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【音程が狂うのはアレのせい?】リペアマン直伝! 金管楽器の正しい丸洗い法|大人の音楽LOVER♪ #7

2017.9.6
元吹奏楽っ子(担当:Euphonium)の音楽好きharakoが、大人になってから、改めて音楽の楽しみ方を見つける連載です。第7回目は、前回に引き続き、ヤマハミュージックジャパン 管楽器アトリエ東京技術者の新見 忠士さんに、金管楽器のお手入れ方法について教えていただきました。今回は、金管楽器の洗浄方法と楽器の磨き方についてです。

半年に一回は行いたい!金管楽器の洗浄ケア。

大人の音楽

【大人の音楽LOVER♪】vol. 7

harako 木管楽器と違って、金管楽器は水洗いができるところが利点でもあると思います。自己流で洗うのは、大丈夫なのでしょうか?

新見さん 良い質問ですね。よく、コンクール前や大切な演奏が控えているにも関わらず、自己流の洗い方をして急に楽器の調子が悪くなった……!なんて声を聞くこともあります。楽器は小さな部品がひとつでもなくなると音も変わってしまうのと同時に、洗った後に水滴が残っていると輝きも減ってしまいます。

そして、楽器を分解した後に、パーツの正しいポジションを覚えておかないと、元に戻せない! なんてトラブルも……。しかし、楽器をキレイにするということは、衛生的に保つことだけではなく、汚れが腐敗して穴があくことを防ぎ、楽器のポテンシャルをキープするうえで非常に大切なことなんです。

今回は、よくある質問をふまえて、正しい楽器の洗い方、クロスでの拭き取り方をご紹介したいと思います!

ステップ① パーツを全て外す

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新見さん ではまず、外せるだけ全てのパーツをカゴに入れます。「あれ? あのパーツがない!」なんてことにならないよう、ひとまとめに置いておきましょう。そして、ピストン周りのフェルトなどは、水に濡らさないほうが良いので、外してくださいね。金属類だけ、洗います。

harako なるほど、ピストンの下にあるバネやキャップ類も外したほうが良いのですね。ところで、ピストンを外した時に、どこの場所だったかわからなくなりそうで、心配です……!

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新見さん 大丈夫ですよ。実は、ピストンの表面に「1・2・3」と番号がついているのが見えますか? これが、元の位置の番号です。手前から順番に「1・2・3」と戻していってくださいね。この位置を間違えて入れると、空気穴が通らず、音が出ないので、変だな?と気づくと思いますよ(笑)。

harako これは、安心ですね! 楽器本体の洗い方は、どこから手をつけたら良いのでしょうか?

ステップ② 外も中も水洗い

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新見さん ご自宅で行うなら、こんな感じでドボドボとお水を入れて大丈夫です。金管楽器は、真鍮からできているため、こうして水洗いが可能。あ、間違っても木管楽器で同じことをしてはダメですよ(笑)、一気に楽器が壊れてしまいますから……!

管は細い方から広い方へ、くるくると八の字を描くように回しながら最後は水を切ってくださいね。

ステップ③ 洗浄液で管内を掃除

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新見さん そして、今度は、先ほどカゴに入れた細かいパーツたちを洗いましょうか。こうして洗面器にお湯(温度は気にしなくてOK)を入れて、ブラスソープを垂らします。この管楽器専用ソープは、管内の油汚れを落とすのに最適なんですよ。分量のバランスは、だいたい「お湯:ブラスソープ=9:1」で大丈夫です。

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新見さん ブラスソープで作った洗浄液に、フレキシブルクリーナーという両サイドにブラシがついたもので、洗っていきます。微妙に大きさが異なるので、管の太さに合わせて変えることができます。

あと、このブラシの良いところは、ワイヤーで柔軟に曲げることができますが、とても柔らかいゴム状の素材でコーティングされているので、楽器を傷つけることなく洗うことができるんです。

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新見さん こんな感じで、マウスピースの入り口をゴシゴシしたり、歯ブラシやスポンジなどを使用することもできますが、金管楽器の曲線に合わせたブラシ設計なので、非常に使いやすいと思います。事前に管を抜いたと思うので、ブラシが差し込めるところに、いろんな角度から入れてみてください。

