譲渡会で出会えた子猫に隠された秘密…。保護してくれたTさんのこと|うちに猫がやってきた! #3

文・伊藤順子 — 2017.3.5
ananwebスタッフの筆者が保護猫2匹を飼い始めました! 猫との生活は、にゃんとも10年以上ぶり。その奮闘を綴ります。3回目は、ついに運命の出会いとなった譲渡会のことと、猫たちを保護してくれたTさんの活動をお伝えします。

【うちに猫がやってきた!】vol. 3

譲渡会で運命の出会い

草木も眠る丑三つ時、階下からドタバタと走り回る音が聞こえて目が覚めました。猫2匹がやってきて数日が経ったときのこと。どうやら、じゃれあったり、追いかけっこをしたりしているようです。睡眠を妨害された怒りよりも、先ほどまで “借りてきた猫” 状態でケージのなかにひっそりと身を寄せ合っていた彼らの、心を開きはじめた行動に嬉しさがこみ上げてきた私でした。そう、ついに保護猫を飼い始めたのです! 第3回目は、この猫たちとの運命の出会い、保護してくれたTさんのことをお話します。

初めて行った猫の譲渡会は、娘の発言のおかげでやむなく断念しました(詳細は前回の記事)が、年の瀬というのは時の流れがいっそう早く感じられるものです。あっという間に1か月が経ち、2回目の譲渡会の日となりました。12月中旬、街を行き交う人の群れが早送りでうごめくなか、今度は娘(6歳)だけでなく息子(9歳)も引き連れての参戦です。見慣れた不愛想なビル、前と同じ寒々とした階段と廊下を通り、予想通りじわっと暖かい会場に着きました。娘も私も学習成果が表れて、今回はさほどドキドキしません。意外と物おじしない息子がさっそく子猫を見つけて、「あれしか子猫はいないよ、抱っこしたい」とせがみます。

ほかの猫をろくに見られていませんでしたが、確かに子猫は息子の指した猫だけでした。ケージを覗くと三毛、茶シロ、ベージュ2匹の計4匹の子猫がオドオドしています。プレートをみると「生後3か月、捕獲器で生まれました」とあります。捕獲器って? 疑問を抱きながらも、とりあえずこの猫たちを保護した方(Tさん)にたずねます。私「猫を抱っこさせてもらってもいいでしょうか」。Tさん「三毛と茶シロはもう決まってしまったんです。あと2匹、こっちの子のほうが抱きやすいですよ」と差し出してくれたのは、ベージュ2匹のうちの大きい子のほう。最初に息子が抱っこをします。見事におとなしい。時おり目を細めたりもして、息子はひと目ぼれをしてしまったようです。「私も抱きたい~」と、前回とは打って変わって緊張のほぐれた娘もしっかりと抱くことができ、「かわいい~」と目をキラキラさせています。

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実際に会場で撮ったベージュの子2匹。手前が抱っこさせてもらった子です。

1匹か2匹かの迷いと大問題発生!

この光景を見ながら、私にはある迷いが生じていました。それは、飼うのは1匹か2匹か……。これまではっきりと言葉に出さなかったけれど、なんとなくの雰囲気で、子どもたちは飼うのだったら1匹と思っていたはずです。でも、私は迷っていた、いえ、本音を言えばどうせ飼うなら2匹がいい。その気持ちを心のずっと奥に潜ませていました。だって、実家では2匹で飼っていた時期が1番長かったのです。互いで遊ぶし、留守にしたときも寂しくない。ですが、あの頃の私にとって猫の存在は単なる遊び相手。でも、今度は違います。子供同様に世話をしなければならない存在となるはずです。いきなり2匹、私にできるのでしょうか。子どもに抱かれた猫を見て、ケージに入っているもう1匹の猫にも目をやります。少しの恐怖を感じている瞳が私を見返します。サイズは多少違えど、うりふたつ。既に決まっている2匹は色柄が全然違うのに、この2匹にいたってはどちらか一方がコピーロボットかのようにそっくり。私「いま抱いている子をお願いするとしたら、1匹残っちゃいますね」。Tさん「まぁ、でも、他に気に入ってくれる方が出てくるかもしれませんし」。私「1匹だけいただいても、いつも一緒にいた兄弟がいなくなるとそりゃ寂しいですよね」。Tさん「でも、すぐ慣れますよ」。1匹だけで全くかまわないという口調のTさん。気を遣っておっしゃってくれたのでしょう。人に聞いてみて、自分の本音がわかるのは、あるあるでしょうか。Tさんの意見を聞いたところで、私の気持ちは固まりました。……これ、2匹とも飼うのが腑に落ちる!

