『愛の不時着』より傑作!?…世界的大ヒット『クイーンズ・ギャンビット』レビュー #3

文・米光一成 — 2021.2.24
Netflixの大人気作『クイーンズ・ギャンビット』の主人公のベス(アニャ・テイラー=ジョイ)はチェスの天才少女。第3話では、ライバルのイケメンプレイヤー、ベニー・ワッツ(トーマス・ブロディ=サングスター)が登場する。『愛の不時着』に比肩する傑作の見どころを、神木隆之介と福山雅治のコラボ動画などで話題の『はぁって言うゲーム』の作者・米光一成が一話ずつ解説していきます。

【『クイーンズ・ギャンビット』全話レビュー 第3話】vol. 3 

主人公ベス・ハーモン、チェス大会で連勝

☓QG_105_STILLS_03_00128486R

好敵手・ベニー・ワッツ(トーマス・ブロディ=サングスター)とベス・ハーモン(アニャ・テイラー=ジョイ)。Netflixオリジナルシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』独占配信中。

アメリカではチェスセットの売り上げも爆伸びさせた『クイーンズ・ギャンビット』(Netflixドラマ全7話)。全話レビューの第3回目。

ベス・ハーモン(アニャ・テイラー=ジョイ)はチェス大会で連勝し、賞金を稼ぎまくる。

初めての大会で勝負したタウンズ(ジェイコブ・フォーチューン=ロイド)は、「チェスレビュー」の記者としてやって来ている。美しくなったベスを見て「わお!」と感嘆の声をあげる。ベスも、それに応じてポーズをとる。

「君の記事を書きたい」とタウンズはベスを誘う。
「部屋にカメラがある」
「あなたの部屋?」

いぶかしむ表情のベスだが、

「チェスボードもあるから指せるよ」

で、すぐに部屋に行ってしまう。お笑いコンビ・納言のネタなら「なぜついてくるの?」「チェスボードはセコいってよ」と続く流れだ。

☓

チェスボードにつられて部屋に入ってしまったベス。

写真を撮りながら、タウンズはベスに近づき、手を伸ばして髪の毛を触る。
見つめ合うふたり。
急にドアが開いて男が入ってくる。

「お邪魔しちゃったかな、ぼく」

この男が、短パンにカットしたムチムチのジーンズをはいている。

登場人物を紋切り型な人間に描かない

『クイーンズ・ギャンビット』はチェスのドラマだ。チェスの試合は勝敗がはっきりする。いっぽうで人間関係は試合のように白黒つかない。ていねいに慎重に、人間関係を描いていく。説明セリフや、あからさまなシーンで関係性にわかりやすい決着をつけることを良しとしない。

タウンズと男はおそらくカップルだ。ベスはそう推測したように見える。わかりやすいラブロマンスに堕さず、登場人物を紋切り型な人間に描くことはない。このあたりの匙加減が絶妙だ。

ベスと養母アルマ(マリエル・ヘラー)の関係も、多層的だ。チェス大会で賞金が入ることを知った養母アルマは、ステージママとなる。賞金と経費を計算し、スケジュールを仕切り、学校に「風邪だ」とウソをついてベスを休ませ、飛行機に乗り、豪華なホテルに宿泊する。ベスと一緒に、チェス大会に出向く。養母アルマからそれまでの暗い表情が消える。エリック・サティの曲を悲しそうに弾くこともなくなる。

「ベス、考えたんだけど、わたしに10%くれない。エージェントの手数料」
「それじゃあ、15パーセントにしましょう」

TQG_103_Unit_01328RC

ベニー・ワッツにミスを指摘されて、対局を振り返るベス。

養母アルマは、ベスをサポートしたいのか、お金を稼いでくれるから利用しているのか、はっきりしない。おそらくその両方だろう。ベスも、アルマをよき養母だと思っているのか、チェス以外の段取りをしてくれる便利なマネージャーと思っているのか、はっきりしない。ベニー・ワッツ(トーマス・ブロディ=サングスター)との対局で、大会で初の敗北を喫したベスを、養母アルマはなぐさめる。

「常に完璧とはいかない。それは無理」
「チェスのことわからないくせに」 ベスは八つ当たりする。
「負けたときの気持ちはわかる」
「そうでしょうね」と、いじわるなベスの返事。
「これであなたもわかった」

ついアルマもいじわるに返してしまう。ベスは怒って立ち去ってしまう。その後、空港に向かうタクシーに乗り込むふたり。そっぽを向いている。そっぽを向いたまま、ベスは、アルマの手を握る。

「The End of the World」(Herman’s Hermits)が流れる。別れの曲だ。さよならを言ったあと、どうやって生きていけばいいのかわからないと嘆く歌。
ふたりは、孤独を通じて、つながっているのだ。

文・米光一成



information

『クイーンズ・ギャンビット』

「クイーンズ・ギャンビット」2020年

原作・制作:スコット・フランク、アラン・スコット
出演:アニャ・テイラー=ジョイ、ビル・キャンプ、マリエル・ヘラー