志村 昌美

池松壮亮「20代はこんなはずじゃなかった」いま伝えたい思いとは?

2018.11.23
映画とはそれぞれの時代を反映するものですが、そんななかで生まれた注目作のひとつといえば、ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品されるなど、世界的にも高い評価を受けている塚本晋也の最新作『斬、』。そこで、主演を務めたこちらの方にお話を伺ってきました。それは……。

話題作への出演が続いている池松壮亮さん!

【映画、ときどき私】 vol. 202

本作で池松さんが演じているのは、武士でありながら刀を抜くことに悩む若き侍の杢之進(もくのしん)。観るものを虜にする熱演が話題となっていますが、今回は20代のいま感じている思いや映画作りへの向き合い方について語っていただきました。

―まずは、今回出演しようと心を動かされたのはどんなところですか?

池松さん 僕にとって塚本晋也監督は特別な人であり、どうしても出会いたかった人だったというのがまず1つ目の理由。そして、2つ目はできあがってきたプロットがあまりにも素晴らしかったので、断る理由がなかったということです。

―なかでも、プロットのどのあたりに惹かれたのでしょうか?

池松さん どのシーンがという具体的なことではなく、総合的な素晴らしさがありましたが、時代の変わり目に絶対に残さなければいけない作品だとも感じたからです。あとは、自分の役柄に関していうと、「自分はこの役にふさわしい」と思えたので、「やります」と伝えました。

塚本監督との出会いは特別だった

―撮影から1年ほどが経ちますが、初めて参加された塚本監督の現場を改めて振り返ってみていかがですか?

池松さん いろいろ感じるところはありましたが、塚本監督は商業と一番かけ離れたところで戦っていらっしゃる監督。おそらく監督のやり方は誰も真似できないんじゃないですかね。それに、何よりも映画を作ることへの優先順位がつねに明確にあったので、あんなにも映画を作る喜びを感じられる場所はそうそうないと思いました。

―これまでにいろんな現場を経験されていますが、塚本監督がほかとは違うと感じたのはどんなところでしょうか?

池松さん こんなことを言うべきではないのかもしれないですが、明確に違うのは、映画を作るために誰かからお金が出ているわけではなく、塚本監督の人生からお金が出ているということ。あとは、すごく少数で作っているので、コミュニケーションも直接的なところも違いました。

塚本監督は脚本から完成までをひとりでやっていますが、これだけ映画の能力が優れた人というのはいまの日本にはいないと思います。20代で塚本監督と出会えたことはものすごく大きなことでしたし、特別なことでした。

―今回演じた杢之進というキャラクターは、どういう人物だととらえていますか?

池松さん 過去も未来も縦軸も横軸も、ものすごく広く想像できる人でありながら、結局自分の無力さに負けた人という印象ですね。

―監督によると、「現代の若者が江戸の末期に舞い降りたら、こういう人物もいたかもしれない」というコンセプトだったそうですが、杢之進にいまの若者と通じる部分は感じましたか?

池松さん 塚本監督は願いも込めて言っているんだと思いますが、不安を感じていたり、信じているものを見失ったり、という意味では現代的なんじゃないかなと思います。

―役作りで意識したことはありますか?

池松さん 漠然としているかもしれないですけど、自分のなかの平静心みたいなものと祈りのようなものを込めたつもりです。

この作品をやるために俳優を続けてきたと感じた

―杢之進という役に、ご自身との共通点を感じられたところはありましたか?

池松さん 自分が20代に入ってから抱えてきたものと杢之進の“祈り”みたいな部分が、すごくリンクするところがあったので、大げさに聞こえるかもしれませんが、「自分はこの作品をやるためにいままで俳優を続けてきたんじゃないか」と思わせてもらえるような感じはありました。これまでもそういう出会いがいくつかあったので、俳優を続けてきたというところはありますね。

―作品ご覧になったとき、全体の印象はいかがでしたか?

池松さん とにかく強度のある作品になったし、すごく自信はあります。「ぜひ観てください」と言えるところまでいけたなと思いますし、海外でもみなさんにとても真摯に受け取ってもらえたので、手ごたえは感じています。

―今回は、江戸時代の末期でしたが、いまとは違う時代背景のなかでどのような意識を持たれていたのでしょうか?

池松さん あくまでも想像するしかないんですが、たとえばこういう時代ですから、「明日から戦争行ってください」と言われるかもしれないですよね。そういうことへの危機感は多少なりともあるので、そうなったときにどうなるか、みたいなことだと思います。

「明日は我が身」というか、そうじゃないとこういう映画は作られないと思いますし、そういうところまで来てしまっているということなんですよね。そうあって欲しくないという気持ちは、みんな同じですから。

―現代にあえて時代劇を作る意味というのは、どういうところにあると思いますか?

池松さん これが現代劇だと映画の効果がなくなりますし、戦争モノにすると直接的すぎて見るのがキツイと感じてしまうんですが、時代劇というだけでエンターテインメント性を出すことができるんです。

この作品は、普遍的なものと、“痛み”についての映画だとも思っているので、役を演じるうえで過去や未来にあるかもしれない痛みを想像できていないと成立しないと思いました。ただ、僕がそれを想像できるということは、それだけいまの世の中はよくないところまで来てしまっているということなのかもしれませんね。

想像以上に30歳を意識している

―この役にはご自身が20代で取り組んできたことや模索し続けてきたことが集約されていると思われたそうですが、20代になってからどのようなことを感じているのでしょうか?

