結婚と仕事…どちらも選べない不器用な女|12星座連載小説#19~乙女座1話~

文・脇田尚揮 — 2017.2.16
12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

【12星座 女たちの人生】第19話 ~乙女座-1~


前回までのお話はコチラ

―――なりたいものになるって本当に難しい

カラカラカラカラ……バタバタバタ……

少し離れた場所から、キャスターの車輪が回る音と慌ただしい足音が聞こえてくる。

時計を見ると、夜中2時を回っていた。こんな遅くに、急患かな。

待機室でうつらうつらしていた私も、急いで準備をして向かう。

私は鈴木沙耶30歳。

病院の救急病棟で看護師として働いている。誰かの役に立ちたい、その一心で正看護師の資格を取ってから8年間、こうしてずっと病院内を駆け回っている。

他の看護師仲間は、救急病棟は忙しくて嫌と言うけれど、私はそうでもない。

『どうされました!?』

「鈴木さん! 輸血パックの準備お願いします! RH+のBです!」

同じ救急看護師の三浦さんが答えた。

『了解しました』

今回運ばれてきた患者は……おそらく、バイク事故だろう。
大量出血、擦られた様な傷、そして足が変な方向に折れ曲がっている。

明け方までかかりそうね。

そう思いながら輸血パックを用意する。私は手術室看護師ではないので、準備や連絡、通達を行うのが主な業務だ。患者さんと関わるのは、入院とオペ室搬入のときだけ。

『こちらです』

「ありがとう」

迅速に動き、必要最小限のやりとりを交わす。それが救急看護師。でも、看護師としてのスキルアップには最適な場所。

“より良い看護を提供するためには”ということを、常に学び続けられるところだ。

ギィ……ッ

手術室の扉が開き、患者が吸い込まれていった。

ヘルメットを被っていたのだろう、幸いにも頭部へのダメージは少なそうね。ただ、あの足の骨折具合をみると入院だな……。

そんなことを冷静に判断できるようになった自分が、誇らしくもあり少し寂しくもある。私も看護師になりたての頃は、血を見るだけで卒倒しそうになったものだ。でも、1年、2年と経験を重ねて行くごとに、だんだん慣れていってしまった。それは素晴らしいこと。でも……。

「お疲れ様」

三浦さんだ。

『三浦さんこそ、応急処置大変でしたね』

「いつものことよ」

三浦さんは、私よりも救急病棟歴が1年長い。救急病棟での1年は、それ以外の場所での3年に相当するくらい重たい。

ミスが許されない環境。忙しさの波の激しさ。精神・肉体面のハードさ。

そして……、患者の最期を看取る機会の多さ。

他の病棟では経験できないことを、心身をすり減らしながらも学べる場所なのだ。

そういう意味で、“ここ”で働き続けている三浦さんは、尊敬できる先輩だ。

「鈴木さん、休んでいたんじゃないの。もう少し休む?」

こういう気遣いも、流石だな。

『いえ、私も目が冴えたので、お仕事お手伝いします』

私は救急病棟での経験がまだまだ浅い。いろんなことを学び、吸収するためにも先輩についていかなくてはならないのだ。

「そう、じゃあ一緒に」

二人で待機室に入り、書類の整理などを行う。

三浦さんのもう一つ凄いところ。それは結婚していながら、この仕事を続けていることだ。

もちろん、理解のある旦那様だからこそなのだろうけど、今の私には……到底真似できない。私は、結婚すらしていない関係なのに、上手く両立できないのだ。


―――「何かを犠牲にしなければ、どちらも手に入れられないと告げているわ。あなたにとって、結婚が大切なのか、それとも夢を追いたいのか、選んだ答えが今回のご相談の結論よ」

今日のお昼みてもらった、占い師さんの言葉が、頭の中にふとよぎる。

カリカリカリ……

静かな空間に、ペンと紙が擦れる音だけが響いている。

どうしよう。聞いてみたい。どうして結婚しながら、この仕事を続けていけるのかを。三浦さんにできて、私にできないことは何なのかを知りたい。

「鈴木さん?」

『は、はい!』

ビックリした。

「チョコレート食べない?」

『ああ、ありがとうございます』

私は、受け取ったチョコの包みを開き、四角くて茶色い塊を口に入れた。

どうしてこの人は、仕事をしながら、こうやって他人のことまで気が回るのだろう。そして、どうして私は自分のことで手一杯で、人を傷つけてしまうのだろう…

一瞬、真司さんの顔が思い浮かんだ。

結婚したいと言う彼を待たせ続けながら、私は自分のやりたいことに全力を注いでいる。
それって……、とても自分勝手なことなんだよね。分かってる……けど。

東の空がだんだんと白んできて、朝の始まりがやってくる。

……結局、三浦さんには、聞けなかった。


次回、“第20話 「欲しいもの全てを受け止めきれない不器用で狡い女」”は2月17日(金)配信予定。


【これまでのお話一覧はコチラ♡】

【今回の主役】
鈴木沙耶 乙女座30歳 看護師
眼鏡の似合うクールビューティーだが、理想が高くいわゆる完璧主義者なところが恋を遠ざける。困っている人を助けたいという思いから、看護師として8年間働いている。しかし、理想と現実のギャップに悩んでおり、さらに自分を高めるために薬学部に行こうと考えている。結婚願望はあるのだが、仕事や夢が原因で彼(辻真司)とうまくいかない。

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