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志村 昌美

口論が裁判沙汰へと発展…衝撃作『判決、ふたつの希望』の裏側を探る

2018.8.29
何かとストレスの溜まりやすい現代。些細なことがきっかけで予想以上にイライラしてしまうことはありませんか? そこで、そんな誰にでも起こりえる感情を見事に映し出し、世界中で喝さいを浴びている話題作をご紹介します。それは……。

各国で数々の賞に輝いた感動作『判決、ふたつの希望』!

【映画、ときどき私】 vol. 182

レバノンの首都ベイルートにある住宅街。違法建築の補修作業を行っていたパレスチナ人のヤーセルは、あるアパートのバルコニーで水漏れを防ぐ作業を行っていた。ところが、その部屋に住むレバノン人男性で自動車修理工のトニーが突如憤慨し、配水管を破壊。それに対して、ヤーセルは暴言を吐いてしまうのだった。

しかし、ヤーセルに謝罪を求めるトニーもまた侮辱的な言葉を発してしまい、法廷へと持ち込まれる事態になる。キリスト教徒のトニーとパレスチナ難民のヤーセルという2人の背景もあり、両者の口論はいつしか国全土を揺るがす出来事へ発展していくことに……。

日本人にとってはあまりなじみのない中東問題を描いている部分もあるため、敬遠してしまう女子もいるかもしれませんが、この作品の見どころはむしろ人間ドラマと二転三転する法廷劇。歴史的背景を知らない人こそ、新たな扉を開くきっかけになる作品です。そこで今回は、本作の裏側についてこちらの方に話を聞いてきました。それは……。

レバノンを代表するジアド・ドゥエイリ監督!

若いころにはクエンティン・タランティーノ監督のもとでカメラアシスタントをしながら経験を積み、徐々に頭角を現してきたドゥエイリ監督。これまでも国際的に高い評価を得ていますが、本作では主演のカメル・エル=バシャにベネチア国際映画祭で最優秀男優賞をもたらし、レバノン史上初となるアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされる快挙も成し遂げています。

自身の体験から生まれた物語

―この作品のきっかけとなったのは、数年前に監督が実際に経験したことだそうですが、そのときのことを教えてください。

監督 僕はサボテンが好きで集めていたんだけど、ベランダで水をやっていたら下の人に水がかかってしまって、そのあと口論になったんだ。そこで激昂してしまった僕は、映画のセリフと同じようなことを口にしてしまったんだよ。そのときは、奥さんに言われて謝りに行ったからすぐに事態は収束したけどね。

―そのときに映画の題材にすることを思いついたのですか?

監督 そんなふうに些細なことが大きなトラブルになっていくさまを自分でも見ているんだけれど、前からそういうストーリーを思いついてしまう自分もいて、「なぜだろう?」と実はずっと思っていたんだ。その答えは、やはり子ども時代にレバノン内戦を体験していて、そこで恐怖心というものを感じていたからじゃないかな。

たとえば、日本では誰かとぶつかって口論になったとしてもそれくらいで終わりだよね? でも、戦争中だと相手がマシンガンを持っているし、それぞれの人の背景にはいろんな政党があったりもするから、それ以上の大きな問題に簡単に発展してしまうんだ。

実はどこでも起こりえること

―監督自身も子どもの頃からそういう体験を数多くしてきたのですね。

監督 何度も目にしてきてもいたし、実際に自分の身にも起きたことがあるよ。子どものときに父親が運転する車が検問所で止められたんだけど、財布を出せと言われたんだ。でも、父親は財布を出さずに、代わりにパンをやると言って、車からパンを投げた。それに対して怒った民兵が仲間に声をかけて、突然6、7台のジープに囲まれて危険な状態に陥ってしまったこともあるんだ。

そういった経験を何度も何度もしているからこそ、些細なことが恐ろしい事態になるという物語をこの作品では描きたかった。でも、それはレバノンだけではなく、アメリカにいたときにも駐車違反の切符を巡って女性警官と口論になったことがあるし、どこでもそうなることは想像ができるよ。

―では、登場人物たちは監督が出会った人たちをモデルにしているのでしょうか?

