志村 昌美

『祝福~オラとニコデムの家~』が映す14歳少女の過酷すぎる現実とは?

2018.6.22
「家族とは何か」を問われるような事件が多く起きるなか、家族の絆や愛について考えさせられる注目の映画をご紹介したいと思います。世界中の映画祭で高く評価されているドキュメンタリーとは……。

話題作『祝福~オラとニコデムの家~』!

【映画、ときどき私】 vol. 172

ポーランドのワルシャワ郊外。14歳の少女オラは、自閉症の弟ニコデムとお酒の問題を抱える父親と3人で暮らしていた。母親は別の男性と生活していたため、家事も家族の面倒もすべてオラの役目。

厳しい現実を突きつけられながらも、オラは心のどこかで希望を抱きはじめる。それは弟の聖体式が成功すれば、家族がもう一度ひとつのなれるのではないか、というものだった。そんな家族を待ち受ける運命とは……。

今回は、ひとりの少女とその家族の日常を生々しく映し出していますが、この作品が生まれたきっかけなどについて、こちらの方にお話を聞いてきました。それは……。

ポーランドのアンナ・ザメツカ監督!

アンナ監督は、ジャーナリズムから人類学、写真学までを学び、ドキュメンタリー作家や映画監督としてだけでなく、脚本家、プロデューサーとしても幅広く活躍している多才な女性。待望の長編デビューとなった本作の見どころや撮影での苦労などについて語ってもらいました。

まず、日本ではあまり知られていない聖体式ですが、ポーランドではどのような意味を持っていますか?

監督 ほかの宗教にも同じような儀式がありますが、聖体式というのは子どもが大人になるための第一歩。ポーランドでは99%の家庭がカトリックなので、とても大事な儀式でもあります。ただ、最近ではある種のセレモニーになっていて、宗教的な意味合いよりも家族が集まる行事になりつつあるかもしれません。なので、神のためというよりも、いまは家族のためという印象ですね。

今回、オラの家族を題材にしようと思ったきっかけを教えてください。

監督 最初は短いフィクションの映画を作ろうと考えていたんですが、そのあとに偶然この家族と知り合って、とても興味深いと思ったので、フィクション映画は諦めて、ドキュメンタリーを撮ろうと決心しました。

ただし、オラの信頼を得ることは難しかったそうですが、カメラを回すまではどのくらいの時間がかかりましたか?

監督 だいたい1年と3か月くらいはかかりました。短い期間で彼女の信頼を得ることはとてもできなかったので、撮影に入るまでにものすごく長いプロセスが必要だったんです。なぜなら、オラは問題のある両親のもとで育ったので、大人に対する信頼がほとんどない女の子。それに対して、私は大人の世界の人間だったこともあり、それは大きな障害になりました。

では、その壁をどのようにして乗り越えて、彼女との信頼関係を築いたのですか?

監督 特別な方法は何もなかったですが、とにかく彼女には誠実に付き合うこと。そして、私にとってこの映画がどれだけ大切かということと制作の意図を正直に話したんです。それから、彼女にとってもこの映画が大事なものになるんだということをわかって欲しかったので、そのことも伝えました。

実際に完成した映画を観たとき、彼女はどのような反応でしたか?

監督 いまではすごくポジティブにとらえてくれています。というのも、つい最近もFacebookを通じて、同じ年頃の男の子から「僕も同じような環境で育ってきたけど、この映画を観てすごく安心した」というメッセージがオラに送られてきたそうです。

これまでにもいろいろな人が彼女にそういった感想を言ってくれているのですが、それによってオラは自分が抱えていた重荷を初めて下ろすことができるようになっているみたいですね。

いまでもオラとはよく連絡を取り合っているのですか?

監督 もちろん、オラとはいまでもコンタクトを取っています。実は映画を撮影したあと、お父さんが亡くなってお母さんと一緒に住むことになったり、彼女を取り囲む環境にもたくさん変わったことがありました。いまは家を出て、寄宿舎付きの学校に通っているので、とりあえず衣食住の心配はない状況といえますね。

ドキュメンタリーでは先が読めないことが多いと思いますが、撮影中に予想外の事態に見舞われたことは?

