anew writer harako

ただ「好き」だった。吹奏楽を、もう一度|大人の音楽LOVER♪ #1

2017.7.7
元吹奏楽っ子(担当:Euphonium)の音楽好きharakoが、大人になってから、改めて音楽の楽しみ方を見つける連載です。第1回目は、ユーフォニウムに出会ったきっかけから、寄り添った経緯、そしてこの連載を通して伝えたいことをお届けします。

小学校で出会った、不思議な楽器

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【大人の音楽LOVER♪】vol. 1

あれは、小学校4年生の頃の話。メジャーな楽器しか知らなかった私は、トランペットがやりたい! という熱い想いを抱いてブラスバンドクラブに入部しましたが、競争率の高い楽器だったために、じゃんけんで負けて、なぜか全く知らないユーフォニウムという楽器を担当することになります。

一気にやる気が損なわれた私は、ろくに練習もせずに、指も適当。全く楽しくない日々が1年続きましたが、翌年に後輩ができてから妙な責任感が生まれ、練習に精を出すように変化していきました。そんなある時、父が「近くのリサイクルショップに、ユーフォが売ってるよ!」と勢いよく声をかけてくれました。

新品で買えば数十万から百万円を超えるものまであるユーフォですが、当時たまたま父が発見した楽器は、コンペンセイティングシステム(4番目のピストン)がついていない、まるでバリトンのような小ぶりなユーフォでした。確か、販売価格は6万円。「ちょっと試しに吹かせてもらいなさい」と、父が言ってくれてバックヤードで息を入れたことを今でも覚えています。

もちろん音程や楽器の良し悪し具合なんて、全くの素人でわからない。「音は一応出るみたいだけど…」と、緩んだピストンをガチャガチャ鳴らしながら、小さい声で父に言いました。「いいよ、お父さん買ってあげる」。学校の楽器を借りていた私からすると、My楽器を小学生で持てたことはミラクルに等しい!とやる気倍増になりました。

写真は実際の楽器、ブージー・アンド・ホークス / Boosey & Hawkes:レジェンド2 / Regend2。

社会人バンドで、同級生にはない刺激を受ける

そして、中学校でも吹奏楽部でユーフォを担当したのち、高校では市民吹奏楽団へ入ります。社会人の方々に混じって、楽器を吹く機会を持てたことは、今考えるとかなりの刺激になりました。ユーフォパートは社会人男性3人に囲まれて、私がポツンといる状態。

「と、隣の人の音がすごいキレイ!」「同じ楽器とは思えない音色」、トップに座っている男性のベルから聞こえてくる音色にうっとりしたことを今でも覚えています。ユーフォ歴は長かったものの、基礎知識不足で専門的にレッスンを受けたことがなかった私は、“ただ吹いているのが好き” という気持ちだけで、ユーフォを触っていた気がします。

一方の社会人バンドで楽器を続けている人たちは、自分よりはるかに上手で、しかも仕事と両立しながら楽しんでいるのです。そんな経験豊富な方々に囲まれながら、「今のリズムはこっちのほうが良いね」「指が間違っていないかな?」など世代や性別を超えてアドバイスをいただきながら、部活では培えなかった経験を積めました。

もっと学んでみたい欲求のまま、音楽を続ける決意

高校から大学に進む時、本当にたくさんの方に相談しましたね。音楽をもっと勉強するのか、もっと一般的な専攻にするべきか。その中でも、一番親身になって考えてくれたのは、一緒に吹いていた社会人バンドの方々です。

ユーフォニウムという楽器が、いかにマイナーで需要も低く、将来的に何か職業に結びつくとは考えにくいことも、包み隠さず教えてくれました。団員のひとりである管楽器のリペアマンは、演奏よりリペアを学んだ方が良いのではないか?と背中を押してくれたり、たまに演奏会のエキストラで入っている現役音大生の方からは、演奏をしながらリペアの授業がある学校なら両方の知識を身につけられるのでは? とアドバイスをいただいたり。

考えた末、演奏とリペア両方を学べる大学へ進みました。大会などに出場しているようなハイレベルな経験者が多く、専門的な勉強をしたことがなかった私は、明らかに技量が追いついておらず初めての合奏の授業で心がボキボキになりました(ずっと泣いていた)。