監督 まず、トニーはいま自分が住んでいるレバノンの家の近くに住む自動車修理工の人がインスピレーションの源になっているよ。彼が右寄りのキリスト教徒だというのは知っていたんだけど、実は僕は子どもの頃に右寄りで武闘派のキリスト教徒ほど最悪な人間はいないとずっと思い込んでいたんだ。でも、実際は彼ほど親切な人はいないというくらいいい人だし、素晴らしい腕の持ち主でもあるんだよね。

トニーというキャラクターは彼から始まったけど、どんどん肉付けしていったから、原形はそんなにとどめていないかな。しかも、彼は自分がモデルになったことをいまでも知らないんだ(笑)。

―ヤーセルのほうはどうですか?

監督 実際に僕が水をかけてしまった人のことはよく知らないし、15分くらいやりとりをしただけだったから、特にモデルにはしてないよ。でも、そのときに彼が黄色い眼鏡をかけていたから、衣装さんにはヤーセル用に黄色い眼鏡を用意してもうようにだけはお願いしたんだ(笑)。

俳優陣の熱演も見逃せない!

―今回は俳優陣も本当に素晴らしかったですが、監督独自の演出方法などがあれば教えてください。

監督 特に細かい演出ということはしていなかったよ。それよりも、キャスティングに6か月かけて、精査して選んだんだ。だから、現場では読み合わせをして、リハーサルをして、撮影するだけだった。特に、トニーとヤーセルを演じた2人の俳優は直感型のタイプだから、特にメソッド的なことは必要なかったよ。彼らも、現場では役を引きずることなく、普通に話していたしね。

おもしろかったのは弁護士の2人の方かな。というのも、トニーの弁護士役の俳優が大学で演劇を教えている先生で、ヤーセルの弁護士役の女優が本物の生徒だったから、彼のことを現場では「教授」って呼んでいたんだ。

レバノンをより知るためには?

―この作品を拝見すると、レバノンの歴史や文化に触れることもできるので、日本でも興味を持つ人は増えるかと思います。レバノンをより知るためにオススメの映画や本などはありますか?

監督 映画や本では足りないから、一番いいのは2か月くらいレバノンに住んでみることだね(笑)! すごく歓迎してくれる場所でもあるので、理解できないことも多いかもしれないけど、少しずつ好きになってもらえると思うよ。

日本では物事や歴史について、ある程度統一した見解を持っていると思うけど、レバノンは18の宗派が共生していて単一の思考がないし、それぞれの歴史を主張するような国。50の国に50の歴史があるようなそんなところなんだ。だから、レバノンの歴史については、レバノン人にとっても本当に複雑なものなんだよ。

レバノンというのは、モダンなところもあれば、伝統的なところあって、ムスリムの顔もあれば、キリスト教徒的な顔もある。無宗教的なところもあるし、共産党主義的なところもあるというように、すべてがある場所だから、まずは住んでみて、働いてみて、恋愛をしてみて、食事をしてみてというのがレバノンを知るのには一番いいかもね。

女性に希望を見出している

―それでは最後に、ananwebを読んでいる女性読者に向けてメッセージをお願いします!

監督 中東のことを日本の女性がどんなふうに思うのかわからないけれど、中東の女性というのは状況をよくしようといま闘っているところだし、僕は女性に希望を見出しているんだ。中東が置かれている暴力的な状況も、権力の座に女性がつけば絶対にいいほうに変わるんじゃないかと思っているくらい。

日本よりもアメリカよりもどの国よりも、中東あるいはレバノンの大統領が女性になればいいなと思うし、アラブ圏のなかで女性がもっと力を持つようになったら、物事はもっと良くなるようになるんじゃないかな。

衝撃と感動が込み上げる!

レバノンという国が抱える問題を描きながらも、根底にあるのは人間としての尊厳や人生における過ち、葛藤、他人を許す寛容さ、家族への愛といった誰もが感じる普遍的な思い。トニー、ヤーセルどちらの姿にも心を揺さぶられる感動を味わってみては?

息をのむ予告編はこちら!

作品情報

『判決、ふたつの希望』
8月31日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
配給:ロングライド
ⓒ 2017 TESSALIT PRODUCTIONS–ROUGE INTERNATIONAL–EZEKIEL FILMS–SCOPE PICTURES–DOURI FILMS
http://longride.jp/insult/



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