私「2匹にしようか」。子どもたちに言ったときの反応ったら、猫を抱っこをしているから騒げないけれど、喜びを隠しきれません。「よっしゃー!」を連発している息子を横に話を進めます。すると、予期せぬ2つの問題が出てきました。ひとつは、彼らのお腹にはいまコクシジウムという寄生虫がいて、薬を服用中であり、検便の結果次第により引き渡しは、はやくても2週間後になるということ。コクシジウム…? 聞きなれない名前です。Tさん「保護したときに、この子たちの母親が下痢をしていたんですね。なので、検便をしてみたらお腹にその寄生虫がいることがわかりました。土のなかにいるサルモネラ菌とか聞いたことがありますよね。そんなようなものです。薬で虫がなくなれば普通の元気な猫です。私で投薬しますので、その後検便で問題ないとわかってからのお渡しになります」。原因は、経口感染がおもなよう。母猫は寄生虫に汚染された食べ物を口にしてしまったのでしょう。その糞便を子猫が触れてしまい、感染してしまったのかもしれません。生まれつきの問題ではない、必ず治ることを聞いて、ホッとはしましたが、あと問題はひとつ。Tさん「実は伊藤さんの前にご婦人がひとりいらして、ご主人に聞いてみるとおっしゃって帰られたんですよね。だから、その方のお答えを聞いてからのお返事になります」。確定ではないものの、うちの前に先約がいたのか…。これは期待してはいけない、子どもにそのことをしっかりと言い聞かせないといけない。Tさんの「2、3日中にはお電話を差し上げますので」とのお言葉を胸に帰路についたのでした。

地域猫活動をするTさんのこと

それにしても、です。私はTさんのことがとても気になりました。全部、善意ですよ。親猫と子猫の検便をして、全員の投薬もする。赤ん坊に薬を飲ませることを考えると、よりわけがわからない猫に、それも5匹分を行うのって、とてつもないパワーが必要だと思いませんか。後に、どうしてTNR活動※を行うことになったのかをうかがいました。

「そもそもね、神社の近くに住んだのが運のつきですよ。私は、本当なら飼うのは1、2匹で十分なんです」とTさん。近所の神社に野良猫がいて、段々と数が増えてしまい、餌を求めてTさんの庭まで来るようになったそうです。神社へ行ってみると子猫も見つけて、これ以上増えると大変なことになると、捕獲器で捕らえて避妊、去勢手術をし元に戻すTNR活動を始めたのだそう。Tさん「私、運転ができるもんだから、そのうち、『捕獲器で猫を捕まえたから、病院へ連れて行ってほしい』っていろいろなところから声がかかりだしてね。だから、その神社以外でも活動する羽目になっちゃって(笑)。でね、生まれてしまった子猫やケガしちゃった猫は戻せないでしょ。だから、引き取っていたら、いまやうちには19匹がいるんですよ。1室がもう猫部屋(笑)」。私は、返す言葉がありません。「交通事故に遭った子も2匹いました。そのうちひとりの子は大手術が必要でね。でも、獣医さんが大変尽くしてくださり、命を落とさずに済みました」。私「費用は、どちらもTさんが出したんですよね?」。Tさん「まぁ。でも、獣医さんのご厚意に大いに助けられたんです」。……本気で、Tさんを拝みたいくらいでした。お話をしているうちに、Tさんから後光がさしてきて、私はもうひれ伏すしかありません。このような方たちが地域猫を支えている。そして、発情による騒音、糞尿被害などを考えると、このような方々の活動は、私たちの暮らしをも守ってくれていることになる。Tさんにはもちろん報酬はありません。「朝から晩まで、猫のエサやりとトイレの世話で大忙しなんですよ。だから、決めているんです、2020年の東京オリンピックで引退するって。口に出すと叶うって言うでしょ(笑)」。私「でも、Tさんは、みなさんから頼りにされているんじゃないですか」。そういうと、Tさんは何も言わず、笑みを浮かばせただけでした。

これを読んで、みなさんの心に何かしら響くことがあればうれしいです。今日もTさんは猫のために活動しています。

話を戻しましょう。譲渡会で運命の子猫と出会えたものの、来るか来ないか連絡待ちとなった私。折しも年末です。せわしない時期のおかげで、待つ余裕もなく時は過ぎていきました。気づけば譲渡会から1週間が経とうとしています。やはり無理だったのか、その答えを確かめたくてTさんにお電話をしてみます。Tさん「遅くなっていてすみません。実はご主人が見に来る予定だったのが年内は無理になり、新年開けたらということになったんです」。今年中には決着がつかないようです。こちらはいつでもオッケーなのに、それでもそこまで伸ばす先約が優先なのか…。子どものいる家庭はやはり敬遠されるのかな、そんな思いがわきあがったのも事実です。でも、それはそれで仕方のないこと。自分に言い聞かせながら、諦めの境地で年を越すことに決めました。そして、忘れもしない大晦日の夜、1通のメールが届いたのです。差出人はTさん。「先約さんとはご縁がなかったので、子猫ちゃんをお願いしたいと思います。また新年落ち着いたらご連絡します」とあります。これは思いもよらぬ1日早いお年玉! 大晦日の特別感がさらに倍増し、家族みんながソワソワと浮足立っています。いよいよ、ついに、とうとう、うちに猫がやってくる! 気持ちはもちろんウエルカムです。でも、猫を迎える準備はまったくできていません。はてさて、いったい何を用意しておけばよいのでしょう。

というわけで、次回は猫を飼うのに必要なものと、うちの猫が保護猫になったいきさつ、そしてう〇まみれの猫たちとの新生活をお話します。お楽しみに~♪

※TNR活動とは、地域猫活動ともいい、Tはトラップ(罠で捕まえる)、Nはニューター(避妊去勢手術をする)、Rはリターン(元にいた場所に戻す)。長い目で見れば再び数が増えてしまう駆除に対して、去勢避妊をして戻せば、猫は一代で命を終えるので、繁殖、増加に歯止めをかけることができるという考えから、主に有志の方々が地域で行っている活動です。

Information

NekoCube(ねこきゅーぶ)
HPでは随時里親を募集しています♪

http://nekocube.sakura.ne.jp/

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