”障碍者” 表記議論は不要。差別意識をなくしてほしい〜アスペルガー症候群当事者の視点から〜

文・七海 — 2017.2.17
“障害者” の表記について問題になったことがあります。言葉は生き物。その時代に合わせて表現方法が変わってきます。それは重々承知です。しかし語弊を恐れずに言えば、”障害者” 表記の議論に関しては、私にとっては「どうでも良い」のひと言です。発達障害者である私の、その理由に耳を傾けていただけますか?

そもそも ”障害者” 表記問題はどこから始まったのかご存知ですか?

“障害者” という言葉が使われる以前は、不具者、不具廃疾者といった言葉が使われていました。これらの言葉が差別的だという意見が出て、”障害者” という言葉が使われるようになったのです。その時、”障碍者” という表記を当てることもありましたが、”碍” という漢字に使用制限があり、法律で使えなかったという実情があります。そして、”障害者” という表記が一般的になったのです。

“障害者” という表記が問題になるのは、”害” という漢字がマイナスなイメージを与える可能性があるからです。「害悪」「有害」「迫害」…そういった単語にも使われていますよね。そのイメージから、不快に思う人がいるという配慮で ”障碍者” または ”障がい者” という表記にされているのです。

こうした配慮は、当事者からすると非常にありがたいこと。”健常者” が ”障害者” に歩み寄る第一歩なのかもしれません。しかし、その表記について議論をすることは不毛だと思います。私自身、アスペルガー症候群当事者です。”障害者” と言われることがあります。”障害者” に歩み寄る第一歩は、非常に大切。でも、中身のない議論は意味がないと思っています。

私が ”障害者” 表記を「どうでも良い」とする理由

“障害者” 表記について、それが変われば心が救われるという当事者もいるでしょう。それはわかっているのです。それでは、なぜ私が議論を不毛だと思うか―。それをお話したいと思います。

まず、”障害者” という言葉自体が ”健常者” と区分するための単語であること。支援などを考えると区分は必要なのですが、そこに知らず知らずの差別意識を持っていませんか? 区別と差別は異なります。”障害者” を見下して、”健常者” である自分に優越感を持っていませんか? 本質はそこにあると思っているのです。”障害者” である他人と、”健常者” である自分を分け隔てる言葉。そこに差別意識があると、”障害者” と ”健常者” の壁は厚いままでしょう。

また、”害” の表記を変えて書くとき、あなたはその意味を噛みしめていますか? 表面上だけの配慮をして議論になることが不毛だと感じるのです。”害” のマイナスイメージを字面から払拭したとき、あなたの胸から完全に差別意識が消えていますか? その差別意識が消えない限り、表記がどうであれ関係ないと思うのです。

私は、表記だけにこだわってほしくないのです。表記がどうであれ、その単語を使う人の心の内に差別意識がなければ嬉しいのです。差別用語として消えていった不具者、不具廃疾者。それに替わった ”障害者”。差別意識が根底にある限りは、消えていった言葉と変わりない意味を含有すると考えています。不毛な議論をするよりも、自分の中にある差別意識と向き合ってほしいのです。

言葉から変えるのではなく、心から変えてほしい

差別的な言葉だとされてきたものは、それなりに議論があって消えてきたのでしょう。言葉から変えると、差別や偏見もなくなる―。それも一理あると思います。しかし、単語はあくまでも表面上の表現。それに伴って、あなたの差別意識は払拭されますか? 表記を変えれば意識も変わる。そういった考えよりも、心とともに表現を変えてほしい、と私は思うのです。

事象があってこその言語。言葉は、その事象に当てはまるものを当てているに過ぎないものだと私は考えています。デリケートな単語だからこそ、もう一度鑑みてほしい。あなたは、”障害者” が ”障碍者” 表記に変わったときに、心も一緒に変わりますか? まずは自分のなかにある差別意識と向き合って、表記を考えてほしいというのが私の意見です。差別意識が完全になくなってから、”障碍者” 表記になると良いな、と思っています。表記だけではあなたの意識は変わらない―。意識を変えてから、表記を変えてほしいのです。

差別意識を持ったまま表記について議論している姿を見るのは虚しいです。そのような議論を見かけるからこそ、不毛に思えて仕方ないのです。だからこそ、私にとっては「どうでも良い」。差別意識がなくならない限りは、どんな漢字を、どんな単語を当てはめられようが、世界は変わらないと思っているから。


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