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「ヒモ男」の寝顔を確認して始まる朝|12星座連載小説#38~牡羊座5話~

文・脇田尚揮 — 2017.3.15
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第38話 ~牡羊座-5~


前回までのお話はコチラ

……朝だ。今日も仕事に行かなくちゃ。

横を見ると、祐也が、憎たらしいほど気持ちよさそうに眠っている。

昨夜はあんなことがあったけど……、あまり引きずらないのが私。ガンバルっ!

『よっ……と!』

ベットから出て、軽く伸びをする。時刻は朝の6時。いつもこの時間になると自然に目が覚める。

朝ごはん、何にしようかな。祐也は卵料理が好きだからなぁ、卵焼きにするか。

チャッチャッチャッチャッ

卵に砂糖と出汁を加え、素早くかき混ぜる。私はしょっぱい方が好きなんだけど、祐也は甘いのが好きだからなぁ。……本当、子供みたい。

ボウルの中に収まった、満月のように黄色くて丸い液体をチリチリと熱したフライパンに落とす。

ジュワァアアアァァァ……

この音、学生時代も毎朝聞いてたなぁ。お母さんがちょうど今くらいの時間に作ってくれてたっけ。

今じゃ私が、その“お母さん”みたい。フワフワした長方形の塊の横に、刻んだキャベツ、そして昨日の残りのハンバーグを盛り付け、ラップをする。

―――さて、そろそろ支度をしますか。

『行ってくるね』

彼の寝顔をもう一度確認し、家を出た。

電車の中でいつも私が決まってやることは、スケジュール確認。

まずは……、『キュートキッチュ』の中野さんって方との打ち合わせね。女子向けゲームアプリのコマーシャルを深夜帯で放送したいらしいけど、どんな内容なんだろう。あまりゲームをしない私には、どうも想像がつかない。

あとは、ドキュメンタリーの構成を考えなくちゃね、まずは。

時間もそんなにないから、並行して進めていかなくちゃ。これは一筋縄にはいかなそうだ……。

電車からの景色を眺めながら、軽く溜息をついた。

『おはようございまーす!』

会社に着いて、まず私がやること。それは“挨拶”だ。

挨拶だけは、どんな日も欠かさない。

一緒に仕事をする仲間たちとのコミュニケーションであり、自分のモチベーションを高める儀式でもある。

「おぅ、おはよう! 今日も威勢がいいねぇ、竹内は。悩みなんてなさそうだよなぁ」

山岡がニタニタしながら言ってくる。

『私にだって悩みくらいありますよ~だ』

「番組制作を任された“エース”さんは違いますねぇ。ま、頑張れよ。あ、あと木田さんがさ、内線で連絡よこせってさ」

―――瞬間、ドキッとした。

木田さん……か。

いやいやいやいや! 仕事! 仕事!

『あ、ありがとう、山岡。』

一度深呼吸をしてから、木田さんにコールする。

トゥルルルル……トゥルルルル……ガチャ

「はい、木田です」

『おはようございます、木田さん。竹内です』

「おー竹内、おはよう。早速なんだけどさ、昨日の話、本決まりになったから、連絡しとこうと思って。スケジュール的に、取材期間は2週間しかないぜ」

『あっ、はい! ありがとうございます』

「どこに何を取材しに行くか、キチンとまとまってんだろうな?」

いつもは聞いたことがないような木田さんの低い声。

『えーと、その……何となくイメージはあるんですけど、これからです』

「竹内、お前、気が抜けてるんじゃないか。昨日あれから何してた? 時間はたっぷりあったはずだろ」

……唇を噛む。

『すみません……』

「もっと自覚をもてよ。構成ができたら、また連絡してくれ。じゃあな」

ガチャ、ツーツー……

山岡が心配そうに覗き込んでいる。

私、馬鹿だ……。完全に舞い上がってた!

「竹内、お前、これからが地獄だぞ」

……昨日聞いた木田さんの言葉がリフレインする。

木田さんが私のことを吉岡さんに推してくれたんだった……。おそらく、飯田たちからも嫌味を言われているだろう。

―――自分が悔しい。

それから私は、方方にコンタクトを取った。主に、風俗店やキャバクラ、無料案内所、そしてネットカフェ…。

今の環境から抜け出せたくても抜け出せない、“貧困女子”が身を寄せているであろう場所を片っ端から洗い出した。

華やかに見えるテレビ番組も、このような地道な作業が土台となり作られている。AD時代なんかは、本当に“人以下”の扱いを受けてきた。

番組で使う大道具の手配をしたかと思えば、突然のキャンセルが出て、そのキャンセル料のことでひどく怒鳴られたり。演者さんがお弁当が気に入らないとかでヘソを曲げたら、全部担当したADのせい。

そうやって、「バカ」「アホ」言われる中で人って磨かれていくものなのよ。

そういう泥臭さを忘れちゃダメなんだ。

―――食事も忘れて仕事をしていると、その子はやってきた。

「あのー、“たかうち”さん……ですか?」

間延びした口調に、三つ編み。眼鏡の奥から、内気そうな瞳がのぞいてくる。“場違い”とはまさにこのこと。どこかのお嬢さんが私に意見でもしにきたのかな。それとも、人違い?

『いえ、私は“たけうち”ですが、何かご要件でしょうか?』

「ああ、よかったですぅ。木田さんから、今回の企画で竹内さんをフォローするようにと仰せつかりました、わたしー、ADの如月真由子って言います」

『ええ!』

思わず口に出てしまった。

「どうかなさいましたか?」

『ああ、ゴメンゴメン。よろしくね……如月さん。今回のドキュメンタリー担当の竹内です』

二重にビックリした。木田さんが私にADを回してくれたことと、おおよそADに似つかわしくないお嬢様の風体に、だ。

テレビには魔物が潜んでいる―――

どこかで聞いたことのあるフレーズを思い出し、何だかもう笑えてきた。



【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
竹内美恵 牡羊座32歳 駆け出しディレクター
熊本県から状況し、都内でADとして下積みの後、最近ディレクターに。年下の男(吉井祐也・劇団員)と3年近く同棲をしている。
性格は姐御肌で面倒見がよく、思いついたらすぐ行動するタイプ。反面、深く物事を考えることが苦手でその場の勢いで物事を決めてしまうきらいがある。
かなりワガママだが、テレビ局内での信頼はあつい。

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