ものすごくゆっくりのペースでしか成長していけないタイプなんです。
漫画やアニメ、ゲームの世界を舞台上に忠実に立ち上がらせ、いま大ブームを巻き起こしている“2.5次元舞台”。メイクやウィッグ、衣裳による完璧なビジュアル作りもさることながら、声や表情、仕草、動きに至るまでの役の造形が的確で緻密だと評価を受けているのが鈴木拡樹さん。しかし、鈴木さんがその世界の代表者のように語られるのには別の理由がある。どんなキャラクターを演じていても、普通なら介在するはずの役者の自我や肉体というものの存在を消し去り、すべてを役に明け渡しているように見えるのだ。それはまるで、丸かったり尖っていたり、いろいろなキャラクターの器に合わせて形を変えていく水のような。だからこそ今回、鈴木拡樹という人そのものの形を確かめたくて、さまざまな表情での撮影とインタビューをお願いした。
――これまで2.5次元作品への出演が多かったのですが、今回は、劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season月に出演されます。
鈴木:出演のお話が来ていると知った時には、やっぱりびっくりしました。初めて新感線さんの作品を観たのが『鋼鉄番長』(‘10年)で、好きな世界観の舞台だと思いましたけれど、自分が出るのはピンとこないというか…僕のことを知ってもらえる機会はないだろうと思っていましたから。
――そんなはずはないですが、確かに、今回のキャスティングが発表になった時、「ついに見つかってしまったか」とは思いました。
鈴木:…はははは(笑)。
――初めて触れる新感線の稽古場はいかがですか?
鈴木:覚えなければいけないキッカケ数が多いです。体の向きを変えるタイミングのような細かいところまで決まっている。ただ、それに合わせて効果音が入ってきて、それが気持ちいいんですよ。新感線さんの舞台って、いつもとってもテンポがいいですけれど、お客さんを盛り上げられるテンポ作りには、あの細かい演出が必要なのかもしれないなと思っています。
――チラシのビジュアル撮影で、役の扮装をした鈴木さんの役づくりがあまりに完璧で、現場が騒然となったと聞いたのですが…。
鈴木:…台本はいただいていなかったけれど、以前に観たことがある作品でしたから、一応、ざっくりとした自分なりのイメージでアプローチさせていただいたんですよね。でも、カメラマンさんが、「冷たく指示を出しているように」とか、いろいろお題をくださったので、セリフのないお芝居をしている感覚で、僕も楽しかったです。ただ、他のキャストがいなかったので、完全に“ひとり髑髏城”でしたが。
――わりとすぐに役に没入できてしまうほうなんですか。
鈴木:どうでしょう…なんとなく、こういう場面でこういう反応をする人なのかな、とか、ある程度ベースを考えておくとやりやすいし、すぐに入れると思います。だから、撮影前に資料を集めて、こういう性格のタイプで、こういう癖があって…ということは、ある程度考えておいたりはします。ただ、稽古が始まってみて、全く変わってくることもありますからね。
――実際に稽古が始まって、どんな『髑髏城~』になりそうですか。
鈴木:今回、全体的にキャストが若いということもあって、若さゆえの青さみたいなものを、これまでより強く描くと言われています。僕が演じる天魔王は、天下を狙う男ですが、未熟さゆえの思い込みの激しさだったり、人間的な部分が出てくるのかなと思っています。
――先日、鈴木さんがMCを務めている『2.5次元男子推しTV』を見直したんですが、ゲストの皆さんが鈴木さんの印象として、一様に「神様」だとか「宇宙人」のような、人間じゃないものに例えていたのが面白かったです。
鈴木:普段、あんまり怒ったり声を荒げたりしたくない人なんで、そのせいなんだと思います。
――もともとの性格ですか?
鈴木:そういう部分もありますし、心がけてもいます。自分の身の丈に合った形で、できるだけ人に優しく接しようとは思っています。
――10代や20歳前後には…?
鈴木:一般的にトガってると言われる時代ってやつですね(笑)。
――まさに、その若気の至りみたいな過去もあるんですか?
鈴木:逆パターンですが…もう少しトガっておけばよかったなと思います。学生時代…いわゆる思春期と呼ばれる時期に、親に反抗したりすることがなかったんですよね。今回の役もそうですし、不良役を演じる時も、何か参考にできたかもしれないなって。
――不良文化に憧れる、みたいなことはありました?
鈴木:たぶん感覚が違うんですよね。反抗している同級生を見て、「ダメだよ」って思っていました。だから、僕自身はそんなつもりはないけれど、同級生からは大人に見られることが多かったですね。
――逆に、ハメを外せない自分に対して悩むことはありました?
鈴木:そういう瞬間がラフにできる人間だったらよかったなとは思うんですけれど、そんな自分と何年も付き合ってきているんで(笑)。無理するのも違うし、自然にこういう自分をわかって受け入れてくれる人と付き合ってきましたし。
――天魔王もですが、ものすごく悪い役や気性の激しい役を演じている時はどんな気持ちですか?
鈴木:解放感はありますよ。でも、自分はほぼ持っていない部分なので、想像のなかで作っていくしかないぶん、極端な振り方になってしまうのかもしれません。
――今回、同時期に上弦の月と下弦の月の2チームが交互に演じることになりますが、上弦チームへのライバル意識はありますか?
鈴木:なくはないですが、同じ天魔王役の(早乙女)太一さんが、稽古中もいろんなことを教えてくださいますので、いまは吸収させていただいて、それを下弦チームに生かすことを考えています。周りを見て動くというのは、自分の得意分野なので、いいと思ったところは積極的に盗んでいきたいな、と。
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