「女性のほうが全然ノッてたからね」アラーキー“猥褻”を語る

エンタメ
2017.08.12
アラーキーこと荒木経惟さん。ポートレート、女性を縛り上げた緊縛写真、空、花、はたまたタクシーの窓から撮った“クルマド”写真まで、彼のファインダーを通すと、すべてが“アラーキーの写真”になってしまう、個性と才能の塊のような写真家です。現在77歳ですが、今年一年で20以上もの写真展を開催。そのアクティブさの源は、いったい何?
荒木経惟

――今年の展覧会の多さに、とにかく驚きました。

荒木:なんでこんなに多くなっちゃったかっていうと、アタシがそろそろ死にそうだから、最後にまとめておかなくちゃ…なんて思ってやってるわけじゃないんだ。誤解すんなよ(笑)。でも今、何を見ても、何を撮っても良いんだ。なんでも素敵なんだよ。ファインダーの中が、楽園なんだよな。だから今アタシは絶好調で、1日最低フィルム3本は撮るからね。デジタルで撮ってるヤツより、俺のほうがシャッター押してる数、多いからね。それで、なんかアタシがそういうふうに盛り上がっているときって、周りも勘が良くてさ、気がついて、いろいろ企ててくれるわけだよ。今年はそれが集中しちゃってね。

――依頼があるもの、すべてを受けられるんですか?

荒木:そう。すべてを受けてたらこんなことになっちゃった。でもさ、アタシは興味あるものはなんでも撮るわけ。例えば女だったら、美人じゃなくたって、その人の個性ってものがある。だから俺は、全部受けて立つ。もうずっと、そういうふうにしてやってきたからね。生きるっていうのは、周りの人が決めてくれるものなんだよ。まあ俺の場合は神だけどね。写真の神と、あとは女神ね(笑)。俺は本当に女の人に人生助けられてる。

――最近それを実感したことは、何かありますか?

荒木:今年、伊勢丹新宿店で、<後期高齢書>ってタイトルで、書の展覧会をやったわけ。そこでさ、“かきわけても かきわけても陰毛”っていう書を飾ってくれたんだけど、伊勢丹側の人たち、女性のほうが全然ノッてたからね。あと去年、パリにあるフランス国立ギメ東洋美術館でやった展覧会も、キュレーターが5年も美術館に“やりたい”ってかけあってたらしいんだけど、館長が女性に代わった途端、急にOKが出たんだって。それから前にイタリアで写真展やったときに、バチカンがすごい物言いをつけてきて、新聞に載ったりしたわけ、猥褻だとかって。でもそのときのイタリアの外務大臣が女性でさ。見に来てくれて、「猥褻? 何言ってんのよ!」って一喝して、セーフ(笑)。女のほうが絶対物事をわかってるんだよ。だから男は女に従ってればいいんだ。だから俺はずっと、女の言うとおりに生きてるんだよ。

荒木経惟


――荒木さんを応援する女性がそれだけいるということは、荒木さんにも女性に好かれる要素が多分にあるということなのでは…。つまり、モテますよね?

荒木:モテるかどうかは知らないけどさ、女ってすごくストレートじゃない? 回りくどくない。本能のままに生きてる。だから俺みたいな、真実だとか、あるいは嘘の真実だとか、そういうのを直撃する、みたいな感じが、女性にとっていいんじゃないの? 女はわかってるんだよね、人生は切実じゃない、すべては“当たり前”でできてるってことが。そこは敵わないよ。

あらき・のぶよし 1940年生まれ、東京都出身。千葉大学卒業後、電通に入社。'64年に写真集『さっちん』で第1回太陽賞を受賞。妻・陽子との新婚旅行を撮影した限定写真集『センチメンタルな旅』が話題になり、その後フリーに。人物、空、花、風景、緊縛まで、何を撮っても“アラーキーの写真”になるその才能は、世界中から愛されている。

膨大な作品群から、妻の“陽子”というテーマに焦点をあてた展覧会「荒木経惟 センチメンタルな旅 1971-2017-」が、9月24日まで東京都写真美術館で開催中。結婚前に撮影した100点のポジ原板は、一部を除き世界初公開。死によって彼女を失うまでを記録した〈センチメンタルな旅・冬の旅〉に加え、その後の、陽子を強く感じさせる作品を展示。また9月3日まで、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の「写狂老人A」展では、電通時代に自ら制作したスクラップブックを初公開している。

※『anan』2017年8月16・23日号より。写真・津留崎徹花 

(by anan編集部)


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