あのLGBT発言議員も観てほしい…!? 話題作『ディヴァイン・ディーバ』
ブラジル発のドキュメンタリー『ディヴァイン・ディーバ』!
【映画、ときどき私】 vol. 183
本作で主役となるのは、軍事独裁政権全盛の1960年代ブラジルで、ドラァグクイーンカルチャーを開拓した第一世代のドラァグクイーンたち8人。時代に翻弄されながらも、自らの生き方を貫き続けた彼女たちが繰り広げる魂のパフォーマンスはもちろん、胸に突き刺さる言葉の数々を堪能できる珠玉のドキュメンタリー作品です。今回は、そのなかのおひとりが来日されたので、直撃してきました。それは……。
国際的に活躍しているディヴィーナ・ヴァレリア!
劇中でも圧巻のパフォーマンスを繰り広げ、観客を魅了しているヴァレリアさん。74歳のいまなお現役であり続ける原動力や美の秘訣などについて語ってもらいました。
―なんと47年ほど前にも来日されたことがあるそうですが、そのときのことで思い出に残っていることはありますか?
ヴァレリア 個人的なエピソードでいうと、京都のナイトクラブでショーに参加したことはよく覚えているわ。というのも、舞台にリフトで降りてくるという演出があったんだけど、リフトが途中で止まってしまって、それに気がつかなかった私は舞台に転落して、全治1週間のケガを負ってしまったのよ(笑)。
―それは何とも痛そうな思い出ですが、日本に対する印象はどうでしたか?
ヴァレリア そのほかに覚えているのは、日本はナイトクラブがたくさんあって、豪華なショーや国際的なショーを数多くやっていたことかしら。でも、今回久しぶりに来日してみて、日本はすごく成長して進歩もしたけれど、当時の華やかな部分が少しなくなっているようで、そこにはギャップを感じているところもあるわ。
―前回とは違う印象を受けていらっしゃるんですね。では、日本の観客についてはいかがですか?
ヴァレリア その当時、どの劇場もナイトクラブも、お客さんがいっぱいで本当に大成功という感じだったのよ。ショーが終わった後には、「一緒に座ってドリンクを飲みましょう」とみんなが誘ってくれたりもして、とにかく優しくていい印象しかないわね。
辛くてもあきらめなかった
―日本と同じく、ブラジルの観客の方々もみなさんのショーには熱狂していますが、そのいっぽうで60~80年代は軍事独裁政権下という厳しい時期を過ごしていたことも劇中では話されています。辛くて舞台に立つことをやめようと思ったことはないですか?
ヴァレリア たとえば普通のアーティストだったら、テレビやほかのメディアに出ることもできたんだけど、当時はいろんなことが禁止されていたから、私たちは劇場のステージしかパフォーマンスが許されていなかったの。
とはいえ、そこでも障害や弾圧はあったから決して簡単ではなかったけれど、観客はすごく私たちを受け入れてくれて、とても愛してくれていたわ。私もそれがとても好きだったから、あきらめようと思ったことは一度もないわね。
―そのときに支えとなっていたものは何ですか?
ヴァレリア 自分の芸術に対して、観客が拍手喝采してくれたことよ。それによって、「私たちのやっていることは正しいんだ」という確信を持つことができたから。私はいつもそんなふうに思い続けてきたの。もし私がそこであきらめてしまっていたら、いまここにはいなかったと思うわ。
―そんなあらゆる思いが詰まったヴァレリアさんの歌うシーンには、本当に心を揺さぶられましたが、ご自身にとって舞台とは?
ヴァレリア 舞台にあがるということは、私にとって最大の幸せを実感する場所。私の幸せはそこにすべて集結しているのよ。
死ぬまで舞台に立ちたい!
―ほかのメンバーは年齢のことなどもあり、引退について考えている方もいるようですが、ヴァレリアさんは生涯現役を貫きたいと考えていますか?
ヴァレリア 今回の映画に出演している8人は、全員がプロとしてショーを続けていたわけではなくて、私を含む4人だけがずっとパフォーマンスをし続けていたの。ただ、2004年に劇場の70周年記念で再び集まり、その後10年くらいそれが続いていて、映画ではその様子が映されているというわけなの。
私は人生最後の日まで現役でいたいと思っていて、祈るのはそのことだけ。だから、舞台で最後を迎えるのが理想よ。
―ヴァレリアさんはとてもパワフルな方ですが、どのようにしてモチベーションを保ち続けているのですか?
ヴァレリア 自分の仕事に対する愛がまずは大きな原動力。そして観客からの愛と共感は私にとって大きな支えといえるわ。あとは神からも力が得られているので、それで頑張り続けることができているのよ。
―ブラジルでは、LGBTやマイノリティの人たちに対しての理解というのはいかがですか?
ヴァレリア 私にとっては、パフォーマンスそのものが私のメッセージ。観客もそこを第一に受け取ってくれているから、私が男とか女とかそういうものを超えているのよ。つまり、アートを提供する存在であるというのが先にきていて性別やマイノリティは関係ないから、その部分はずっと変わらずにここまできたと思っているわ。
日本の現状に伝えたいこと
―日本でも以前に比べればかなりオープンにはなっており、トランスジェンダーのタレントも非常に人気ですが、そのいっぽうで差別的な発言をする政治家がいたりするという状況もあります。そのことはどのようにお感じになりますか?