池松さん 「こんなはずじゃなかった」というか、挑むほどに自分の無力さを感じていましたし、いまでも感じています。

―では、30歳に向けていまどのような心境ですか? 

池松さん いま28歳なので、あと1年半くらいはありますが、想像以上に30歳というのを意識していますね。それは自分の気持ちの問題だけではなくて、時代の転換期が来ていると感じているからだと思います。

期待も不安もありますが、これから世の中はどんどん良からぬ方向に向かってしまう可能性もあると思うので、考えるべきはそのなかで自分が何をできるかということ。それにプラスして、20代でやるべきだったことを次の年代には持ち込みたくないので、30代では時代と手を組みながらやるべき役や作品をやっていかないといけないとは思っています。

―具体的に挑戦したいこともありますか?

池松さん 何か具体的に決められたらいいんですが、コロコロ変わったりもするので、まずは一生懸命生きていこうかなという感じです。

―10代で映画と出会い、いまにいたっていますが、どうして好きなものを早く見つけられたと思いますか?

池松さん 本当は僕は小さい頃から野球選手になりたかったんですけど、自分の能力を信じられなくなって、そのときやっていた俳優をやることにしました。それは、目の前にあった可能性を信じただけであって、その可能性が見いだせなくなったらやめるかもしれないですね。

というか、なりたいものになれてるのなんてイチローさんくらいじゃないですか(笑)? 僕は「俳優になりたい」と思ったことはありませんでしたが、そのなかで続けてこられたのは、俳優としてやれることの可能性を信じているからだと思います。つまり、「この顔とこの思考で生まれた自分を一回信じてみる」みたいなことです。

タイミングが合えば映画監督もやってみたい

―そういう意味では、いまでも憧れているのは野球選手ですか?

池松さん そうですね、尊敬しています。あとはミュージシャンですね。やっぱり、男は野球選手かミュージシャンじゃないですか(笑)?

―では、俳優としての理想像はありますか?

池松さん 俳優を始めた頃から、「○○さんみたいになりたい」と思ったら負けな気がしていたので、特に目標にしている人はいませんが、これまでは自分がそのときそのとき追い求めるいい俳優を目指してきたので、これからも同じようにしていくんだと思います。

―大学時代には映画監督のコースを専攻されていましたが、塚本監督のように監督業と俳優業を両立させてみたいお気持ちはありますか?

池松さん 年々興味は湧いていますし、気持ちも高まっていますが、そういうことはおのずとタイミングが訪れるはず。俳優もタイミングが来て選んだ道ですし、自分が撮るべき作品と出会ったらそのときはやるとは思います。

―「思っていることを映画で伝えたい」ということもあり、2年ほど前にSNSをすべてやめられましたが、実際にやめてから変化はありましたか?

池松さん そんなに大切なことってたくさんないので、携帯を閉じたほうが大事なことがより入ってくるようになったとは思いますね。目をつぶったほうが大切なものが見えるみたいに、シンプルになって雑味がなくなったのかもしれないです。

とはいえ、いまの人たちがSNSを遮断することはなかなか大変なことだと思いますが、僕の場合はどちらでも選べる状況にあったからというのは大きかったと思います。「俳優はSNSをやらなくてはいけない」という決まりもないですからね(笑)。

―では、そうすることで表現することに対してよりまっすぐに向き合えるようになりましたか?

池松さん SNSをしていたときよりはそうなったかなとは思います。伝えたいことや怒っていることなど、発したい言葉は増えるいっぽうですが、いまはこれでいいのかなと。僕は仕事とプライベートの境目はあまりなくて、ずっと映画のことを考えているし、ずっと自分の人生のことを考えている感じですね。

インタビューを終えてみて……。

どんな質問にもひとつひとつ言葉を選びながら、真摯に答えてくださる姿が印象的な池松さん。ここ数年でグッと大人の雰囲気が強くなってきていますが、本作でも漂うような色気と映画に対する熱い思いはひしひしと伝わってくるはずです。ぜひ、その一瞬一瞬をスクリーンで存分に堪能してください。

圧倒的な世界観に誘われる!

普段、あまり時代劇になじみがないという人でも、いまに通じる思いや生きることの意味などに誰もが心を揺さぶられる本作。最高のキャストとスタッフが贈る渾身の1本は、まさにいまだからこそ観るべき作品です。

ストーリー

250年も戦がなく平和が続いていたが、江戸時代末期を迎え、開国するか否かで国内は大きく揺れ始めることに。そんななか、農村で手伝いをしていた浪人の杢之進は、時代の変革を感じつつ、隣人たちと穏やかに暮らしていた。

ところがある日、剣の達人である澤村が現れ、杢之進に京都の動乱へ参加しようと誘いをかける。そして、旅立ちの日が近づいたとき、無頼の浪人集団が村に流れつき、あることをきっかけに事態は思わぬ方向へと進んでしまうのだった……。

胸に切り込んでくる予告編はこちら!

作品情報

『斬、』
11月24日(土)よりユーロスペースほか全国公開!
配給:新日本映画社
©SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
http://zan-movie.com/