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「結婚って何なの?」答えの出ない問|12星座連載小説#28~蟹座1話~

文・脇田尚揮 — 2017.3.1
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第28話 ~蟹座-1~


前回までのお話はコチラ

『おめでとうございま~す!』

白いドレスに身を包んだ、真珠のような新婦と、その傍らには騎士のように凛々しいタキシード姿の新郎。私は満面の笑みで祝福する。

「瀬名さん、本当に有難うございました! お陰で最高の式になりました。一生の思い出です」

……じ~んとこみ上げてくるものがある。
私はこの言葉を聞くために、この仕事を続けているようなもの。彼女たちの新たな門出のお手伝いをできたことを、誇りに思える瞬間ね。

『どうぞ……どうぞお幸せにね……!』

新郎に手を引かれ……、新婦が幸せそうに寄り添って……、そして車の中へ。

「いつ見ても、結婚式は良いものですね」

司会役の田代さんが横で呟く。

本当にそうだ。人生の中でこんなにも女性が美しく、輝くシーンはそうないと思う。

実は、私自身も結婚式を経験をしている。8年前に。
でも、幸せは永くは続かず。夢はいつか覚めてしまうものなのよね。

『それじゃあ皆さん、後片付けに入りましょう!』

私の声を合図に、今日の結婚式のクロージングがスタートする。

この後も新しいカップルとの打ち合わせが入っているのだ。

こんな幸せな式が、毎日いくつも、色んな場所で挙げられている。
でも、式の後もずっと幸せが続くカップルは、一体どれくらいいるんだろう。

ワインで赤茶色に汚れたシーツをテーブルから剥がしながら、ふと思う。

私も結婚式の時は、本当に幸せの絶頂だったわ。なんてったって、開業医の二代目に見初められての玉の輿婚。

私21歳、彼30歳。たまたま参加した婚活パーティーで意気投合して、あれよあれよという間に結婚までこぎつけたの。

当時の友人たちからは、そりゃあ羨ましがられたわ。どこにでもいるようなフツーのOLが医者と結婚するなんて、”シンデレラストーリー”も甚だしいもの。

―――決め手は“料理”だったわね。

“元”夫と湖が美しい庭園にデートに行ったときに作っていったお弁当が、彼の胃袋を掴んだの。

あの頃は、幸せだった……。

残されたウエディングケーキの上にあしらわれた、新郎新婦の砂糖菓子を見ながら少し感傷に浸る。

私の母は料亭の仲居さん。私自身、母の作り出す食事の数々に感動して、自分もこんな風になりたい!って子供ながらに思ったっけ。昔から、将来の夢は“お嫁さん”だった。

中学生の頃から母と一緒に料理を作っていたこともあり、料理の腕には自信があった。味付けや調理法を基礎から教えてもらっていたものね。
だから、男性と食事に行くだけで、そのヒトがどんな料理や味付けが好みなのか大体把握できるの。

そんなこんなで掴んだ幸せ。開業医との結婚ということもあり、生活水準は相当高かったわ。
照明は女子の憧れシャンデリア、調理器具の充実した対面式のキッチン。お部屋もたくさんあって、お風呂はまるでプールのよう。

『ああ、こんな生活もあるんだ……』と思ったものよ。

「君は働かなくていいよ、うちで好きなことをやっている君が好きなんだ」なんて言われて、毎日家事をこなし、料理を作って彼の帰りを待っていたっけ。

結婚1年後には愛娘の由愛も生まれて、まさに“絵に描いたような幸せ”と言っても過言でなかったわ。この幸せが永遠に続くと信じてやまなかった。

それなのに―――

「瀬名さん、次の打ち合わせ5時からじゃなかったっけ?」

田代さんが声を掛けてくれた。

『あっそうでした! いっけない、急がなくちゃ!』

たまにこうして思い出に浸り、ポカをやらかすのが私らしい。

「後片付けは、スタッフとやっておきますので、瀬名さんは次に行って下さい」

『有難うございます!』

助かる~! 田代さんはもう長いこと式場で働いてるから、機転が利くのよね。気を遣い過ぎているせいかハゲてるけど(笑)。

なんてことを考えながら、次の打ち合わせの準備を済ませ、急いでミーティングルームへ向かう。

式場一体型の、ここ“サンクチュアリ”はブライダル業界の中でも比較的大きいほうだ。
その規模の大きさゆえ、建物の廊下は長く、急いで移動すると息切れしてしまいそうになる。かと言って、のんびり歩いていると時間に間に合わなくなる。

…まるで結婚と同じね。
焦ってもダメ。のんびりしててもダメ。

これまで人間は数え切れないほどの結婚式を挙げてきたんだろうけど、それって奇跡なんじゃないかって思う。

―――結婚って、何なんだろう?

自問自答をしてみる。……もう5年近くこの仕事に携わっているけど、なかなか答えが出ない問いだ。

まるで高校の頃習った、数学の未解決問題のよう。
男と女の関係なんて、誰も何も証明できないのかもしれない。

それとも“フェルマーの最終定理”のように、二人でずっと連れ添っていたらいずれ答えが見つかるものなのかしら。

……ミーティングルームのドアが見えた。でも、今日も答えは見えない。



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【今回の主役】
瀬名亜矢 蟹座29歳 ウェディングプランナー
バツ1子供あり(瀬名由愛・7歳)。仕事で、華やかな結婚式場のプランニングを企画しながらも、どこか冷めている自分に気づきつつある。婚活や合コンには頻繁に参加しているが、どこか満たされない”出会いイベントジプシー”な一面も。カップルの幸せを見送る立場でありながら、医者である元夫(二階堂恭二)との離婚を経験した自分に矛盾を感じている。

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