たまに「どうしても、この音だけ外してしまうんだよね……」と、悩んでいるプレイヤーに出会います。もし、楽器の掃除をしばらくしていないなら、ぜひ分解して洗うことをオススメします。ブラシでゴシゴシした矢先に、奥から「ボトッ!」と黒い汚れの塊が出てきて、一件落着(笑)なんてこともあるんです。管内の汚れは、音程に密接に関係しているので、正しいコンディションの楽器で練習することも大切なのです。

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新見さん そして、マウスピースも忘れずにブラシを使ってくださいね。フレキシブルクリーナーとは別に、マウスピースブラシがあるのですが、これは他のブラシに比べて消耗率が早いため、別で用意されています。この部分は、練習後に毎回ブラシをかけてあげるのも良いですね。

あと、こうして洗いながら、マウスピースの穴が凹んでいないかをチェックするのも忘れずに。知らない間に、ベコっと円が凹んでいると、それだけで音程などに大きな影響を与えます。ブラシで磨くという時間は、元の原型を正しく保っているか? を観察することにも繋がるんですよ。

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新見さん あとは、グリスがついた管の周りを掃除するときは、ガーゼを使うのが良いです。この部分にブラシを使うと、傷つけてしまう原因にもなりますし、管が湾曲しているため、なかなかキレイに掃除ができないですよね。ガーゼは優しい素材ですし、繊維が細かくて汚れを密着しながら落としてくれるので、ブラスソープを染み込ませながら、こうしてクルクルと拭いてあげてください。コットンやパフなんかでも、OK。

楽器の洗浄方法をひと通り解説しましたが、実は2番ピストンは届かない部分……。ご自宅で楽器を洗うには、どうしても限界があるのも事実です。そんな時には、ヤマハで設置している「超音波洗浄機」というもので楽器全体を洗うのもオススメですよ(※ユーフォサイズが入る超音波洗浄機は、店頭によっては置いていないこともあるので、要確認)。

ステップ④ クロスで水滴を拭き取る

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新見さん そして、楽器本体と、パーツを全て洗い終わったら、水滴をなるべく切ってからクロスで磨いていきます。クロスにもいろいろ種類があるんですが、デイリーで使うなら、ラッカークロス、ポロッシングクロスあたりが良いですね。野外での演奏や、やむ負えなく雨に濡れてしまった時などはもちろん、日頃からこまめに拭くことで楽器の表面をキレイに保つことができます。

また、シルバークロスといって、はじめから細かい研磨剤がクロスに染み込んでいるものあります。液状のポリッシュをクロスに垂らす代わりに、クロスで拭き取るだけなんて、一石二鳥な商品ですよね!

あ、注意点として、ポリッシュを使ったりシルバークロスで拭いたりすると、ずっと黒くなるので「まだ汚れている」と拭き続けなくても大丈夫です。研磨剤が入っているため、あんまり拭きすぎてしまうのは、よくないですよ。ある程度で留めておきましょう!

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harako わー、とっても勉強になりました! 楽器の洗い方から拭き方まで、いろんなコツを発見できました。前回の「ピストンメンテナンス方法」と、今回の「金管楽器丸洗いHowTo」で楽器を清潔に良い状態で保つ秘訣をマスターできたと思います。新見さん、ありがとうございました〜!

前回のピストンお手入れ法はこちら。
【リペアマンに聞いた】金管楽器ピストンのお手入れ&注意点3つ!
https://ananweb.jp/anew/127592/

【#6,7】今回の音楽LOVERは……♪

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新見 忠士さん
ヤマハミュージックジャパン 管楽器アトリエ東京技術者

♪金管楽器のメンテナンスで、一番注意してほしいことは?
「凹まさないでね!」

ベルが思いっきり凹んだ楽器が修理で来ると、悲しい気持ちになりますね。中身のメンテナンスも大切ですが、楽器の凹みにも気をつけて欲しいなと思います。

〈取材協力〉
株式会社ヤマハミュージックジャパン
http://jp.yamaha.com/products/musical-instruments/winds/accessories/care/