31年前に何が起きたのか…驚愕の実話を描いた『1987、ある闘いの真実』
隠された真実に迫る衝撃作『1987、ある闘いの真実』!
【映画、ときどき私】 vol. 187
1987年、ソウル大学の学生が警察の取り調べ中に不可解な死を遂げてしまう。当事者である南営洞警察は、心臓麻痺によるものと発表するが、新聞が「拷問が原因による死亡である」とスクープしたことにより、事態は急変する。
この事件をきっかけに、南営洞警察のパク所長とソウル地検のチェ検事の対立は激化。さらに、マスコミの報道も日に日に過熱していき、ついには民衆たちをも巻き込む大きな騒動へと発展していくことに……。
韓国でも大ヒットを記録した本作ですが、海外でも評価が高く、今年の4月にイタリアで行われた「ウーディネ・ファーイースト映画祭2018」では、現在日本で大ヒット中の『カメラを止めるな!』を僅差で上回り、観客賞1位を獲得したほど。そこで、見どころを探るべく、こちらの方に直撃してきました。それは……。
韓国のチャン・ジュナン監督!
前作『ファイ 悪魔に育てられた少年』で注目を集めたジュナン監督ですが、その手腕は本作でも存分に発揮されており、韓国映画界においても今後の活躍が期待されている監督のひとりと言われています。今回は、撮影時の苦労や当時の記憶などについて語っていただきました。
いまこの作品を作ろうと思った2つの理由とは?
―まずは事件から31年経ったいま、映画化しようと思ったきっかけを教えてください。
監督 今年日本でも公開された韓国映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』では、1980年に韓国の光州で起きた痛ましい事件を扱っていますが、そこでの出来事が凝縮し、爆発したのが1987年。さらに、政治的な意味でも闘争によって大統領直接選挙の権利を獲得することができた重要な年であったにもかかわらず、誰も語ろうとしないことにもどかしさを感じていたのです。それがひとつめの理由ですね。
そして2つ目は、私にも子どもができて父親になったから。それによって、「自分は次の世代にどんな話を伝えるべきなのか」とか「世の中に対して何を残すことができるのか」といったことについていろいろと悩むようになったんです。
最初は、まだパク・クネ政権下だったので、このような映画を作るうえで、さまざまな困難があるだろうという心配もありましたが、こういった話はすべきであるし、子どもたちにも伝えなければいけないことだと思いました。
―そういった監督の思いはスクリーンからもひしひしと伝わってきました。
監督 それから、いまの時代を生きている人々にとってもこのストーリーには、美しい部分が含まれていますが、そこは私たち自身を映し出すものであるとも思っています。また、それと同時に希望と勇気を与えてくれる話でもあると感じたので、いろいろな問題があるとわかっていても、挑戦すべきであると決心しました。
舞台挨拶では泣いてばかりいた
―韓国で上映した際、この時代のことを知っている世代と知らない世代とでは、映画に対する反響も異なりましたか?
監督 少しは違っていたかなとは思いました。これは恥ずかしい話なんですが、実はこの映画が公開されて以降、私は「泣き虫監督」と呼ばれています。というのも、舞台挨拶であちこちを回ったのですが、この時代を経験した方ですぐには立ち上がれずにその場に残って泣いている方や上映終了後に「こういう映画を作ってくれてありがとう!」と叫んでくださる方がいて、そういう光景を見ていたら、知らないうちに涙を流してしまっていたからなんです。普段は涙もろいほうではないんですけどね(笑)。
―年齢を問わず、多くの方の心に届いているのを実感されたんですね。
監督 ちなみに、この時代を経験していない若い人でも、2016年から17年にかけては、パク・クネ元大統領の政権に立ち向かうため、広場でのデモを経験している世代なんです。もちろん戦い方など様相は違いますけど、いまの人たちも似たような経験を持っていることもあり、そういうところを比較しながら観てくださったのかなとも思っています。
私が読んだ観客のレビューのなかで、印象的なものがありましたが、それは「娘がこの映画を観たあとに、『お母さんありがとう』と言って泣きながら自分のことを抱きしめてくれた」というものでした。それを見て、私も非常に感動しました。
――本当に素敵なエピソードですが、そもそも韓国の方はこの1987年をどのように受け止めているのでしょうか? 若者たちが命を落としたネガティブな印象なのか、それとも民主化勢力が勝利した記念すべき時期なのか、そのあたりを教えてください。
監督 その2つが同時に存在していると思います。若い学生たちが独裁政権の犠牲になってしまったというもどかしさと同時に、そういった出来事に対して憤りを感じた多くの人々が街に出て歴史を大きく変えたからです。
命を落とした学生たちのことは教科書の中でも簡単に触れられているので、若い人も彼らについては知っているはずですが、どのようなことが起きていたのかという詳細についてはよく知らなかったと思うので、この作品で理解してもらうことができたのではないでしょうか。
―当時を知らない若い世代も、この作品が訴える重みを受け止めているのですね。
監督 実はもうひとつ心に残っている観客のレビューがあって、そこには「パク・クネ政権がなぜ文化界を統制しようとしたのか、この映画を見てわかりました。それは映画が与える力がいかに大きいかということを感じたからです」と書いてあったのです。そのとき、この映画を作った甲斐があったなと本当に思いました。
17歳だった監督の目に映った忘れられない光景
―1987年当時、監督は17歳でしたが、実際にご自身が経験したことも映画に反映されていますか?