監督 予期せぬ出来事というのは特になかったですが、弟のニコデムがどういうふるまいをするのかはというのは、私にとってはいつも想像できないことでした。なかでも、お風呂場のシーンで「現実はフィクションである」という彼の言葉は私の心にものすごく深く突き刺さりました。

確かに劇中のニコデムの鋭い発言にはたびたびドキっとさせられましたが、彼はどんな存在でしたか?

監督 この映画のなかで、彼は詩人であり、預言者でもあるような立場でした。なので、私は彼が言ったことをすべてメモして、取ってあるくらいなんですよ。

そのなかでも、彼と撮ったシーンで印象的なエピソードを教えてください。

監督 告解の練習の場面で神父さまとのやりとりが私には一番おもしろかったですね。というのも、ニコデムは神父さまが考えもしないようなことを言ったり、まるでその場にそぐわないような冗談をわかっていて言ったりするんです。多くの人が自閉症の子どもにはユーモアのセンスがないと思っていますが、彼にはそれがあって、本当にジョークを言うのが上手なんですよ。

だから、神父さまに「徳とは何か?」と聞かれて、「信仰・希望・愛」の3つを答えなければいけないのに、愛の代わりに「大食」って言ってしまうんです。本当は愛だと知っているんですけど、彼は食べるのが大好きなんですよ(笑)。でも、これはある意味この映画にとっては象徴的なことであって、「本当は愛が大事だけれど、隠れてしまっている」という暗示とも言えると思っています。

いっぽうでオラの強さには驚かされましたが、その様子を間近でご覧になってどう感じましたか?

監督 彼女はもともとすごく強い性格ですが、それはお母さん譲りだと思います。ただ、ああいう家庭環境で育ったので、それが彼女を余計に強くしたというのもありますね。とはいえ、そうしないととても生きていけなかったとも感じました。

なので、そんな彼女と映画を作るというのは本当に大変なことでしたが、実は最近になって彼女が撮影中のふるまいや不機嫌な態度をとってしまったことを私に謝ってくれたんです! 映画を初めて上映したときからはすでに2年が経っているんですけど(笑)。もちろん、私は彼女に「許すわ」と伝えましたよ。

これだけ難しい撮影を終えたあと、今後はどのような作品を撮りたいと思っていますか?

監督 またドキュメンタリーを作りたいですが、自分の意図とは関係なく誰かを傷つけてしまうこともあり、リスクを伴うことでもありますよね。だから、自分がもう一度そういう責任を負えるかどうか、そして私にその権利があるのかどうかもいまはまだわからない状態です。

そういう意味ではフィクションのほうが安全かなとは思いますが、私にとってはそっちのほうが退屈かもしれないですね。

それでは最後に、ananweb読者に向けて、メッセージをお願いします!

監督 いまの私はまだ若い人たちにアドバイスを言ったりできる立場じゃないと思っています。おそらく、あと20年くらいしたらたくさんの経験をして、もっと言えることがあるとは思いますが、いまはちょっと難しいですね(笑)。

ただ、ほかの監督がananwebの読者に「俳優とは付き合うな」とメッセージを送ったと聞いたんですが、それについては全面的に同意見です(笑)。でも、付け加えるなら映画監督ともデートしてはダメですよ! なぜなら、監督にとって一番大事なものは、ほかでもなく自分の作品。私も監督と付き合っていた経験があるからよくわかります。

実際、私も作品に自分のすべてを捧げていて、まるで自分の子どもみたいな存在だから地球上で一番愛おしいものなんです。だから、映画監督との関係というのは、本当に難しいと思うからやめたほうがいいですね(笑)。

試練と信じる力は人を強くする!

日々の生活には楽しいことばかりではなく、つらいこともあるけれど、そんなときこそ、過酷な状況にも負けることなく立ち向かう人の姿には背中を押されるもの。14歳にして、たくましく生きるオラの強さと美しさに、人間が持つ可能性を感じさせられるはず。

心がざわつく予告編はこちら!

作品情報

『祝福~オラとニコデムの家~』
6月23日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ
ⓒHBO Europe s.r.o., Wajda Studio Sp. z o.o, Otter Films Wszelkie prawa zastrzeżone. 2016
http://www.moviola.jp/shukufuku/



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