ヴァレリア 今回、多くのインタビューを受けるなかで、いろいろな話を聞いたけれど、日本社会そのものがまだ保守的だという声も聞いたわ。でも、私が最初に来たときには、全国どこでも大成功だったのに、40年以上が経ったいまでも日本がそんなに保守的だというのは逆に驚きでもあるわね。
ただ、当時に比べて日本でもそういう人たちの活躍の場がショービズの世界でも増えているというのはとてもいいこと。とはいえ、そのいっぽうで差別的な考え方をする人たちがまだいるというのはとても残念なことだわ。
個人的には、そういう発言をする人は、もしかして自身も何か問題を抱えているからこそ、ほかの人々が自分の幸せを追及した生き方をしていることを受け入れられないんじゃないかなと考えたりもするわね。
―日本人は周囲からの視線や評判ばかりを気にするところがあり、なかなか自分らしく生きられないと感じている人も多いと思いますが、何かアドバイスはありますか?
ヴァレリア まずは幸せになるために、自分であり続けるのをあきらめないこと。私たちが勇気を出したように、日本のみなさんも勇気を出す必要があるわね。とはいえ、もちろん社会のルールはみんな共通して守るべきではあるから、それを意識しながら自尊心を持って生きていくということが大切よ。
だから、自分のアイデンティティを偽る必要はなくて、自分が自分であるということに関しては、人目を気にしないことね。そして、勇気を持って自分の本当の姿を受け入れられれば、もっと幸せに生きられると思うわ。
美の秘訣は心がけにあり!
―劇中で印象的なのは、みなさんの美意識の高さですが、何か心がけていることはあるのですか?
ヴァレリア 私にとって美の一番の秘訣は、自分と仲良くして過ごすこと。つまり、自分が自分であることに対して喜びを感じるということなのよ。だから、私には特別なクリームを使うとか、ダイエットのためにエクササイズをするだとか、エステに行くだとか、整形するだとか、そういう必要はないの。
私は整形をしたこともないし、今後もするつもりないんだけど、しわも一切気にせず自分の一部として受け止めているくらいよ。
―内面の美しさによって、外見の美しさも変わらず保たれているのですね。
ヴァレリア いまは74歳になったのだけれど、私の場合、人生でやりたいと思っていたことは全部やってきたので、何も悔やむことがなければ、振り返ってみて何かが足りなかったということもないの。それは、つねに自分に満足していて、ありのままの自分を受け止めてきたからこそだと思うの。
実際、もし自分に喜びや幸せ、満足感という気持ちがなければ、いくら整形をしても美しくなれないものよ。映画のなかでも私が言っていることだけど、私は年を重ねているのではなくて、若さを蓄積していると感じているの。
女性たちに伝えたい思いとは?
―とても素敵な言葉ですね。やりたいことをすべてやったということですが、そのなかでも今後やりたいことはありますか?
ヴァレリア 私が死ぬまで残されている時間で一番望んでいることは、自分がこの世を去るときに世界がもっと平和になっていて欲しいということ。みんながお互いに友愛の心を持ち、貧困のない幸せな世の中になることだけを願っているのよ。
あと、LGBTの人たちには私が若いころに経験したようなことを味わうことなく、自由に生きていって欲しいわね。でも、それはその人たちに限らず、世界中の人がその権利を持っているので、みんなが自由に自分であり続けられたらいいなと思っているわ。
―そんな幅広い視野を持っているのは、いまでも定住しないスタイルで世界中を旅しているからだと思いますが、これからもそれは続けていく予定ですか?
ヴァレリア そのつもりよ。旅は私の一部でもあるから、続けようと思っているわ。というのも、旅をすることをやめたら、私が私でなくなるような気がするの。でも、もしいつか旅することをやめたなら、田舎で暮らして、にわとりでも飼いながら畑でも耕してるかもしれないわね(笑)。
―それでは最後に、ananweb読者に向けてエールをお願いします!
ヴァレリア 私は本当に女性が大好きで、だからこそ自分自身も女性のひとつの代表になれたらいいなと思ってがんばってきたの。女性にはまだまだいろいろな自由や権利を獲得する必要があるかもしれないけれど、女性のみなさんにはそれらすべてを手にして、さらにまい進していってもらいたいと思っているわ!
インタビューを終えてみて……。
74歳とは思えない若々しさと、とにかくエネルギッシュなヴァレリアさん。つねに笑顔の明るさにも、取材後に「一緒に写真を撮りましょう」と声をかけてくれる気さくさにも、すっかり虜になりました。劇中で披露されるヴァレリアさんの圧倒的な歌声とパフォーマンスは必見です!
人生の舞台で主役になれるのは自分だけ!
いまでは想像もつかないような苦難の時代でも、自分らしく生きることをあきらめなかった彼女たちの姿と言葉に魅了される本作。私たちの悩みを吹き飛ばし、力強く背中を押してくれるだけに、自分にとっての幸せとは何かを思い出させてくれるはずです。華やかな舞台の裏に隠された真実や貴重な歴史映像の数々もお見逃しなく!
華やかな予告編はこちら!
作品情報
『ディヴァイン・ディーバ』
9月1日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー
配給:ミモザフィルムズ
© UPSIDE DISTRIBUTION, IMP. BLUEMIND, 2017
http://diva-movie.jp/