸が躍る予告編はこちら!

作品情報

『シンク・オア・スイムーイチかバチか俺たちの夢ー』
7月12日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
配給:キノフィルムズ/木下グループ
©2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions
http://sinkorswim.jp/


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