「俺とも寝てくれよ」と上司に迫られ… 30歳女性を襲った「職場での悲劇」【前編】

文・並木まき — 2022.5.25
職場や地域コミュニティなど多くの人と関わる機会のある場では、ときに自分が予想もしない方向から対人関係のトラブルに巻き込まれることもあるようです。今回は、職場でセクハラ気質な上司に苦しめられた女性の体験談を、メンタル心理カウンセラーの並木まきがご紹介します。

「俺とも寝てくれよ」と迫ってきた上司

30歳(当時)の繭香さん(仮名)は、営業職で好成績を出していたエース社員。しかし成績がいいことに嫉妬した一部の人からは「繭香さんは枕営業をしている」「取引先に色目を使って、男性から仕事をとってきている」などと、事実とは異なる噂を流されていたそう。

しかし繭香さん自身は、そういった営業は一切していないことに誇りを持ち、噂を気にしないようにして、意欲的に仕事に取り組んでいたとのことです。

「ところが、あるときに上司から『俺とも寝てくれよ』っていきなり言われて、『はぁ?』ってなったんです。最初は、冗談でも言っているのかなと思ったのですが、それ以来、その上司はタイミング的に私と二人になると毎回『そろそろいいだろ?』『何をもったいぶっているんだよ』などと失礼なことを言うようになりました」

その上司は気に入らない人にはパワハラをすることでも有名で、一部の社員たちからは嫌われていたものの、自分が気に入った部下のことは可愛がることから、反対にその上司を熱烈に支持している社員もいたのだそう。

繭香さんはなるべく社内で波風を立てたくなかったため、自分がその上司に肉体関係を迫られていることは誰にも言わずにいたそうです。

社内飲み会の帰りにタクシーでホテルに連れて行かれそうに

ある日、社内で飲み会があった帰りに繭香さんがタクシーで帰ろうとすると、いきなり上司がそのタクシーに乗り込んできました。自宅は別々の方向だと知っていたので、繭香さんは瞬時に「これはヤバい」と感じたと言います。

「その上司は適度に酔っ払っている感じでしたが、動作はしっかりとしていましたね。そして、上司はタクシーに乗り込んだあと、運転手さんに向かって近くのホテル街に行くように言いました。私は先に運転手さんに自宅方面の行き先を告げていたのに、そのときの運転手さんはあろうことか上司が伝えた行き先に変更し、そのまま車を私の家とは異なる方向に走らせ始めたんです。

当たり前ですが、その上司とホテルに行く気はなかったので、何度も運転手さんに『最初に伝えた行き先に行ってください!』と言いましたが、運転手さんはカップルの痴話喧嘩だとでも思ったのか、返事もしてくれなかったんですよ。しかも、そうこうしているうちに、上司が伝えたホテル街に到着してしまって…」

その後、上司がタクシー代を支払い、その場で車を降りることになってしまった繭香さん。腕を掴まれ、ホテルに連れ込まれそうになりますが、必死で大声を出して抵抗したところ、周りの人が注目してくれて、それにより上司は繭香さんの腕を離したのだそうです。

「私はそのまま走って、別のタクシーを捕まえて自宅に帰りました。後ろから上司が『ふざけんなよ!』『恥かかせやがって!』などと怒鳴っている声が聞こえましたが、私は絶対にその上司と関係を持ちたくなかったので、とにかく必死で逃げましたね」

その日は上司からの誘いに応じずにすんだ繭香さんでしたが、その後は上司からのセクハラやイジメがエスカレート。上司は、繭香さんについてあること無いことを部下たちに吹き込むようになり、繭香さんは職場で孤立していくことになったそうです。


繭香さんをその後も苦しめた「セクハラ上司の実態」とは… 後編に続きます



セクハラ気質、パワハラ気質の上司がいる職場では、人間関係を原因とした問題が大きくなりやすいですよね。「おかしい」と思ったら同僚や先輩に相談できる環境があればベストですが、現実には一人で抱え込まなくてはならないケースもまだまだ少なくないようです。

毅然とした態度をとっていても、相手が非常識な行動に出る場合には、まずは話を打ち明けやすい同僚などに伝えると深刻になる前になんらかの対処をしやすいかもしれません。

とはいえ、社内の人に話すのが難しい場合もあるはず。そういった場合は、厚生労働省委託事業の「ハラスメント悩み相談室(無料)」や女性の人権ホットラインなどに相談するといいかもしれません。

また、そもそも男女雇用機会均等法によって、企業にはセクハラ対策をすることが義務づけられています。もし身近でこのようなトラブルが起きていたら、私たち自身もそれを断固として許さない姿勢を取っていきたいものですね。

©Tony Studio/Peter Bannan/gettyimages