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西加奈子が“切羽詰まって書き上げた小説”とは?

2017.1.20
直木賞作家・西加奈子さんが新たに長編小説を上梓。最新作『i(アイ)』は、真っすぐに愛を信じたくなる物語です。
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にし・かなこ 1977年、イラン・テヘラン生まれ、エジプト・カイロ、大阪育ち。2004年、『あおい』でデビュー。2015年、『サラバ!』で第152回直木賞受賞。www.nishikanako.com

“いま、傷だらけでも嘘でも、「愛がある」って言わないと”。そんな思いから、これまでにないほど切羽詰まって書き上げたという、西加奈子さんの最新長編小説『i(アイ)』。作中繰り返される「この世界にアイは存在しません。」というフレーズは、主人公と同じく、西さんが高校の数学教師に言われてハッとした言葉。虚数「i」の話を「愛」と勘違いしたのだ。それに対し、主人公アイの勘違いはさらに複雑だった。

「LGBTに当てはまらない人を含めた“LGBTQ”という概念を知ったとき、人間が最初に属するアルファベットがあるとしたら、iじゃないかと思ったんです。自分という意味だし、identityの頭文字でもある。一方でシリアの悲惨な報道を見たり、ヘイトスピーチやいじめの問題が取り沙汰されるなか、人の痛みに対して鈍感になって、愛がなくなってきているんやないかと、自戒を込めて考えたりもしました」

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『i』 シリアにルーツを持つ、ワイルド曽田アイという少女が、もがき苦しみながら大人の女性へと成長し、アイデンティティと自由を獲得していく様を描く。ポプラ社 1500円

シリアに生まれ、アメリカ人と日本人の夫婦の養子となった主人公は、幼い頃から恵まれた環境に負い目を感じていた。なぜ自分が養子となったのか。自分には恩恵を受ける権利があるのか。悩む最中も世界では悲劇が起こり、多くの命が奪われていく。そんな不安定なアイの心の支えとなるのが、親友ミナの存在だ。

「ミナはすごく優しくて、対等なんです。彼女はアイという個人に対してのすべて、つまり世界でもあるんじゃないかと書きながら気づきました。ふたりの関係みたいに、決して一方的じゃなくて、個人と世界がイーブンに愛し合えたらいいなって」

 個人が世界の悲劇を憂えてもどうにもならないかもしれないが、見ぬふりもできない。境遇は異なるものの、アイの葛藤が読者にとって他人事ではなくなっていく。そして、西さんが「一番言いたかったこと」というひとつの光が提示される。

「どんなことも考えるのをやめたら終わってしまう。私自身、弱虫やし自己中やけど、小説では勇気を出せる。正義感のある人だけが動く世界ではなく、ダメなヤツも良き人間として生きるチャンスがあることを、小説に託しています」

小説の世界観を自ら絵で表現した個展も開催。一部が装画にもなっているこの絵は、ダンボールにクレヨンで描いた大作だ。

「壁全部を絵で埋めて、最後のシーンを追体験してもらえたらと思っています。小説を書くのは好きやけどまどろっこしい。絵は頭のイメージをそのままアウトプットできるからスカッとする。今のところ、甘いものとしょっぱいものみたいに、永遠にいける組み合わせです」

にし・かなこ 1977年、イラン・テヘラン生まれ、エジプト・カイロ、大阪育ち。2004年、『あおい』でデビュー。2015年、『サラバ!』で第152回直木賞受賞。www.nishikanako.com

『i』 シリアにルーツを持つ、ワイルド曽田アイという少女が、もがき苦しみながら大人の女性へと成長し、アイデンティティと自由を獲得していく様を描く。ポプラ社 1500円

絵画展「西加奈子『i』」 小説『i』のラストシーンを再現した絵が360度展開される個展。AI KOWADA GALLERY 東京都千代田区外神田6-11-14 3331 Arts Chiyoda 2F 1月21日(土)~29日(日)14:00~18:00 会期中無休 無料

※『anan』2017年1月25日号より。写真・内山めぐみ 文・兵藤育子

(by anan編集部)