監督 私はまだ高校生でしたが、そのときのことで忘れられない記憶もあります。まずは、学校の登下校の際に大学生たちが戦っている姿を何度も目撃していたので、「あのお兄さんとお姉さんはなぜあんなにも催涙弾が飛んでいるなかで戦っているんだろう」と疑問に思っていたことです。同時に怖いとも感じていたので、私は本当に普通の学生でした。
もうひとつは、ある日友人が「学校の隣にあるカトリックの聖堂で不思議なビデオを見せてくれるらしい」と聞きつけてきたときのこと。好奇心が強かった私は一緒について行くことにしたのですが、そのときに見せられたビデオは、劇中で女子大生のヨニが見たのと同じような内容で、小さな薄暗い部屋の様子も映画と同じような場所でした。
そのビデオは、冒頭にもお話した光州事件についてのものでしたが、それを見て「韓国でこのような出来事があったのか」と思うと怖かったですし、そういう真実について誰も話さないということについて鳥肌が立つくらいの恐怖を感じたのを覚えています。おそらくそのときに私のなかでこの映画の “種” が育っていったのかもしれないですね。
――今回は、キャラクター作り、キャスティングともに絶妙でしたが、こだわったところは?
監督 この映画は、まずひとりの悪人がいて、それに対して大勢の登場人物がぶつかっては破れ、次の人にバトンを渡していく、といった構造になっています。なので、ひとりひとりのキャラクターが主人公のように見える必要があったので、キャラクター作りというのが今回は非常に重要でした。
―そのなかでも、特にどのような点を意識していましたか?
監督 私はそれぞれの人物を単純な2Dのキャラクターではなくて、3Dのキャラクターにしたいと思いました。つまり、さまざまな人間的な側面を持ちながら、自分に課された役割を短い時間のなかでやり遂げてくれるキャラクターということです。
なので、シナリオを作るのが本当に大変でしたね。そのうえで俳優たちに話したのは、「平凡でただのイイ人になってしまうのはやめよう」ということ。それから、その時代に本当にいたような人物に見えるようにもしたかったので、まるで彫刻を作るかのように作り上げていきました。
当初は秘密裏に作業せざるを得なかった
―とはいえ、こういった題材を取り上げると、どこかから圧力をかけられたり苦労したこともあったのではないでしょうか?
監督 シナリオの脚色作業をしているときは、パク・クネ政権が非常に強い時代でもあったので、秘密裏に作業をしていました。ただ、幸いにもキャスティングが始まったときには、チェ・スンシルゲート事件でスキャンダルとなり、パク・クネ元大統領の腐敗が明らかになったので、雰囲気はだいぶ変わりましたね。
その結果、以前はこの映画に投資をするのは難しいという反応を見せていた会社も、事件発覚以降は積極的に映画を作ろうと意思表明をしてくれて、目まぐるしく状況が変わっていきました。
ただ、それらが明るみになる前から、主な配役については、キム・ユンソクさんやカン・ドンウォンさんから参加したいと言ってもらっていたので、そういった俳優たちが力を貸してくれたこともあり、この映画は奇跡的に撮ることができたと思っています。
―それでは最後に、ananwebを読んでいる女性読者に向けてメッセージをお願いします!
監督 すぐ隣の国ではありますが、日本と韓国の歴史というのはまた違うものだと思います。ただ、このストーリーが持っている普遍的な部分、つまり「私たちはどのように生きるのか」とか、人間に対する信頼というのをあきらめてはいけない理由といったものが、この映画のなかには込められているはずです。
だからこそ、この映画はあらゆる国で多くの人たちに共感していただけているのかなと思うので、これからこの映画をご覧になる女性の方々にも大きな勇気と希望を与えるような映画になればいいなと切に願っています。
正義とは、希望とは何かを考える!
わずか31年前に隣の国でこんなことがあったのかという驚きに包まれると同時に、サスペンス映画としても引き込まれる本作。目が離せない展開だけでなく、大切な人を失う悲しみやそれぞれの人物に対する思いなど、誰もが感情を大きく揺さぶられるはず。いまの時代と重なる部分もあるだけに、自分の前に広がる景色も違って見えてくる必見の1本です。
胸がざわめく予告編はこちら!
作品情報
『1987、ある闘いの真実』
9月8日(土)シネマート新宿ほか、全国順次ロードショー
配給:ツイン
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http://1987arutatakai-movie.com/