右も左もわからないまま、初めてプロのユーフォニウムの先生にレッスンをしてもらい、年間50本ほどの演奏本番がある体当たりなスケジュールをこなし、放課後は近くの吹奏楽部へ指導実習に行き楽器を教えることを学ぶ。まるで荒波に飲み込まれたようなハードな大学生活でした。

現実を考えたら、辞めることが正解だと思った

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しかし、ふと冷静になったのは進路面談でした。ユーフォは楽器店では講師としての枠もないし、私は演奏の技量もずば抜けていいわけでもなく、ただ音色が好きという気合だけで吹くタイプ。将来を考えたら楽器をやめることが正解だと思った私は、「もう、楽器は大学で終わりにしよう」と思ったのです。

そんな私をみて、両親は「本当はもっと続けたいんじゃないのか?」といつも応援してくれていました。小学校の頃に買ってくれた中古ではなく、新品のユーフォを買ってくれたのもこの頃。諦めようとしていたにも関わらず「本当に欲しい楽器はどれだ?」と20歳の誕生日に、定価100万円以上するずっと憧れていた高価なユーフォをプレゼントしてもらいました。

写真はその楽器:ウィルソン / Willson:TA2900。当時は、すっごく嬉しかったけれど、遠慮と戸惑いがよぎり、素直に “ありがとう” を言えませんでした。今、改めて感謝を伝えたい…。

世間とのギャップを埋められず

続けるかどうかの葛藤を抱えつつも、社会人になった私は、特にあてもないのに個人練習とレッスンを重ねながら、ユーフォが軸の生活を20代前半まで続けます。何か自分のできることからしなければ!と、50か所以上の老人ホームに直談判してボランティア演奏をしていた時期もありました。

しかし、「ただ好き」だけを追いかけた結果招いたことは、趣味以上にはならないと言う現実。「いつまで夢ばっかり追いかけているの」「世間はそんなに甘くないんだよ」「みんな理想と現実をさまよっているのさ」「絶対一人っ子でしょ? 女の子はいいよね」なんて言葉を数多く浴びせられ続けた挙句、あんなに「好き」だった楽器への気持ちがわからなくなってしまいました。

小学生の頃からずっとそばにあったユーフォは、多くの人からすると、「へー、初めて知った」という反応ばかりで、需要もなければ認知度も皆無。「好き」だけではどうにもならないという大きな壁にぶち当たり、真っ暗な穴に突き落とされた感覚に陥りました。過去にいろいろな人に言われてきた、「トロンボーンならまだしも、ユーフォでは厳しいよ」という助言が心に突き刺さります。

そんなことは、自分が一番知っているって、それでも好きだから続けたいって、心から叫びたかったのが本音です。認めたらそこで全てが終わりな気がしたから、明るく前向きに振舞うことが、私にとって唯一の防衛本能でした。

なぜ、楽器を続けているのか? そして、どうしてこんなに頑張っているのか? 私は何を目指しているのか。何もかも無意味に思えた瞬間、プツンと糸が切れたように楽器を触れなくなりました。世間が敵に見えて、自分の存在意義がなくなり、もうどうでもいいっ、私のことなんて…とひどく塞ぎ込んだ時期が長く続きます。

気づけば、楽器が好きどころか見るのさえ怖くなり、どんどん吹けなくなるにつれて、涙すら出ない冷たい心になっていました。

数年過ぎて感じる、十人十色の「好き」

楽器との倦怠期は数年続きましたが、いま “やっぱり、もう一度楽しみたい!” と燃えてきたんです。振り返ってみると、音楽を「好き」と思う気持ちはみな平等に持っていいんだと、たくさんの方々から学ぶことができたと思えます。

高度な技術を身につけることや、演奏や指導を職業にしている人だけが、楽器を「好き」と感じでいるわけではないと思います。ただ、楽器がそばにあるだけで安心する、少人数でハーモニーを合わせるのが好き、仲間と一緒にわかち合うのが好き、人に演奏を聴いてもらうのが好きなど、理由はさまざま。

そんな角度から、音楽の良さを感じることができるようになったのも、時間が心の成長を助けてくれたからでしょう。あの時は発見できなかった、音楽の「好き」が、今なら理解できる気がするのです。

この連載では、プロやアマチュア問わず大人になってからも音楽を続けている方へのインタビューや、ブランクの乗り越え方、練習上達方法や楽器のアクセサリー情報など、さまざまな角度から音楽LOVERに響くような切り口でコラムをお届けしたいと考えています。次回もお楽しみに!