困窮するシングルマザーが笑顔に…画期的で女性にも嬉しい「ロレアル流SDGs」

古屋美枝(by anan編集部) — 2021.3.4
環境問題や社会問題に配慮したアクションをいち早く始めたことで知られるロレアルグループ。その先進的で、よりサステナブルな取り組み、意識について、日本ロレアルの楠田倫子さんにお聞きしました。

『ランコム』『イヴ・サンローラン・ボーテ』『ジョルジオ アルマーニ ビューティ』など、人気ブランドを多数抱えるロレアルグループ。環境に配慮した取り組みをいち早く始めた先駆者として知られていて、2020年12月には、国際環境NGO・CDPから、気候変動対策、森林保全活動、水セキュリティ対策について、環境先進企業としてトリプルAの評価を5年連続で達成しました。

今回、日本ロレアル ヴァイス プレジデント コーポレートコミュニケーション本部長である楠田倫子さんに、SDGsの中でも力を入れているテーマや、新サステナブル・プログラム「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」の今後の展開などについてお聞きしました。

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楠田倫子(くすだともこ)日本ロレアル ヴァイスプレジデント コーポレート・コミュニケーション本部長。米系消費財メーカー(ワーナー・ランバート、現ファイザー)などを経て1999年に日本ロレアル入社。『シュウ ウエムラ』、『ヘレナ・ルビンスタイン』などロレアルグループ内のブランドの事業部長職を歴任。2015年にアクティブ コスメティックス事業部事業部長に就任し、2020年1月1日より現職。


――楠田さんがSDGsに関わることになったのはいつですか?

楠田 2020年1月に現職に着任しました。ロレアルには20年以上いまして、今まではマーケティングの責任者をしていました。

――2020年6月から、新サステナブル・プログラム「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」がスタートしましたが、どんな取り組みなのか、教えていただけますか。

楠田 「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」は、環境科学に基づき、「地球の限界」の枠内で自らのビジネスを運用していくことを目標として掲げるロレアルグループとしての取組みです。SDGsの17の目標すべてをカバーするようになっています。各国でもその国の課題にあわせた独自の取組みを展開しており、特に日本ロレアルでは、日本の達成度が低いゴールである、ジェンダー平等、気候変動対策(CO2削減)、ゴミ削減にフォーカスを当てています。

――たとえばジェンダー平等について言うと、女性が出産や育児とキャリアを両立するのが難しいとか、女性ということで管理職に就けないなどということが社会的に問題になっていますね。

楠田 ロレアルではジェンダー平等がカルチャーとして根づいていて、管理職における女性の割合は既に過半数を超えており、 2025年までには役員の男女比も半々にすることが目標になっています。また、年功序列ではなく、ひとりひとりに関してキャリア開発プランが作られます。たとえば、女性が出産や育児でスローダウンしたいという場合は、その人に合わせた働きかたを提案し、結果として女性が長く活躍できるような会社でありたいと思っています。

――素敵ですね。育児とキャリアの両立に悩む女性は多いですが、それなら安心して働けるし、会社としても優秀な人材を失わないですみますね。

楠田 また、シングルマザーに対する就職支援講座などを、NPO法人「しんぐるまざぁず・ふぉーらむ」と連携のもとで行なっています。今はコロナ渦の影響によりオンラインで行なっていますが、スキンケアや好印象になるためのメイクアップなどのスキルアップ講座やキャリアカウンセリングと、美容部員としての就労機会を提供しています。人材派遣会社ADECOのサポートも得ているので、事務職を希望する方には、オフィススタッフとしての就労機会も提供しています。社会的に弱い立場にいる人は、一般的にどんどん難しい立場に追い込まれてしまう傾向にあると思うので、今こそ必要とされていることを感じますね。

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――困っているシングルマザーの方にとって、大きなチャンスになりますね。

楠田 経済面だったり、気持ち的に余裕がないなかだと、身だしなみに気を遣うのは難しくなってしまうので、弊社の美容の講座が良い循環を生み出す第一歩になったら、と願っています。また、お子さんを優先するあまり、自分のことは二の次になっている方も多いのですが、講座の中でお母さんが笑顔になってくださるのは私共にとっても嬉しいことですね。お母さんが良い表情をしていると、お子さんにも良い影響があると思います。

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――いいお話ですね! 次に環境への取り組みですが、現在どのようなことをされているのでしょうか。

楠田 ロレアルのオフィスや研究所では「カーボンニュートラル」を完全に達成しています。2022年末までには工場でも達成し、全拠点で達成する予定です。「カーボンニュートラル」とは、「炭素中立」の意味どおり、炭素の酸化物であるCO2の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロになるという概念です。

――カーボンニュートラル化に加え、CO2の排出量自体を抑える努力もしておられますか?

楠田 はい。たとえば、使用する紙を環境に配慮したFSC認証紙に、ダンボールに貼るガムテープは紙に、プラスチックの緩衝材を段ボールの廃材から作った紙製のものに切り替えたりしています。今後は店舗で化粧品を置く什器についても、すべてがリサイクル可能なエコデザインになる計画があります。

――私たちが手にする化粧品のパッケージや容器にも、何か変化があったりしますか?

楠田 『キールズ』では、空容器を回収してアップサイクルし、スパチュラに作り変えています。本社では現在、紙チューブの容器を開発中で、フランスでは、既に『ラ ロッシュ ポゼ』の日焼け止めなどで展開されています。日本では残念ながらまだ未展開です。

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――紙チューブの日焼け止め! 斬新ですね。

楠田 そうですよね。また、化粧品ではないですが、水を節約できるサロン用のシャンプー台の開発も行っています。ロレアルが開発した専用シャンプーと組み合わせていただくことで、少ない水でも従来の洗髪体験を上回る洗浄力やトリートメント効果をもたらします。

――新しい取り組みが着々と進んでいますね。

楠田 そうですね。カーボンニュートラルの達成もそうですが、いずれ世の中が当たり前にしていくことへの取り組みが早いのがロレアルならではなのかな、と思います。常に、よりサステナブルで社会問題の解決に役立つように立てられた数値目標があり、各部署に展開されているんです。年度ごとに具体的なアクションを設定していて、目標を達成しやすいようになっています。

――楠田さんご自身は、最近の日本のSDGsの取り組みや意識に関して、どのように感じていらっしゃいますか。

楠田 今までは、ヨーロッパなどに比べて日本は政府や一般消費者の問題意識が低いと感じていました。ただ、この一年ほどで、風向きが変わったように思います。菅総理がカーボンニュートラルについて言及したり、SDGsが広く知られるようになったことで取引先の反応も変わりました。サステナビリティに力を入れている『キールズ』がとても好調だったり、世の中的にサステナブルなブランドを支持する気運になっているのだな、と嬉しく思います。

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――SDGsに関して、消費者として自分が、何ができるかわからないという場合、何から始めたら良いと思いますか。

楠田 「よりサステナブルで、環境にやさしい、良い社会に繋がる」ということを基準に商品を選んでみてはいかがでしょうか。たとえばフランスにおいてはロレアルの一部商品は、第三者機関が調べた環境負荷レベルを特設サイトで見られるようになっています。今後すべての国のすべての商品にも実装していく予定です。そのように、商品の背景を理解したうえで買い物をすることで、サステナブル意識を楽しみながら取り入れてもらえるといいなと思います。

文・古屋美枝(by anan編集部)