無邪気な女に潜む「魔性」|12星座連載小説#36~水瓶座3話~

文・脇田尚揮 — 2017.3.13
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第36話 ~水瓶座-3~


前回までのお話はコチラ

ネオンと音が混じり合う空間。

人混みをかき分け、“彼女”の近くへ……。

『このナンバー、好きなんだ? ……アハッ、イイわよねこのカンジ』

まずは挨拶程度に。フィーリングが合わなそうなら却下で。

「分かる! このすくい上げるような低音からの響き!」

お! 感度良好。

この女の辞書に、“人見知り”という文字はなさそうだ。今日はこの女に決めた!

『ねぇ、私あなたが気に入っちゃった。一緒に飲まない?』

「ホント!? イイわよ」

釣れたわ。今夜はこの女から刺激を貰うことにしよう。

男はまた次回でいいわ。

バーカウンターに移動し、お酒を注文する。彼女は“ピニャコラーダ”を注文。私も同じものを。

『ここへはよく来るの?』

「月に1回くらいかな」

『……踊るの好きなんだ?』

「そうね! ……ていうか、男がスキ!」

満面の笑みでそう答える彼女は、満たされない何かを抱えているようだった……。

これ、このビッチ臭がたまんないわ。このイメージ、使わせてもらうわよ。

―――曲が切り替わり、疾走感のあるハウスミュージックが聴こえてきた。

「あっ! ちょっと行ってこなくちゃ!」

フロアへと走り出す彼女。沢山の人の中を割って進んでいく様は、“モーセの海割れ”を彷彿とさせた。

あっという間に、人の中に紛れて……見えなくなった。

『ありゃあ、手元に置いておけないタイプだわ』

名前すら聞けなかったじゃないのよ。……無自覚な小悪魔ね。

付き合う男は苦労しそうだわ。

……でも、あんなのがヒロインだったら、面白そうね。

あっ!

―――私の中の何かがざわめき、サイケデリックな感覚に。音も色も、何も感じない。

これだわ!

ビッチ女が主人公。でもそいつは男の“運”を上げる不思議なチカラを持っている。
で、その女に知り合った信長は、桶狭間で今川義元を破るの。その噂が全国に広まって、その女をめぐって、戦国武将たちが壮絶な恋の嵐を巻き起こす……。

そんなストーリー、どうかしら!?

男は、自分の運を高めてくれる女を好む生き物。

可愛い、綺麗、気立てが良い、そんな女を一気に脅かす存在、それが“アゲマン女”。

特に戦国時代の男達にとって、己の運を上げてくれる女は何より魅力的なのだ。

数多の武将たちから求められ、愛されていくうちにどんどん美しく艶かしくなっていく彼女。そんな彼女の中の、魔性が育っていく。

そして国同士の争いに発展……。

『これはイケる!』

ダイナミックなシナリオの中に、どこか耽美さが感じられる。

チャチな学園モノに出てくる女と違って、時代のうねりに翻弄されながら、歴史さえも狂わせかねない女の“危険な香り”。

男どもが争い合う理由としては、正当だわ!

――グッグッグッ……!

“ピニャコラーダ”を一気に飲み干し、私はすぐにクラブを出る。

即帰宅だ。

このアイディアが雲散霧消してしまう前に、形にしておかなくちゃ。

……来週は、アプリのコマーシャル制作のためにTV局にプレゼンしに行かなきゃならない。まずはディレクターと話し合いだ。確か、女って聞いてるけど……。

適当にタクシーを呼び止め、乗り込む。

『池袋まで』

家までここから30分ね……。少し目を閉じる。

さっきの女の瞳の輝きが浮かぶ…。そう、あの目よ。男の心を掴んで離さない、あの少女のような屈託のない笑顔と、その奥にある魔性の輝き。

健康的に見えてひどく不健全。受容的なクセして徹底的に利己的。この二面性に男はやられちゃうワケだ。

だんだんと酔いが回ってきたらしい。そりゃそうだ、空きっ腹に酒を入れたんだから。

あの女、あれはかなりのタマね……。

パチン、と私の意識のブレーカーが落ちる。

―――「……さん」、「……客さん」

ん?

「お客さん、着きましたよ。起きてください」

んん?

「ほら、この建物でしょ?」

なんだか見覚えのある風景。

「あの~、お支払いをお願いしたいんですが……」

何だかよく理解できないままに、カードを渡す。

「ありがとうございます……お客さん、気をつけて下さいね」

ガチャッ

……後ろでドアが閉まる音。

え~と、ここは……ああ、家ね。鍵、鍵っと。

ふらつく足で、ドアの前までナメクジみたいにゆっくり進む。

ピンポーン

結局、鍵を探すのが面倒くさくてチャイムを反射的に押していた。

パタパタパタ……ガチャッ

「うわ~ん」

ボフッ

ドアが開いた瞬間、ちんちくりんのおかっぱメガネが飛び込んできた。

「もうつ! レナレナは、今日もお酒臭い! 待ってたんだよ!?」

めんどくさカワイイ……

あれ、そんなフレーズってあったっけ?

『あ~ごめんごめん、アイディアが欲しくってさぁ』

「どうせクラブでしょ?」

メガネの奥の瞳がこちらをキッと睨む。

『まぁまぁ、入ろう、ヨッシー』

まるで相撲取りのように、私はその小さい妖精を家の中へ押し込んだ。

―――ヨシヨシと頭を撫でて、軽くキスをする。

女同士、ひとつ屋根の下。生活ルールもない。自分と相手が納得しているなら、何でもアリなんだ。

「ご飯も食べずに飲んできて! 出掛けるなら一回帰宅してからにして!」

可愛い妖精が、私の横でプンスカ怒っている。

水瓶座 第1章 終



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【今回の主役】
中野怜奈 水瓶座26歳 IT開発事業部
個性的で変わり者、我が道を行くタイプ。協調性に欠けているが、時代の先を読む“先見の明”があるため、社内での評価は高い。女子向けアプリ会社『キュートキッチュ』の新作指揮を任される。アイディアウーマンであるが、縛られることを嫌う一匹狼。後輩の三橋奈美は良い相談役。実はバイセクシュアルの性向があり、出会い系アフィリエイトで知り合った池谷好美と同棲している。

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