志村 昌美

宇野亞喜良が『メアリーの総て』に見るヘプバーンとバルドーに並ぶ女優

2018.11.29
良くも悪くも、“運命の出会い”は人生を大きく左右してしまうもの。そんな葛藤や苦悩を経験したひとりの女性作家メアリー・シェリーの人生を映画化したのが注目作『メアリーの総て』です。そこで、この作品にインスパイアを受けたこちらの方にお話を伺ってきました。それは……。

日本を代表するイラストレーターの宇野亞喜良先生!

【映画、ときどき私】 vol. 204

これまでに数々の受賞経験を誇り、長きにわたって第一線でご活躍されている宇野先生。椎名林檎や布袋寅泰といった有名アーティストたちのアルバムのジャケットデザインをはじめ、化粧品ブランド「マジョリカ マジョルカ」とコラボレーションした似顔絵ジェネレーター「マジョリ画」などでも話題となっています。

今回は、宇野先生と本作がコラボし、オリジナルイラストレーションの描かれた鑑賞券と特典のノートブックが完成。そこで、映画のことやご自身のことなどについて語っていただきました。

―まずは、この作品をご覧になったときの印象から教えてください。

宇野先生 メアリーはまだ18歳ですが、そんな若い女性が「フランケンシュタイン」という怪奇小説を書いたというのがおもしろいですよね。恋愛するのは当然ですが、その年で結婚したり、妊娠したり、僕の頭のなかにある18歳の少女とはずいぶん違うなと感じました。

―先生には、このメアリーという女性はどのように映りましたか?

宇野先生 たとえば、僕の映画体験のなかでは、アメリカの映画で見た女優オードリー・ヘプバーンがいわゆる「清純な少女」という感じでした。でも、この映画はそういった少女っぽさを出そうとはしていなくて、当時の日常や恋愛の様子がよりリアルに描かれていますよね。

だから、メアリーも「奇妙な小説を書く感覚を持った変わった女性」というよりも、普通に恋愛をした普通の女性だったんじゃないかなと思いました。

―主演を務めたエル・ファニングは、現在世界中の才能ある監督たちのミューズ的な存在でもありますが、ご覧になっていかがでしたか?

宇野先生 実は、彼女の作品は今回初めて観ましたが、まずは「演技力のある女優さんだな」という印象でしたね。それから、いま挙げたオードリー・ヘプバーンもですが、フランスのブリジット・バルドーとか、昔は「これからの10年はこの女性がシンボルになるだろう」みたいな女優さんというのがいましたが、彼女がいまの時代の女性なんだろうなという感じも受けました。

人生の転機となった出会いとは?

―メアリーはある運命的な出会いがきっかけとなって愛や苦しみを学び、あらゆる感情を知ることによって才能を開花させていったと思いますが、宇野先生がご自身を語るうえで欠かせない人との出会いや影響を受けた人はいますか?

宇野先生 1960年に「日本デザインセンター」という広告を作る会社に入りましたが、僕の少しあとに入ってきたのが横尾忠則さん。お互いに話が合っておもしろかったので、そこで意気投合しました。

当時は広告が理論的になってきていて、おもしろくなくなってきていると感じていたので、僕と横尾さんで「イラストレーションを主体にしたデザインというのをやりたい」ということで、もうひとりの同僚だった原田維夫さんも含めて3人で会社を辞めて、新しくデザインオフィスを立ち上げたんです。

―まずは横尾さんとの出会いがひとつのきっかけでもあったのですね。

宇野先生 当時はニューヨークをはじめ海外にもイラストレーターでおもしろい人がいっぱいいましたし、世の中がイラストレーションに注目していたということもあって、僕はイラストにウエイトを置いていましたが、彼はイラストレーターとしてだけでなく、デザイナーとしての才能もありましたし、それだけではあきたらなくて、画家宣言もすることになるんですよね。

あとは、先ほどの「日本デザインセンター」で重役だった山城隆一さんの「デザインに悲しみは盛れないか」という言葉も印象に残っています。というのも、それまでデザインで重要とされていたのは、「機能的でいかに内容やテーマをシンプルに伝えることができるか」ということ。

そんなときに山城さんが提案したデザインに感情や文学的な雰囲気を盛り込むことができないのかという思いには影響されましたし、そこで物を描く以外の要素も入れていきたいなという感覚が生まれたんだと思います。

自分の多様性は周りに引き出しもらった

―そういった出会いを経て、幅広い分野で活躍されていますが、昨年にはアーティストグッズブランド「QXQX」も立ち上げられるなど、84歳になられてもますます精力的に活動をされています。どのようなことが原動力となっているのか教えてください。

宇野先生 イラストレーションには自分の美学がありますが、「僕の考えで世の中を変革していきたい」というような強烈な思いというのはまったくありません。あくまでも、仕事の依頼があってから、「これをどういう風に表現しようかな」と考えるので、僕の場合はまずは依頼が先にあるという感じなんです。だからこそ、僕は児童文学から大人の小説までいろんなものに絵を描くようになりました。

でも、そのおかげで最初に児童文学の今江祥智さんと仕事ができたり、寺山修司さんとの出会いで少女というモチーフを書くことにもなったりと、僕にとっては結果的に非常によかったなといまは思っています。あとは、編集者が僕のなかにある可能性を見抜く力が的確だったということ。だからこそ、僕の多様性というのが引き出されたようにも感じています。

インタビューを終えてみて……。

宇野先生のアトリエにお邪魔させていただくという貴重な機会をいただいた今回の取材。長年、多くの人の心を引き付けるイラストを生み出されている宇野先生ですが、その温かいお人柄にもすっかり魅了された時間となりました。

みなさんも、先生のなかのイマジネーションの世界で描き上げたというメアリーのイラストをさっそくゲットしてみては? また、現在は展覧会も開催中なので、そちらにもぜひ足を運んでみてください。

200年前に誕生した時代を超えるヒロイン!

時代と愛に翻弄されながらも、自らの力で立ち上がり、道を切り開いたメアリー。いまなお人々をとらえて離さない名作の陰に隠れた真実に、誰もが心を揺さぶられるはずです。女性としての強さや人を愛するがゆえの激しい感情など、いまにも通じる思いを受け取ってみて。

ストーリー

640

19世紀のイギリスで、作家を夢見るメアリー。折り合いの悪かった継母と離れるため、スコットランドにいる父の友人のもとで暮らすこととなる。そんなある日、屋敷で開かれた読書会で“異端の天才詩人”と呼ばれるパーシー・シェリーと出会い、強く惹かれ合う。

パーシーには妻子がいたが、情熱に身を任せた2人は駆け落ちしてしまうのだった。しかし、次々と不幸が降りかかり、失意の日々を送ることとなる。そんななか、メアリーのなかで何かが生まれようとしていた……。

胸が引き裂かれる予告編はこちら!

作品情報

『メアリーの総て』
12 月15日(土)より、シネスイッチ銀座、シネマカリテ他全国順次ロードショー
配給:ギャガ
©Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017
https://gaga.ne.jp/maryshelley/

展覧会情報

展示会名:宇野亞喜良展「言語的絵画」
会期:11月21日(水)~12月4日(火)※最終日は午後6時閉場
会場:銀座三越7階ギャラリー
出品内容:新作原画、版画、goods